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 (図書館 三角関係 学生 年の差 /--)
図書館の王子様


某図書館は雰囲気作りで来館数をアップ。
とある図書館は閉館時間を延長し来館数をアップさせた。
この図書館も例外ではない。来館数は先々月より5倍になっており、
テレビ局からも取材が殺到しているという話題の図書館だ。


「ただ、その方法ってのが問題なんだよな・・・」


秋谷(あきや)はペットボトルに口を付けながら一人呟く。
ペットボトルなら持込可もここのメリットである。
けれど、本当の来館数アップの理由は、別にある。




―ここには、図書館の王子様がいる。





『図書館の王子様』





本を見に来ているのか、王子を見に来ているのか。
秋谷は頬を膨らませながら熱い視線を送られている幼馴染を睨みつけていた。
つい先々月までは自分の家庭教師をしていたのに、いまや時代をときめく(になりかねない)図書館のアイドル。
王子こと、春名真人は秋谷が幼稚園からの幼馴染で、今もお隣に住んでいる。一人っ子の秋谷は、小さい頃から本当の兄のように慕っていた。
勉強を見てくれたり、遊びに連れて行ってくれたり、それこそなんでもしてくれた。
礼を言うと、必ずいつも同じ返事をして。
『秋谷が喜んでくれればそれでいい』
彼女よりも自分を優先して、約束はいつも守ってくれたのに。


『みんな春名目当てで来てるんだよっ? 俺、やだよ。図書館勤めるのやめてよ』
『そういってもなぁ、アキのカテキョだけじゃ食っていけないし』
『じゃあ、俺以外の生徒に教えないでなんて言わないから』
『ん・・・ごめんなアキ。俺、司書になりたかったし、続けたいんだ』


バカ、アホ、カス、悪態をつきながら秋谷は辞書に顔を埋めた。
「アキ? なにしてんの」
声に、ガバァツと勢い良く顔を上げると、王子様、もとい春名の見知った微笑がある。
「はるな~」
ぎゅっと春名に抱きつくと、周りからどよめきが聞こえた。
「ッ・・・ちょ、アキ」
ぐいぐい押しのけられるのを、秋谷は離してたまるか、としがみつく。
「・・・なにやってんですか。皆見てますよ」
秋谷の後輩、夏木が呆れたように二人をぐぃっと引き離した。
「うっ・・・」
引き離された手を悲しそうに秋谷は見つめ、うなだれた。
しょんぼりとした秋谷の背中を見、夏木は溜息をつく。
「春名さん、カウンター変わりますから」
夏木は今、図書館でボランティアをしている。
「あ、ああ、悪いな」
「いえ、秋谷先輩のためなんで」
キッパリと言うと、夏木はカウンターへと向かった。
「わーい! 夏木いい奴だ~」
喜ぶ秋谷に反して、春名は顰め面をし機嫌悪そうに隣へ腰掛ける。
「あいつ、学校で何かしてこないか?」
真剣な眼差しに問われ、秋谷は首をかしげた。
「別に・・・何も・・・」


羨ましそうに眺める周りの視線を意識しながら、秋谷は春名の手を取る。
「それより~俺もボランティアしちゃだめ~? 男子かお年寄り限定なんだろ?」
春名目当てが大半であるため、そのような決まりが設けられてしまった。
春名は「だめ」と一括すると、秋谷の手を離す。
「仕事に戻る、な。・・・早く帰れよ」
離された手をぎゅうっと握りながら、秋谷はめげずに
「やだ! 帰りまで待ってる・・・」
と春名を見上げた。
眉をひそめ、溜息をつくと春名は何も答えず仕事へと戻っていく。


泣きそうになるのを堪えながら、秋谷は辞書に頭をゴツンと何度もぶつけた。
(―嫌われた?)
あまりにも自分がしつこいから。
(彼女できたのかな、この図書館にいるのかな、きっとウザくなったんだ)
悪いことばかりが秋谷の脳内をグルグルと巡る。


その姿を一瞥し、夏木は戻ってきた春名を睨み付けた。
「アンタ、いい加減にしろよ」
聞こえるか聞こえないかの小さな声。
その声に春名は反応した。
「・・・その顔、あいつらに見せてやりたいぜ」
夏木は春名にカウンターを譲ると、
「先、あがります」
と周りの職員に会釈した。




辞書に額を付けて固まってしまっている秋谷を、夏木は軽く殴って起こす。
「いてっ! お前・・・先輩に向かって」
「帰りましょ」
途端、くしゃりと秋谷の顔がゆがむ。
「・・・やだ。終わるまで待つ」
はぁ、と溜息をつき、夏木は腕を掴み、秋谷を立ち上がらせる。
「やだっって・・・離せッ・・・んぅッ・・・」


キャーと図書館に響く黄色い声。
春名はその声の方へ、視線を向かわせた。
「ッ!!・・・アイツ・・・」


秋谷は唇を押さえ、へたりと腰を抜かしてしゃがみこむ。
「お前、なんてことすんだよ・・・」
「先輩・・・」
キッとその場で怒鳴る。
「こんな注目浴びて!・・・もう、図書館に来れないじゃねえかよっ!」
「ッ・・・」
その言葉に、夏木は秋谷を抱え込むと、黄色い声援と秋谷の怒声を気にせず出口へ向かった。
「待て」
出口を塞ぐ壁に、夏木の足が止まる。その壁を睨みつけ、夏木は怒鳴る。
「どけ!」
「アキを降ろせ」
「どけって!」
首根っこをつかまれ、夏木は図書館をほおり出された。
「はる、な・・・ごめ・・・」
涙を流し顔をぐしゃぐしゃにする秋谷を両手で抱き上げ、春名はカウンターへ向かう。
「すみません、奥、借りますね」
「は、はい・・・」
呆然とする職員を尻目に、秋谷を抱いたまま入っていった。


「ごめ・・・俺のせいで・・・」
涙で汚れた頬に、春名は口付けする。
「は、るな?」
「ビックリして涙止まった?」
からかうような口調に、秋谷は頬を赤らめた。何かを紡ごうとする秋谷の唇を、春名の唇が熱く塞いだ。
そのまま角度を変えながら交わされるキスに、秋谷は目元を赤らめながら両手でしがみついた。
「ん・・・ふぅ・・・」
離れた二人の唇の間を唾液が結ぶ。
何も言えずにその厭らしい光景を眺め、秋谷は喉を鳴らした。
「・・・ずっとしたくてたまらなかった」
濡れた秋谷の唇を親指で撫で、春名は言う。
「何度も何度も押し倒しそうで・・・怖かった」
その告白に、秋谷は動かない体を叱咤し、春名の頬をむぎゅっと捻った。
「バカッ!!!!!」
怒鳴ると、頭をゴンゴンと春名の胸にぶつけ始めた。
「イッ・・・アキ?」
「バカアホカス・・・」
繰り返される可愛らしい悪態に、春名は小さく笑い、好きだよ、と呟いた。


fin

「お気に召していただければ光栄です☆」
...2008/10/9(木) [No.448]
米猫
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