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 (リーマン、おしおき期間中、焦らし/18禁)
言葉の選び方<後編>


 そもそもあんな条件承諾したのが間違いだった。

あれから早一ヶ月。

社内でも実に爽やかに振舞う綾瀬が恨めしいと思うことも屡。

アフターファイブは恋人たちの時間…とはよく言ったものだ。初めに言った奴をぶん殴って

やりたいと思う。

それほどまでに終業後も淡泊な関係が続いているのだ。

ムードを引き出そうとしても肝心の綾瀬がそれに乗ってこない。

かといって押し倒すわけにはいかないし、そうすればそれ一回きりで最悪別れるとか言い出す

だろうし…

「…つらい…」

あの至極爽やかな笑顔が、坂崎にとっては欲望の対象にしか映らなくて、しかもどの仕草を

とっても喉が鳴る。

たかだか一ヶ月。

されど一ヶ月。

これがあと二ヶ月も続くのかと思うだけでフラストレーションが溜まっていく。

当然それは仕事にも影響するのだ。

部下に当り散らすような無様な事はしなくても、書類チェックに前以上に妥協しなくなる。

それについてこようとする部下たちが涙ぐましいほどありがたい。

自分の自制心が未熟な事で彼らに迷惑をかけている時点で、馬鹿の極みだとつくづく思った。

「……」

そんな坂崎の態度を横目で見つつ、自分の仕事を進める綾瀬は仕方ないなと溜息をつき、

彼に書類を持っていったときまるでOLがするような

小さなメモ書きをバインダーにはさみ、他の人に見えないようにそれを渡した。


”今夜部屋に行ってもいいですか?”


 それを見た坂崎は一瞬頬が紅く染まる。

しかしそれを指摘される前に根性でそれを押さえ込む。

「……俺と付き合う前までどうしてたんだろ…?」

今の彼を見ていると、どうやって発散させていたのか物凄く気になる。たぶん、

二丁目当たりまで行ってたんだろうな…

誰からのクルージングもオッケーだったりして…

あ、なんか複雑…


‡‡‡   ‡‡‡   ‡‡‡


 貰ってある合鍵で先に彼の部屋に行った。

相変わらず几帳面だと思わせる、整頓されたモデルルームのような部屋。

薄っすらと香る煙草。

何度もこの上で愛し合ったベッド。

いつ来てもいいように室内にそれとなく増えた同じ生活道具。

「…意地悪…し過ぎなのかなぁ…」

ベッドに寝そべり、整えられたシーツを僅かに乱す。

「遅いなぁ…昇さん…」

寝返りをうつとギシッとベッドが揺れる。

「……」

ギシギシと音を立てるベッドに、これまでの情事が脳裏を駆け巡る。

「…一ヶ月、俺もよく我慢したよなぁ…」

ころころとベッド上で暇を持て余していると、背広の内ポケットから携帯のコール音がした。

「誰だぁ?」

ベッドからのそのそと起き上がり、携帯をチェックするとそれは坂崎からの着信だった。

遅くなるのからと連絡してきたんだろうか?

「昇さん?今どこ」

『…マンションの外』

「なんであがってこないんですか?」

『……お前、近頃の俺の態度見て仕方なく…って感じで今日誘ったろ』

鋭い…

「…だって昇さんこの所ずっと周りにあたってる。昭島さんとか西沢とか気の毒なんですよ」

『だから、か?』

「………プライド傷ついた?」

坂崎の言いたいことはわかる。

三ヶ月、と明言してしかもその間に自分から誘った時以外禁止と言った。

今日は綾瀬から誘った事実はあるものの、その経緯に問題があるのだ。

あまりにも目に見えて不機嫌な為に部下が可哀想だから誘った。

それに坂崎自身も気付いていた。

仕方なく、という経緯が彼の自尊心を傷つけたのだ。

押し黙る彼に綾瀬は言葉を続ける。

「…あのさ、きっかけは昇さんの機嫌の悪さってのもあるんだけど。部屋来たら……」

そこで急に恥ずかしくなって言葉が途切れる。

すると黙っていた坂崎が話し掛ける。

『…マジでその気になってきた、ってか?』

「…それ、言わせるんですかい…」

『言え』

「~そ~だよっ!部屋来たらその気になっちゃったの!だから前提は関係なくヤりたいのっ!

早く上来てよ!!」

一人しかいないのに耳まで真っ赤になりながらそう告げると、電話口からフッと一笑する

彼の声がした。

『どうせならテレフォンセックスでするか?』

「い・や・だっ!」

『じゃあ待ってろ、すぐ行く』

電話が切れると、深い溜息の後一気に羞恥の熱が顔を染める。

「ぎゃ~~~!!!恥ずかしい~~~~っ!!」

じたばたとベッドの上でもがいていると玄関から扉を開ける音がする。

「!早っ」

振り返ると勝ち誇ったような顔をする、いつもの坂崎がいた。

「もしかして…ドアのすぐ外にいたって落ち?」

「そこじゃすぐに声が聞こえるだろうが、正確にはエレベーター前かな」

どっちにしろそう変わんないじゃん。

何やってんだかこの人は…

「雅人…」

「ぁ…」

小さく笑っていると囁きざまにきつく抱き締められ、息が詰まる。

「っ…ふ…っ…」

「まだ何もしていないのにいい声出すんだな」

「…そ、じゃなくて…苦しっ…」

「悪い」

腕が緩むと開放された腕を擦り、文句を言いつつ彼を見つめるとすかさず唇が降ってくる。

「んっ…」

くぐもった声と舌が絡む水音が静かな室内に木霊すると、途端綾瀬の全身の熱が増す。

いつもより長いキス。

頭の芯からなにからすべてトロトロに溶かされてしまいそうで。

何も考えられない。

何度も位置を変え口腔を激しくなめ舐る坂崎の舌はすごく熱くて、もっとその熱さを感じたいと

己の舌を絡める。

「んぅ…っ…んん…は…ぁ…」

淫らに交わす口づけに心酔しきっていると、当然自分の身体は疎か何なるわけで。

かくんっと膝が折れると既に腰に廻されていた坂崎の腕に抱きとめられ、そのまま何事も

なかったように極甘の口づけは続く。

深く 深く もっと深く…

もっとして…

欲して彼の首に腕を絡ませようとすると何故か両腕を捕らえられ、その行為を拒んだ。

「……?」

情欲に煙った瞳で坂崎を見やると、既にギラギラと雄の耀きを宿した目でこちらを見ていた。

「のぼる…さ…ん…?」

口づけの痺れでまだ思考がはっきりしない中、中断された行為にどうしてと問い掛ける。

「このひと月、ろくにキスすら出来なかったからな。今日は思う存分させてもらうぞ」

「!?うわっ…」

少ししか体格は変わらないはずなのに、何処にこれほどの力があるのかと常々疑問に思う。

情けない所謂『お姫様抱っこ』で抱き上げられた綾瀬は、こんな姿絶対誰にも見せられないと

羞恥で押し黙る。

「は…っ…んんっ」

ベッドにそっと寝かされるとすぐさま坂崎の口づけが囁こうとした言葉を封じた。

両手首を押さえつけ、きつく唇を押し付けられる。、

喰われるんじゃないかと思うぐらいに執拗に唇に吸いつく坂崎は、巧みに舌を用いて綾瀬を

高めていった。

「んっ…のぼ…る…さ…っ…欲し…」

口づけの合間合間にかろうじて告げる事の出来た言葉に坂崎は応えない。

「…?」

おかしいと思っているとふいに唇を離した。

「…俺が悪いのは重々承知の上だが…今だけは苛めさせてもらうぞ。覚悟しろよ?」

そのたらし顔で不敵に笑い、再度深く口付ける。

「っ…んっ……」

じわじわと燻る身体の熱は放っておかれたままで、熱の増す下肢には全く触れようとしない。

早くどうにかして欲しくて頭が変になる。

身をよじって振りほどこうとするが如何せん溶かされきっているこの身体ではまともに力など

入るはずもない。

「んっ…ぁ…のぼ…さ…スーツが…」

上着は前もって脱いでいるものの、スラックスがこのままではいろんな意味でやばいことに

なる。それを回避するべく彼に願い出ても当然ながら

聞こうとせず、そのまま一方的な愛撫は続く。

深く甘い口づけのはずが、ただ一方的に貪られるだけ。

互いに高め合おうと彼のスラックスを脱がしたり、シャツを脱がせたりしようにも両腕を

頭上で固定されているからそれもあたわず。

身体が震える。

局部的に高まる衝動を放置され、疼きはやがて痛みに変わり、早く早くと泣きながら懇願する

ようになる。

「のぼるさん…っ…こ、こんなのっ…やだ…ぁ…」

首を振っていやいやをするも、坂崎の愛撫が一瞬止まるだけでそれ以上の効果は上がらない。

欲しいものをなかなか与えてくれない坂崎に業を煮やし、綾瀬は涙ながらに彼に言った。

「…してくれないんならっ…もうやだっ…!離してよぉ…!」

「このままやめてお前はそれでどうする?自慰でもするか」

「……なんで、そんな意地悪…言うんです、か…っ…」

泣きながら喋るものだから時折言葉が詰まる。そんな綾瀬がやっぱり可愛いと坂崎自身が

意思を持ち始める。

好きな人の泣き濡れた顔を見るだけで反応してしまう、悲しいかな男の性。

「……昇さん、する気ないんなら、こんな中途半端なことしないで下さいっ…しんどいだけ…」

「このひと月まともにキスの一つもできず、当然肩を抱くこともなくまさに地獄のような

日々だったんだ。やるより先に存分に感触を貪りたくなりも

するもんだ」

まるでオアズケ食らわすお前が悪いと言わんばかりに、坂崎はそのたらし顔でにんまりと

微笑んだ。

「……やっぱり一ヶ月目でやりたいなんて…言うんじゃなかった…」

「まぁそう言うな、この夜好きなだけお前とSEXできると思っただけで頭のネジが軽く

飛んでるんだ。少しは大目に見てくれないか?」

「…俺の方が今立場上のはずじゃなかったですか?」

「ああ、お前が上だ。王子様」

何つー恥ずかしい事を言うんだと軽くこぶしを突き出すと、その手をとられチュッと手の甲に

キスをして、俺は下僕だよ、と囁く。

「主に必要以上に奉仕したいと思ってる、忠実な下僕だ」

「…その割にはぜんっぜん言うこと聞いてくれないくせに…」

「嫌よ嫌よも好きのうち、って言うだろう?ここでやめたら男が廃るってときがあるんだよ」

「なんだそれ、ばっかみたい…」

むくれている綾瀬の頬に優しく触れる唇。

「違う、もっと別の場所…」

節目がちに綾瀬を見やる坂崎は、じゃあここ?と綾瀬の唇を舐めた。

「ん…そ…」

それを聞くや否や食らいつくような激しいキスが口腔を支配する。

「んっ…ふ、ぅうっん…」

食べられそうな勢いの口づけがとまると坂崎の唇は首筋をたどって胸の突起にたどり着いた。

ぺろりとひと舐めされると小さな甘い声を出して綾瀬の身体が震える。

「…そ、こよりも…もっと、違う…」

「ああ、こっちか…」

そう言ってすでに痛いぐらい勃起した綾瀬自身を下着の上から揉みしだくとそれはふるふると

小刻みに痙攣しだした。

「あっ…ぁ…んんっ」

ぐじゅぐじゅと生々しい音をたて、張り詰めるそれを更に高みへと導き射精を促す。

坂崎の手の中で達した綾瀬は熱い吐息を吐き出し、涙目で坂崎を誘った。

「…ねぇ…昇さん…」

早くと言うより先に覆いかぶさってくる彼は今までよりも激しく肌を貪った。

痛みを伴うことすらあったが、それでも快楽の方が先にたつ。

「昇さ…ぁ…ん…あっ…ぁ…早っ…はやく…っ…」

首に絡められた腕に力が入り、おり重なる身体が更に密着すると、達して間もないのに既に

起立した綾瀬自身が坂崎の腹で擦られ、

大きさを増す。それを合図ととったかのように、坂崎は濡れた綾瀬の蕾を弄り、入りやすい

ように更に解す。 指が与える刺激に小刻みに痙攣して小さな喘声を漏らす綾瀬は、

早く坂崎が欲しくて自然と腰が揺れた。

坂崎の喉を甘噛みして、色づき潤んだ瞳で行為を強請ると坂崎が躊躇する。

「…?」

どうしたんだろうと彼の顔を見やると、普段は見られないような戸惑いに満ちた顔をして

いたのだ。

「…のぼる、さん?」

名前を呼ばれハッと我に返る彼だが、その動揺振りを如実に表していたのは大きく反り返った

彼のペニスだった。

入れる寸での所だったためか、その質量増大は綾瀬も気づきそして驚いた。

「…今の、感じた?」

「…どうしてお前はそうやって予期せんことをして俺を煽るんだ」

手のひらで半分顔を覆い隠し、明らかに赤面しているととれる彼の行動は綾瀬にとって首を

かしげるようなことばかり。

いつも不意にそんな態度をとられるので本人にはわからないことだらけだ。

しかし坂崎いわく、無意識ほどたちの悪いものはないらしい。

そんな無意識の中で自分を煽るような行動をとるこの恋人が、ときどき恨めしく思うことが

あるが悔しいのでそれは言わない。

「…もー我慢できんっ」

「あっ…ゃ、んっ…」

綾瀬の足を大きく開かせ、自らの腕に足を引っ掛け腰を進める。

「んっ…」

肉壁を押し分け進入してくる感覚に、荒い吐息を吐き少しでも楽に入るよう、

綾瀬は身体の力を抜いた。

奥深くまでねじ込まれると間発入れずに坂崎は腰を大きく前後させる。

「雅人…っ」

「あっ!の、のぼる…さん、昇さんっ…あぁ、やぁ…っ」

最奥を激しく突かれ、悦びの声をあげて坂崎の首にしがみつく。

気の遠くなるような気持ちよさと、思わず声をあげてしまうような激しい律動に、

坂崎の背中の立てる爪の痕も数が増える。

ギシギシと大きく軋みをあげるベッドの、その音がひどく卑猥な印象を残して綾瀬の耳を

くすぐる。

目に映るもの。

耳に聞こえるもの。

この手で触れる全てのものがひどく淫らで心地よいものに変わっていく。

「あ、ああっ…ああぁあっ!!」

二人同時に達した後、坂崎が綾瀬に何か話しかけるが、どうにも耳が遠い。

「…さと…?」

意識が朦朧とする。

「…のぼるさん…だいすき…」

その呟きを本人が覚えているはずもなく、その呟きのためにまた下半身が元気になってしまった

恋人が意識を手放した彼の前で苦悩に満ちて

いたことはお約束どおりながら想像に難い。

「……こーゆーのも、おしおきの一部に入ってるのか…っ!?」


‡‡‡   ‡‡‡   ‡‡‡


 それから数時間後、まだ日も昇らぬ時刻に目覚めた綾瀬は、隣で眠る恋人の寝顔を見てホッと

表情を和らげる。

「…あと二ヶ月、頑張ってね…昇さん」

もうやめてもいいんだけれど、途中でうやむやにしてしまうことが性格上気に入らないため、

我慢できるかどうかわからないがとにかく続行

しようと微苦笑を浮かべる綾瀬だった。

「後編です。」
...2003/6/4(水) [No.56]
緋烏
No. Pass
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