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 (リーマンもどき/--)
アタリ


 部長宛に伝言があり、メモを取ろうとシャーペンを手にする。
 文字を書こうとして芯を出そうとしたが、カチカチ音が鳴るだけで芯が出てこない。
 げっ芯切れてるや。
 そういえば予備の芯って無かったよな俺。
 最悪。
 とりあえず、他に書くものが無いか探してみるが見当たらない。
 もうっ!
 何で必要な時に何も無いんだよ。
 って普段から片付けない俺が悪いか。
 ボールペンとかシャーペン色々な所に置き忘れてくるから、新しいもの買っても何時も無駄にしている。
 だけど今自分が持っているシャーペンは絶対に無くした事がない。
 だって凄く大切なものだから。
「矢田、ほらっこれ」
 3年先輩の平林さんが、俺にペンを手渡してくれる。
 俺の憧れの人なんだ。
「あっありがとうございます」
「必死にカチカチしてるから何してるのかなって思ったよ」
 俺を見ながらくすくす笑う。
 俺の顔は多分今真っ赤だろう。顔が凄く熱い。
 渡してもらったペンで急いでメモを取り、部長の机に置いて置く。
「ありがとうございます」
 平林さんに渡す。
「どういたしました。それと俺の机の右の一番上の引き出しに芯があるから。何本かとれよ」
「あっすみません」
「いやいや」
 にっこり笑うと、打合せ室に行ってしまった。
 ああー相変わらず素敵だよな。
 矢田要21歳。今年の4月からこの会社に入社したんだけど、分からない事ばかり。
 そんな俺をサポートしてくれてるのが平林登さん。
 俺の教育を担当しているんだ。
 将来は平林さんみたいになりたいんだけど、無理だよな。

 仕事もできるし、気が利くし。
 俺の大切にしているシャーペンも実は平林さんから貰ったもの。
 会社初日、筆記用具忘れた俺にこのシャーペンをくれたんだ。

 それ以来肌身離さず持っている。
 あっそうだシャーペンの芯、貰っておこう。
 平林さんの机から芯を何本かもらい、シャーペンの中に入れる。

 俺は引き続き自分の仕事に取り掛かる。

 平林さんが打合せに入っているうちは、与えられた仕事をやるしかなかった。だって何をしたら良いのか分からないから。
 早く俺も自分でちゃんと仕事を見つけられるように一人前にならないと。

 自分の仕事が終わり時計を見る。
 もう6時過ぎ。
 平林さんはまだ打合せか…。
 パソコンとにらめっこしてたので少し疲れてしまった。
 はあー少し休憩でもしよう。

 喉も渇いたので何か飲み物買おう。
 丁度煙草を吸う場所に自動販売機がある為、俺はそこに行った。
「どれにしよう」
 色々と種類がある為何時も悩んでしまう。
 それにこの自販機、飲み物買うたびに4つの数字が自動で回る。
 同じ数字になれば、1本ただで飲み物がもらえるくじ付きなんだけど、一度も当った試しがない。
 これ誰か当った事あるのかな?
「自販機を睨み付けて何してるんだ?」
 何時の間にか平林さんが俺の後ろに居て声をかけられる。
 思わず顔を赤らめてしまった。
「あっ別に睨み付けてたわけじゃないです」
 妙に焦ってしまう。
「ふーん」
「平林さん、打合せ終ったんですか?」
「ようやくね。やっと帰れるよ。その前に喉が渇いたし、一服しようかと思って。そしたら自販機とにらめっこしている、お前がいたってわけ」
「だからにらめっこしてません。このくじ当らないなと思って」
「そういえば俺がここで飲み物買う時、誰も当ったこのを見た事がないな」
「でしょ。だから誰か当てた事あるのかなって考えてただけです」
「矢田らしい」
 平林さんはくすくす笑う。
「もう笑わないで下さいよ」
「そうだ、矢田はこの後何か予定あるか?」
「俺ですか?特に用事はないですけど」
「矢田ってさ彼女いないの?」
 突然平林さんは聞いてくる。
 どうしてだろう、心臓の鼓動が早くなる。
 何でそんな事聞いてくるんだろう。
「いつ誘っても予定ないからさ」
「悪かったですね、どうせ彼女いないですよ。だから暇なんです」
 俺は思いっきり拗ねる。
 そりゃ平林さんはモテモテだから予定はいっぱいあると思うけど。
「拗ねるなよ。そっか彼女いないのか」
 何故か平林さんはほっとする。
「じゃあさ、俺がこの自販機でアタリだしたら、俺と付き合わないか?」
「えっ?あのご飯食べに行くなら別にアタリにならなくても行きますよ?」
「そうじゃなくて。疎いな矢田」
 クスっと笑うとそっと俺に囁いた。
「俺の恋人のならないかっていう意味」
「えっ?」
 こ、恋人!?
 何を言われたのか分からなくてきょとんとしていると答えを聞かないままに、平林さんは飲み物を買った。
 数字が回る。
 7が3つ目までそろう。
 そして最後の数字が、何になるか思わず見つめてしまう。
 思わず7だったら良いのにと考える。
 だけど止まった数字は8だった。
「ああー8か。残念だな」
 ニヤッと笑われる。
 もしかして俺の事からかった?
 もうっ凄い焦っただろう。
 だよな男の俺を平林さんが相手する訳ないだろう。
 俺って馬鹿だよな。馬鹿みたいに期待してさ。

 平林さんはさっさと煙草を吸いに行く。
 ああ期待して損した。
 自分の飲み物を買いさっさと事務所に戻ろうとすると、
「おい、矢田!」
 平林さんに呼び止められる。
「はい?」
「まだ話は終ってないぞ、どうせ帰るだけだろう。俺に付き合え」
「あっ分かりました」
 平林さんの隣にとりあえず行く。
 特に話する事はなく、ボーと平林が煙草吸うのを終るのを見つめている。
 煙草を吸う姿も素敵だな。こうやって平林さんを見るのが好き。
「なあ、矢田」
 しばらくすると平林さんが俺に声をかける。
「何ですか?」
「もしもさっき数字が全部そろっていたら、俺の恋人のなってくれたか?」
「へっ?」
 まさか聞かれると思っていなかったので驚く。
「いや、あの」
 言葉を濁してしまう。なんて答えて言いのか分からない。
「矢田って結構俺のタイプでさ、付き合えたら良いのになって思ってるんだけど、矢田は俺の事どう思ってる」
 真面目な顔で俺に聞く。
「ど、どうって、その」
「やっぱり無理かな。俺男だもんな。ちょっとは期待してたんだけどな。俺のシャーペン大切にしてくれてるみたいだし」
 げっばれてる。
 隠していたのにばれてる。
「まあ良いや。忘れて今の話」
 忘れる?そんな事できないよ。
 せっかくのチャンスなのに。
「あ、あの!俺平林さんの事好きですよ。大好きです!自分は付き合って欲しいです。平林さんなら何されても平気です」
 思わず会社だと言うのに、誰に聞かれているのか分からないのに、大きな声で平林さんに言ってしまう。
「お前意外に大胆だな」
 またくすくす笑いながら俺を見つめる。
 俺は余りにも恥ずかしくて仕方がない。
 これがいわゆる穴があったら入りたい状況だよな。
「やっぱり可愛い。俺のものに本当にしたいよ」
 頬が熱い。恥ずかしくて、平林さんの顔を見れない。
 顔を下げ俯く。
「俺の事好きなんだ矢田って。俺に何されても良いって言ったよな」
 にやりと笑い俺を見つめてる。
 どうしたら良いんだろう。
 このまま逃げ去りたい。
「どうしようかな。黙ってるだったら襲っちゃおうかな…」
 ふと気付くと平林さんの顔が俺に近づいていた。
「あ、あの…」
 何か言おうとしたのに、それは平林さんの唇に塞がれる。
 えっも、もしかしてこれってキス?
 俺平林さんとキスしている。
 とろけるようなキス。
 今まで平林さんと何度キスしてみたいと思った事か。
 それが今現実になっている。
 俺は静かに目を閉じる。
「抵抗なしか。それぐらい俺のこと好き?」
 唇が離れると嬉しそうに平林さんは耳元で囁く。
 俺は素直に頷く。
「じゃあ俺の恋人になる?」
「なる…恋人に」
「素直だね…そんな矢田が好きになったんだけど。初めてみたときから好きだったよ。時間かかったけど、ようやく手に入れた。自販機のクジは外れたけど、俺にとっては大当たりだな」
 そして愛しそうに俺をぎゅっと抱きしめる。
「矢田大好きだよ」
 耳元で囁かれ俺はボーとしてしまう。
「矢田も俺の事好きって言えよ」
「…大好き…凄く大好き」
「よくできました」
 ご褒美にまたキスをくれた。
 平林さんが自分の恋人になってくれるなんて夢みたいだ。
 でも服越しにちゃんと平林さんの温もりを感じる。
 本当にこれって大当たり。

*おわり*
「何となくリーマン系を書きたかったんですが、いかがなものでしょうか?」
...2004/2/5(木) [No.98]
すがあおい
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