ある日、砂礫の山の魔法使いはふと思い立って山を下り、麓の街に現れると、人々の中に弟子を求めた。 暗い夜空のような色の髪を、頭の後ろで小さな尾のようにまとめた魔法使いは、弟子の条件を告げる。 「わたしの弟子になる者は、若く健康で、まだ女を知らない青年でなくてはならない」 毎朝、砂礫の山の裏手の川から水を汲んで山を登るので力が必要になる。 魔法の書物や品物を扱うので、勉強熱心で賢い者がいい。 「この街にだれか、そのような若者はいないか」 魔法使いの告げた条件に、街の人々は顔を見合わせる。 砂礫の山の麓の街はそれほど大きなものではない。 それでも、若い青年は結構な数がいた。その内で健康な者も数が多い。ただ、女を知らない青年となると、はっきりわかっているだけでも一気に数が減ってしまう。まして、小高い砂礫の山を水瓶を抱えて毎日上り下りすることに堪えられ、さらには力だけではなく勉学に対する意欲も持っているものとなると、思い浮かぶ名もない。 人々が顔を見合わせ、誰それの息子はどうだ、甥っ子はどうだと話をしている傍らに、ジェンマという青年がいた。 彼は人々に囲まれて立つ魔法使いを、だだひたすらぼーっと眺めている。 噂には聞いてたけど、なにあれ人間? 彼がそんなことを思うのも仕方ない。 魔法使いはひどく美しい男だった。 なよなよと女性的だというのではない。 街に住み陰で身を売っているともっぱらの噂の美青年が幾人かいたが、そういう近づくと甘ったるい香か精液の匂いでもしそうな、わざとらしいうつくしさではなく、魔法使いはその立ち姿から髪の一本に至るまで、ごく自然に美しかった。 それは、自分を見てくれと開いた花とはまた違う、明るい月夜に砂礫の山だ。 灰色の砂が月明かりにキラキラと銀色に光り、光に縁どられた山影が荘厳に屹立して月に迫る、あの光景の美しさによく似ていた。 綺麗だなぁ。 ジェンマは思わずため息をつき、魔法使いの姿に目を細める。 同じ人間とはとても思えない。 魔法使いは魔法の才能が有り、薬や医術にも精通していて、空を飛んだりなにもないところに花を咲かせたり、空の水盤を満たしたりすることができる。 さらには背丈も高く、いろいろな人の尊敬を集め、生活は質素だが実は大変な金持ちだという噂だ。それに加えてこの容姿。 たいして頭もよくなく、取り柄といえば体力があって陽気な性格をしていることくらいのジェンマにとって、魔法使いは雲の上の存在だ。 その月のように麗しい男の後ろ姿を眺めながら、ジェンマはひとつ溜め息をつく。 いいなぁ、あの長い服を引っぺがして、地面に押し倒して突っ込んだらどんな顔するんだろうなぁ。 きっと綺麗でやらしい顔になるんだろうな。 魔法使いは日頃家の中にひきこもっているという話だし、外へ出るときは必ず分厚い衣に全身を包んでいるから、服を剥いだら綺麗な白い肌が出てくるだろう。 これまでは水汲みも魔法使い本人がやっていたのなら、きっと体は引き締まっているはずだ。それとも、そういうことは魔法で済ましていたんだろうか。それならそれで、痩せて抱きしめたら折れそうな体をしているのかもしれない。 引き締まった体だといいなと思いながら、ジェンマは頭の中で魔法使いの衣を剥いでいく。 もちろん想像の魔法使いはジェンマの不埒な手を嫌がるが、そこは想像の中だから、ジェンマが無理を強いれば魔法使いは結局従うしかない。 長くて重そうなマントを脱がせ、地面に広げるとそこに仰向けにさせる。内側に着ているはずの長い衣をめくりあげれば、白々とした足が見える。 皮膚はつるつるしていればいいな。 きっと、手に吸いつくような肌で、最初は少し温度が低いのだ。 ジェンマの手がそこをなぞっていくと、彼の体温と触れた刺激で肌が温かくなり、とろりとやわらかくなっていく。 硬い革のように強張った皮膚が、上等のシルクのような滑らかさになった頃には、魔法使いは顔を真っ赤にして、潤んだ目でジェンマを見上げているに違いない。 吸いつくような肌を手のひらで堪能して、抱いてくれと目線で訴える魔法使いに応えて服の奥へと手を差し入れていく……。 そこまで考えたところで、ジェンマは視線を感じて顔をあげた。 いつのまにか、人々の中央にいた魔法使いが、じっとジェンマの顔を見つめている。 魔法使いを餌によからぬ妄想をしていたジェンマは、まさか自分が見られているのかと焦って、あたふたと左右を見回した。だが、他に魔法使いが目を止めるようなものはなにもない。 おそるおそる視線を戻すと、魔法使いの暗い色の瞳がじっとジェンマに注がれていた。 まさか、考えがバレた? 背中をつっと冷たい汗が伝った。 自分の想像の中では大胆だが、本当のジェンマはたいして度胸があるわけではない。そして、魔法使いの怒りを買って生き残れると思うほど楽天的にもできていなかった。 殺されるのかとジェンマが怯えると、魔法使いは不意に笑みを浮かべた。 「ジェンマ」 整った唇が彼の名を呼ぶ。 ジェンマは「はい!」とひっくり返った声で返事をすると、バネ仕掛けのおもちゃのように、びょんと立ち上がった。 魔法使いはそんな青年を静かに見つめ、足先から頭のてっぺんまで検分するように眺めやると、顎に手を当ててうなずいた。 「お前、女を知らないだろう」 疑問形ではない。 断定だ。 その口調に不本意なものを感じたが、相手は魔法使い、ここで下手に逆らったり嘘を言ったらなにをされるかわからない。 彼はしぶしぶうなずいた。 街の人々が見守る中で、自分は清らかな童貞だと示すことがどれほど恥ずかしいか。 明日からは同年輩の青年たちにこぞって童貞をバカにされるのだろうと思うと、ついつい顔が耳まで赤らむ。 ジェンマが叱られた子供のように拗ねた顔でうつむいていると、魔法使いは人垣をかき分け、彼の前まで進み出て来た。 「なるほど。いいだろう、ジェンマ。お前をわたしの弟子にしよう」 えっ、と驚いて顔をあげると、ごく近いところに魔法使いの整った顔があった。 ジェンマはさっきとは違う理由で顔を真っ赤にして、おろおろと視線をさまよわせる。 「えっ、でも俺……」 さっきの妄想がバレて殺されるんじゃなかったのかと、思わず口走りそうになった。 口にしていたらきっと死んでいただろうが、幸いにしてジェンマの舌はそれを言葉にする前に魔法使いの美貌に驚いて凍りついた。 「ジェンマ、お前はまだ若い。それに、毎日家族のために熱心に荷運びの仕事をしていることをわたしは知っている。勉学に関しては、そうだな。興味も薄く文字も読めないようだが、それはわたしがなんとでもしてやろう」 そっと肩に手を置かれ、ジェンマの心臓が跳ね上がる。 近くで見るとなおのこと魔法使いはうつくしい。 そのうつくしい魔法使いに、わたしの弟子にならないかと尋ねられて、うなずく以外の答えはジェンマには残っていなかった。 こうして、街の人々の予想を大きく裏切り、働き者だがたいしてぱっとしないジェンマが、うるわしく強い魔法使いの弟子になることが決まったのだった。
決まってしまえば後は早いもので、魔法使いはすぐにジェンマの家族に事情を告げて、彼を弟子として砂礫の山へ連れて行く。 砂礫の山は小高い丘ほどの高さで、名前の通り全体が砂礫でできていて草の類は一本も生えていない。地面は砂とごろごろした岩ばかりで、ぼんやり歩いていると大きな石を踏んで転びそうになる。 頂上にある魔法使いの家は、豪邸というわけでもなくふたりで住むには少し手狭なくらいの実に質素な建物だった。 扉を開けば真ん中にテーブルがあり、左に棚や壷があり、右に水場へ続く戸口が見える。 本当に魔法使いの家に来たんだな。 そんなことを思いながら、物珍しげに室内を見渡す。 部屋の隅に綱が張られて薬草とおぼしき草の束や、正体を聞きたくないなにかの干物が逆さ吊にされていた。 いたって普通の調度品の中に、奇妙なものが顔を出すところに魔法使いの家らしさを感じる。 入口で立ち止まるジェンマを置き去りに、魔法使いはさっさと家の奥へ入っていく。 奥でごそごそと物音がして、戻ってきたときにはその腕に大きな水瓶が抱えられていた。 「裏の川へ行って水を汲んで来い」 来て早々に仕事をさせられるらしい。 新しい住まいを眺める時間も与えられないのかと、この先の生活にちょっとした不安を抱きつつ、ここは素直にうなずいて水瓶を取る。 砂礫の山を街があるのとは逆の方向に降りて、階段の作られた崖下にある川までくる。水瓶の中から木をくりぬいた鉢を取り、腕まくりをしてざぶんと水にそれを入れると、少し深めの場所から水をすくいあげて水瓶に移す。 そういう作業をなんどもなんども繰り返すうちに、水瓶は水で満たされた。 こんなものだろうと満足して、水瓶の中に鉢を浮かせると底に手を入れて持ち上げる。 水で満ちた瓶はずっしり重かった。 それを抱えて、岩がごろごろした階段をのろのろと上がっていく。 途中で汗が噴き出してきて、山の頂上へたどり着くころには全身汗まみれだった。 開いている玄関を抜けて、こわばった腕に最後の力を込めると、魔法使いが指し示す場所に水瓶を置く。 「ご苦労。入口の扉を閉めなさい」 魔法使いはそれだけ言ってジェンマに背を向け、なにかの用意をはじめた。 言われたとおりに入口を閉め、壁に寄りかかりながらすらりと立つ魔法使いの背中を見つめる。 街から戻った魔法使いは、マントを脱いでだらだらと長い衣だけの姿になっていた。 マント越しのときと違って、体の輪郭がぼんやりわかる。 案外ほっそりとした肩幅と背中を眺めおろし、尻のところでついつい目を止める。 ジェンマの奔放な想像力は、濃紺の衣の向こうにある尻をがっしりつかんで腰を振っている自分の姿をすぐに浮かび上がらせた。 体の内側の敏感な部分を刺激され、魔法使いが顔を真っ赤にして喘ぐ。 つかんでいる肌が汗でぬめってきて、皮膚がぶつかる音も湿っぽいものに変わっていく。 助けを求めるように首で振り返る魔法使いの顔が、壮絶に色っぽい。 もちろん、ジェンマの頭の中だけのものだが。 額からこぼれる汗をぬぐいながら、これが水瓶運びのせいじゃなかったらと、虚しいことを考えた。 虚しいが、たくましい想像力はその程度では萎えなかった。 頭の中で魔法使いを素っ裸にしていろいろしていると、軽く勃起してしまい、居心地悪く壁際でもじもじする。 そのとき急に魔法使いが振り返って、ジェンマを見るとふっと笑った。 「ジェンマ、疲れただろう。これを飲め」 近づいてきた魔法使いにコップを差し出され、素直に受け取る。 中身はどす黒い血のような赤色をしたジュースで、甘酸っぱい果実の香りがした。 おそるおそる口をつけると、色に似あわず爽やかな甘みがある。 水瓶運びで疲れていたせいもあって、ジェンマはすぐにそれを飲み干した。 魔法使いはコップを受け取り、中身が空なのを確かめると側の棚に置く。 「さて、お前に確かめねばならないことがある」 魔法使いはそういうと、一歩ジェンマに近づいた。 互いの服の胸が触れそうなほど、その位置が近い。普通に会話するには近すぎる。 急な接近にジェンマの鼓動が跳ねる。 「ジェンマ、お前は本当に女を知らないな?」 「えっ、ええ、まあ」 恥ずかしいが、童貞なのは本当だ。 街でも認めさせられたし、いまさら魔法使い相手に取り繕う必要もない。 魔法使いは彼の答えに満足げにうなずくと、おもむろに下半身に視線を向けて、少し勃起したジェンマの股間に手で触れてきた。 「えっ、あっ、ちょっと、待って」 掌で握りこまれ、さらに揉まれて変な声が出る。 魔法使いはそんな動揺は見えない様子で、布の上から形を確かめるように手のひらを当てると、顎を撫でた。 「ふん、なかなか」 なにが、なかなかなのだろう。 ジェンマが真っ白になった頭の縁でそんなことを考えていると、魔法使いの手がズボンを止めている紐をほどいて、一息に布をずり下した。 とたんに股間が無防備になる。 申し訳程度の下着もさっさと取り外され、気づけばジェンマの大切な部位は、魔法使いの手の上で怯えたうさぎのようにふるふる震えていた。 「あの、魔法使いさま?」 どうしてそんなところをまじまじ見るんですかと、恐怖に似た思いを抱きつつ尋ねる。 わずかに身をかがめていた魔法使いは、ちらりと上目づかいにジェンマを見ると、意味ありげな笑みを浮かべた。 「わたしのことは先生と呼びなさい」 「あっ、はい」 「それと、これはお前の言葉が偽りでないかどうかの確認だ」 言葉というのは童貞のことだろうか。 「本当ですよ、なんで童貞だなんて嘘を言わなくちゃならないんですか」 逆ならまだしも、未経験ですと偽るような馬鹿はいない。 「魔法使いになるつもりなら、そうとも限らん。まあ、この様子を見ればお前の言葉は真実だろうが」 するりとその部分をなでられ、ジェンマはひゅっと息をのんだ。 無意識にごくりと喉が鳴る。 魔法使いはそれを意地悪い笑みで眺めてから、床に片膝を落とし、ジェンマの股間に顔を近づけると手にした物を口の中に呑み込んだ。 急に熱く湿ったものに包み込まれ、自分の手以外の経験のないジェンマは涙目になって腰をうごめかせる。 魔法使いは目を細め、性急に快感を求めるジェンマの動きを手で制すると、舌先であやすように先端を舐め上げ、片手で袋をやわやわともみあげた。 刺激が与えられるたびに、ひくついた喉から声がもれる。 「あまり喘ぐな、かわいくなってしまうじゃないか」 「やっ、だって。あっ」 なにしろこちらは未経験なのだ。 突然ほおばられて舐めつくされるなんて刺激が強すぎる。 きゅっと吸い上げられて、腰が動く。 舐められている場所はあたたかくて気持ちがよくて、心臓が下に移動したようにどくどく脈打っている。 出したくてたまらない。 魔法使いに対する怯えも忘れ、暗い黒髪に指を滑り込ませると本能に従って腰を前後させた。 もう出そうだと思いながら息を弾ませ、顎をあげると、ほぼ同時にずずっと吸い上げられて耐え切れず温かい口の中に放つ。 ジェンマは荒い息を吐いてすぐ後ろの壁に寄りかかった。 目の前がぼやけているなと思ったら、ぽろっと涙がこぼれる。 汗ごと涙を袖で拭って、大きく息をつく。 肌に浮かんだ汗が引いていくのと同時に、頭を覆っていた熱と興奮が引いていく。 代わりに襲ってきたのは、どうしようもない恐怖だ。 いま、俺はなにをやった!? 目の前には口元を拭いながら立ち上がる魔法使いの姿。 整った唇の端にわずかについたぬめる液体がなんなのかは、考えたくない。 暗い瞳に見据えられ、反射的に殺されると思った。 だが、実際は魔法使いが笑いながら顔を近づけてきて、気づくとキスをされていた。 舌先で閉じた唇を刺激され、びくびくしながら口を開くと、湿った舌が入り込んでくる。途端に生臭いにおいが口に満ち、思わず咳き込んだ。 「お前のものだよ」 くすくす笑ってそう言われ、逃げたくなる。 魔法使いはなおも笑いながらジェンマの顔をあげさせ、再び唇を合わせてくる。 今度はぎゅっと口を閉じたが、舌でくすぐるように口の周りを舐められると、むずがゆさに唇がわななく。それでもなんとか我慢して口を閉ざしていたら、片手で股間をまさぐられた。 さっき出したばかりで大人しくなっていた場所を握りこまれ、ひっと息がもれる。 その隙に魔法使いの舌が口の中に入り、ジェンマの中を思うさま舐めていく。 舌を絡められ、つけねや口蓋をなめまわされる。 最悪の味と未知の快楽に背筋がぞくぞくする。 どうしようもなく気持ちがよくて、いつしかジェンマは魔法使いの衣にすがって熱心にキスに応えていた。 下半身の熱も若いだけあってすぐに戻ってくる。 熱くなった部分は魔法使いの手の中でどくどくと脈打っている。 また舐めてくれないかなと、口の中を甘やかされながら思う 舌を甘噛みされて、ふっと鼻にかかった甘い息がもれた。 「いい声だ。まったく、思わぬ掘り出し物だな」 魔法使いは触れていた唇を離し、ちゅっと鼻先にキスをすると、満足げに笑った。 「ジェンマ、お前はかわいいよ」 褒め言葉とも思えないセリフだったが、ジェンマはなぜかその言葉にもぞくぞくして体を震わせる。 魔法使いがうつくしいのがいけない。 姿もうつくしければその声も低くて気持ちのいい響きで、聞いているだけで体がドロドロ欲望と熱でとろけていきそうだった。 魔法使いに見つめられると、膝に力が入らない。 服にすがることしかできず、わけもなくこぼれる涙に目の前がかすんだ。 魔法使いはジェンマにいくつもキスをくれながら体をまさぐる。 気づけば服はすべて取り除かれ、魔法使いの手がするりと降りてきた。細く繊細そうな指先が尻の肉の間を割り、奥へ触れてくる。 「ひっ、えっ?」 ぬめりを持った指に思いもしなかった場所を刺激されて、ジェンマはひっくり返った声をあげた。 その間も指は奥をなでたり強く押したりしてくる。そうしているうちに、つぷんと指先が奥の穴の中に沈んだ。閉じていた部分をわずかに開かれる感覚と、未知の恐怖にさっきとは違うおののきが体を走る。 「あの、せ、先生?」 呼びなれない呼称に半信半疑になりながら声をかけると、魔法使いが笑った。 「どうした、ジェンマ」 「なんか、変なところで変な感覚が」 「ああ、じきになれる」 あっさり返された魔法使いの言葉に、ジェンマは頬をひくつかせて絶句した。 じきになれる? それは慣れるまでいじくられると同義なのか。 嫌な予想に怯えるジェンマを意に介さず、魔法使いは指をうごめかせ、キスを繰り返した。内部をやわやわ揉まれながら、脇や胸元、背中の下部にも愛撫を施される。 肌を内と外から触られて、違和感と恐怖で満ちていた感覚に快楽が混じり込む。 思わず入っている指をきゅっと締め付けた。 勃起した股間は膝でなで上げられ、呼吸の乱れが酷くなる。 気持ちがいいのに、指の入っている尻だけがなんだか気持ち悪い。けれどその感覚も、他の快楽に混じり合うと、甘みの中の苦みのように、快楽を際立たせる効果しかなかった。 嫌なのに気持ちがよくて、前はまた硬くなっていて、満たされない感覚にもぞもぞと体が勝手に動く。 腰をすり寄せると、魔法使いの下腹部にも硬い感触があった。 こんなきれいな顔をしていてもやっぱりつくものついてるんだなと、場違いな感想を持ちつつジェンマは魔法使いをじっと見つめる。 もちろん、自分が真っ赤な顔で目に涙さえ浮かべていることには気づいていない。 無意識に誘うようなその表情に、一瞬だけ魔法使いの余裕の笑みが消えた。 「いいだろう、ジェンマ。お前はわたしの弟子だ」 低くかすれた声に、唐突にそう宣言され、ジェンマは返事もできずぼんやり瞬きをする。 魔法使いは涙のにじむまつ毛を舌で舐めとり、指を一本含んでいるジェンマの尻にもう一本指を沈めた。 ぐちゃぐちゃと広げるように指を動かし、奥へと押し入っていく。 「あっ、あぁ、先生。なにっ」 「弟子の務めだよ、ジェンマ」 囁きと共に指がうごめき、じきにまた一本増えた。 三本を出し入れされ、広げようとしたり内部を押されたりするたびに、ジェンマの口から高い声が上がる。 途中からは半ば嗚咽に似た響きになり、目からはひっきりなしに涙がこぼれた。 気持ちよさと吐き気のするような違和感に、頭がぐちゃぐちゃになる。指が入っているのは尻なのに、頭の中をかきまわされているような感じさえした。 「やだ、怖いっ、先生。怖いよ」 魔法使いに取りすがりぎゅっと抱き着く。 この感覚の原因も魔法使いなのだが、他にすがる当てもない。 ひくひく喉を震わせながら恐怖を訴えると、魔法使いの片手がなだめるように背中をなでた。 「安心しなさい。痛くはしない」 魔法使いはほくそ笑みながら、ジェンマの体を床に横たえる。 脚を開くよう促されると、体の熱と未知の感覚に怯えるジェンマは、羞恥心を自覚することもなくその指示に従った。指の入っていた尻に、またなにかぬるぬるとしたものを塗りこまれ、ジェンマが背をそらして高い声を上げる。 「気持ちがいいね、ジェンマ」 正直なところ、ジェンマはいま自分が気持ちがいいのか悪いのかよくわからなくなっていたが、耳に響いた声が“同意しろ”と言っていたので、こくこくうなずいた。 服を脱ぐ音が聞こえて、目を開くと魔法使いの顔が近づいてくる。 尻から指が抜けて別のもっと熱いものが押し入ってきた。 閉じるべき場所を広げられる違和感にまた涙がぼろぼろこぼれる。 それでも、興奮でびりびりするほど敏感になった肌に魔法使いの手や皮膚が触れると、違和感は強烈な快感の波間に消えた。 前をいじられ、キスをされ、大きく揺さぶられて、あらゆる感覚が一緒くたになる。 そうしながら、魔法使いは「気持ちがいいだろう」と聞いてくる。 まるで、これは気持ちのよいことだと教え込むようなその声に、震えてうなずく。 体も頭も熱いものにぐちゃぐちゃにされて、なにも考えられない。 ジェンマはうわごとのように「気持ちいい」と繰り返しながら、魔法使いの手の中に今日二回目の精を放った。
水で濡らした布で体を拭きながら、ジェンマは重い倦怠と自己嫌悪の真っただ中にいた。 自分で汲んできた水がさっそく役に立ったことへのよろこびはない。 いっそ忌々しさだけが胸にある。 「体は清められたか?」 庭から戻ってきた魔法使いの言葉に、思わず睨みつけるように顔を向ける。 まだ立ち上がることさえまともにできないジェンマと違い、魔法使いはきちんと服も着込み、いっそ清々しい顔さえしていた。 その清々しさの理由と自分の尻の違和感のことを考えると、忌々しくて仕方がない。 「拭きました」 嫌々返事をして布を置くと、魔法使いが側まで来て裸のままのジェンマの体を舐めるように見た。 「中は?」 「は?」 なにを言われたのかわからず間抜けな声が出る。 魔法使いは丁寧に「中はどうした」と繰り返した。 「中って……」 「尻の中だ。そのまま出したから、始末をしてやらないと不都合だろう」 尻とはっきり言われて逃げ場がなくなる。 ジェンマが言葉を失っていると、魔法使いは小さく溜め息をついて床に置かれた布を取り上げた。 「まあ、はじめてでもあるし、わたしが始末をしてやろう」 ほらおいでと手を差し伸べられるが、さっき起こったことを考えると、近づくのが怖い。 「怯えるな、今日はもうしない」 強引に魔法使いに腕を引っ張られ、四つんばいの姿勢にされた。 混乱していない状態では恐ろしく恥ずかしい体勢に、全身が真っ赤になる。 持ち上げた尻に指を感じて、ジェンマは心の中で悲鳴をあげながら、魔法使いの手で後始末をされたのだった。
後始末の最中に興が乗ったというだけの理由でもう一度犯されたジェンマは、身を起こす気力もなく床にべったり横たわっていた。 同じ部屋のテーブルでは、魔法使いが頬杖をついてジェンマの姿を見ている。 「お前は、わたしをよこしまな目で見ていたから、てっきり女との経験はなくても男とはあるものだと思ったが」 処女か、というつぶやきにかすかな殺意が湧く。 どうせジェンマの相手など、妄想の中にしかいなかった。その妄想の中でさえ、自分が誰かを抱くことはあっても、抱かれたことは一度もない。 あらゆる意味で、ジェンマにとって魔法使いははじめての相手だった。 まったくうれしくもないはじめてばかりだが。 「思わず、いいものを拾った。楽しめそうだな、ジェンマ」 楽しめるわけあるか! ジェンマは口には出せないまま内心で叫ぶ。 満足げに笑う魔法使いの表情が、この上なく嫌なものに見えた。
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