「んっ、んっ……!」 俺は変態だ。 自慰中に友人から借りた、グラビア雑誌の中の、魅力的な女の人の裸に欲情するではなく、いつも思い浮かべるのは俺の従兄弟だった。 志藤紫――俺の従兄弟であり、2年後の大学受験を控えている俺の勉強の面倒を見てくれる、家庭教師だ。 従兄弟で抜くなんて申し訳ないな、という気持ちは最初のうちだけで、今では毎晩のように、従兄弟の綺麗な顔を思い浮かべて自慰に耽る日々だ。 だって、好きなのだ。しょうがないだろう? 俺の先走りの液と、ローションに濡れた中心を、がっしゅがっしゅと上下していると、いつもの射精感がやってくる。 「んんっ!!」 横になっていたベッドの上で、足のつま先までピーンと伸ばす。 熱いほとばしりが、びゅるるっと先端部から勢いよく吐き出され、俺の手のひらにおさまった。 排泄の達成感に、全身をぶるっと震わせる。 身体をだらりとさせ、大きなため息をひとつ吐く。 自分の白濁で汚れた手のひらを見つめ、青臭いどろりとした液を、舌先ですくう。 「……まず」 まずかったけれども、これは俺の恋心から生まれた産物だ。俺は手のひらの白濁を、丁寧に舐め取った。 俺はまぎれもなく、変態だ。 こんな不毛な恋から足を洗うべく、友人から女の子を紹介してもらった。 彼女は可愛くて、女の子慣れしていなかった俺は、すぐに夢中になった。 今夜は両親が外出をしていて、帰宅が遅くなるというので、俺は前々から決めていたことを実行した。 彼女を家に呼ぶ――。 思春期真っ盛りの16歳の少年にとっては、一大イベントだ。出来たばかりの彼女との関係が、一歩でも先に進むといいな、なんて気持ちもある。 けれども、問題がひとつ。 今日は従兄弟の家庭教師の日だったのだ。
「ただいまー」と玄関に入ると、綺麗に磨き上げられたローファーが、玄関のタタキにきちんと揃えてあった。瞬間、俺は眉をひそめる。足元にまで気を遣う、従兄弟の靴だった。 母親が、従兄弟にも家の合鍵を持たせていたので、家族の留守中でも、容易に家に入ることが出来るのだ。 「ちょっと、紫くん! 今日の家庭教師は、お休みにしてって、俺、メールしたよね!?」 どたばたと廊下を走って、リビングに入ると、従兄弟がいた。まるで我が家にでもいるような、くつろいだ雰囲気でソファに腰を下ろし、雑誌を読んでいた青年が俺を見上げる。 「よお、楓。お帰り。メール……?」 今日も麗しい従兄弟に、俺はうっかり見惚れた。 カバンの中に入れてあった携帯電話を、従兄弟はおもむろに取り出すと「あれ? 本当だ」などと、のんびりした口調で言った。 俺は、紫くんの前に立つと、どんどんどん、と床を踏み鳴らした。 「んもう! いったい何のための携帯なんだよ!! いいから、さっさと帰ってよ!!」 「さっさと帰れ……だなんて、冷たいなぁ。コーヒーの一杯くらい、飲ませてくれたっていいだろう?」 俺はうっ、と呻いて、後ずさった。 紫くんは、赤ん坊の頃から、散々世話になってきた、兄のような人間だ。 コーヒーの一杯くらい、飲む時間を与えてたっていいかな……と思い、ローテーブルに置かれたカップを見やる。並々と注いであった、濃い褐色の液体が、湯気を立てていた。 (来たばっかりだったのか……) 俺はがっくりと肩を落とすと、壁にかかった丸い時計を見上げた。 彼女との約束の時間は18時半。1時間もあれば、のんびり屋の従兄弟でも、さすがにコーヒーくらいは飲み終わるだろう。 「それ飲んだらさっさと帰ってね!」 俺は二階にある自室に駆け上がると、急いで着替えをすませ、雑誌や衣類で散らかった部屋を、片付ける。 開け放っていた部屋の扉が、軽くノックされた。 「何か用?」 紫くんが廊下に立っていた。 「……何かドタバタうるさいな。お客さん?」 「そうだよ!!」 「ふぅん」 含みのある視線を向けられ、俺はたじろいだ。 「な、何だよ?」 「――彼女?」 驚いた俺が、身体を跳ねさせると、紫くんが薄く笑った。 「週3日の俺との勉強よりも、彼女の方が大事ってか?」 俺は、紫くんから視線をそらした。 ただでさえ成績がよくないのに、勉強そっちのけで、彼女の方を優先するんだから、貴重な時間を割いて、俺の家庭教師をしてくれる、従兄弟には申し訳ないと思った。 でもさ……。 「だ、だって、父さんたちが家にいないなんて、めったにないし……」 「そうだよな。学生は金がないから、自然、自宅でのセックスが多くなる」 紫くんのあからさまな言葉に、俺の頬が瞬時に熱くなった。 「そっ、そんなせ、セックスだなんて……。今日は両親がいないって言ったら、夕飯を作ってくれるって、彼女が……。それに、彼女とは付き合い始めたばっかりで、きっ、キスだってまだだし!!」 「へぇ~、それはよかった」 くすくすと小馬鹿にされたように笑われ、俺は紫くんを睨んだ。 同じ血が、身体の中を流れているはずなのに、従兄弟の顔の作りと、俺のとでは明らかに差があった。 老若男女関係なく、紫くんは昔からモテた。 付き合っている女の子だって、俺が記憶する限り、服を着替えるように毎回変わっている。本気で好きな人はいないの? と訊ねたことがあったけれども、穏やかな笑顔で誤魔化された。 それからだ。従兄弟が自分の交友関係を、俺に隠すようになったのは……。 胸がずきりと痛む。 「……もう、いいから!! 紫くんは早く帰ってよ!!」 紫くんを部屋から追い出そうと手を伸ばすと、意外にも強い力で腕を取られた。 「なっ、何?」 痛みに顔を歪ませ、頭ひとつ背の高い従兄弟を、俺は見上げた。 「おばさんたちの帰りが遅くなると聞いて、チャンスだと思ったんだよね」 何のチャンス……? と訊ねる前に唇を塞がれ、俺は目を白黒させた。 「んむぅっ!?」 それがキスだと理解するのに、ゆうに数秒はかかった。 はっと我に返った俺は、紫くんを突き飛ばす。 「なっ、何するんだよっ!?」 「キス、だけど?」 遊び慣れた従兄弟にとっては、たかがキスなんだろう。けれども俺は、紫くんが大好きだったから、キスをされたら嬉しい。 今だって、どんな顔をしていいのか、わからないでいる。 「な、何で、こんなことするんだよ?」 俺は紫くんにキスされた唇を、ごしごしと乱暴に拭った。 「うっ……」 俺の目から涙が落っこちた。 「――楓?」 「触んないでよっ!!」 伸ばされた手を振り払うと、俺はその場にしゃがみこんだ。 「……そんなに嫌がられるなんて、思ってもみなかったな」 ――まさか、嫌じゃなかったから、だなんて、紫くんは思わないだろう。 しゃがみこんだまま涙を零していると、紫くんが、俺の腕をいきなり引っ張った。そして、脱いだばかりの制服が、そのままになっているベッドに押し倒される。 パイプベッドが軋む音を、遠くで聞いた。 「どうせ泣かれるんなら、気を遣うこともないよな」 俺は従兄弟の顔を、見知らぬ他人を見るように見上げた。
紫くんが、ジーンズ越しに俺の中心を揉みしだいた。 すぐにじんわりと、下着の前が濡れるのを感じた。 「ひゃっ! 紫くん、だめぇっ! 出ちゃう!」 ジーンズと下着が、足元まで引き下ろされた。紫くんのひんやりした指が、俺の屹立にじかに触れた。 「ひゃうっ!? やっ、ゆかりくん……っ。や、やめてぇっ……!」 「ぐっしょりだな。これなら、ローションはいらないか」 根元から中身が搾りとられるように、上下にきつく扱かれた。 「んっ、んっ、もっ、やめてよぉ……っ」 俺の懇願は聞き入れてもらえず、紫くんはひどく敏感になっている先端部を、指の腹でにゅるにゅると刺激し始めた。 「ふァあああッ! やあっ、そこっ!!」 「――ああ。すごく、いいんだ?」 先端部の窪みを指先でぐりぐりとえぐられ、俺は背中をのけぞらした。 いつも紫くんに触られることを想像しながら、自慰をしてきたけれども、リアルの紫くんの手つきは想像以上だった。 「アッ―――――」 俺は声をあげると、あえなく達してしまった。 ひくひくと、細かく痙攣している足を、大きく開かされる。 「やっ、やだぁあっ!!」 紫くんの繊細な指が、俺の双丘を割って、奥深くに隠れていた後孔を指で弄り始める。俺はぞっとして、身体を震わせた。 「や、やぁ……ゆかりくん、やめ……」 男同士の繋がり方は、知識として知っていた。 (何で? 何で、紫くん、いきなりこんなこと……!?) 俺はわけがわからなかった。 「ああっ、イタッ!! 紫くん、もう、やだってばぁあああ!!」 想像を絶する痛みに、俺はぼろぼろと涙を零す。 紫くんも俺の後孔を拡げることに、無理を感じたのか動きを止めた。 はあはあ、と息を継ぎながら、俺の上に乗っっかっている紫くんを見守る。紫くんがベッドの下から、俺が毎回自慰に使っているローションを手に取った。 「順調に減っているな」 俺の頬が、かああっと熱くなった。 「減ってちゃ、ダメなの!? ていうか、人の物、勝手にチェックしないでよ!!」 「相手が気になるからな」 「あ、相手なんて……っ」 俺は言葉に詰まって、紫くんから顔を背ける。 「まあ、別に、今となっては、それが誰でも俺は構わないけど」 「っ!?」 逆上がりの途中みたいに、俺の身体を紫くんが折り返した。 萎えた俺の中心が目の前にきて、顔にくっつきそうになったので、ぎゅっと瞳を閉じる。体操選手じゃないんだから、この体勢には無理があるよ!! 「くっ、くるしいっ! 紫くん!!」 バンバンと手のひらでベッドを叩くと、 「少し我慢しろ」無情な言葉と共に、後孔に冷たいローションが垂らされた。 「んっ、ぅ、くっ……」 くちゅ、くちゅっと、再び紫くんの指に窄まりを犯される。 ローションで滑りがよくなったのか、俺の中の奥深くまで、紫くんの長い指が入って来る。 紫くんの指が、俺の中を探るように動き、敏感な部分をかすめられると、俺の喉から悲鳴のような声があがった。 「あっ…ン、ゆかり、く……ん……」 顔にぱたりと何かが落ちた。 うっすらと瞳を開けると、俺の中心がすっかり勃ち上がっていて、ぱたぱたと雫を垂らしていた。 どうしようかと思っていたら、足を下ろされた。俺の屹立を見て、紫くんがゆるく微笑んだ。 「……ふぅん。俺に尻孔を弄られて、そんなによかったんだ」 かあっと頬が熱くなったけれども、俺は正直に頷いた。 最初は気持ち悪かったけれど、大好きな紫くんの指だったから、きっと感じることが出来たんだ。 「そうか」 紫くんはうっとりしそうな表情で微笑むと、俺の顔に付いた液を、熱い舌で丁寧に舐め取った。こそばゆくて身を捩ると、硬い物が俺のお腹に当たった。 「あっ、紫くんの……?」 「ああ、俺も勃った」 「っ!」 いつのまにか、ジーンズの前をくつろげていた紫くんが、硬くなった中心を俺の中心に擦り合わせる。 「ふぁあああっ!!?」 目が眩むような心地よい感覚に、俺は声を上げる。 「今度は、これで気持ちよくなろうな?」 「っ!?」 俺は驚いた。 俺の両足を脇に抱え上げた紫くんが、俺の窄まりに硬い切っ先をあてがった。 「ンンンっ!!!」 俺は歯を食いしばる。 指とは比べ物にならない、熱くて太い物が、俺の中にゆっくりと挿入ってきた。 (紫くんの……っ!!) ぶわっと涙が溢れた。 一生の間に、紫くんと本当に繋がれる日が来るなんて、思ってもみなかった。 「――楓?」 心配そうな表情で、紫くんが俺を見下ろしている。 「……好き」 一生伝えられないだろうと思っていた愛の言葉が、驚くほどすんなりと口に出ていた。 「え」 紫くんの目が丸くなった。 俺は目一杯腕を伸ばして、紫くんに抱きついた。近くなった耳元に、はっきりと伝える。 「好きだったんだよ。紫くん。ずっと……」 「……本当か?」 紫くんの声が、少し疑わしそうに聞こえた。 こんなことで、ウソついてどうするのさ! 俺は紫くんの身体に巻きつけた腕を少し緩め、紫くんの綺麗な顔に唇を寄せた。 そしたらすぐに応えてくれて、俺は嬉しくてクラクラした。
「ん、っ、ァあッ! ひあッ……っ!」 紫くんに揺さぶられ、俺はあられもない声をあげる。 紫くん紫くん……。何べん紫くんの名前を呼んだかわからない。時々、汗ばんだ顔や頭にキスを受けて、ああ、死にそう、と思った。 何度も出し入れされ、俺の中が紫くんの大きさにも馴染んでくると、痛みよりも気持ちのよさが勝ってくる。紫くんの腰のリズムに合わせるように、俺は腰を揺らした。 「ひっ、アッ! あ、あ、ゆかり……っ!!」 「んっ……かえでっ」 限界まで足を開かされ、更に奥まで紫くんが入って来た。 「ア―――ッ!!」
――ピンポーン……
いきなり現実に引き戻された。 サアアッと、熱が冷めるのを感じた。 「……あ」 (どうしよう……?) 俺は紫くんを見上げる。 「続けるぞ」 紫くんは構わずに腰を振るう。 「やっ、ぁっ、あっ、まっ待って。彼女に……っ!!」 「お前が好きなのは、俺だろう?」 「好き、だけど……っうあっ!?」 ぐちっと奥まで突き立てられ、言葉を失う。 「……俺だって、楓が好き、だったんだよ。ずっと。それこそ、小さな頃から」 「――っ!?」 「たくさんの女の子と付き合って、気持ちを誤魔化しても駄目だった。だから、今やっと手に入ったお前を、誰にも渡したくはない……っ」 玄関のチャイムが、はるか遠くの方で鳴っていた。
パイプベッドが揺すられて、ギシギシと悲鳴を上げる。 俺もまた、紫くんに揺さぶられ、悲鳴じみた声を上げる。 「アアッ! あっ、っ、アあアァーっ!! ひぃああっ、ゆかりくん――ッ!!!!」 もう何度、吐精したのか覚えていない。紫くんが何度、俺の中に出したのかも覚えていない。 互いの体液で、シーツはぐちゃぐちゃになっていた。脱いだ制服も、俺の汗ばんだ背中の下で、ぐちゃぐちゃになっていた。 替えの制服なんて、夏服しか持っていない俺は、明日の学校は休むしかなさそうだ。 彼女を傷付けたのは俺だけれども、制服は確実に紫くんのせいだ。 俺は、中で再び熱を持った紫くんの背中を、爪で思いっきり引っ掻いてやった。
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