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 (被創造物×創造者 止まない雨 生命管理/18禁)
雨にねむる


「止まないねえ、雨」
「はい」
知っているはずなのに。決して止まない雨だということを。
少しずつ、すべてをすり減らしていくしずく。
いつかは何もなくなってしまうだろうね。
捨てられたんだね、僕たちはきっと神様に。
薄く笑みを刷いた口唇で、あなたがそう言ったのはいつだっただろう。

「かたちのないものって、好きじゃないんだ」
「こわれてしまった、って泣くこともできないからさ」
あなたの言葉の、断片を時折思い出すことがある。
そのたびにわたしは、幾度か思った。
あなたは何をそんなに恐れていたのかと。
あなたより先にこわれはしないと、言えばよかったのだろうか。
「だから僕はね、愛っていう言葉がなんだか好きじゃないんだよ」
「だってそんなの、見えないんだもの」

しとしとと、細い雨が落ち続ける。
割れた空から。奇妙に平坦な、鉛を流したような空から。
「あなたは、愛という感情を必要としないのですか」
「君は」
「わたしには、分からない」
「本当は誰だって知らないんだ」
表情を変えるでもなく。
「知ってるフリをしているか、知ってるつもりになってるか。どっちかだよ」
彼の言葉はすべて真理だった。わたしにとっては。
わたしを生んだあなた。
臓器移植用のクローン胚だったわたしを、戯れに拾い上げてかたちづくったあなた。
捨てられるはずだったわたしを、人にしたあなた。
それっきり、誰の前にも姿を見せなくなったあなた。
降り始めた雨。
捨てたのは、すべてを捨てようとしたのは、
「眠ろうか」
あなたではないのか。
「ベッドの用意を」
乾いたシーツに取り替えなくては。湿気は建物の中にも容赦なく滑り込む。
あなたはわたしの手を掴んだ。
行くな、ということだった。
「ここで眠ろう」
細い指がわたしの口唇をふさぐように、触れた。
その先端をそうっと舐める。
あなたはあの薄い笑みを浮かべて、ソファに身を横たえた。

「キスして」
「そ…触って、もっと、たくさん」
「そこもだよ」
あれほど饒舌なあなたが、たどたどしく言葉をつむぐようになる。
身体の熱が上がっていくにつれて、それは顕著になっていった。
「わかって、います」
「いいこだね」
腕を伸ばし、わたしの首をしがみつくように抱くあなた。
ばさばさになったわたしの髪をまさぐる指。
耳朶を噛んだちいさな痛み。
何を探しているんだろう。
あなたはいったい、何を探してわたしに歯を立てるのか。

「ふ…ぅん……っ」
うっすらと紅潮した首筋をついばむ。かすかな汗のにおいがした。
一度達して白い蜜を吐き出したあなたの分身が、
わたしの手の中でゆっくりと硬さを取り戻していく。
やわらかな口唇が重なる。
「欲しいんだ。分かって」
「セックスとは愛や、それに似た感情に基づくものではないのですか」
「錯覚だよ」
うるんだ睛で、濡れた口唇であなたは言う。
「性欲を解消する術は愛じゃない。ただの摩擦に過ぎないんだ」
わたしには、わからない。
「僕は正しくないよ。これは私見に過ぎない」
ただ、とあなたはわらった。
「けっこうあたってると思うんだ」
「わかりました」
あなたは、眠りたいだけ。
死に近い絶頂の中で、ことんと落ちるような眠りを。

あなたがこぼした蜜を指でかき集め、蕾に塗りこめてやわらがせる。
ゆっくりとほぐし、指が3本まで入るようになったとき、
あなたの分身は硬く脈打ち、あなたの爪がわたしの腕に食い込んでいた。
「早く…欲しいよ」
錯覚だと言った口唇で、欲しいとせがむ。
醜いはずの矛盾が、どうしてこうも惹きつけるのか。
ほぐれた場所に自身を押し付け、少しづつ挿入する。
何度かあなたは短い声を上げた。
きつく締め付ける内壁をふりほどくように、わたしは腰を動かした。
「やっ…ぁ……んぅっ、い…ぃっ……」
あなたの声を掻き消すように、雨足が強くなる。
ノイズのようにわたしをかき立てる。
捨てられるはずだったわたしを拾い、
生きてきた、またこれからも生きていくはずだった場所を捨てたあなた。
「どうして」
わたしに世界を与えたのですか。
そんなにも簡単に、自分の世界を捨てられるというのに。
もしただの気まぐれというなら、どうしてそんなに爪を立てるのだろう。

眠りに落ちる少し前の、途切れるような声を飲み込んでわたしは、
あなたの中に熱を吐き出す。
あなたが欲しがっていたものかどうか、わからないけれど。
眠ってください。どうか。
そうしたら、雨が止んでいるかもしれませんから。
あなたはまどろみながら、何か言おうと口唇を動かした。
雨音が、あなたの声を消した。
「ええといろいろすみません。ヌルくて。」
...2003/7/8(火) [No.61]
ミナセトオヤ
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