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 (浮気 高校生 受験 冬 渋谷/15禁)
浮気と12月


俺と君◇◇◇◇◇◇










浮気しようかなぁって思う。

東横線のホームの雑踏。



隣りには生憎、君はいない。

この間までは一緒に帰れたんだけど。





愛されてないとか、そんなわけじゃない。

ケンカが絶えないわけじゃない。

二人とも仲はいい。



それは分かってる。





目の前は曇り空の街、もっと何かがしたいと思っているのに、何も出来ないまま時間だけは過ぎる。

渋谷は相変わらず騒々しくて、俺はアイポッドの音量を増やす。

この間、君がくれたsyrupとかいう解散したバンドの曲が流れ出す。

日本のロックはあまり聴かないけど、うん・・・、まぁまぁ。



まぁまぁ・・・。

心が淀んでるときはどんな曲を聴いても、全然響いてこない。

俺はただ雑音が嫌いなだけだ。

音楽なんて実はどうだっていいんだけど。





俺は君のことを困らせようとか思ってるわけじゃない。



でも、何だか退屈だから。



っていうか、それ以前に会えない。



理由は分かってる、・・・君は受験だから。

俺は推薦で持ち上がって、付属の大学にこのまま行く。

てっきりずっと一緒だと思ってたのに、君は受験するんだなんて。

そんな事、いきなり9月になって言い出すなよ。





付き合い始めた日のことを覚えてる。

もう半年も昔。







君は俺のことが好きだったらしくて、

好きで、

好きで、

もうどうしようも堪らなくなって、

勇気を出して告白して、





そして手に入れた恋だったのに。

それなのに、その相手は、今、浮気しようとかそんなことを考えている。

思った以上に真面目に、真剣に。





俺は別に何も感じなかったわけじゃない。

少しは君の事を大事に感じていたらしいから。



渋谷駅の雑踏を過ぎて、明治通りを歩く。

今更だけど、代官山にでも寄ろうかな。



でも、今日は服もレコードも買う予定はない。

このまま帰ろう。

あぁ、何だって、こんな辺鄙なところに住まなきゃいけないんだろう。

明治通りは無駄に広くて、俺はいつもうんざりしながら歩道橋を渡る。





歩道橋の上に差し掛かると、曲がまた変わる。

Cold Playは相変わらず、絶望が鼓膜を流れていく感じだ。

とても明るくて、切ないのに、死にたくなるような音楽。

世の中にはそんな風に不思議な音を作る人もいる。





歌を歌う人は気楽でいい。

現実にはぽっかり胸に空いた穴を抱えながら生きていかなければいけないわけで。



だから、俺は浮気をしようと思う。



そして、君の事をやっぱりいいなって思えれば戻ってくればいい。

もし駄目なら別れよう。



そんな風に考えていた。

倦怠期って奴なのかも。

いや、受験に夢中になってる君を取り戻したいと思っているのかも。



自分が馬鹿だって分かってる。

君の事を何も考えてないってことも。



だからってどうすればいい?





そんな時に彼に出会った。

バイト先でなんか偉そうにしてる人だった。

別に相手は男でも女でも良かったはずだけど、まぁ、運良く?男の人だった。



高校生の俺には少しだけ大学生の彼が大人に見えて、自分も何だか大きくなった気がして。



その人には思いっきり甘えた。



君にはお願いできないようなことも色々。

いつもなら躊躇してしまうような事も簡単に言えてしまうなんて、俺自身、年上のほうが得意なのかなって思ってしまった。

別に、ソレをしてたわけじゃない。

でも、キスぐらいまでなら、してしまっていて・・・。



週に1回だけちゃんと君に会える時、我ながら呆れるほどの罪悪感を感じた。

あぁ、俺は目の前のコイツのことを騙してるんだって、俺は思った以上に君の事を考えてたんだって、よく分かった。





浮気がばれたら、多分、君は怒るんだろうな。

怒りまくって、それでおしまい。

そんな風な感じで君の恋も終わってしまうんだろうか。

そう、これは俺の恋じゃない。

俺は多分、君の事に恋とかしてるわけじゃない。

好きだって言われたから付き合ってるだけで、俺は別にそんな感情を持っているわけじゃない。



隣にいる君の横顔を見ながら、俺は自分の気分に酔った。

自分の中でごちゃごちゃと繰り返される言い訳。

Aphex twinでも何でも聞いて、眠っていたかった。



そのまま息が止まったらどうしよう?



でも、それでもいい。

どうにでもなってくれればいい。



なんだろうこれ?

自己破壊的な衝動?

そんな風にして、俺をそそのかすのは止めてくれ。



何かのせいにしていれば、俺はすごく楽になれるから。

そうやって言い訳のレトリックを弄ぶ。

本当は何も変わっていないのに。





そんな時、君が言った。

学校の帰り道、コンビニに寄った後。



「浮気してるんだろ?」



バレた・・・。



第一声を何にしようかって思ってたけど、君はそのまま続ける。

きっと、人間失格だとか、人間のくずだとか、そういう風に言われるんだろうな。



「ごめん、受験だからってほったらかしにしてて・・・。」



違うって、寂しいとかそういうわけじゃないのに。

俺はただ退屈だっただけで。

君の受験なんかどうでもいいんだけど。





でも、そのまま抱きしめられて俺は何も言えない。

この感覚は本物。

君の腕の中で溺れそうになるほど苦しい。

呼吸器が痛い。



俺は罪悪感とか、感じてるのか、良く分からなかった。

ただ、君がひどく興奮しているのが分かった。



その日、俺は初めてのソレをした。

君は女の子で経験があったからか、思ったより慣れてたのは少しだけ意外だった。



優等生のくせに彼女いたことあったんだ・・・。



でも、君の心と体の悲鳴が痛いほど伝わってきて、なんていうか、・・・心地よかった。

まぁ、俺も十分に痛かったから、そういう意味ではお仕置きされたようなものなのかも。



優しい顔して君は思った以上に打たれ強いんだな。

俺なんか、君が浮気してたら、速攻で別れると思うのに。



「ばかやろ・・・」



君の無邪気な寝顔を見ながら俺は思う。



ため息が一つ。



君って馬鹿だなぁって思う、本気で。

俺はまた浮気をするかもしれないのに、どうしてそんな奴と一緒にいたいとか思うんだろう?

君もそんなに寂しいんだろうか?

ひょっとしたら、俺と同じように?

君は十分、充実してる。

顔にもそう書いてあるぐらい、毎日、忙しく頑張ってるじゃん。



俺はもう成す術もない。

ただ退屈だって言い訳して他の奴に尻尾を振って・・・。





12月の空に白い月が浮かび、白い雲が気味が悪いほどのスピードで通過していく。



君の受験が終われば、俺らは自由になれるんだろうか。

それなら、春が早く来て欲しい。





「好き・・・・か」



ざぁっと皮膚が粟立つ。

何だろう、そんな筈無いのに・・・。

俺が君のことなんか好きなわけないじゃないか。

大体、外見とかならこの間の大学生のほうが上だし・・・。



未知の感覚に戸惑いながら、俺は君の体に添い寝する。

ぎゅっと君の手を握って、今更ながら起きて欲しいとか、馬鹿なことを思う。



一人になりたくない。



でも、眠っている君は何も言わない。



涙はもう出ない。



後悔なんかしない。



浮気しようって決めた時に、そう誓ったはずなのに。

感情ってコントロールできない。

化け物みたいだ。

俺は何でこんなにショックを受けているんだろう?

俺が勝手に浮気しただけなのに。





二つの瞳からは無意味なほどに大量の雫がこぼれ落ちる。

泣きたくなんかない。

例えそれが本当のことでも、自分の弱さを認めたくない。





涙を拭き終わったら、俺はゆっくりと眠った君の唇にキスをする。

さっきまで、俺の体を丹念に舐めてくれたそれを。



その刹那、目を覚ました君は、



「好きだよ」



って、言った。



俺はただその笑顔に沈没せざるを得なかった。









Fin



後書き◇◇◇◇◇◇

ひっさびさの投稿短編です。
『BL的出会い系~』が思った以上にご好評いただいていたのですが、HPの長編で忙しく、なかなか書けずじまいでした。
短編の感想など頂ければ幸いです。

HPでは高校生ものの泣けて笑える小説を目指して書いてます。よろしかったらどうぞです。
「高校生の浮気 よくある話」
...2008/11/27(木) [No.457]
stop the world
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