「あそこまでやることなかったんじゃねぇか」 除籍された学友の思い出に浸りつつ、 問うと怪しく、歪んだ笑みが返った。 「やるなら徹底的にやらないと」 それはよくエリックの父親、 グイド・ヴェレノがエリックに言い聞かせていること。 「・・・俺はっ」 その主張を嗜めるようキケロは声を荒げた。 「うん?」 ヴェレノの屋敷の地下、エリックの部屋は、 いつも同じ景色で整然とそこにある。 手元を照らす青い光を頬に受け、 エリックはぼんやりと輝いていた。 確かに男を作っている骨格が、妙に滑らかで神秘的な線で、 キケロの感覚に訴えてくる不思議。 「心配してんだよ」 「何を?」 「おまえの良心・・・、 麻痺しちまったんじゃないかと思って・・・」 特に小さかったり、細いわけではないその身。 基準よりは細めでも、エリックを男として意識する女の目には異性として快く映る。 エリック自身、己の身に男としての意地を持っていた。 そのためにキケロは、エリックの白いすっきりとした身体を、 脆く柔らかそうに感じてしまう己の、 その感覚に、悩む道を進むしかなかった。 「やりすぎなんだおまえの喧嘩、勝つ負けるじゃねぇだろもはや、 異常だろ・・・、社会的抹殺っつーのか? クラスで浮かせたり、女に振らせたり、遣り方が汚ぇんだよ、 一族撤去させるなんてのはもう、 学生のやることじゃねぇだろ?!」 「・・・」 「ついていけねぇよ」 「・・・」 「平気なのか、ああいうことしてよ、おまえは・・・」 「・・・」 「何とか言えよ」 こんな時に実感する、エリックの金の髪の、細く柔らかいこと。 その髪がエリックの耳の傍をさら、と流れた。 エリックがほんの少し身じろいだのだ。 「・・・」 「俺にだって人間関係があるんだ、 おまえがあんまり馬鹿やると、 迷惑なんだよ、・・・そんなこと、 言える立場じゃねぇのかもしんねぇけど」 「・・・」 「喧嘩は俺がやる、おまえはそれ以上、 やるな、人の精神傷つけんのやめろ、 加減がわかんねぇうちは、やめろ、 俺は、治る怪我のさせ方を知ってる」 「・・・」 「おまえのさせる怪我は治らねぇもんばっかだよ」 怒りを丸出しにしていたこと、 友人を失ったキケロの熱い悔しさは、 エリックを不安にさせるには充分で、 「・・・なるほどね、お優しいわけだ、キケロ君は」 「おまえに比べればな」 僅かに出たエリックの、曇りの表情。 端整な顔に、広がった苦味は色気を含んでいた。 毒味のある光を帯び、普段、人を威圧するあの青の目が、 弱弱しくなっているそのことが、急にエリックの目元を、 無防備にさせて、誘うような雰囲気を出させる。 「・・・」 今にもエリックに触れそうな程、何時の間にか手が伸びていた。 「何?」 しかしすぐ、エリックは我に帰ったよう、 目に力を取り戻し、キケロの手を跳ね返した。 動いたエリックの唇、口元は暗い部屋の照明の中、 存在感を増し、キケロの欲情を掻き立て、 キケロを苦しくさせた。 「俺が居るんだから、俺を使え」 呟けばエリックは自然な、柔らかい笑みをふっと浮かべ、 それに胸と目頭が乾いたように熱くなった。 ヴェレノ当主の息子エリック。その護衛がキケロ。 近い年の二人の、あまりにも違う立場と役割。 近代化した今も、ヴェレノは当主とその一族を、 護衛で固める制度を残していた。 もっとも、職業の自由は認められており、 キケロは今に限り年の近い護衛としてエリックの傍に居るが、 学生としての生活の中で、別の道を見つければそちらの道を歩む自由が許されている。 護衛の名をアウレリウスといい、キケロはアウレリウスの第二種免許保持者だった。 まだその免許が初級の頃から、キケロはエリックの傍にいて、 十年が経って、当然このまま、傍に居続けるのだと、周りは思っている。 キケロが別の道に進もうとしていることを知っているのは、エリックとキケロだけ。 「わかったよ、約束する、しばらくは、 喧嘩する時はおまえに言う、 俺のやり方は確かにちょっと嫌な感じだね、 時々可哀相かな、と思うことはあったよ、 我慢できないのも良くないね、 ・・・頑張るよ」 理解あるエリックが、愛しいと同時に寂しい。 思い出すのは、過去エリックに投げられた、嫌な言葉の数々。 「おまえ目つき悪いよ、こっち見ないで不快」 出会って五分で賜った。 この最初の暴言から、遡ると酷い言葉なんていくらでも見つかる。 「何これ壊れてる、いらない」 二年目の冬。エリックが機械遊びに夢中になっていた頃、 その遊びが高度なものであるとわからず、ガラクタをプレゼントした際。 「それで言いたいこと全部?聞いたよ、満足? ああ、俺がおまえのために俺を変えるなんてありえないからごめんね」 初めて喧嘩をし、意を決してすべての不満を曝け出した際。 落ち込んだりもしたけれど、元気でいるしか道がない。 次の日もその次の日もエリックの傍にいなければならないので仕方がない。 「邪魔」 これは年中、数え切れない程言われ、言われるたび落ち込む魔法の言葉。 「俺のほうがもててた」 それがどうした。 「足遅いよ」 はいはい。 年と共に流すのが上手くなったこと。 思い出せば切がない暴言達に溜息。 未だに思い出して、腹を立ててときめく。 何時の頃からか、酷ければ酷いほど、甘えられているのだ、と解釈をしてから、 自動でときめくようになった胸に、変態の覚えがあったが深くは考えないことにする。 ただその逆が、時にはあるもので、 「すぐ戻って来るよ」 慕っていた兄が遠くへ行った時、 寂しかったキケロへ、エリックは言葉を掛けてくれた。 「たぶんあの子より俺のほうがおまえのこと好きだよ」 一方的にキケロに好意を寄せて来た異性が、 一方的に去って行った時に、キケロを元気付けようとしたエリックの、破壊的な冗談。 「キケロ!」 そこで一際、大きなエリックの声。に急に意識がはっきりする。キケロを呼ぶ声。 腕の中にエリックがいる、その場所はキケロの部屋のベットの上で、 今の惨事だった。 「エリック?」 呟くと腕の中のエリックは、少し安心したように体重を預けてきた。 「何なの?これじゃ身動きできなくて困るんだけど、俺」 キケロは精神を病んでいるところだった。 今と昔が同時に来ては、寝ていたり起きていたりとにかく堺が怪しい。 そういう世界で、記憶が曖昧に、壊れやすい理性のもと、 めちゃくちゃの人格で生きているキケロの今の状態を、 エリックは知っていたし、そんな状態のキケロを、エリックは労わっていた。 「動いたらどうしよう」 「誰が」 「エリック」 「・・・、わかった、動かないよ、 動かないけど、」 エリックは何かを言いかけ飲み込む。 エリックのその気遣いに甘える。 「嬉しい」 「何が?」 「エリックが」 「・・・うん?」 「いるから」 「何、ちょっと照れるでしょ、寂しかった?言ってくれれば泊まったよ」 眠っていたキケロの上、 ベットに身を乗り出したエリックの、身体が目の前にあった。 恐らくベットの隅、放り出したものを拾ってくれようとした。 何を拾ってくれようとしたのかは覚えていない。 キケロはエリックを捕まえて、己の上に乗せて固定した。 「何か不安なの?大丈夫だよ・・・、 ちゃんとおまえ治るから、もう二週間、 耐えられたでしょ」 エリックの重み。エリックの匂い。 「サリトなんかに関わるからだよ、 俺にも責任はあるみたいだけど、 ・・・おまえの弱さだって問題なんだよ、 こんなことになっちゃたけど、 まだ間に合うから、 ゆっくり治して行こうよ、付き合うから・・・」 生々しい体温に、キケロは自分の血の音を聞いた。 エリックがキケロに喧嘩をさせるようになって、 相手を小さく攻撃するだけで、満足するぐらいに、どうにか成長して今に至る。 エリックがエリックのやり方で、エリック一人でも戦いに勝てることを、 知らない人間がエリックを馬鹿にしても、 キケロの力にすべてを任せることを、エリックはやめなかった。 キケロとの約束を守っていたのか、エリックの人格が成長したためかは知れない。 そのエリックの心に、小さな歪みが生まれていたこと。 自分を劣った存在だと、感じる心の破壊力は凄い。 エリックがこっそりとキケロと同じよう、 肉体的な強者になれるよう努力をしていたことは知っていた。 キケロに対して劣等感を持ち、何かと突っ掛かって来たこと。 その頃はまだ微笑ましい。 だがエリックがキケロとの見えない戦いに、 負け続ける痛みを異性に癒してもらうようになったことがキケロには問題だった。 「キケロ?」 再び呼ばれる。目の前のエリックは緊張していた。 キケロは己の息遣いが、荒くなっていたことに気づいた。 エリックの隣にキケロではなく、見知らぬ可愛らしい生き物がいたこと。 それはエリックを癒し、エリックに愛されていた。 「まだいるのか?」 「何が?」 キケロの唐突な質問に、エリックは優しく返す。 「耐えられない」 呻いて転がると、エリックは腕の中で、上から下へと擦り落ち、 ベットの上の体勢は、如何わしいものになった。 「おまえは何がしたいの」 「言ったら嫌われる」 「・・・わかんないよ?」 腕の中に閉じ込めたエリックの身の熱が、鼻まで届く。 「暴れるなよ」 「暴れるようなことするの? 俺のこと殺す気?」 「殺すなら殺すし殺さないから殺さないし、 俺はまともだろーが何言ってんだ」 「殴るの?」 「殴ったら痛ぇだろ」 「キケロ?」 「何だよ」 「俺がわかる?」 「エリック」 「目、覚めた?」 「覚めてる」 「ちょっと怖いよ、何する気なの?」 「動くな!」 身じろいだエリックに、叫んだ声の大きさ。 キケロ自身驚いた、 エリックの方がどれほど驚いたか、 想像はつく、エリックは怯えている。 咽喉の動きでそれがわかる。 呼吸も乱れている。 今、目の前で、動揺し、怯えているエリックは、 これから酷い目に合う。逃げ場はない。 助けてやりたいが、助けてやれない。 「エリック・・・、 エリック・・・、 エリック」 「何?落ち着いてよ、目、覚めてるんでしょ?」 「・・・覚めてるならとっくだろ」 「しっかり目ぇ覚まして、キケロ!」 「エリック・・・」 「起きろよ!!」 「起きてる」 「キケロッ!!!」 ついに泣き声混じりに、叫ばれたがその叫び声に逆に、 火を付けられたこと。 勢い付いた指が、エリックの来ていたシャツの前を、 ぐいぐいとひっぱって中を曝そうともがく。 「キケロ、やだよ、 まさかとは思うけど・・・」 「出せ、出せよすぐ、出せ、見たい」 「おまえ、自分が何言ってるかわかってる? 怖いよ、おまえ、何考えてんだよ」 「見せろよ」 「俺だってわかってる?! 今、おまえが襲おうとしてるのは、 俺なんだよ?!キケロ! 目、覚まして・・・、俺だよ、ねぇ、 目ぇ覚ませよ!!!キケロ!」 「覚めてる」 「っ」 泣きそうな顔、事実を受け入れるのに、 唇を震わせて、涙を堪えながら、 エリックは目を瞑り、息を吐いた。 「どうして・・・欲しいの?・・・おまえは」 「出せ」 「何を」 「この下、見せろ」 「っ・・・」 諦めきれないのは当然で、 エリックが己の身をキケロの手から、 守りたいと考えているのはわかった。 だから必死で訴える。悪質な視線だった。 「見たら満足できるの?」 「知らねぇ」 「・・・約束してよ」 「出せよ、出すの駄目か?」 「駄目」 「これ、見てぇのに、駄目、なんで駄目だ?」 キケロの指は、エリックの胸の、 突起をシャツの上からくりくりとなぞって、 それをみるまに硬くさせた。 「硬くなった」 「っ」 エリックがキケロの肩を押し身を捩る。 「エリック」 「やめろ」 「硬くて・・・」 「やめろって!」 エリックの腕は、見境なくキケロを己から引き剥がそうともがいた。 「エリック」 額を、ぐいぐいと押す力は本物だったが、力勝負になるなら、負ける気がしない。 「ンは・・・っ」 硬くなったそれに、キケロが吸い付いた瞬間、 エリックの口から溜息のような、嬌声が漏れキケロの感覚を麻痺させた。 汗で額に、金のあの細い髪が張り付いている。 「・・・ほら、変な声出ちゃった、から・・・、 やめろよ、不毛でしょ、 そんなとこっ・・・ぁ」 「透けてる」 「・・・っ」 エリックの突起は、濡れたことと勃っていることで、 胸でてらてらと目立って、卑猥なものに変化していた。 「ンッ!」 それを摘まれ、エリックの身が反る。 エリックの息は乱れて、小刻みに響いていた。 「ここも勃ったな」 キケロの膝が、エリックの下半身を指摘すると、 エリックは弱弱しく笑みを浮かべた。 「そういう時期の身体なんだよ、 トイレ借りるから・・・、 静めて来る、放して」 「ここで出してけよ」 「ぅア・・・!」 ぐり、と膝は今度、刺激を開始し、 エリックの顔が引き攣る。 「んっ」 「赤くなるのは反則だな」 「そっちこそ力づくは反則だよ、 っていうか、犯罪・・・」 「エリック」 「ッァ・・・っふ」 上下、潰すようにぐりぐりと刺激すると、 エリックの肩は頼りなげにびくりびくりと震えた。 「ぅンッ!・・・んッ・・・!」 丸まって、腕で顔を隠すので、 腕を押さえつけて覗く。 ぎゅっと目を閉じ、赤くなっている顔は熱そうで、 口は息を吐き出すと同時に、嬌声を抑えるため忙しなく震えていた。 その抑えられている声を聞きたくて、刺激を強める。 「ぃアッ?!・・・アぁ、っは、強い・・・って、力、やめ、痛っ・・・」 「こんなの、機能しなくなっちまえばいいな」 「は?!」 ぐっ、ぐっ、と押していた膝に、勢いを付けると、 エリックは怯えるよう、両手で耳を塞ぐ。 「っ、ィ、・・・は、 はぁ、・・アッ・・・!何でっ・・・なん・・・、嫌だ、・・・って」 「何が」 「ぁ゛・・・っ!ぁ・・・!」 息に混じる悲鳴が、なめまかしくキケロの耳を覆って、 盛り上がった欲望が目の前のエリックの、 胸の突起を見つけた。 「ひぁ、っ」 吸い付かれた感触に、高い声を上げ、エリックは仰け反った。 「痛、・・・っは」 肉体の受ける刺激の強さに、混乱している頭が、 エリックに多量の汗を掻かせる。 「エリック・・・」 エリックを腕の中で好きにしている、 それだけで興奮し、勃ち上がっていた己、 エリックの身体の、温度にいつまでも、 耐えられるわけがなく、達してしまった。 キケロが落ち着いたおかげで、エリックの元に二箇所、 来ていた攻撃が止んで、エリックはぐったりとベッドに溶けた。 「・・・エリック」 「呼ぶなよ、・・・さすがにおまえに、優しいこと、 今、・・・言ってやれる自信、ない、何でこんな、」 「悪い、まだ・・・」 「何?!」 「まだ」 「まだ・・・何、・・・」 「まだする」 「嫌だよ」 呟いて、ぶわ、とエリックの目の淵に、 涙があふれたのが見えた。 歯を食い縛った口の端から、ふぅ、と熱い息が漏れ、 薄い胸が上下する。それがまた艶かしく映った。 「いやだ・・・っ」 「嫌でも・・・、エリック・・・」 「っ、なんで」 「泣くのか?」 「こんなの・・・最悪、・・・おまえ、最低だよ」 「・・・」 薄暗い部屋の中、押し倒している身は、 服を着たままだったが、胸が透けているし、 汗ばんだ肌はじっとりと濡れていた。 「見たい」 ぴったりとシャツが張りついて、 透けて見える肉体の上、手を置いて要求する。 「見えてるでしょ、もう」 「見せろよ」 「・・・」 「破ればいいか」 「・・・」 諦めきった瞳の、死んだような光。 もそもそと動いたエリックの指が、エリックのシャツの前を開いてくれた。 滑らかな肌の、広がる景色に、ぽつんとある突起の、そこだけ濃い色。 呼吸でその身の命の部分が、揺れるたび、生々しい色香が漂って来る。 視線を上げれば端整な、その顔がぐったりと疲れを帯びて、 見下ろしてくるのだから眩暈さえ覚える。良心がないのはキケロのほうだった。 色香の前にエリックの心を、想像することがまったくできない。 「キケロ」 ぼんやりと壮絶な眺めに酔っていると、頬に手が添えられて、びくりと身が強張る。 「もうやめよう、もう、 ほんと、これ以上は、耐えられないから・・・」 エリックの頬は上気していた。 恥らいで背けられた顔の、斜めに見える戸惑った表情。 顰められた眉に潜む悲しみと恐怖心が、支配欲を生んだ。 身を動かし、エリックの首筋に吸い付く。 切られてはまずい血の管をなぞって舐め上げてまた吸う。 「エリック」 見ると今度は静かに、涙を流しているエリックの頬を撫でる。 「おまえのこと好きだった」 「俺は今でも好きだ」 「・・・もう二度と好きにならない」 「何で泣くんだよ?」 愚かな質問をしながら、何も映す気のないエリックの瞳を見て、 キケロの麻痺していた心は、冷たく痛んで停止して重くなった。 痛みを紛らわすよう、エリックの履いていたものを脱がす。 眼に入ったものは、さきほど甚振っていた性器。 手に取って、しばらくぼんやりとする。 「珍しくもないでしょ」 「おまえのだと思うと・・・」 「気持ち悪い」 ばっさりと切られ、すごすごと手を放す。 エリックの腿は、白くすらりと伸びていた。 その根元にある入り口に、指を触れるとやはり、 エリックの身は緊張し、顔を見ればしっかりと怯えていた。 唾をかけ、ぬるつかせた指で、何度か撫でてからつるりと中に侵入する。 瞬間、反射的にぴくん、と跳ねたエリックの脚。 逃げようと指から、無意識に遠ざかろうとする身体を押さえる。 腰を掴み片足を、こちらの片足で挟み込み固定する。 「っ、・・・ィ、ぁ、痛、っは、痛いっ・・・」 暴れる身体は哀れで、その身体の主がエリックである不幸。 顔を覗けば、エリックは目を閉じて歯を食い縛っていた。 「エリック」 エリックが目を閉じてしまっているのが残念で、 ずぷっ、と一度に深く入れてしまった。 案の定、衝撃にエリックは目を見開き、 己がキケロの身体の一部を、深くまで食い込んだことに怯えた。 「抜・・・いっ・・・ァ」 うわ言のような要求には応じず、中の締め付けに耐えて指を動かす。 「っひ、・・・うぁ、・・・あっ、ぅ」 「二本目入れるぞ?」 「むっ・・・っは、無理っ・・、って、こん、な・・・」 ぼろぼろと出て来る涙が頬を伝う。 エリックは苦しくてたまらないという表情で、弱弱しく首を振ったが、 後戻りはできない。 「死ん、っは、入ん、なっ・・・嫌だ、キケロ!!」 立て続けに、待機していた三本目と四本目を無理に捻じ込む。 「アッ?!・・・はぁ?!ぅあ?!」 奥へ。 「アアアア?!・・・アッ」 「エリック・・・」 「ひぁ・・・っぁっ、・・・ヒ、は、ゥ!・・・っふ」 四本が、ずぷずぷと沈んでいくと同時に、 腰と足の部分で、押さえつけているエリックの身がびくんびくんと揺れた。 「やめ・・・やぁ、はぁ、も・・・許、・・・っ」 「エリック」 「嫌だ、嫌」 「ふ・・・ァっ?!!」 中に入れたひとさし指を、少し動かしただけ、身はまたびくりと跳ねた。 四本を同時に動かすには力が居るだろう。 握力を測定するよう指に力を集めていく。 嫌な予感でもしたのか、エリックの息が荒くなって行く。 「ッハ、ッハ、ぁ、っふ・・・ゥっはぁ」 指をばらばらに動かす。 「あぁアアあ?!はン・・・?!あ・・・!」 その中の指が硬いものにカツンと、思い切り当たって、 エリックが射精する。 「・・・」 驚いたのはキケロだけではなく、 エリックはこの世の終わりのような顔で、 放出してしまった事実を見つめた。 「っは、」 次から次と溢れ、 こぼれて行く涙で頬を汚しながら、 エリックは壊れたように笑った。 「はは・・・わかった、これ逆襲なんだね?」 「・・・」 「おまえは俺に、酷い目に遭わされた代表だもんね」 「・・・」 「こんな屈辱、・・・よりによっておまえから」 「・・・」 「俺はこんな目に遭ったなんて、 恥ずかしいから誰にも、言えないような人間だし、 それを一番よく知ってるのはおまえだね、 大成功だ、キケロ、 おまえに裏切られることは、 俺にとって随分な苦しみだ」 「・・・苦しめたくて、やったことじゃねぇ」 「でも事実苦しんでる、 そんな頭でも、目の前でひぃひぃ言って泣き叫んでる人間がいたら、 苦しんでるってわかるでしょ?! わかっててやめなかった、 おまえの頭には、おまえが気づいてないだけで、 俺が憎い、どうなってもいいって、 考えがあったんだよ」 「・・・」 「否定できないね、・・・俺にとって、 おまえは大切だったけど、 おまえにとって俺は大切じゃなかった、そういうことだよね」 「・・・」 責められて苦しくて、指を動かす。 「ぅあっ」 「そういうことかもな」 「っ・・・」 エリックの顔が歪む。 「俺はおまえをぐしゃぐしゃにしたかった」 「ぁ・・・あっ・・・、 はぁ、・・・」 エリックの指がベットの布をぎゅっと掴むのが艶かしい。 エリックの出した論に、反する元気はない。 エリックがそれで納得したいのなら、納得させてやることにした。 痛くて重くて冷たく固い、心臓はいっそ吐き出して捨てたい。 「エリック」 「っふ、・・・ぅ」 エリックの中に入れていた指を抜き、 己の半端に勃ちあがった性器を、指の代わり侵入させる。 「っあぁッ・・・!」 「く・・・」 キケロを拒絶する肉壁を裂いて、 進んで行く道の苦しさ。 「っは・・・」 エリックの目からまた、涙がとめどなく流れ、 仰け反って横向いた顔に、斜めに筋を作って行く。 「あ・・・ぁ・・・ア・・・」 「うっ・・・」 キケロは嗚咽を上げた。抑えきれず出た。 鼻水が垂れる。 「ああっ・・・」 エリックの悲鳴と共に、性器がエリックの中に納まる。 互いに息をつき、エリックがこちらを見た。 「鼻水汚い」 だったらぬぐうな。 鼻と鼻の下を、擦っていったエリックの手は、 暖かくすべすべとしていて、優しかった。 「憎くなんかない」 呟けば忌々しそうに口端を持ち上げられた。 「俺は時々憎かった」 「・・・」 「憎みあってしまえばね、 さらりと別れることができるから、 もう、憎み合おう、 こんな最悪の事態にもなってるし、 おまえのこと引き止めたくない、 ずっと俺のアウレリウスでいて欲しいって、 言いたくないんだよ・・・」 「おまえが・・・」 「駄目」 「・・・」 「要らない、おまえなんか要らない」 「ああ」 「嫌われてるし、嫌ってるから、 だからすっきり、お別れできるね、 キケロ、・・・復讐が成功して良かったね、 二度と顔見せないで、 話しかけないで」 「・・・動く」 「ぅア、・・・っあ・・・ン、 ンぁ、あぁ、・・・っは」 「エリック・・・」 「ふぁ・・・っ、痛、・・・っは、 あ・・・」 涙と、苦悶を眺めながら、 興奮できる自分。 良心なんてものも、エリックへの愛も、実は持っていなかった。 そういうことだろう。
* 「気をつけて」 気づけば地に足がつき、 場所は飛行場前。 「御主人様は見送りにさえこないと、 どんだけおまえのことどうでもいいんだっていう」 「・・・嫌いなんだと」 「うわーい、ざまみーっ」 見送りに来た、サリト・シュトールは笑顔。 狂った時に、世話になったらしいが、記憶が飛び飛びで覚えがない。 エリックはどうして見送ってくれないのか。 ぎりぎりまで待つつもりで、突っ立っている自分は愚か者だろうか。 人混みの中、広い飛行場の、多くある出入り口に目を走らせて。 一番に遠い、場所に金の髪と、端整な顔を見つけた。 「エリック・・・」 思わず呟き、サリトが鼻を鳴らす。 キケロに見つかったことがわかると、エリックは居なくなった。 その時の、恐怖の顔に胸がぎゅっと痛くなる。 純粋な怯えの色。見つかったことへの動揺。 何だというのだ。 「あ・・・」 何度か見た覚えがある。 キケロの中にあった、エリックの記憶は優しく世話をしてくれただけのもの。 その中に、無理に身体の上に乗せて、そのまま襲った記憶。 それから何度も呼びつけて、同じように組み敷いた記憶が割り入る。 一度来なくなって、だから探し出して襲った。 エリックが泣き崩れてしまったこと。悲しかった。 紛れもない犯罪行為を思い出した。 恐ろしくなり、見なかったことにする。 エリックは見送りに来なかった。
終
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