大学の講義のあと、そのままバイトへ向かい5時間の接客業をこなしたのち、ヘロヘロになりながら独り暮らしの寂しいアパートへとどうにか辿り着いた俺に対して、
この仕打ちは一体なんだと言うんだ。
見知らぬ靴がある。 見知った靴もある。
見知らぬ声がする。 見知った声もする。
一人暮らしの部屋の中に見知った男と見知らぬ男二人仲良くベッドをギシギシ言わせて最中とはどういうこった。
「あ、ああんっ、あぁ、いや、もっとぉ!」 ・・・どっちだよ。 「ハ、この淫乱野郎が。」 ・・・てめぇは絶倫野郎だよ。
「…お、帰ったのか、翔(かける)」 自分の腰の上で綺麗な男をあんあん言わせながら俺に気づくとは随分余裕だな。 「ああ、帰ったよ佐伯。此処俺の家だし。」
「あ、きゃぁ!な、ぁんっだ、だれ?んっ!」 佐伯に跨り揺さぶられ続けていた綺麗な男は今俺に気づいたらしい。 喘ぎながらも首を回しこっちを見て悲鳴を上げた。
「なんだ、見られて興奮してんのか?締りが良いぜ?」 「あぁぁ、そ、んなことい、言わない…でぇっ、あんっ。」
俺のことを気にすらせずに(むしろ良い興奮材料として使いやがった)行為を続ける二人に俺はため息をついた。
「…俺ちょっと出てくるわ。」
もう深夜だ。 春とはいえ風はまだ少し冷たい。 こんな時間に空いてるのなんて24時間営業のファーストフード店しか思い当たらなくて、俺は某ファーストフード店に入りコーヒーを頼んだ。 正直このコーヒー一杯のお金だって節約中の身には痛い出費だ。 店員は俺がこのコーヒー一杯で居座る気なのをみこしてか、スマイルのスの字も出しやしねぇ。0円じゃねぇのかよ。
店の中の客は俺と明らかにこっちをチラチラを見てくるオヤジの二人しかいない。 店員は用は無いとばかりに店の奥へ引っ込んだ。 オヤジがチラチラこっちを見ながらハァハァ言ってやがる。 おいおいおいおい、まさかだろ?勘弁してくれよ?
俺はそのオヤジから死角になるように一番遠い席に座りコーヒーを一口飲んだ。 今頃佐伯とあの綺麗な男は一段落ついて(俺の)ベッドの中でイチャコラとまどろみ合ってるんだろうか? …一体俺は今日何処で寝たら良いんだろうか? カフェイン摂取しながらも疲れた体は正直で眉が重くなってきた。
「ねね、ね、ねぇキミ?」 ねねねね、眠いんですけど。 いつのまにかオヤジが近づいてきてた。 眠いとは言え油断した。心の中で舌打ちする。 「…なんですか?」 「やだな、さっきメールくれた子でしょ?」 「人違いですねー。」 「嘘つかなくて良いんだよ。大丈夫、僕優しいから。」 「…人違いですって。」 「この店で待ち合わせしたんだもん。」 「俺じゃないですよ。」 「こ、怖くなっちゃったんだね、ハァ大丈夫、ハァハァ想像してたよりずっと美人だ。」 「あのー…。」 「さっきは3万って言ったけどハァハァ、キミになら5万出すよ。ホラ、行こう?」
腕を掴まれる。 俺は振りほどこうとして抵抗する。
って、おい!そこの店員! 興味津津で見てんじゃねぇよっ。さっきみたく店の奥に引っ込んどけっつーんだ、クソッ!
「マジ、勘弁しろっつーのっ!!」 オヤジを強引に引き離し俺は店を飛び出した。 その瞬間机にあったコーヒーは思いっきり倒れ見事俺のお気に入りのジーパンに黒いシミを残してくれた。
厄日だ。 佐伯と出会ってからもともと不運体質の俺はさらに悪化したと思う。 というか佐伯事態が『厄』だな。
家に帰るとあの綺麗な男は居なくて右頬に赤い手跡を残した佐伯がソファに全裸でのさばり煙草を吸っていた。 …俺煙草嫌いなのに。あんな体に悪くて金しかかかんない物。
「おぅ、おかえり。」 「ただいま、随分早くお姫様は帰ったんだな?」 「…12時の鐘でも鳴ったんじゃねぇの?」 「ハハッ、ガラスの靴どころか赤い手跡を残して、か?」 「お前こそ股間に黒いシミ付いてんぞ、漏らしたのか。」 「…コーヒーだ、馬鹿。」
くくっと佐伯は笑いながら「腹減った。」と呟く。
「何もねぇよ。お茶漬けぐらいしか出来ねぇ。」 「…食いたい。」
俺は仕方なしに急須にお茶の葉を入れお湯を沸かし始めた。 塩コンブと鮭フレーク…あと、なんかあったか? 冷蔵庫をゴソゴソ漁る俺に佐伯はいつの間にやら近づいて後ろにぴったりくっついた。
「うぉ!ビビらせんなっ。」 「…美味そうなもん、みっけ。」 「あ、どれだよ?」
俺が冷蔵庫に視線を戻すと佐伯が無理やり冷蔵庫の扉を閉めた。 俺の鼻の先で冷蔵庫がバタンッと豪快な音を立てて閉まる。
「っぶねーなぁ!佐伯、気をつけ・・・。」 そこまで言って気づく。 俺の尻あたりに当たる佐伯の股間が熱いことに。
つか、佐伯は全裸なせいでダイレクトに感じる。
「おま、美味そうなもんて…まさか」
これ以上ないくらい男前な笑みを浮かべた佐伯に俺の頭には『敗北』の2文字しか浮かばない。
「あああぁっ。」 こんな声を出せば間違いなくこの壁の薄いアパートじゃ丸聞こえだろうな、と思いつつも止まらない。 ベッドはさっきの綺麗な男と佐伯の性行為ですでにびしょ濡れだ、コレ俺が明日洗うんだろうな…そんな考えも一気に奪われる。
「うっ、ふ!は、ぁ、はんっ。」 リズミカルに出し入れされる怪物に俺は同じようにリズミカルに喘いだ。 四つん這いの格好で後ろから突き刺されてる俺はまさに雌犬みたいだ。
俺の可愛い息子はびんびんに立ち上がり涙を流しているというのに。 縛られた俺の腕は不自由で可愛がってやることも出来ない、くそぅ。
「こっちも気持ちよさそうだな。」 俺の息子に気づいた佐伯が息子の先端をグリグリとこねる。 「~~~~~っっっ!!」 俺は快感で背をのけ反らせながら首を振る。 佐伯は息子を可愛がってくれながらもその首を絞め、解放することを許さない。
最後、佐伯の熱いものを体内で感じながら俺は自分の意識がぶっ飛ぶのがわかった。 …ゴムを付けるぐらいはエチケットマナーにしといてくれ。 そう言いたいと思いながら俺はブラックアウトした。
いつこんな風になったかなんて、俺がよく知ってる。 高校の最後の文化祭『佐伯が好きだよ』と俺なりの精いっぱいの告白を佐伯は『へー』と耳を小指でほじりながら言った。
その後気が向いたときに俺を抱く。
「好き」? 「愛してる」? そんなものは言われたことないし、これからもないだろう。
佐伯は俺を良いセフレとして扱う。 それなら俺も良いセフレであろうと、そう必死になった結果がこれだ。
愛されたいなんて望まない。
だから、もっと頑張るから
俺を抱いてくれて、ありがとう佐伯。
頭を撫でられたような感覚に俺は気持ち良くて自然と頬が緩んだ。
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