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 (素直な堅物×性的に素直な俺様/18禁)
『ソウボウキン』


回ってしまうと何てことはない、受身の立場は楽だった。
ルキノは男に慣れていた。痛みのない挿入は心地良い。
心地良いがむなしい。目的がない。
「キケロはやめておけ・・・」
行為を終えた枕元。向こうを睨むルキノの声。
「別に狙ってねーよ」
「狙うとか、狙わない、という問題じゃない」
「・・・意味わかんね」
ルキノの、太い背骨の周りには筋肉が詰まっている。
それを指で押す。堅い。
「くすぐるな」
「感覚あんの?」
「過敏だ」
「・・・」
穏やかな悪戯心に、口端が上がる。
そっと唇をつけ吸ってみた。反応なし。
「元気だな」
「あ?」
子ども相手かのような、呆れ半分の声。
に、急激に愛しさが萎んで腹が立つ。
テッドの部屋は、テッドとルキノを収納すると即、
むさくるしさで暗くなる。
留守がちな両親は、この部屋が何度、
性交の場として使われたか知らない。
開けてある窓の向こうは雨雲で白く、
もしかしたらパラパラと降っているかもしれない。
「おまえは積極的だ」
「快楽に弱ぇのはマグランの血だからさ、」
「・・・」
「許せよ」
「、・・・マグラン、」
「やか?」
「・・・」
こちらが不愉快になるだろう答えを、
ルキノは吐きたかったのだろう。
そういう時ルキノは黙る。
黙るルキノは大人らしくて好きだった。
ポートも素になると、良く黙る男だった。
そこに、大人っぽさを感じていた。
否定的な事を、言わざるを得ない時、
そっと黙って後味に残す。
「おまえのだんまり、嫌いじゃねーな、・・・優しいよな」
「随分好意的に解釈するな」
「おまえのこと結構好きだし」
「・・・・・・・・・・・・、アンガスは・・・」
「ん?」
「・・・、いや、・・・いい、・・・」
「昔の奴の話ぐらいでキレねーよ、
 どんだけ俺をガキ扱いすりゃ気が済むんだ?」
「・・・アンガスは、よく、言いたいことがあるなら、
 はっきり言えと苛ついていた、」
「は、あいつらしい」
ルキノは口下手で、アンガスは口上手。
正反対の男二人が、よく結ばれていたと思う。
ルキノは口を開けばアンガスか、
良くわからない宗教の教えを説く。
退屈な男だったが、雰囲気は悪くない。
話をほとんど流していても、
空間が共有できれば満足する。
まだポートを求めている心の穴に、
煙のように充満してくれる。
ルキノの存在は痛みを和らげる。
「なぁ、ちょっと動けよ」
「何がしたいんだ?」
「おまえの背中の筋肉がセクシー、見とれたい」
「・・・」
大人しく、身じろいでくれたルキノの背に触る。
武に秀でた男の背。
羨望に混じり、性的な衝動が胸を打つ。
キケロやゴドーの背も、こうなっているのだろうか。
ゴドーの背は体育の、着替えの時にでも見てやろう。
キケロの背は、・・・と想像して顔が沸騰したことに気づく。
異様に高鳴った心臓と、キケロで興奮した己を責める心。
-キケロはやめておけ・・・。
数分前の、ルキノの台詞が頭に響く。
ポートへの強い執着と欲望とは別、
夢を見るような、美しい匂いのする誘惑。
何も考えられない、ただ想像するだけでも背徳を感じる。
「俺、は、キケロさんに恋でもしちゃってんのか?」
まるで少女のような、感覚に恐怖を覚えた。
ルキノが否定してくれれば、安心できるだろう。
口にして後悔した。
「・・・」
ルキノは良い意味でも悪い意味でも、
正直な男だった。それを褒めたばかりだった。
向き直ったルキノの目は冷たく焦っていた。
「後ろを向け」
「・・・なんでだよ、」
「いいから向け顔を見せるな、苦しい」
「っ、」
半ば強制、向こうを向かされ、
使ったばかりの穴の表面を擦られる。
「・・ン、」
すぐに指が中へ。
「・・・っぅ、ぁ、」
ゆるゆると奥へ。
「・・・っはぁ、・・・っぁ」
ルキノの求めは急だったが、
行為は心地良いし、嫌なことを忘れられる。
拒否する理由がない。
「おまえなんか行きずりだ、・・・手を組むついでに抱いている」
「あ?!」
呟きに反応してみたが、体内の指が止まらない。
意識がそちらに連れて行かれる。
「精神は伴わない、肉体があればいい、そういう相手だ」
「・・・は、ぁ、アっ・・・」
指が抜けすぐに、ぬる、と良く知った形の一物が、
侵入して来て目を瞑る。
「っぁ、・・・アァ、・・・ぁ、はぁ、」
「俺ばかり背を向けられる、俺の何がつまらない?」
「つ、・・・はぁ、・・・なん、・・・んぁ、」
中を摩られる感触に夢中になり、頭が働かない。
「ぁぁ、・・・ん、・・・うごっ、もっ・・・奥、・・・ァッ」
「俺を好きだと言え」
「すぃ・・・ルっ・・・ぁ、すき、だか、おまえのもっと太いトコ、
 まで、中つっこん、・・・、で、っぁ、太いトコで、はぁ、もっと、
 ・・・さすって・・・っ」
「商売ができるぞテッド、っ・・・、意識はあるか?
 マグランの血は、淫乱の血なのか?
 ・・・っ、似合いだな!本家の嫡男が淫売する一族だ、
 下品で卑しいマグランの、
 その血の何が誇らしいんだ?」
「・・・」
罵られた覚えに、少し冷静になるが、
すぐに中が動く。
「っや、・・・だめ、・・・頭白っ、・・・なっから待っ、」
細かい、振動が与えられ唾液がたまって行く。
「はン・・・ぅ、はぁ、・・・ぅあ、はぁ、・・・っぁ、あ、ア」
トントントントンと肉がぶつかっては、
広がった穴に、擦れる感触。
ルキノの息の音が聞こえ、己の息の音に混じり、目が回る。
抜けては刺さって来る、ルキノの一物が生む、
体内をとかすような快楽に幸福感。
「すき、・・・これ、おまえとの、いい、・・・ほんと、イ、
 あっ・・・い・・・っはぁ、・・・すき」
熱い頭と、息と目頭が、しばらく時間を止めていた。
気づいた時には体内に、ルキノの感触はなく、
先ほどまで高温で、強い存在感を示していた下肢が、
物足りなく冷めており、意識がはっきりとして来る。
「・・・ん?!」
マグランは下品でいやしい。その血の何が誇りか。
流してしまった暴言が胸に刺さり、緩んでいた顔が険しくなる。
「おい、さっき、」
言い掛けて部屋の、物悲しい空気に呑まれる。
ルキノは去っていた。どれ程呆けていたのか。
ルキノの退室にも気づかなかったとは。
ベッドの上は涎と、精液と汗でグショグショな上、
身体には疲れ。水気で冷たい身体の下からは異臭がする。
色々な面倒を置いて、帰ったルキノに憤りを感じ、
何も考えずに携帯を手に取って、電話をかけ、また思い出す。
俺のことを好きと言え。そんなことを言っていた。
ルキノの心中に合点が行く。わかりやすい男。
アンガスはポートに夢中。テッドはキケロに恋してる。
それは気に食わないだろう。怒って帰りもする。
『悪かった』
電話の第一声が、謝罪で思わず微笑んだ。
『何が?』
『・・・、心にもない、暴言を、・・・それと、片付けを任せた』
『任されるつもりはねーよ、戻って来い、
 暴言は、心になかったっていうなら信じる、
 で、気にしねーことにした、
 あとキケロさんのことは、憧れだし、仮に、
 恋でも発展はしねーから、
 雲の上の存在すぎて、近づけねー、
 おっかけとかしてる女にひっかかったみたいな、
 そんな気持ちで向き合ってくれる気ねーかな、
 もし二択、おまえとキケロさんどっち選ぶ、
 とかになったら、おまえ選ぶから、
 だからも少し傍にいてくれよ、
 俺の時間全部、できる限り、おまえで消費したい、
 今、そーゆー心境、おまえのこと好きだ』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、
 ・・・同じ言葉を、贈りたい』
鼻声。何で泣いてんだ。どーした。
『泣くな』
嗜めるとグスッ、と音を立て、『ああ』と涙交じり、
返事が来て笑う。こんな素直な人間は初めてだ。
男も女も、普通はもっと捻くれて、
体面を取り繕うものじゃないか。
テッドが相手をして来た者達の中、明らかに異色。
寂しいからと呼ぶ癖、寂しさを隠すキイチ。
独占欲の暴走を恐れ、別れを受け入れたポート。
ポートの好意を貪欲に求め、
執着されたくて突き放した。
ポートが混乱し、苦しんでいたことに気づかなかった。
キケロを想うテッドの、遠巻きな心と同じよう、
強すぎる気持ちは離れていないと辛いこと。
ポートが焦がれる痛みに、負けたことを責められない。
平常で居たい。生ぬるい幸福の、心地よさに浸りたい。
『テッド、聞いてるか?・・・どうした?テッド?』
自分に、キケロに立ち向かう気がさらさらないこと。
ルキノの安心感を、何より大事に思っていること。
自覚して、初めて、ポートの葛藤が骨身に沁みた。
『ポーラと俺が、似たもの同士ってことがわかった』
『・・・?・・・愛してると言ったんだが』
『え、まじで?!・・・悪い、もっかい頼む』
『・・・、聞いていろ、馬鹿者、・・・もう二度と言わん』
『いや、言えよ、せっかくだから聞きてーよ、
 俺も言うから・・・!』
『・・・』
プツ、と音がして、回線が切れる。
数分後、不機嫌なルキノが戻って来た。



作者のホームページへ「その他の人物が出張っててすみません。」
...2011/2/7(月) [No.546]
むー
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