せっかく夏休みだっていうのに僕は学校に来ていた。
それもこれも僕がおバカなせいである。
1学期の期末試験の結果が悪くて(赤点かそれに近いのばっかりだったんだ…)担任の先生から補習を受けるようにと言われたのだ。
サボろうかと一瞬考えたけど、その考えを逸早く察した先生に「サボったらどうなるかわかってんだろうな」と脅された。
それで僕は仕方なく補習を受けることにしたのだった。
蒸し暑い教室で僕――田宮寛和(たみや ひろかず)――は先生から渡されたプリントと格闘していた。
目の前には僕の担任の平岡先生――平岡雅彰(ひらおか まさあき)先生――がいた。
実を言うと僕は平岡先生が苦手だ。
学校では人気のある先生なんだけどね。
学生時代にバスケットをやっていたという平岡先生は、185センチはあるだろう長身にそれに見合うバランスの取れた体型ですこぶる顔もいい。
その上26歳と若いから、学校の女子生徒からは絶大な人気があるのだ。 (噂によると生徒のお母さん方にもだそうだけど。)
それから完璧すぎる外見から一見取っ付き難い感じだけど、話してみると案外話のわかる先生だと
男子生徒からもそこそこ人気があったりする。
だけどね、平岡先生ってなんか俺様だし僕にはお小言ばっかりなんだよね。
お小言は僕の担任だからなのかもしれないけどさ。
それだって僕がテストで赤点取ることが多いっていうのが主な原因なんだけど・・・。
でもさ、毎日のようにお小言ばっかりじゃ僕だって嫌になっちゃうよ。
そこへこの補習なんだもん。
暑いし平岡先生と2人っきりだし、全然やる気なんて起きないよ。
あーもう家帰りたいなぁ。
つらつらとそんなことを考えながらも時間だけは過ぎていく。
うー暑い・・・干上がりそう・・・・・・。
額から汗が流れる。
暑さでヘバッてて、さっきから一向にプリントは進まない。
というか、問題さえ頭に入ってこないよ。
暑い・・・。
もうダメ~。
我慢の限界とばかりに僕は机に突っ伏した。
「おい、何やってる。早くやれ。」
教卓にパイプ椅子を持ってきてそこでなにやら仕事をしていた平岡先生が不機嫌そうな声で僕に激
を飛ばした。
平岡先生はこんなに暑いっていうのに汗一つ掻いていない。
それを見て余計にやる気をなくす僕。
こんなに暑いってのに何でそんなに涼しげなのさー。
「平岡先生、暑くてもうダメです・・・。」
机に突っ伏したまま僕は弱音を吐いた。
「何ほざいてんだ。お前がバカだからこんなことになってんだろうが。バカの面倒見なきゃなんねぇ俺の身になれ。大体暑い暑い言ってけど、お前の肉が付き過ぎてんのが大きな原因なんじゃねぇのか?」
うっ・・・・・・。
それを言われると何も反論できない。
身長163センチ、体重70キロ・・・立派な肥満体な僕。
「何だこの肉。こんなだから暑くてヒィヒィ言うハメになるんだよ。」
そう言いながら平岡先生が僕の脇腹の肉を摘む。
お腹の肉摘まないでほしい・・・。
僕がデブだって言いたいんでしょ。
先生の言いたいことは分かるよ。
だけどね、暑いものは暑いんだよッ。
本当はそう言いたいけど我慢した。
平岡先生に口で勝てるとは思わなかったから。
「17にしてメタボか?終ってるなお前。」
平岡先生の更なるその言葉に僕はガックリと項垂れた。
メタボ・・・・・・ヒドイ・・・。
酷すぎるよ先生。
・・・・・・・・・僕ってメタボなのかな?
メタボってアレでしょ。
健康に悪いってやつ。
僕、病気になっちゃうのかな・・・。
先生の言葉でそんなことをグルグル考えてしまう。
「おい。」
そう声を変えられると同時に眉間をグリグリと押された。
「ブサイクな顔が更にブサイクになってんぞ。」
平岡先生の言葉に僕もさすがにムッとする。
僕はブサイクじゃないッ至って平凡顔だッ。
「ブサイクじゃないです。至って普通な平凡顔です。」
普通で平凡なことを強調して言いながら平岡先生を睨む。
ブサイクと言われるほど醜い顔はしていない・・・・・・と思う。
醜い顔とは言われたことないもんね。
だから僕は自分では普通で平凡な顔だと思ってる。
というか、そういうことにしておいてよ。
「クククッ。普通な平凡顔ね。分かった分かった。」
笑いながらそう言うと、平岡先生は僕の頭をクシャクシャッと撫でた。
「しょうがねぇな。教科室行くか。」
確か教科室にはクーラーあったよね・・・僕はブンブンと首を縦に振った。
「んじゃ行くぞ。」
僕は急いでプリントやらを鞄に詰めると、先生の後を追った。
教科室というのは各教科ごとにある先生方の控え室のようなものだ。
職員室の他にここにも机があって、職員室よりも教科室で過ごすことが多い先生もいる。
平岡先生は数学担当なんだけど、数学の教科室は今は平岡先生が1人で使っているようなものだっ
た。
それというのも数学の教科室は少し離れた場所にあったからだ。
数学の先生方は平岡先生以外みんな50代の年寄りの先生が多いんだ。
だから離れたところにある教科室は敬遠されたらしい。
というわけで、数学の教科室は平岡先生の独占状態なのだった。
~ 後編へ続く ~
|