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 (客×不動産屋 同い年 甘々バカップル/15禁)
all day(前編)


『江藤さん、今度は土曜がお休みだったよね? お願いがあるんだけど』
 高木のメールはいつも簡潔だ。トイレに行くついでに、「どっか行きたいのか?」と返信して新也は自分の席へ戻った。
 新也の勤め先は小さな賃貸不動産会社で、業種柄土日は客が多い。特にノルマがあるわけでもなく、客の取り合いをするような殺伐とした職場でもないので、逆に忙しい曜日に休むのは気が引ける。
 だが、ここ最近、同僚の佐々木の都合で日曜が休みになることが多いのでありがたい。月初めに休みのシフトを決めるのだが、週末の休みを佐々木が新也と交換してくれと言ってくるのだ。そのかわり、新也の水曜の休みを佐々木に回している。火曜は会社の定休だから、佐々木は連休になって新也は連休が無くなるわけだが、お互いの都合がいいのでうまくやりくりできている。
 今週は土曜が休みなのだ。

 ∵     ∴

 高木が初めて新也の勤める不動産屋へ客としてやってきたのは二月の末のことだった。それから三ヶ月弱経ち、今は五月の第四週だ。新也が高木と、恋人というやつになってからは二ヶ月弱。
 新也の今までの女の子との交際経験からすると、付き合いだしてベタベタ会いまくるのが一ヶ月目、だんだん自分の生活ペースを取り戻してきてベタベタするのに疲れ出し、恋愛気分ダウン且つちょっとしたケンカ頻度アップをしてしまう時期が今、そろそろ三ヶ月目に突入する頃合──だったのだが、高木との間にその経験則は通じない。
 まず四月中は高木が仕事でばたばたしていて、一度遊園地に行った他は週末高木の部屋で過ごす程度だった。それも新也の週末の休みは一日しかないので心ゆくまでべったりというわけにもいかず、飽きるほどベタベタした記憶がない。
 ゴールデンウィークはゴールデンウィークで、お互いそれなりの長さの休みがあったものの、前半は高木は飛び休、新也はクレーム電話当番──さすがに長期休暇のときは、クレーム対応を佐々木と前後半で分担しているのだ──で遠出ができず、普段の週末に毛が生えた程度しか一緒にいられなかった。
 後半は、高木は実家へ荷物を取りに行くことになってしまって終わり二日間はメールでのやり取りくらいしかできていない。
 ──ホントは運転交代要員で一緒にいく予定だったのに……
 当初は、高木が実家で荷物を引き取るのに付き合って、帰りに温泉でも寄ろうという話をしていたのだ。なのに新也のふたつ年下の従兄弟が、高木と新也が遊園地に行った話を聞きつけ、自分も行きたいと言い出した。
 ──どーしてこの年になってデカい従兄弟と二人で遊園地なんか行かなきゃならないんだっての。
 結局ゴールデンウィークは、高木は実家で引き止められて一泊することになり、新也は従兄弟と二人、男同士の寂しい遊園地を堪能する、という悲しい終わり方をした。
 こんなわけだから高木との付き合いに飽きる暇もなければケンカする暇もない。かといって、男友達との付き合いと変わらない、なんてことはなく、二人でいればやはりそれなりに甘い雰囲気になったりするわけで、なんだかんだでベタベタしていても飽きもしないしケンカにもならないというのは相性がいいのかもしれない。


 土曜日、新也は朝から高木のマンションへと向かった。最近すっかり自転車が高木の家までの足になっている。梅雨にはまだ遠く、風も爽やかでいい陽気だ。
 インターホンを鳴らすと、風呂上がりなのか首にタオルを掛けた、スウェットにTシャツという家着姿の高木がドアを開けてくれた。未だに高木を見ると、わあかっこいい、なんて思ってしまう自分が可笑しくて、新也は心の中で苦笑する。
「おはよ。家事教えてって、あれなんだ?」
 メールの『お願い』の内容について、玄関先で迎えてくれた高木を見上げて問うと、高木が新也を招き入れながら答えた。
「江藤さんは十年近く一人暮らししてるベテランでしょ。僕はこの春、初の独り立ちしたヒヨコだから」
「ヒヨコのくせにでかすぎだろ。高木、飯くらいささっと作れそうなのに」
「残念ながら僕にできるのはカップ麺のお湯を沸かすところまでです。……しかもポットで」
 高木の器用そうな風貌から、てっきりさらりと食事なんか作っちゃう嫌味なアレを想像していたのに、コンロは怖いなどというもので、新也はついつい笑ってしまう。そういえば二人で会うときは食事は外で済ませて、高木の部屋では乾き物と酒程度しか口にしたことはなかった。
「普段の飯はどうしてるんだ?」
「早い日はデパ地下惣菜で遅い日はコンビニ」
「わびしいなー」
「わびしいんです」
 というわけで、今日はご指導ご鞭撻の程を、と高木が横から新也の腰を抱く。髪に鼻先をうずめられ、慌てて新也はぺちんと高木の手を叩いた。このまま放っておくと髪から頬へ、そこから唇にキスされてそのままベッドに行く羽目になりそうだからだ。まあ別に、それはそれでいいのだけれど、
 ──せっかく頼られてんだからそこはちゃんとしないとなっ。
 高木といるとすごく自分が甘やかされている気がしてしまう新也としては、ここで挽回をはかりたいのである。
「高木くん、先生に手を触れないで下さーい」
「はーい」
 素直に両手を上げる高木が、ちなみにご飯だけじゃなくて洗濯とか掃除とかの手早いやり方もよろしく、と笑顔で言った。

 じゃあまずは洗濯な、と洗面台脇の洗濯機置き場へ高木を伴っていく。ちゃんと汚れ物入れのカゴがある辺り、高木らしいなあと思う。新也なんかは脱いだらそのまま洗濯機に放り込んでいる。
「洗濯は汚れもん洗濯機につっこんで洗剤入れてまわすだけ。コースは標準でいいかな」
「なんか分けたりするんじゃないの? 靴下とタオルは一緒にしないとか」
 人を先生呼ばわりするくせに高木の方が洗濯のやり方に詳しそうだ。さては教えろとか言いつつネットで調べやがったな、と新也は口元で笑う。
 高木は部屋を借りにきたときの応答もとてもスムーズだった。初めて部屋探しをする場合、自分の優先順位すらぱっと答えられない人間が多いのにと、不思議に思って後で聞いたところ、店頭で困らないように調べてから来たそうだ。
 家事の奥義だってそうやって調べてるんだからそのやり方をしていればいいはずなのに、俺に頼ってくるとはかわいいやつ、と新也はついにやにやしてしまう。
「俺、面倒で分けてないんだよなー。高木、水虫とかあったっけ?」
「ないよ!」
「じゃ平気平気」
 汚れ物カゴを逆さにして中身をすべてドラムに突っ込んで洗剤をいれて蓋を閉め、「止まるまで放置」と新也は高木に笑いかけた。
「先生、豪快ですね」
「そうか? どうせキレイになるんだからいいじゃん」
「色落ちとかは?」
 言われて、大学時代のいやな記憶がよみがえる。
「あー。白Tシャツが全部ピンクになったことある」
「……僕、今の汚れ物の中に赤系のシャツ入れてたんだけど……」
「ウソ、あった?!」
 新也が大慌てで蓋を開けて、五割がた水に浸かった中から赤いシャツを引き上げ絞って洗面台に置く。ふぅ、と一息つくと、高木が笑って「洗濯の時は気をつけます、先生」と言うのが鏡越しに見えて、新也はむっすりして鏡の中の高木を睨みつけた。
「こういうときにセンセイって言うな」
「はぁい」
 くすくす笑う高木に、なだめるように後ろから抱かれて、顎で頭を撫でられる。そのまま高木の吐息が首筋に触れ、うなじにキスされた。
「ぅひゃ」
「うひゃ、って。かわいいな先生」
 高木がくすりと笑う。
 これは頼ってるんじゃなくていじってるんだとようやく新也が理解して、腰をひねって高木の腕から抜け出ようとしても、びくともしない。挙句、鏡に映る自分が暴れる子供のように見えて情けなくなる始末だ。
「むーかーつーくー」
 新也が自分の腹の前で組まれた高木の指を一本一本剥がそうとする段になって、ようやく高木は新也を解放してくれた。高木の表情が、駄々っ子には敵わないなあという顔に見えたのは気のせいということにしておく。

「じゃあ次は掃除な? ……悪戯すんなよ」
「はい先生」
 返事だけは素直な生徒に、いつもはどうしているのかと尋ねると、百円均一で購入したワイパーに専用シートをはさんで床を撫でるくらいだと答えられた。
「ああ、俺もそんなもんだよ。よーし今日は特別に先生がお手本を見せてあげよー」
 お掃除ワイパーで床撫でるお手本てなんだよと自分で突っ込みながら、新也は部屋の隅から撫でだす。その新也の後ろを、高木がヒヨコのように律儀についてくるのが可笑しい。
「掃除機は一応あるよ? ほとんど使ってないけど」
「めんどくさいから今はパス。普段は夜帰ってきたらワイパーかけときゃいいよ。夜中掃除機かけると車輪のゴロゴロがすげーうるさいらしいし」
「そうなんだ」
「まあ客から夜中クレーム電話が来て初めて知ったんだけどな、俺も」
 上のウチが夜中にゴロゴロうるさいんじゃーというお怒りの電話が夜中の一時にあって、翌日新也は管理物件全戸に夜の掃除機禁止のちらしを配ったのである。
 そういえば、夜の電話は高木もよくかけてきた。あの頃は社用携帯にかけてきてたんだなあ、こいつ、と思い出し笑いすると、高木もそれに思い至ったのか苦笑している。
「だって仕方ないでしょ。会社の番号しか知らなかったんだし」
「そんなんで口説こうとする方が不思議だよなー」
 夜、社用の携帯が鳴るたび心臓をドキつかせていたことは内緒にして新也は笑ってやる。
「そういうこというと恥ずかしいこというよ?」
「な、何だよ、恥ずかしいことって」
 たいてい高木をからかった後は十倍くらいの反撃を受けていることを思い出して、新也が思わず身構えると、その耳元に高木が内緒話のように手を口の脇に立てて顔を近づけてきた。新也も片耳を心持ち上げて聞こうとする。
 ──スウェットとTシャツなんかのくせして相変わらずいい男だな…
 横目でぼーっと高木を見つめるその耳たぶがいきなり温かく濡れて、新也は一気に顔を熱くした。勢いで体を離して、悪寒に似た快感をもたらした耳を手で覆い隠す。放り出した掃除用ワイパーの柄がカランと軽い音を立てる。
「なっなっ何で舐めるっ」
「なんとなく?」
「高木はホント、バカだろっ」
 照れ隠しにわめくと、するりと真正面に立った高木に腰を抱かれ、触れるだけのキスをされた。唇にキスされたのは一週間ぶりだと思った途端、体から力が抜けて高木の肩口に頬をすり寄せてしまう。
「それぐらいの関係しかないのに口説きたくなるくらい江藤さんがかわいかったから仕方ないよね、って言おうとしたんだけど」
「……恥ずかしすぎるな、ソレ……」
「でしょ」
 髪を撫でる手がするりと頬をなぞるから、新也はもう一度キスしようと顔を上げる。
 ──……って! 掃除しろ、そうじっ!
 はっとして、まだ昼間ですから、と新也が胸を押し返すと、大人しく高木は両手を上げて新也を解放する。あまりにあっさり離れるから拍子抜けして、物足りない思いで新也がちらりと高木を見ると、手をひらひらさせたままの高木に、どうする? という目で微笑まれた。
 ──こいつ、……ずるいだろ絶対。
 新也から誘うのを待っている。
「なぁに? 江藤さん」
「なんでもないですー」
 絶対引っかかってやるもんかと、床に転がしたワイパーの柄を取り、掃除を再開する。後ろをついてくる高木が、わざと触れてこないのがまたむかつく。
 しかし、軽く拗ねながら部屋の隅々まで掃除していると、いつのまにか掃除自体が楽しくなってきてしまった。我ながら単純、とは思うがこういう作業は気持ちを落ち着かせるのも事実だよな、と新也はすいすいと掃除用具を操る。
 自分で薦めといてなんだけど、と半分鼻歌まじりで部屋の中をうろうろしながら新也は思う。広いし綺麗だしドアは吊り戸だから床レールが無くて掃除しやすいし、本当にいい部屋だ。高木がきれいに住んでくれているのも嬉しい。
 俺って見る目ありありじゃん、と半分自画自賛に近い状態のまま、高木が寝室にしている部屋の隅まで掃除して、掃除シートを外そうと腰を曲げたところで、高木に後ろから抱きつかれた。
「わっ?」
 遮光カーテンの閉まった寝室用の部屋は、リビングとは全然違う世界のように夜っぽい雰囲気をかもし出している。そんな中で高木があの、甘い、いい声で耳元に囁くから新也は身を震わせる。
「江藤先生に誘ってもらっちゃった」
「さそっ……」
 ……てない、と言いかけた唇を、指で止められる。
 もう、こいつキザ過ぎ、と思うのに、新也は目を閉じて、離れていこうとするその指に自分からくちづけてしまう。新也が来る前にシャワーを浴びたらしい高木の手からは、いつものボディソープの香りがする。つい、そのいい香りに誘われて甘噛みすると口の中で舌を撫でられた。
「……べろ、やらかい」
「ん……」
 舌の感触を楽しむように、高木の指が新也の口内をゆっくりとなぞる。耳元に落ちる高木の吐息が甘やかになっていくのが楽しくて、飴でも舐めるように舌先で愛撫すると高木が息で笑う。
 舌全体で舐めたり、唾液がこぼれないように吸ったり、新也が何かするたびに高木が反応するのが嬉しい。
「ふ、ぁ……たかぎ、指なんて気持ちいいの……?」
「いいよ……」
 ほら、と指をやさしく出し入れされて、ようやく何を模しているのか気づいて新也は顔を熱くした。
 ──エロいんだよこいつは……
 夢中でしゃぶっていた自分は棚上げして、すっかり自分の唾液で濡れてしまった高木の指先に噛み付く。どうして新也が噛み付いたかなどお見通しの高木に、ふふ、と笑いながら息を吹きかけられ、新也は思わず背すじをぴくりとさせた。
 新也に食まれていた高木の指が、濡れたまま新也の唇をなぞる。
「江藤さん、鳥肌たってる。首だけで感じたの?」
「っ……お前が、変なことばっかするから……」
 僕は悪い生徒なので、と言いながらまた首筋に音をさせてキスをしてくる高木の腕の中、顔だけ振り向かせると、そっと唇を吸われた。
 顎に手をかけられ、輪郭をたしかめるように撫ぜられて、すぐに膝から力が抜けそうになる。高木に抱きついて体を支えたいのに、腹に腕をまわして抱かれているせいで、その身を反転することができない。
「ん、……たか、ぎ」
 唇がちゃんと合わせられないせいで、絡めた舌から唾液が伝って口元を汚してしまう。新也の頬を撫でていた高木の手が、慣れた手つきでジーンズのファスナーを下ろして、半分熱くなった新也の性器を下着の上からさすりあげた。
「……勃ってる」
 耳元に笑うような息と一緒に吹き込まれ、新也は唇を濡らす唾液を舐めとる。
「だって……高木のキス、ヤバい」
「そうなの?」
 甘く囁かれて、頷くと、いい子いい子をするように高木が新也の髪に頬ずりしてきた。
「好きだよ、江藤さん」
 背中から新也を抱いたままそう言って、高木がベッドに腰掛ける。けれど新也は高木の足の間、ずり落ちそうなくらいしかベッドに乗れていない。仕方なく高木の太腿に手を置いて体を支えると、首筋を甘噛みされて吸い付かれた。首を竦めて新也が身体をひねると唇を重ねられる。
「……ん、ん」
 唇をもっと重ね合わせたくて、新也は高木にもたれながら顔を上へ向けた。ベッドにかろうじて尻を乗っけているだけの新也が落ちないように、高木がきつく腰を抱いてくれる。
「あ、ふ……」
 舌を探られて、素直に差し出すと柔らかく吸われ、舌の裏を舌でなぞられる。片腕を高木の首に回すとよりくちづけを深くされた。
 高木とはどういうふうに身体をくっつけても気持ちがいいけれど、新也が一番好きなのは高木のキスだ。
 ──すごい気持ちいい……
 何かしないとならないことがあった気がするけど、こんなにふうにキスしていると、すべてがどうでもよくなってしまう。
 だが、頭の芯までとろとろになりながら、新也が高木にもう少し寄ろうと腰をずらした途端、
「っ──……?!」
 ベッドの端から滑り落ちて、新也はキスの酩酊から一気に覚めた。
 瞬間息が止まるくらい驚いて、床の上で詰めた息を吐くのと同時に思ったことをそのまま吐き出してしまう。
「っあー! 驚いた! おどろいた! すげーびびった……っ」
「あはは、ごめん、かなり座り浅かったんだね」
 もっとちゃんとつかまえてればよかった、と高木が、まだびっくり顔の新也の頭を撫でてくる。
 先ほどまでの甘い意味とは全然違う意味でばくばくいう胸を押えて、新也が床にへたり込んでいると、もう一度どうぞ、と高木が深く腰掛けて、また自分の足の間へ新也を抱きかかえた。
「驚かしちゃったね」
「んー。すげー驚いた……」
 寝てるとき崖から落ちる夢見るとビクッとするじゃん、と先ほどの感覚をどうにか正確に伝えようとする新也を、高木が後ろからぎゅっと抱きしめてくる。背中に高木の胸が密着して、新也の背が熱くなる。
「……江藤さん」
「ん?」
 新也の襟足に唇を当てては軽く吸うようにくちづける高木に、囁きで呼ばれて、新也は腰をもぞもぞさせる。驚いたせいなのか、高木に触れられたせいなのか、上がった心拍数は戻らないまま、高木の声と体温で煽られ、より胸の鼓動が速まる。
 高木の足の間で、今度は落ちないように深めに座ろうと腰を後ろへずらすと、高木の昂ぶりが新也の尻に当たった。
「あ……なんだ、高木も勃ってんの……」
「江藤さんいい匂いするんだもん」
「そうかな?」
 うなじにキスしながらの甘えるような高木の返事に、新也は色気のない動作で自分の肩口あたりの匂いを嗅いでみる。
「すごいいい匂い、いつもしてるよ」
 後ろから新也のシャツの中へ両手を滑り込ませて、高木がうっとり呟く。新也がどんなに雰囲気を壊しそうになっても、高木の甘くて低い声だけで、すぐに持ち直してしまう。弱いとわかっている腰骨の辺りをさすられて身をよじると、脇腹をするりと滑り、高木の両手が胸の上へ置かれた。
「っあ……」
 最近高木は、新也の小さい乳首が気に入りのようで、隙があるとすぐにこうして、撫でたり摘んだりしてくる。おかげで触れられるだけで声が出てしまうようになった。
 家事を今頃新也に習っているような生活をしているせいか、高木の指先は柔らかい。その指先でくにくにと弄られると、痺れるくらい感じて、新也は背をよじって悶えてしまう。
「江藤さんのおっぱい、気持ちいい」
「ん、ば、ばか、おっぱいっていうな」
「じゃあ……乳首」
 わざといやらしく言われ、笑い含みにうなじを吸われた。
「っ……」
「右と左と、どっちの方がスキ?」
 右をくりくりと摘まれ、左を押しつぶされて、新也は返事もできずに腰だけをうずうずと動かす。高木の性器はすっかりガチガチで、腰を擦り付ける新也に存在を主張しているのに、高木は意に介さずといった調子で胸を嬲ってくる。
 ──余裕ありすぎんだよ、もうっ……
 基本的に高木は、入れてこすって出せればいい、というタイプじゃない。だからこそ、こんなに新也は煽られて弄られて、最後は自分から入れて、なんていっちゃうことになるわけだけれど。
「今日、おっぱいだけいじる日にしようか」
「お前、なあ……っ」
 喘ぎながらすごんでも多分ぜんぜん怖がってもらえない。
「じゃ、どっち?」
「み、右」
 右ね、と呟いて、高木は右の乳首を摘んだ指を離す。その腕で強く新也の腹を抱いて、疼く腰を動かすのを封じてきた。
「や、なんで、右って言ったのに……っ」
「バランス取らないと」
 右ばかりよくなったら、左がかわいそうでしょう? そんなことを言って、新也の耳たぶを口に含む。
 高木の口、というか、舌は、なんだかとてもいやらしい。耳たぶから、こりこりした軟骨の方へゆっくり唇で辿って食まれると、もっとあちこちにキスして欲しくなって、身体を明渡すように新也は高木の胸に背を擦りつけてしまう。
 ちゅ、と軽い音をさせて、高木が何度も新也の首筋を吸ってくる。首を傾けて、ここにキスして、と言わんばかりの姿勢のまま、新也は痺れるような快感で甘く息をつく。
「江藤さん……かわいい」
「んん……」
 高木にかわいいと言われると、最近なんだか恥ずかしい。しかし反論しようとしても、最高にうまく空気をよむこの男は、新也がキスに弱いことを知っていて唇をふさいでくるから、新也は異議を唱えられたためしがない。
 左手では揉みこむように乳首を弄りながら、高木は右手をまた、新也の下着に差し入れてきた。キスの感覚に酔いたいのに、あちこち刺激されて新也は息が上がってしまう。
 ──器用すぎだろ、こいつ……
 キスしてるときはキスにばかり意識がいってしまう新也からすると、高木の愛撫は神業にも等しい。
 それでもどうにか、キスの合間、後ろ手に高木の硬くなった性器を包み込むようにしてさすると、喉の奥で笑われた。
「どうしたの?」
「さっきから当たってるから……っ、気になるんだよ」
 どうして気になるの、と続けて問われて新也は口篭もる。本当に、意地が悪い。
 頬に唇を滑らせる高木が、新也の下生えを梳きながら、すっかり硬くなった竿の付け根を指先で弄ぶ。
「たか、ぎ」
「ん?」
 我慢しきれず名前を呼ぶと、顔を覗き込まれる。新也の手が、スウェットの上から高木のものの形を確かめるようにゆっくりと何度も行き来しているのに、それをこれからどうしたいか、どうしても新也に言わせたいらしい。
「たかぎ……」
「なぁに?」
「……これ、一緒にこすらせて」
 心の中で、こいつホントにホントに意地悪だと叫びながら新也が囁くと、よくできました、というように、高木に鼻の頭にちょんとキスされた。
「読んで下さった方ありがとうございます!後編に続きます~」
...2009/6/16(火) [No.485]
切江真琴
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