俺の友人はとっても可愛い。 だから、我が男子校ではよくもてる。 ファンクラブが出来るくらい。
この高校に入ったころは男同士なんて「うげぇ」と思ったけど、 目の前に居る可愛い友人、潤(じゅん)のためなら何でもできるって思ってしまうんだ。
これって恋ってやつですか?
「で?何がどうしたって、潤?」 「あのね、翔也(しょうや)…ごめんね、翔也にしかこんなこと頼めなくて…。」
少し俯いて、困ったように俺を見る潤は俺を惑わせる。 今なら「校長のヅラ取ってきて」なんていう無茶なお願いも聞いてしまいそうだ。
「実はこの前岩熊先輩に告白されたんだけど…断ってきてほしくて…。」 「岩熊ァ~!?」
岩熊先輩とはその苗字の通り体のでかい柔道部の先輩だ。 太い眉と大きな声で笑う笑い方が特徴的で良く知られてる。 お世辞にもかっこいいとは言えないが男らしい、むしろ男らし過ぎる人だ。 潤と並んだら悪いけど美女と野獣という言葉がピッタリだと思う。
「お願い、翔也!僕あの人苦手で…。」
俺の前で必死に両手を合わせる潤に俺は最初から拒否する気は起きなかった。 岩熊先輩は女子供には優しいというし、俺のこの低身長ならきっといきなり殴りかかってきたりはしないだろう…。
そう思って 「いいよ!」 と軽く答えたのは今から約2時間前。
この状況をどう説明しろというんだ…。
確かに潤に言われた場所には岩熊先輩が立っていて、いつになく緊張した面持ちでいるから、可哀想だなぁと思いつつ俺は声をかけた。 すると満面の笑みで「来てくれたんだな!」と俺の肩をガシリと掴み…
「付き合ってくれ!」 「…は、…あの、告白…?」 「そうだ、告白だ!」 「あの、潤は、」 「潤?あぁ、あいつにお前を連れてくるよう頼んだんだが…どうかしたか?」 「・・・・・・・はい?」 「ん?」 「じゅ、潤は…?」 「潤は俺の従兄だぞ!」
従兄!?この熊男と潤が従兄!? いやいや、そこに驚いてる場合じゃない!! 何かがおかしいぞ、これ。
「あの、岩熊先輩は潤に告白したんですよね!」 「・・・は?何言ってるんだ?」 「じゃ、どうして此処に?」 「だから、それは…お前に…」
俺から視線を逸らし言いにくそうにする岩熊先輩。 …俺の中の危険信号は緊急事態を伝えてる。
「あの、潤は貴方とお付き合いする気はないそうです!俺はそれだけ伝えに来ました、それじゃ!!」
叫ぶように言って脱兎の如く逃げ出そうとした俺の肩を大きな手が力強くガシッと掴む。
「ま、待て!俺だって潤と付き合いたいとは思わん!俺が付き合いたいのはお前だ、翔也!」
僕の友人は可愛い。 実は陰でかなりもてているのに天性の鈍感さか、全く気付かない。
中には強行手段を使おうとする輩も居て、この前はなんとか未然に防げたけど、次もそう上手くいくとは限らない。 誰かこの可愛い僕の友人を守ってくれる人は居ないだろうか? そんな風に考えてたら僕の従兄の熊男がいつも僕の隣を熱視線で見てることに気づいた。
ごめんね、翔也。
「でも、合うと思うんだよなぁ…。」 「ん?何か言ったか?」 「ううん、何でもなーい。」
不器用な二人の幸福を願って、僕は愛しい恋人の腕の中で微笑んだ。
…俺は、どうやら騙されたらしぃ。 可愛い可愛い友人に。
「翔也、俺は本気なんだ、返事は急がない、だから…頼むからよく考えてみてくれ。」 「よ、良く考えても無理です…。」 「そう言わずに、もう一度!」 「…もう一度…無理です。」 「早すぎる!」
切羽詰まったともいえる顔で俺の肩を両手でガッシリと掴んだ岩熊先輩。 俺は逃げるどころか、視線すらずらせないまま固まっていた。
「頼むから…なぁ、お前が好きなんだ。」 「先輩…。」 「なんだっ!!」
「…先輩、最初から俺が断るのを良しとしてないでしょう?」 「?ああ、当たり前だ。」
俺が言いにくくもさっきからずっと思ってた事をあっさり肯定した。 俺の言葉に不思議そうにそう言いきる岩熊先輩…なんかずれてる。
「普通は相手の意見も尊重するんじゃ…。」 「そうかもな、でもダメだ。俺はお前が他の奴と付き合うなんて絶対嫌だからな。」 「そ、そんなの間違ってます。」 「間違ってるもんか、お前が好きなだけだ。」
フンッと鼻息荒く憮然とそう言う先輩に俺は脱力した。 さっきから掴まれっぱなしの肩が痛い。
「あの、放してください。」 「嫌だ、お前逃げるだろう。」 「(ギクッ)逃げません。」 「・・・。」
少し怖い顔のままふっと肩の手が降りた 「ぅわ!」 と思った瞬間勢いよく抱きしめられた。
「好きなんだ、どうしようもなく。お前が他の男と喋っているのも顔を合わせるのも嫌なんだ。頼む、付き合ってくれ…俺を好きになってくれ。」
耳元で囁くように言われ、俺はジタバタ暴れた。
「だ、誰が好きになんか…」 「好きだ、好きなんだ。」 「っ~!!」
思い切り肩に噛みついてやると一瞬力が抜けたので、俺は思い切り体を突っぱね抜け出して逃げ出した。
「翔也!」
俺は鞄も何もかも学校に置いたまま、家に逃げ帰った。 夜布団に入ってからもずーっと耳元で「好きだ。」という先輩の声が聞こえる気かがしてなかなか眠れなかった。
ぼーっとしたまま学校へ行くため玄関のドアを開けると 「おはよう、翔也。」 熊男が俺が忘れたはずの鞄を持って立っていた。
「潤!」 「どうしたの?」 「どうしたもこーしたもないしっ。」 「岩熊先輩?」 「そうだよ、何だよ、あの人!」
声を荒げ叫ぶ俺に潤はケロッとして答える。
「お似合いだと思うよ?」 「そうじゃなくて…。」 「お似合いだよ。」 「俺は、潤のことがっ」 「嘘、俺のこと思って眠れなくなることがあった?その隈は誰のこと考えて眠れなかったの?」 「・・・それは・・・。」
言いよどむ俺に潤はキレイににっこり笑って追い打ちをかける。
「・・・それが答えだよ。」 「そ、そうなのかなぁ。」 「(そんなわけないのに、ほんと単純)うん、そうだよ。」 「・・・うん。」
そうして、俺はわずか3日後に、岩熊先輩が望む答えを持って先輩の教室に向かうことになる。
「要はさ、鈍い子には直球勝負が一番だよね。」
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