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 (友達になりたくない×友達になりたい/15禁)
『何か』







固定されてからでは、手遅れなものがある。
「ちょっと購買行って来る」
「あ、俺も行く」
「・・・」
いつもの組み合わせのいつもの調子が今日も、
俺の周りで展開されていた。
「それ、今から食うの?」
「食う」
「ダダってホントよく食うよねー、さっきコレ二つ空けたばっかじゃん?」
「ほっとけよ」
弁当箱の空二つを指して冷やかし笑うエリックを睨み、ダダが席につく。
購買から帰ったダダの手元の袋には、菓子パンが三つも収められていた。
続いて缶ジュースで手を温めていたカルロが槍玉に上がる。
「カレージュース苺味・・・」
「うまいんだぞーこれ」
「リオネが一口飲みたいって」
エリックの無茶ぶり。
「おい」
怒突く。
「リオネ、俺、リオネと間接キスはちょっと・・・」
すっぱい顔で、カルロがふざける。エリックが笑う。
「狙ってねぇ。第一飲みたくもねぇ。カレーで苺な飲料とか・・・」
「えー?うまいぜカレー苺!」
「あれじゃない?フルーツカレーみたいな感じなんじゃないの?」
「あ、うん、そんな感じかも」
「だってリオネ」
エリックは楽しそうだ。
「おまえはどうあっても俺に飲ませたいんだな!ってか自分で飲めよもう」
「だって、俺、カルロと間接キスはちょっと・・・」
「そのネタはもういい!」
「酷ぇー!エリック、俺は駄目だけどリオネならいいの?!」
「まぁリオネなら」
「・・・っ」
「ダダ!エリックが!エリックがさぁ・・・!」
「やめろ、俺をその寒い会話に巻き込むな」
カルロが騒ぎエリックが笑い、ダダが呆れる流れの中で、
冗談のノリに本気の衝撃を受けている自分が情けなかった。
カルロが騒ぐことを見越して、俺をネタにしたエリックの、
無邪気な会話の運びが憎い。
「俺が飲んだら飲むんだな!」
「?!」
カルロから奪った缶は暖かだった。
「・・・うぇ!」
洩らした声と同時、カルロの騒ぎ声。
「おいー!これ量少ないんだぞ!」
「貸して」
「あっ!」
ぐい、と煽るエリックの顔、瞑られた目に、
少しのいやらしさを感じて目を逸らす。
「っウ・・・!」
眉間に皺をよせ、目を細め数秒。歪めても絵になる美形の力。
「・・・いまいち」
呟き、がたん、と席を立ったかと思うと教室の隅、
丁度駄弁っていた場所から1,2m程度に設置されていた、
缶用のゴミ箱にその缶を捨てたエリックをカルロが叱った。
「何捨ててんだよ!」
「え、だって俺で空んなっちゃったし」
「はー?!」
「ん?俺と間接キスしたかった?」
「誰がだよ!女装してないエリックなんて俺興味ねぇし」
「あっそ?」
「ダダ、新しいの買いに行こうぜー」
「一人で行けよ」
「じゃぁエリックとリオネで買って来るってことで」
「何でそうなるの」
「缶飲み干しただろー!」
遠い購買、冬はあまり出向かなくなる場所だった。
しかし冷えた廊下も渡り路も人と行くなら短いもので、
エリックはごねたが俺は黙って席を立った。
「寒い」
室内と言えど廊下は冷え切り、学生を骨から凍らせる力を持っている。
猫背に呟いた背は薄く、つくづく、しなやかな線の男だと思う。
カルロと違い、俺はエリックを男と認識しながら意識している。
「冬だしな」
「早く教室戻りたいッ」
「どこも変わんねーって」
「変わるよ!」
軽口を叩きながら、早足のエリックに、内心ストップを掛けたい己の気持ち。
少し前を行くエリックの細い首に目が行き、その下、
服に隠された身は熱を持つこと。
「エリック」
「ん?」
振り返った顔が、珍しく崩れていた。
油断しきった、寒さを嘆く顔。眉を下げて、切羽の詰まった瞳。
抱き付きたいと思う自分を末期だと自覚しながら、
何かが起こることを日々期待している。
「鼻水」
「えっ?!」
「冗談」
「・・・」
姿を見ないよう、前に進んだこちらの、気も知らず、
からかいへの反撃に軽く蹴りを入れて来た友の、自然なじゃれつきに笑みが浮かぶ。
エリックは特殊でも、人嫌いでもなく、当たり前のことに当たり前の、
感情を持つ同い年の男で、だから、「何か」が起きてはいけなかった。
「リオネって時々性格悪いよね」
「常に性格悪いおまえにはかなわねーよ」
「・・・俺、性格悪い?」
「自覚ねぇの」
「や、ないってことはないけど・・・指摘されると地味に傷つくんですけど」
「つか、性格良いエリックとか考えつかねー」
無言の後、蹴り、小さく傷ついているらしいが、
それぐらいはこちらの胸の負担を思えば小さい。
「あった、カレージュース苺味」
「カレージュースバナナ味もあんのか」
「・・・凄まじいね」
気づけばどくどくと、早まっていた心臓は、
寒さのせいではなく、俺の口付けた缶をエリックが煽ったこと、
それを、ふいに思い出して、意識する心のせいだった。
購入した缶を見つめエリックがにやりと笑う。
「あいつ途中まで飲んでたくせにさ、よくあんなに騒ぐよね」
「大分軽かったぜ、持った時」
「どうせ奢らせる気だろうし、飲んじゃおうよ」
「これを?」
「うん」
「・・・」
「ちょっとクセになる味だよね」
「正気かよ・・・」
「嫌ならいいよ、あっためるなら胃からだよねー」
「なるほど寒いんだな」
「うん」
カシュ、と音を立てた缶が、エリックの唇と接触し、
だから俺はその缶が欲しくてたまらなくなる。
「うわ、やっぱまず!」
顔を顰めるエリックの手から、缶を奪い少量口に含んだ。
「ゲロ甘」
「結局飲むんじゃん」
「仕方なく」
「間接キス完成のために?」
「ッ」
「冗談冗談」
「・・・」
咽てしまったこちらに笑い掛けるエリックの、
丁度、頃合を見計らってネタを繰り返すという、
笑いのテクニックの高等さを恨む。
辺りの人の気の無いことを確認し、
狭い自販機の並ぶスペースで、壁際に居たエリックと距離を縮める。
「リオネ?」
押しつぶされるように、壁と俺に挟まれたエリックから表情が消える。
「正直、間接じゃ、・・・物足りねーかも」
「・・・うわー、笑えない」
近い距離にある、エリックから、
ほんのりと感じられる熱に当てられ、
勢いづく己が止められない速さで、エリックの顔が目前にある喜び。
息の当たる近さに眩暈を覚えながらできるだけ真剣な顔をつくる。
「リオネ・・・おい、ちょっ・・・」
「・・・」
「おいって!!」
青ざめ、本気で慌てたようなエリックの声に笑い顔をつくる。
「・・・ビビった?」
「・・・」
どう喚くのか、それとも呆れたような顔をするのか。
「・・・ビビったよ」
「・・・」
「悪い?」
ぼそりと、洩らされた声は悲しげで悔しげ。
どきりと鳴ったのは痛みか喜びか。罪悪か。
「エリック」
「・・・」
目の前のエリックの顔は、本当に苦しげで、
その細められた目だとかその目を飾る睫毛の揺れだとか、
寄せられた眉と食い縛った口から、漏れる息に興奮しそうになる己。
「嫌な奴で・・・ごめん」
「ん?」
俺の望む、何かの起こることを最も恐れている人間。
俺を必要としてくれているからこその恐れだった。
「エリック」
「我慢できなかったらすぐに消えるから」
「・・・」
「ダダもカルロもさ、おまえが好きなんだ、
 でも俺のことは・・・、きっと、おまえが居るから・・・」
「そういうこと、あんまり気にしない奴だと思ってた」
「・・・するよ、人だもん、・・・好かれたいよ、
 できればね、ただどうすれば、
 好かれるのかわかんない、おまえは知ってる、
 だから、・・・卑怯だよね俺はっ、
 おまえのことわかってて、
 あの輪の中に居たいっ・・・から、
 俺一人じゃ、あんな輪つくれなくて、
 あそこは、居心地が良い・・・毎日が楽しい」
「・・・」
「ごめ・・・」
「いいよ」
「おまえの気持ち利用して、
 踏みつけてるね」
「うん」
「いつか友達になってくれるって、
 都合良いこと、考えてたよ、
 失いたくないんだ・・・」
「うん」
「一回甘い汁吸っちゃったらさ、
 もう駄目、あの輪から、
 抜けたくない、俺は、
 おまえに応えられない、
 でも失いたくない」
「ヤな奴だ、おまえは本当に嫌な奴だよ」
「・・・良く言われる」
「いつか俺に襲われても、知らないからな」
「その前にもっと、おまえにとって必要な奴になるよ」
「・・・」
「それに、襲って来ても返り討ちに、す・・・」
肩を掴み壁に押し付け、口を塞ぐ。
「ぅ・・・っ」
「何、返り討ち?」
「・・・」
開放すると熱い息を吐いて、唇を隠す、
仕種にまた色気を感じる。
「・・・クっ・・・ソ」
こちらは全力の力を出し迫るが、
向こうは友人に対して、力一杯の抵抗が、
できないことを知っている。
ましてエリックのような、人に恵まれない男が、
嫌われるかもしれないぐらいの痛みを、
身を守るためだけにふるえないことを知っている。
「ずるくない?今のはさぁ」
憎憎しげ、呟かれた声に溜息をつく。
「怖がっとけよ、せいぜい、
 それでやっとお相子になるから」
「・・・」
「今日みたいなの、って、わざとやってるとしたらさ、
 あれは、おまえなりの挑戦?
 俺が暴走しないくらい、おまえが大切かどうかの」
かまをかけて、手を出されたら、
自分の価値はなく、
手を出されなければ自分の価値はある。
どうしても知りたかったのだろう、
せっかちで不安定な人間だ。
「・・・勘付くあたり、おまえも相当性格悪いよ」
エリックは絶対の友を欲している。
「最近自覚して来た」
しかし応えられない。
「どうしたら好きになってくれるわけ」
「いや、好きだけど」
「そういうほうじゃなくて」
「・・・」
「努力するから・・・性格、ちょっと、改善したい・・・つか、
 する、・・・したい」
「うん」
「おまえが、俺との、関係壊すの、
 恐れてくれるようになるまで頑張る」
「・・・それ喜んでいいのか悪いのか」
「オトモダチが頑張るって言ってたら頑張れぐらい言えば?
 ってわけで離れて離れて人通るから、誤解されたら困る」
急激な、冷たい声に胸が痛い。
これでも恋しているのだから、
些細なことで傷つくのだ。そこを気遣って欲しいというのに。
「皆、信用した途端裏切って来るよね」
「ゴドー先輩も俺も、悪気はないんだよ」
「なくても悪だよ、悲しくなるし」
「・・・それだよ、そういうとこだよ」
「は?」
「今何の話してたからわかってるよなぁ、
 俺はおまえが好きなんだよ、そういう気持ちを悪呼ばわり?
 悲しい?あー!むかつく!!思いやってみろよ!!少しは俺達のこと!
 おまえが思いやらないから俺も思いやらない!この無神経!」
「・・・」
言い放ち、くるりとエリックに背を向け教室へ走る。
「あれ、リオネ、エリックは?」
「さぁ?」
「何怒ってんだよ、エリックに暴言でも吐かれたの?」
「おまえも怒りやすいからなー」
「ホントあいつ無神経」
「あらあら、可哀相に酷いこと言われたのねぇ~」
缶をカルロの机へ、置くと中が走ってる内、
大分こぼれてしまっていたことに気づく。
「でもそれがエリックの持ち味だよな」
ふいにカルロが呟き、ひやりと背に冷たいものが走った。
エリックが理解され始めている。
「まぁ、何か無理だろうな、あいつが良い奴になるとか」
ダダの同意に苛々とする。このままではエリックは溶け込むだろう。
関係が友達と友達と友達で、固定化されてしまう。



永遠に何かが、起こらなくなる。

ならば起そうか。



もし起したとしたら。
想像してみて、
失われるものに、ちくりと胸が痛んだ。












作者のホームページへ「バスケ部リオネとそばかすのカルロと太っちょダダと無神経エリック、という四人組がわいわいしています。」
...2008/12/26(金) [No.464]
むー
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