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 (大学生×父親の愛人(障害持ち)かなり痛め/18禁)
歪な夜


 急死した俺の父が、死ぬまで家族に黙って囲っていた男妾を、彼の住処である駅前のアパートごと譲り受けたのは、父の死から半年後の三月のことだった。

 大学に合格し、実家を出るに当たって、通学に手ごろな場所にあったのが、父の遺産の中に名を連ねていたそのアパートだったというだけで、俺と彼との邂逅はまったくの偶然だ。

 彼は日当たりの悪い小さな部屋で、もうずいぶん長いこと、慎ましやかに暮らしていた。
 黒髪、白い肌、痩せた体、上品な顔立ち。彼は父がよろめいた理由もわかる気がするような、儚げな容姿を持った男だった。


 父の死を知らず、真実を告げる俺の言葉に、混乱して青ざめる彼を、出会ったその日の夜に、引きずり倒して犯した。
 初めは自分たち家族を裏切った父への意趣返しのつもりだったが、俺に組敷かれて泣き喘ぐ、十も年上の男の体が思いのほかよく、俺は家族に彼の存在を告げずに、自分専用の奴隷として囲うことにした。
 彼は二十九歳。口がきけず、まともに働いたことがないらしい男妾は、俺に逆らう術も意思も持たず、俺の理不尽な宣言にうなだれた。裂けたシャツの襟からのぞく項が蝋のようで、彼が長いこと日の光に晒されていないことを物語っていた。
 実際彼は、このアパートに入居してから、ほとんど外に出たことがないらしい。彼に対する父の尋常でない執着を見せ付けられたような気がして、俺はひどく不愉快になって、男妾を更にいじめた。大人であるはずのその男は、悔しそうに、というよりも、諦めきったように泣きながら、俺の……新しい主の……言葉に従った。



 男妾は寡黙で従順だった。口がきけないのだから、寡黙なのは当たり前だったが、それにしてもおとなしい男だった。俺に対して何かを伝えようという意思がまったく見受けられない。
 俺にいいように扱われ、どんな暴言を受けても、うつむいて身を縮めるだけで、怒りの表情をのぞかせたことはない。体が悲鳴を上げて、一時的に立てなくなったときも、高熱が出たときも、そばにいた俺になにを言うでもなく、布団の下でひとり、その恐怖や苦しみを咀嚼していた。とにかく彼は俺にとっては具合のいい抱き人形で、これから先も、その事実は変わらないはずだった。



 ある日の深夜。荒淫の後、俺が彼をからかってみようと思いついたのは、本当にただの気まぐれだった。俺は日常的に言葉で彼をいじめていたから、その延長のつもりだった。

 親父の最後を教えてやろうか。

 そう言うと、ベッドの上で半身を起こし、俺の存在などないもののように、ひとりの世界に閉じこもっていた男妾が反応した。面白くなった俺は、調子に乗って口火を切った。

「癌だったよ。見つかった時には末期だった」

 嘘だ。父の死因は交通事故だった。

「死んだほうがましだって位苦しんでさ、痛みのあまり人格まで変わっちまって、最後はホスピスに入れたんだ」

 嘘だ。父は即死で、苦しむ間もなく息絶えた。

「モルヒネに頼って、痛み消して、何とか正気を保ちながら、最期のときに、俺たちに言ったよ。私の大切な家族はお前だけだ、過ちを犯したことを許してほしいって。あの時は何のことかわからなかったけど、過ちってあんたのことだったんだな」

 男妾の顔から血の気が引いていく。俺の言葉を否定するように、彼は力なく首を横に振った。嘘だ、と言いたげなまなざしが俺を捕らえる。それをまっすぐに見据えたまま、俺は嘲笑った。

「親父はあんたを囲ったことを後悔してたよ。当たり前だよな。あんたみたいに異常な人間のこと、心から愛すやつなんているもんか」

 大企業の役員で、仕事人間だった父と、模範的な専業主婦の母の間は冷え切って、姉は早くに家を出て、俺もやりたい放題やっていた。異常だったのは父の築いた家庭のほうで、その一員だった俺はきっと、父の唯一の良心とも言える男妾に、子どもじみた意趣返しがしたかった、ただそれだけだった。


「あんたは、愛されてなんかいなかったんだ」


 それでも、俺の口からこぼれた言葉はきわめて残酷に、男妾を打ちのめしたらしかった。


 男妾の薄いまぶたに、みるみるうちに涙が盛り上がり、青白い頬をその雫が転がり落ちる。唇をかみ締め、目を見張ったまま、彼は声もなく泣きだした。よれたシーツの上に涙が次々と染みを作っていく。せわしない呼吸を必死で収めようとして、余計に体を震わせながら、男妾は泣き続けた。男妾のかつてないほどの取り乱しように、俺の心の中を得体の知れない不快感が走り抜けた。
 父はどんな風に、この男をいつくしんだのだろう。男妾は、どんな気持ちで、俺の父を待ち続けていたのだろう。不毛な関係だ。不倫の上、男同士で、なにがあっても、結婚もできなければ子どもも生まれない。

 気まぐれのように訪れ、気まぐれのような愛情を与えた父を、この男妾は愛していたのだろうか。


 体の中が焼かれたように熱くなり、俺は無意識に男妾に手を伸ばしていた。乱暴に引っ張って腕に抱きこみ、締め殺すくらいに抱きしめる。

 一瞬の沈黙の後、男妾の音のない嗚咽がひどくなった。俺より十も年上のはずの彼が、まるで寄る辺のない子どものように頼りなく思えた。いや、実際頼りないのか。俺のような子どもの保護にすら縋らざるを得ないほどに。

 苦しかった。自分の体の中を焼き尽くす炎の名前を、俺は知らない。


歪な夜の底で、歪な魂が二つ抱き合う。



朝は、未だ遠かった。
「ここまで読んでくださって、ありがとうございました。」
...2009/11/2(月) [No.499]
千梅
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