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 (コメディ 双子/15禁)
探しに行こう!



(こいつって、飯食ってるときだけは静かだよな・・・・・・)



5月の風が心地よく吹く屋上で、どこか安心してそう思っていた矢先。

お弁当に入っていたタコウインナーの足を、1本1本噛み締めるようにへし折っていた清瀬健斗は突然叫んだ。

「そうだ!ヘニョヘニョを探しに行こう!!」

そのイントネーションに(なんのパクリだそりゃ)と心の中で冷静に突っ込みを入れつつ、
清瀬凛斗は立ち上がった健斗をじろりと見上げて、

「・・・・・・・・・・んだと?」

と、やくざの因縁つけみたいな調子で毒づいた。

しかし、その口調はともかく可愛らしい小動物系の顔をして言われたところで、怖がる人間はほとんどいない。
むしろ「う、上目遣い?」と勘違いしてしまう人間までいたりする。

もちろん目の前の同じ苗字を持つ少年でさえ例外ではなかった。
というか、健斗にとっては誰がなんと凄もうが窘めようが一切お構いなしなのだが。

「ヘニョヘニョだよ。ヘニョヘニョ!」

「・・・・・・・・・なんだそれ。健斗、脳みそ沸いた?」

「かーーーー凛斗は何もわかってねえな!ヘニョヘニョっていったらヘニョヘニョだろ?!」

「だから何それ」

「幻の動物だよ!」

「幻じゃ、探しても見つからないんじゃない?」

的確な凛斗の指摘に、健斗は額に拳をついて、

「凛は馬鹿だな!幻だから男のロマンなんだ!!」と悔しそうにのたまった。

「・・・・・ふぅん。どこにいるの?それ」

おざなりに聞いた凛斗に、健斗は待ってましたとばかりに、シャープな顎に指を当ててニヤリと笑みを浮かべた。

口に箸をくわえたまま、

「俺の予想ではナイル川のほとりか、北極の氷の下を泳いでいるか・・・・学校の裏山に生息している!」

「近っ!!!!」

(はっ!いかん。こいつのペースに飲まれては!)

思わず突っ込みを入れてしまった自分を反省し、あくまで平静に言い返す。

「ツチノコじゃあるまいし、そんな(阿保なネーミングの)生物聞いたことないけど
 ・・・・・・どこから仕入れたネタ?」

「今朝の夢!!」

・・・・・・・・・・・・・ああ、そう。
思わず箸を握りつぶしそうになる。

(相手にしてやって損した!!!)

「ようし!裏山を探索だ!」と大声を張り上げる双子の弟から視線をそらして、凛斗はため息をついた。

(中学3年生にもなってこんなんで大丈夫なのだろうか・・・・・・)

そっくりだったのは5歳くらいまでで、
二卵生双生児のサガというか、今では二人が双子だと外見で気づく人間は少なくなった。

最近になって急に男っぽくなった健斗の横顔を見ると、
羨ましいような寂しいような気分に襲われて凛斗は慌てて目をそらした。


その後。

健斗は「ちょっとションベンしてくるわ!」と行って、午後の授業をサボった。

放課後、用務員さんが倉庫にしまっておいたスコップやら懐中電灯やらが無くなっていると騒いでいたが、凛斗は聞かなかったことにしてさっさと帰宅した。



とっくに1人分の晩御飯を食べ終えた6時過ぎ。

「ただいまー」

それがいつもの「たっらいまーー♪」から始まる、
健斗作の『夕飯の歌』じゃないことに気づいて、凛斗は見ていたテレビのスイッチを消した。

「おかえり健斗。遅かったな」

リビングに入ってきた健斗は、昼間の元気が嘘のようにしょぼくれて、無言のままダイニングテーブルの席に着いた。

しかも穴でも掘った後のような、泥だらけのスコップを肩に抱えたまま。

「待て!それは明日ちゃんと返して来い!!」

凛斗は慌ててそれを奪い取って、家が汚れないうちに玄関に立てかけておいた。

「懐中電灯は?!」

「・・・・・あ・・・そういえば、いつのまにか無くなってた」

(ちっ、仕方ない・・・・・そっちはバックレるか・・・・・)


「・・・・・それでヘニョヘニョはいたのか?」

仕方なく聞いてやると、フルフルと力なく首が横に振られる。
まっすぐの茶色の髪が服の襟に当たって乾いた音を立てた。

「捕まえられなかった・・・・・・・あとちょっとだったのに・・・・・・・逃げられた」

「『あとちょっと』ってことはいたのかよ!!」

「ダメだーこんなんじゃ俺、いつまでたってもハンターにはなれねえ!!
 ふ、不甲斐ない~~」

どこにどう突っ込んでいいのかわからなくなる。

「結局、ヘニョヘニョってなんだったんだ?」

「・・・・・・ヘニョヘニョした幻の生き物なら、なんでもヘニョヘニョ」

「なんでもいいのか?!」

ってか、そんなにうようよいたら『幻』じゃあないだろう。

「・・・・・なんでスコップがいるんだ?お前は幻の生物を叩き殺すつもりか?」

とりあえずそう聞くと、健斗は厳しい顔で振り返って、

「そんなわけないだろ!捕獲する時には素手が鉄則だ!両手で優しく包み込むんだ!!
 凛はそんなこともわからないのか!」

と、わけのわからないキレ方をした。

「スコップは・・・・・裏山の一本杉の根元に罠をはろうとしたんだ」

「・・・・・落とし穴か・・・・・・幻の生物が落ちるのか・・・・・・?」

「そんで這い上がってこれないように深くしようと思って、どんどん掘ってたら・・・・樹が倒れてきた」

「樹?!?!?!」

(って裏山の一本杉ですか!?この町の名物とまで言われている樹齢200年の?!)

生まれて初めて血の気のひく音を耳元で聞いた。

「根元が腐ってたんだな・・・・まさかあんな簡単に倒れるとは思わなかったよ。
 とっさに機転を利かせて穴に入らなかったら、危なかった・・・・・さすがは俺の危機探知機」

もう少し性能をあげてくれ。

っていうか、いっそこいつを踏み潰してくれ。樹!!

「そう考えれば今回のことも修行のうちだな!」

「・・・・・・・で?」

「やっと這い上がったら、倒れた木の中からヘニョヘニョが現れたんだよ!」

凛斗を見上げる瞳は輝いている。
その時のことが脳裏に蘇ってきたらしく、ジェスチャーがつきはじめる。

「飛びかかってきやがったから、思わずスコップで殴って気絶させて、」

(素手はどうした素手は)

もはや口に出す気力も残っていない。

「袋がなかったから、即席で服を改良しようとシャツを脱いで縛っていたら、いつの間にか逃げていた。
 ちくしょー逃げ足の速いやつめーーーーーー」



聞いていると頭が痛くなってきた。比喩ではなく本当に頭痛。

凛斗はこの3分間の記憶をデリートして、何事もなかったかのようにソファに戻った。
弟の話に付き合っていると、この機能が非常に優れてくる。


「あれ?そういや、ねーちゃんやにーちゃんはまだ帰ってないの?」

凛斗が相手にしなくなったせいか、健斗はようやくあたりを見回す余裕が出てきたらしい。

「みんな遅くなるって」

家族の多い清瀬家では、全員のタイムスケジュールをホワイトボードに書き込んでいる。
凛斗は壁にかけられたそれを指差した。

健斗は素直にそれを覗き込むと、さっきまでの調子が嘘のように妙に嬉しそうな声を上げた。

「ほんとだ。9時まで2人きりじゃん」

『2人きり』のところを強調するので、凛斗はリモコンを手にしてテレビをつけた。
たいしておもしろくもないバラエティ番組が、笑い声を張り上げる。

気にしてないのか気づいてないのか、
健斗はソファに近づいてきて満面の笑みを見せた。

「凛ー」

「うるさい」

「凛ちゃん、エッチしよ」

「うるさい。僕はテレビを見ている」

「なんでーいーじゃん、テレビなんていつでも観れるし。
 皆いないことなんて滅多にないんだしさ!」

健斗は子供みたいに口を尖らせるけど、言っていることは子供でない。

「お前、夕飯は?」

「んーーーー飯より凛がいい」

(阿保が!!!)

と思いながらも抱きしめられるのに任せている。

乾いた唇が重なってきて、見よう見まねのキス。

もう何度もやっているけど・・・いつもあっさりと唇に触れるだけのフレンチなやつ。

(・・・・・舌入れたら驚くかな)

もちろんうっかりつけ上がらせても嫌なので、そんなことはしない。

チュッと音を立ててそれが離れると、「ねっ?」と可愛く催促される。
その愛嬌と要領のよさは、昔から腹が立つほど変化がない。

「・・・・・・・仕方ないな」

「マジ?!やったーーー凛ちゃん太っ腹ーーー」

阿保なことを言いながら飛びついてくる。
だけど身につけているのが泥だらけの学生服の上、変わった匂いがして凛斗はその身体を押し戻した。

思いっきり顔を顰めてみせる。

「健、変なにおいする」

「え?そうかなー?あ、汗臭い?」

「なんか青臭い」

木立の香り。
青い葉っぱや、樹木の匂い。

「嫌い」

「いーっていーって」

「嫌だ。とっとと洗ってこないとしないからな!」

「なんだよーんじゃ、速攻でシャワー浴びてくるから先に部屋にいてよ」

しかしいつになく素直に健斗は風呂場に向かった。



健斗の部屋にはガラクタがいっぱいだ。

山から拾ってきた隕石の欠片(ってか岩)や、川から拾ってきた太古の化石(ってか石)や、
谷から引き上げてきた謎の巨大卵の殻・・・・・・(運がよければ桃太郎だったらしい)

そんなものが8畳の部屋に張り巡らされた、金属製のシェルフにひしめきあっている。

自分に与えられた部屋と同じ広さのはずなのに、とてもそうは思えないほど圧迫感を感じる。

(ちっ、どっかに本物が混じっているな)

昔から墓場などの近くを通ると肩が重くなる凛斗は、
舌打ちして、唯一まともに座れそうな健斗のベッドに腰を下ろした。


両親は子供の頃から帰りが遅かった。
一番上の兄貴は一人暮らししてるし、二番目の兄貴とは年が離れているし、
年の近い姉貴は優等生ぶってるけどその実、遊び三昧。

だから健斗と2人きりで遊ぶことは多くて・・・・・

機会はあった。

いつからこんなことになってしまったかわからないけど、気がついたら僕は健斗と寝ていた。

興味があったのも本当だけど、その時はもっと切羽詰った心境だった気がする。
なににも縛られない自由気ままな健斗が、いつか遠くに行ってしまいそうで、不安だった。
ずっと不安だった。

だから健斗がケロリとして「凛ちゃんが好きだから寝てみたい」と言ったときも、

好きだとか、
恋だなんて全然思えないし、興味まるだしの口調だったけど。

『興味のあることはとりあえずやってみる』が信条の健斗らしい言い方だったけど。

・・・・・・・それでもいいと思った。

僕の生れ落ちた時の片割れが、いつか裏山なんかじゃなく、ナイル川や北極にひとりで行ってしまわないなら。

・・・・・・・僕で繋ぎ止めることができれば。

寝てもいいと思った。

(なんでそんなこと思っちゃったんだろうな・・・・・・・)


寝てみても、結局、なにも変わらなかった。
寝なくても、なにも変わらなかっただろう。

健斗はいつもどおり阿保で、思いついては喜んで飛び出して行っては人に散々心配かけて、
そして、気まぐれに僕を抱く。


つまり、僕のしたことは無駄に終わったのだ。



「あれー凛ちゃん、まだ服脱いでないじゃん!」

部屋に入ってきた健斗は、短パンを履いただけの間抜けな格好で開口一番そう言った。

部活動もしていないのに、しょっちゅう出歩いてはそこらを掘り返しているせいか、
成長途中の身体は僕とは比べ物にならないほど引き締まっている。

「なんでだよー裸でベッドに入ってるのはお約束だろ!俺の夢を壊すなよーー」

タオルで濡れた頭を乱暴に拭きながら、そう悔しがった。

AV女優だか新妻だか知らないが、凛斗がそんなことしたことは1回たりともない。
馬鹿らしいけど、放っとくとうるさいので付き合ってやる。

「健斗、脱がして」

そう言って座ったままだるそうに腕を持ち上げると、健斗は一瞬前の信念なんかどっかに放り投げ、
喜々としてシャツを脱がせた。

「凛って、ホント綺麗だよねー肌とかすべすべ。なんで俺は似てないのかなー双子なのに」

「二卵性だからだろ」

「二卵性だって双子は双子だろ?へんなのー」

「いつまでも同じ顔しているほうが気持ち悪いじゃないか」

「そっかなー?いいなー凛ちゃん、白いし柔らかいし」

「欲しけりゃやるよ」

そっけなく応えると、健斗は露出した肩に音を立てて口づけた。

「まーいつでも触れるから、いいや」

その言い方に、イラつく。
気まぐれに、僕に触れる弟にどうしようもなくイラついた。

「いつでもなんかしない!」

普段よりも強い口調でそう言った僕に、健斗は目を見開いた。
もともと大きな目がそうすると、自分に良く似ている。

「・・・・・・・・凛ちゃん?なんか怒ってない?」

そう言って顔を覗き込まれると、健斗の身体から立ち上る石鹸の匂いが鼻をくすぐった。
うざったくて顔をそむけた。
子供のキスで丸め込まれそうなのが、嫌だった。自分が嫌だ。

「凛・・・・・・」

「もういい。気が変わったから、部屋に帰る」

そう言って健斗の脇をすり抜けようとしたら、二の腕をつかまれて引き戻された。

「なんで!凛ちゃんするって言ったじゃないか!俺、風呂だって入ってきた!」

「だから気が変わったって言っただろ!!」

思わず怒鳴り返すと、健斗は一瞬驚いたように動きが止まったが、
すぐにムキになって、放り投げるように凛斗をベッドに押し倒した。

「離せ健斗っ!!」

「いやだ!するったらする」

続けざまに文句を言おうとした口を塞がれて、頭を殴ろうとした腕をたやすく片手でまとめられる。

「本気で怒るぞ!」

「もう怒ってるじゃないか!」

健斗はそう言い返して、あらわになっていた胸に吸い付いた。
軽く歯を立てられて、身体がビクリと震える。

女みたいにそこが弱いことは、すでに健斗に知られていて、執拗に舌先で遊ばれて、押し潰されるようにきつめにされると鳥肌が立った。

「んっ・・・・・・・やめろっ、健斗!」

「なんで?凛も楽しそうにしてるじゃん」

嬉しそうにそう言った健斗に、唯一自由な歯で噛み付こうとすると、「うわ!危ねっ」と叫んで攻撃を避けられる。
ついでに蹴りを予測したのか、身体をうつぶせにひっくり返された。

「凛ちゃん凶暴~」

どこか笑いを含んだ声でそういいながら、健斗はあっという間にトランクスごとズボンを脱がせる。
その手際は中学生とは思えないほど、見事だった。

凛斗の身体の下に回した手で、さっきまでの他愛無い行為にすら反応を示してしまった部分に刺激を与える。

その感触に快感の片鱗を感じ取って、凛斗は声を漏らさないように唇を噛み締めた。


この体格差が、

どこかで僕たちを2つの道にわけてしまった神様が、心底憎い。


1つで生まれてきたはずなのに、どうして全く違う心を与えてしまったのか。

せめて、まったく違う存在だったら、これほどの執着はありえなかっただろうに。



「・・・・・・・・・凛ちゃん?」

好き勝手に身体の上を動いていた手が、止まる。
手首を押さえつけられたままの両腕に、頭を埋めた僕に気づいて、健斗はこわごわと尋ねた。

「泣きまね?」

「・・・・・・・・・そうだよ!」

だけど言い返した声は掠れていて、本気でまずいと察知したのか、健斗は圧し掛かっていた身体を浮かせた。

「凛、凛ごめん。泣くなって」

慌てて拘束していた手首を離して、仰向けにさせようと肩を揺すった。
それを乱暴に振り払うと、

「マジで凛が泣くのはダメなんだって。ほら、もうしなくていいからさ!
 何にもしないから」

困りきったようにそう言って、蹲った凛斗の頭を撫でる。
まだ小さな頃から変わらない不器用な慰め方。

「ね?泣かないで、凛」

嗚咽を抑えるために口を覆っていた手に、キスされる。
堅く瞑った目から、ボロボロと涙が零れ落ちた。

「ふえっ・・・・っく・・・・・・・」

「ごめん。もうしないから」

どうにか取り繕うとするみたいに、剥ぎ取られた服を着せられて、「ほら、大丈夫!」と上ずった声で元気付けようとする。

「・・・・・・凛・・・・・?」

背中から抱きしめられて、凛斗は身をよじった。

「うーーーーーっ」

「ね、抱きしめるくらいいいじゃん。頭撫でるだけだから」

その言葉どおり、後ろから回った手のひらが、
宥めるみたいに前髪を撫でているだけなのがわかると、凛斗はようやく身体の力を抜いた。

健斗は薄い掛け布団を足元から引っ張りあげて、守るように凛斗の身体を包んだ。
ぽんぽん、っとその上から軽く叩く。
その下に僕が居るのか確かめるみたいに。

ただひっついて眠るのは、小学生以来かもしれない。
それまでは、いつでもこうして一緒に寝ていたのに。

髪を梳かれると、寝そうなほど心地いい。


「ねーなんで泣いたの?」

「・・・・・お前が馬鹿だから」

「わけわかんないよ。凛は俺とすんのやなの?もうエッチなし?」

「うるさいな」

「理由を言わなきゃわかんないじゃん!俺が無理にしようとしたから?でもその前から怒ってたよね?
 やなことあるなら言わないと俺わかんないよ。また凛を泣かせるの嫌だから教えてよ」

健斗のこの単純明快で公明正大な態度が嫌いだ。
なんにでも潔くて、気持ちに正直で。

僕にはないって思い知らされるから。

「健斗、来週三者面談だろ。高校はどこにするつもり?」

明らかな話題転換に健斗は憮然としたが、渋々「あんまし考えてない」と応えた。

「行けるとこに行く」

「それじゃあ、一緒に行くお母さんが困るよ。やりたいこととかないの?」

「バイトOKな学校がいいなーそれか家の近く!そしたらバイトに時間費やせるし」

家の近くには、上の兄弟全員が通った有名な私立校しかない。
大学まで進学できるエスカレーター式の学校。

初等部の受験会場から「ムササビモモンガサウルスが通った!!」と、
トカゲを追いかけて脱走した弟に、果たして編入できるだけの学力があるのかはわからない。

「バイトって・・・・・・健、欲しいものでもあるわけ?」

僕は顔だけで健斗を振り返って、そう尋ねた。
健斗は物欲が薄いのか、あまり親に物をねだったりしないから、不思議だった。

(ねだる時は金属探知機とか地底探査機とか言って、相手にしてもらえないことが多い)

「冒険の軍資金!」

「・・・・・・ふぅん」

(なんだ・・・・・・・・・・・)

いつものことなので、気にしないで生返事を返したけど、

「俺、バイトしてたくさん金ためて、高校でたら世界中飛び回りたいからさ!」

『世界』という言葉に、心臓がずしりと重みを増す。
抱きしめられて熱いはずの身体が、急速に冷えていく。

高校を出たら?
高校を出たらどこへ行くって?

「きっと色んなやつがいるんだろうな、俺の知らないとこには。会えるかなー?ペシャクパランやヒバゴンに・・・・」

健斗はどこかうっとりとした口調でそう語る。
ヒバゴンは広島県だろう・・・・と思いつつ、凛斗はぽつりときいた。

「健斗はなにを探しているんだ?」

「図鑑に載ってない生き物!未確認生物!男のロマンだよな~
 ネッシーも、俺が捕獲してケッシーって改名してやるつもりなんだ!」

馬鹿馬鹿しい話を心底楽しそうに(しかも本気で)語る健斗に、毒づきそうになるのを必死で堪える。

健斗は僕が珍しく話に付き合ってやっている喜びからか、抱きしめる腕に力を篭めて額にキスした。

「だから凛もバイトしなきゃ駄目だぞ。
 凛は俺と違って頭いいから、割のいいやつやってじゃんじゃん稼いでくれよ!」

「・・・・・・・・は?」

「俺はそうだなー、ガテン系日払いバイトで身体も鍛えられて一石二鳥だ!
 な、いい案だと思わない?凛、体力ないからその分、俺が体力つけないとな」

「・・・・・・・・・どういう、意味?」

「どういうって・・・・巨大な怪鳥に襲われたら、俺が守ってやるよ!ってことだけど?」

健斗は「当たり前でしょ?」という表情で、抱き込んだ顔を見下ろす。

「うわ、もしかして凛ちゃん別の想像した?やっらしー」

「そうじゃなくって!!」

「やるからには、俺たち伝説の双子ハンターになろうな!」

名案だといわんばかりに得意げな笑みを浮かべた健斗を、凛斗は珍獣でも見るようにまじまじと眺めて。

「・・・・・・・健斗、一人で行くんじゃないのか?」

「つ、冷たい凛ちゃん!」

と、顔を顰めた。

「さてはバイトが面倒なんだな?ちぇー凛めんどくさがりだからなー
 じゃあ、いいよ。俺が2人分稼いでやるから」

方向違いに拗ねた健斗に、僕は尋ねた。

「・・・・・世界・・・・って、うちを出るのか?海外で暮らすってこと?」

「出ないよー。うちはうちだろ?何年か留守にしたって、それは変わらないじゃん。
 俺の帰るところはここしかないし」

健斗はケロリとそう言って、能天気な笑顔を見せた。

「ね、世界中を旅しよう。楽しそうだろ?」



・・・・・・・・・わからない。

もしかしたら、こいつはとんでもない曲者なのかもしれない。
たんにエッチがしたくて、僕の機嫌を取ろうとしているだけかもしれない。

ひねくれた心はそう思う。


・・・・・・・・だけどこみ上げるのは紛れもない嬉しさで。


「凛ちゃん?」

僕を横抱きにしていた健斗の腕を無理矢理ほどいて、その両肩をベッドに押し付け、
ついでに唇を押し当てる。

僕とよく似た形の唇を舐めて、ためらってから舌を差し入れると、
健斗が驚いたように僕の二の腕を掴んで、身体を押しのけた。

顔が少しだけ離れると、阿保面で見上げる健斗と目が合った。

「は?!え、え、なに?」

「うるさい」

「・・・・してもいいの?凛ちゃん」

「知らない」

「じゃあ、する」

返事をする前に、その手は履かせたばかりの凛斗の下着にもぐりこんでいた。
チャンスを逃さないのは、ハンターの条件だっけ?

うん・・・・・・・なれるんじゃないか。
お前みたいに怖いもの知らずのヤツは。

そう思って、笑みを零した。




タイマーの音で目が覚めた。
健斗の部屋に入って、きっかり2時間後。

凛斗は散らばった洋服を集めて、さっさと身につける。
家族が帰ってくる前に、この部屋を出て・・・・シャワーも浴びなきゃならない。

隣で大口開けて眠る弟に、凛斗は顔を寄せた。


こいつはまたヘニョヘニョの夢でも観ているのだろうか?

そして目が覚めたら、探しに行こうと言い出すだろうか?


・・・・・・・それならそれで、いい。


寝ても寝なくても変わらない。
始めから、健斗なんかのそばに居てやる物好きは、僕だけだし。

馬鹿でしょーもないけど、その能天気さに救われることも多いから。



しかたないからついて行くよ。



「メインシリーズの超番外編です。」
...2003/10/27(月) [No.81]
セナ
No. Pass
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