(お題:くたびれてるのを見破って無理やり労うっていう嫌がらせ)
養子縁組して片瀬と一緒に暮らし始めたが、男二人で暮らすっていうのは生活がすれ違う事がけっこう多い。 俺は一応お役所勤めだから定時ぴったりだけど、片瀬は頻繁に残業で帰りが遅くなる。そういう日の片瀬は大抵外で食事を済ませてくるし、俺は一足先に夕食も風呂も一人で終わらせて、ベッドでごろごろしていた。しばらくそうやって雑誌を読んでいると、バタンと玄関のドアが鳴る。どうやら片瀬が帰ってきたようだ。時計を見ると10時過ぎ。こりゃ荷物置いて風呂入ったら即効寝るパターンだな。 どうせ最初に寝室に来るだろうからとベッドの上で待ってると、案の定部屋の扉が開いて片瀬が入ってきた。今週はどうやら忙しかったみたいで、顔色が悪い。起き上がって声をかけようとしたら、片瀬はいきなり俺の口を塞いでベッドに押し倒してきた。 「んっ」 今更慌ても驚きもしないが、「お帰り」くらい言わせてほしい。キスを受けながらそんなことを考える。 金曜日の夜は片瀬が一番張り切る時間だ。次の日が休みだからとことん俺とセックスできる、なんて高校生みたいな発想。そりゃ俺だって片瀬が好きだし、嫌なわけがない。 いやじゃないけど。 「ん……おまえさぁ、疲れてんなら寝たほうがいいぞ?」 今の片瀬を見ると、ちょっとそんな気分にはなれなかった。片瀬を静止させると、俺の服を脱がそうとしていたその目とかち合う。 俺を見おろす片瀬の眼は連日の残業疲れで充血してて、クマもできている。これでセックスって、絶対あしたが辛いだろ。いくら休日でも、セックス疲れで一日部屋に缶詰なんて俺は嫌だ。 俺が言うと、片瀬が不機嫌そうに首を振る。 「いやだ。したい。今週は平日に光也と一回もしてない」 「社会人なら普通だろが。ガキじゃあるまいし」 俺が労わってんのに、それを無視して片瀬はまた俺の服を脱がし始める。腹をめくられると、外気でひやりとした。外から帰ってきたはずの片瀬の手は俺より熱くて、その熱が気持ちいい。 「っ」 腰骨あたりを上へ下へと何度も怪しく撫でられると、スイッチが入ったみたいに吐息までもが甘くなっていく。性急なキスは片瀬らしくなくて、俺を求めて切羽詰ってるのだとわかるから、ついつい応えたくなる。 「ん、ん」 日々の愛撫に慣らされた俺の身体は、片瀬に触られるだけですぐに期待でわななく。体の奥が、じわじわと熱くなってきた。押し返そうとはしてみるが、漏れる声が甘いんだから説得力がない。 やばい。これ以上されるとマジで流される。 「ちょ、ほんと、やめ……ん、ぁっ」 片瀬が、俺の乳首を爪で掠めるように引っかいた。ピクッとわずかに肩が跳ねて、漏れる嬌声に顔が熱くなる。くそ、俺が喋るタイミング見計らってやがった、こいつ。 恨みがましく睨みあげると、片瀬はにやにやと意地の悪い笑みを浮かべていた。 「乳首、気持ちいい?」 片瀬はそういう間も俺のそこをいじり続けるから、俺は息が上がってしかたない。 「んっ……どこ、感じるかなんて、全部っ、ぁ、知ってるだろっ」 こんな体にしたの、お前じゃねぇか。と悪態をつきつつ応えれば、片瀬は俺の返答に満足したらしい。いつものだらしない笑顔になり「駄目、光也かわいすぎる。我慢できない」なんて寝ぼけたことを言いながら唇を重ねてくる。
片瀬の言う「かわいい」は「好き」と同義だって俺は十二分に知ってる。知ってるからこそ、
ちくしょう。拒めるわけがない。
……と、そんなわけで結局1ラウンドやってしまったんだが、片瀬はそれで限界だったみたいだ。いつもの週末なら少なくとも3回は盛ってくるのに、いまの片瀬のムスコはすっかりふにゃチン。片瀬本人はもっとしたいみたいだし、俺もまだまだイける。けど、片瀬のムスコに勃つ気配はない。 疲れたときはセックスしたくなるってのが定説だが、それを通り越してよっぽど疲れてるらしい。 男の身体ってめんどくせぇよな。どんなに心でシたいって思っても、勃たなきゃできねぇんだから。わかるよ、俺も男だし。だからもういいと言ってんのに片瀬は往生際が悪い。 「嫌だ。もっとしたい。せっかく金曜なのに」 「って言っても、それじゃ無理だろ」 「ちょっとしたらすぐ回復する」 「それより寝たほうがいいって」 「でも」 ああ、埒が明かない。正直なところ俺だってもっとしたいさ。とろっとろになるくらいのセックスに慣れてるから、一回じゃまだムラムラする。かといってふにゃチンの片瀬にフェラだのテコキだのされてもそれじゃオナニーと変わらないから嫌だ。気持ちよくなるなら俺だって二人一緒がいい。 でも、片瀬に無理させたくない。俺は休日は二人で満喫したいクチだから、次の日に疲れを持ち込むのは嫌だ。それくらいなら我慢して寝る。それなのにこいつは……。
片瀬の聞き分けのなさにほとほと呆れた俺は、片瀬を押し倒した。付き合いたてのころは片瀬がウジウジしてまったく襲ってこないから、よくこうしてたな。最近はもっぱら押し倒される事が多いけど。
さてここからどうしたもんかと考えていたら、ふっと名案が思い浮かんだ。うん、これでいこう。
「なぁ片瀬。お前疲れてんだろ?」 見おろしながら俺は笑う。 片瀬は状況が把握できないみたいで、ぽかんとしてる。 「そんなにセックスしてぇなら、仕方ないから協力してやる」 「みつ、や?」 「お前は寝てていいぞ」 突然の俺の言葉にとまどう片瀬。やばい、楽しくなってきた。 俺はすうっと息を吸い、片瀬の耳元に口を寄せた。そして低くささやく。
「俺がお前を抱いてやるから……な?」
片瀬は一瞬石みたいに固まり、俺の言葉を理解して真っ白になった。俺はそんな片瀬から飛びのいて、「嘘だ、ばぁか。懲りたら早く寝ろ」と笑い一足先に布団にもぐりこむ。多少ムラムラしてたが、企てがばっちり成功して機嫌の良くなった俺はすぐに夢の中。
だから、後ろで片瀬が朝まで悩んでたなんて、俺は知らなかった。
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