夜が来た。 二人は犬小屋から並んで月を見ていた。今日は母屋からの煩いテレビの音も聞こえない。二人の目には明る過ぎる灯りも消えている。ただ満月だけが、静かに二人を照らしていた。 「あのねー、海。お月さまにお願いしたことって、ある?」 海はぎくりとした。自分のしていることがもしかしてバレているのだろうか? 寝ぼけて声に出してしまったりしていたのだろうか。焦る心を抑えて、聞き返す。 「空は?」 「おれねー、いっつもお願いしてんだ」 空は照れくさそうに言って、笑った。 「おれと海を、ちょっとでいいからにんげんにして下さいって」 空は、人間なんて好きじゃないはずなのに。どうして? 不思議がる海に、空は言った。 「おんなじ大きさになったらいいなあって。そしたら、もっといろんなことできるのに」 「いろんなこと?」 「両手で抱き締めあったり、キスしたり、できるでしょ?」 え? え? なんだって。 「空、そんなこと考えてたの?」 空は恥ずかしそうに俯いた。 「おれさ、ちょっと前から、海のことみるとどきどきして、胸のへんがきゅうってするんだ。体があっつくなったり、お尻がもぞもぞしたりすんの。これってへん? へんっていわれたらやだから言えなかった。ごめんね」 「空……」 海は胸が熱くなった。そんなふうに悩んでいたんだ。 「大きくなったんだな」 「そーなの?」 「そうだよ。大人になった証拠だよ」 「そっかあ。おれ、おとなになったんだぁ」 空は嬉しそうに海に擦り寄る。 「おれ、ねこで、海はいぬ、なのに、変じゃない?」 「変じゃないよ。だってオレも……」 そう言いかけた時だった。 月の光が急に眀るさを増した。銀色の光がまるでシャワーのように降り注ぐ。 「わあ、すごいよ、海。見て見て」 空は目をキラキラと輝かせ、光の中に飛び出した。危いと海が止める間もなく、シャワーの中に身を投じる。光の中に、くっきりと空のシルエットが浮かび上がる。きれいだ……と見惚れた瞬間、パッと光が弾けた。思わず目を閉じて、次に目を開けた時、海の目の前には…… すらりとした体形の、16、7の少年。髪は空の毛並と同じ薄茶色、瞳も金色に輝いている。素肌が月の光に眩しく映える。自分で自分の体を眺め、くるりと振り向いてタタタと走り戻り、嬉しそうに抱きついてくる。 「海っ、おれたち、にんげんになったよっ」 「おれたち?」 そこでやっと海は、自分も人型になっていることに気がついた。浅黒い肌の、目も髪も漆黒の二十歳くらいのやっと少年から抜け出したばかりの男性。それが海の人間としての姿だった。 「海、ちょーかっけーっ」 どこから覚えてきたんだか、空はそんな言い方をした。ぎゅうっと抱きついてきた華奢な体を、両腕で抱きしめ返す。今までみたいに毛皮を経てではない、直接肌と肌が触れ合う感触に、心が浮き立っていく。 「これ、取っちゃお」 空が手を伸ばして海の首輪を取ると、その跡が首周りにうっすらと付いている。 「ここ、痛い?」 空はそこにそっと指を触れ、顔を寄せて、猫の時のようにぺろりと舐めた。海の背筋にぞくりとした感触が走る。 「空、そんなことしなくていいから」 「なんで? おれ、海のこと舐めたい」 「オレが空を舐めてやるから」 「ほんと? 嬉しい。おれ、海に舐めてもらうのスキ」 海は犬小屋の中に敷いてある毛布を肩にかけ、くすくすと笑っている空を抱き上げて裏庭に向かった。裏は空家でどこからも見えない死角になっている。あまり手を入れていない広い庭には、野の花が咲き乱れていた。柔らかい草が分厚く生えているところを探し、毛布を敷いてそっと空を下ろす。空は星空を眩しそうに見上げ 「お月さまが見てるね」 と言った。白い裸身が青白い月の光に輝いて誘う。海はその隣に腰を下ろし、空の顔の両側に手を付いて、身を屈め、そっと唇を合わせた。ぎこちなかった舌の動きは、やがてお互いを求める情熱的なものに代わって行く。 「んんん。海ぃ」 苦しげな息遣いに、唇を離すと、空の目元が赤く色づいて、先の行為を促す。 「もっと、いっぱい……舐めて……ぇ」 甘えた声は、まるで喉を鳴らしているようだ。 誘われるままに、耳、首筋、鎖骨へと舌を這わせていく。最初くすぐったそうに笑っていた空の声は、やがて小さな喘ぎに代わっていった。 「ここ、可愛いな」 ピンクの突起が二つ、胸元を飾っている。にんげんは二つしかないんだな、ここ。猫や犬は8個もあるのに。 そっと舌で触れると 「あ……ああ……んっ」 と今までにも増して甘い声。声が出たのが恥ずかしいらしく、慌てて手で口を押さえる様も初々しい。 「ここ、気持ちいいの?」 「……ん……もっと……」 舌で転がすようにすると、だんだんとぷっくりと紅く固く立ち上がっていく。海はその感触に夢中になって、右から、下からと舌を絡ませていった。 「や……ぁああん。そっち……ばっか……」 「反対もしてほしいの?」 反対側の突起に吸いつきながら、今さんざんに舐めまわした方は、指でくりくりと弄ぶ。空は両方に与えられる快感にたまらなくなって、海の頭をぎゅっと抱え込んだ。 「海……海……スキ……」 その声が海の官能を刺激する。 こんなにも空は自分を欲しいと思っていてくれたんだ。自分ばかりが悩んでいたと思っていたのに。 「オレも、好きだよ。可愛い空」 にんげんの指が、こんなにも繊細に動くことに感嘆する。指の腹でころころと転がすようにすると、犬の体では味わえなかったなんとも言えない複雑な感触。その感触を空が体で受け止め、歓んでいてくれると思うと、今日この日に留守にしてくれた家人にまで感謝したくなる。 「空。もっとあちこち舐めていい?」 「う……ん。い……っぱい……して……」 にんげんの体を、こんなに奇麗だと思う時が来るなんて思わなかった。2本の足で立っている姿は不自然で、むしろ醜悪にさえ映っていたのに。空の身体は、どこもかしこも綺麗で誘惑に満ちている。特に、その醜悪とさえ思っていた、2本の足の間あたり、可愛らしく震えている器官は、今にでもむしゃぶりつきたくなるほどだ。 でも一気に触れてしまっては、もったいない。今はまだその気持ちをこらえて、胸の紅い突起にも名残りを残しながら、舌を脇腹へと移す。薄く肋骨の浮き出た脇腹は、いつもは海がくすぐってやると、空がけらけらと笑い転げてしまうところだ。しかし、今日は勝手が違うらしく、必死に息を殺している。 「空。声、出して」 「だって……変な声……」 「恥ずかしいの? でも、オレは、空の可愛い声が聞きたいよ。いっぱい聞かせて」 「変じゃ……ない?」 「ちっとも」 そう言いながら、海は身を沈める。すんなりと揃えて伸ばした脚は、元の体のしっぽみたいだ、と思う。そっと脚先に口づけると、いつも登っている木の香りがした。みかけは変わっても、やっぱり空なんだと思ってほっと安心する。 2本の脚に代わる代わるキスを落としながら、少しずつ両脚を広げさせ、目的の個所へと徐々に向かっていくと、空は、海のしたい事をしってか知らずに、じれったそうに身を捩ってそれに応える。じれったい中にも、時に激しい反応を返す箇所があり、そんな場所を見つけると、海は嬉しくなって音を立てて吸いつけ、真っ赤な花を散して行った。 白い身体に何箇所も証を刻みつけた後、とうとう、脚の付け根まで到達した。思い切り大きく両脚を広げさせて内腿に噛みつくように強くキスをすると、空は大きく身体をびくんと震えさせ、 「あ、……ぁあ……」 と、嗚咽に似た声を漏らした。 「ここも、イイの?」 「海の……イジワル……」 「もっと、気持ちいい事、してあげようか?」 「もっと……?」 半ば虚ろになった視線が、ぼんやりと海を見下ろす。自分の大きく広げられた脚の間に海の顔があるのを見つけると、とたんに慌てだした。 「や……っだあ、海、いつの間に、こんなことしたのぉ」 「空が、気持ちよがっている間に」 「ばかぁ……」 海の目の前に、空自身が蜜を零して震えている。いつの間にかそれは、すっかり芯を持って勃ち上がっていた。こんなに感じてくれたんだ。そう思うと、海の胸はじんと熱くなった。 「空のここ、こんなになってる」 片手を添えて、そっとキスをする。 「あっ、や……やだ、やめ……てぇ」 「体中舐めて欲しいんでしょ?」 「そこはやだぁ」 「どうして?」 「汚いよぉ」 「汚くないよ」 今度は先端をぺろりと舐めて、蜜を舌先で掬い取る。 「空のだから」 「じゃ……じゃあ、お……おれも……」 力の入らない体を懸命に起こし、空は海の体の下に潜り込んだ。 「おれも、海の舐める」 「え? い……いいよ」 海は、体をずらそうとしたが、空は意外に強い力で 「やだ」 と海の両太ももを掴んで離さない。首だけ上げて、海自身に舌を這わせる姿は、それによって直接与えられる快感よりも、その一生懸命さが愛しくて、嬉しくて。 「わかったよ。じゃあ、いっしょにしよう、ね?」 そう言うのと同時に、海も空の脚の間に顔を埋めた。 「ん」 嬉しそうに空も答え、より一層熱心に舌を使う。 月の光が煌々と照らす、しんと静かな裏庭に、水音と、くぐもった喘ぎ声だけが響く。 「空、もっとちゃんと奥まで呑み込んで……」 「入ん……ない……い」 自分のものよりも一回りも二回りも大きいと思えるそれを、空は必死に咥え込み、涙目になりながら唇と舌で愛撫を加える。自分の行為に反応して、堅く勃ち上がっていってくれるのが嬉しい。 「上手」 「あ……っん。喋っちゃやだぁ」 空が腰を揺らすのと同時に、海の口の中の物が、喉の振動に反応して、どくんと息づいた。今にもはち切れそうに口の中で脈打つそれを、海は唇を窄めて上下に扱き、更に追い込んでいく。 「あ……ああ……ん……やっだぁ……」 熱さと堅さを一層増したそれを、海はまでしっかりと咥えこんだ。喉奥にひくりひくりと震えながら当たる熱が、たまらなく愛おしい。 「あ、ああああ……あああ……んっ」 いつの間にか空は、片手を海自身に添えたまま、口を放し、自分に与えられる快感に夢中になっていた。海も、もう、ちゃんとしてとは言わず、そっと空の手を自分自身から外した。そのまま、口の動きは休ませずに、自分の身体を空の脚の間にもう一度移動させる。この方が、表情が良く見える。 「こっちも、慣らすよ」 「ならす……って……?」 海はそれには答えず、片手を脚の間から後ろに回し、双丘の間に息づく蕾を見つけ出した。 「空は、ここがむずむずするんだよね?」 蕾の周りをそっと中指の腹で撫でると、そこは物欲しそうに閉じたり開いたりを繰り返した。 「あ……ああ、や……だめぇ……」 「どうして?」 「や……ん。やっだああ……あ」 返事にならない声を上げ、空は首を激しく左右に振った。一瞬だけ力が抜けたのを見計らい、海は指をずぶりと沈める。蕾はその瞬間だけ指を押し返すような動きをしたが、浅く抜き差しを繰り返すと、すぐに柔らかく綻んでいった。思わぬ良い反応に、海は気を良くしてさらに指を進める。身体の中を指の腹でぐるりと一回転させて探るようにすると、こりっとした塊が指に当たる。 「やだ、やだ……やだぁ……」 あまりにも直接的な快感に、空が腰を引こうとするのをもう片方の手で抱きとめて、口の動きを速めるのと共に、その個所を重点的に攻めると、空はやがて 「ひゃぁぁ……っあああん」 と悲鳴めいた声を上げて、海の口の中に精を吐きだした。海は口の中に広がる初めての味に、怯みもせずに、それを全て飲み込んだ。 「ごっ……ごめん、海」 「何が?」 「だって、おれっ」 「空の、美味しいよ。ごちそう様」 口元を拭う海の仕草に、空の胸はどきりと高鳴った。 「海、すっごい色っぽい……」 「ばぁか、色っぽいのは、空。ここも……」 海は空の中に入れた指を一度抜き、2本に増やして再度埋めた。 「すっごく可愛い」 段々と速まっていく指の動きにつれて、空の腰も揺れる。精を放った器官もまたあっという間に力を取り戻して点を仰ぐ。 「あ……ん、海ぃ」 「どうしたの?」 「スキ……海、好き」 ほとんど無意識に放ったその言葉が、海の胸と体を熱くした。 「空……」 方脚を肩にかけて身体を起こし両脚を大きく上下に開かせた。蕾が大きく綻んだのを見計らい、指を三本に増やす。早く一つになりたいと逸る心を押えながら、丁寧に、ゆっくりと愛撫を繰り返す。 やがて空の閉じていた瞼がゆっくりと開いて、海を見上げた。 「海……」 「ん?」 「も……きてぇ。おれ、海と……」 自分の気持ちを見透かされたみたいで少しだけ決まりが悪い。でも、そう言われたら、もう海は抑えが利かなかった。 「ごめん、ちょっと痛いかも」 そう断って、両脚を肩に乗せ、腰を上げさせる。今まで自分の指で可愛がっていた箇所がぽかりと小さな穴を開けて自分を誘っている。 「いいよ」 空は両腕を伸ばし、海の頬を両方から挟みこんでにっこり笑った。 「海も、したい……んでしょ? そうだよね」 「うん」 「嬉しい……」 微笑んで、海の一挙一動を見逃さないようにじっと見守る。海は、少し緊張して自分自身を収縮を繰り返す蕾にあてがった。 「いくよ」 短く言って、ぐいと身体を進める。空は眉根を寄せ、痛そうな表情を少しだけ見せ、それでも健気に海から目を離さない。まるで、今目を離したら、もう一生こんな機会はないとでも言うように。 空の中は、信じられないほど熱く狭かった。その圧迫感に眩暈がしそうになりながら、海は抜き差しをしながら少しずつ繋がりを深くして行った。空の身体が裂けてしまうのではないかと何度か不安になりながら、止めることはできなかった。だってそれにはあまりに幸せすぎるから。 空は海の名を呼びながら必死に耐えた。大好きな海と一つになれる。ただそれだけが嬉しくてならない。痛みなんて、時が来れば去っていく。それよりもずっと思い描いていた夢が、愛するものと一つになれる夢が現実になる喜びの方が何倍も何十倍も大きい。 「好きだよ、空」 緊張と痛みでなえてしまった空の下半身にそっと手を伸ばす。 「ごめんね。オレばっか。空も気持ち良くしてあげるから」 しかし、空はその手を押しとどめた。 「や」 「どうして?」 空はじっと海の目を見て、意外な言葉を言った。 「ちゃんと海の事、感じられなくなっちゃうから」 「そ……ら」 胸がいっぱいになる。そこまで自分と一つになるのを望んでいてくれたんだ。 「わかった。じゃあ、こっちでちゃんと感じさせてあげるから」 「……ん」 海は、ゆっくりと角度を変えて何度も空の体を貫いた。空は、身体を穿つ痛みに、目をぎゅっと閉じて耐える。角度が変わるたびに、空の顔つきが変わる。眉根がしかめられたり、口の端が歪んだり。それでも必死に耐えている姿が健気だ。海自身を包む空の身体も、ふるふると細かく震えたり、きゅっと締め付けたりとその度に変化する。どの変化も、自分がさせていると思うと、嬉しくて嬉しくて、だんだんと夢中になっていく。 そのうちに、空の表情が変わって来た。苦しげに閉じられていた目元は力が抜けてうっすらと開き、噛んでいた唇も 開いて歯を覗かせるころには、いつの間にか、絶え間なく喘ぎが漏れ始めていた。 「空、感じるの?」 「……あ……ああ……ん……気……持ち…………いい……よお」 「空……可愛い……」 「あ……いや……ぁ……んん」 身体の内部が激しく収縮する。海は、危うく達しそうになるのを、どうやら踏みとどまった。まだだ。もっと、もっと、空を気持ちよくさせてあげなければ。 海は更に空の身体のあちこちを探る。指先よりずっと太い器官では、的確に求める個所を探すのは難しいが、やがて明らかに反応の違うところを見つけた。 「ここ?」 「あ……海ぃ」 空の体の両側に置かれた海の両腕に、空がしがみ付く。 「そ……そこ……や……っぁ」 「こ……こ、なんだ」 もう一度同じ角度で突くと、空は背を反らし、腰を強く海に押し付けた。 「もっと、して、もっと……」 声に勇気づけられて、何度もその個所を攻める。だんだん速まっていく湿った水音と、くぐもった喘ぎ声が重なって、二人の身体と心が一つに溶け合った。 やがて二人はお互いの名を呼びながら高みに登りつめ、海は熱い飛沫を空の中に注ぎこんだ。同時に空の内部は、まるで海を抱き締めるように、きつく、海自身を締め付けた。 二人はお互いをその腕の中に掻き抱き、顔中にキスの雨を降らし合った。 「海、おれ、すっごく幸せ」 空は、海の胸に顔を寄せ、幸せそうに微笑んだ。 「疲れた? 痛いところない?」 「うん」 「良かった」 空には月が二人を見守っている。全部見られたと思っても、なぜか恥ずかしさはなかった。だって、二人が愛を確かめ合うために、月が二人を人間に変えてくれたのだから。 「戻ろうか?」 海は空を毛布に包んで抱き上げ、頬にキスをして、犬小屋に戻った。 二人は上体を犬小屋から出して並んで横たわった。 「あのね、おれね、一生忘れないよ、今日のこと。もし、海がお嫁さんとか迎えても、おれ、ずっと忘れないからね。海がおれに優しくしてくれたこと」 「空こそ、今に可愛い雌猫追っかけていっちゃうんじゃないか?」 海が冗談半分に言うと、空はその大きな瞳を潤ませた。 「おれ、そんなことしないよ。おれは、ずっと海の傍にいるんだもん。もし、にんげんたちがおれの事捨てちゃっても、おれ、絶対戻ってくるからね。あと、海がどっか行っちゃったら、追っかけてく」 なんて可愛い事を言うんだろう。 「おれも、どこにも行かないよ」 もう一度どちらからともなくキスを交わし、海はいつものようにすっぽりと空を包み込み、二人は眠りに付いた。
「あら、どうしたの、海、首輪抜けしちゃって」 やがて帰ってきた人間たちは、海の首輪が取れてその傍に大人しく海が座っているのを見て驚いた声を上げた。 「逃げなかったのね。いい子」 元通りに首輪をはめ、海の頭を撫でて、ぱたぱたと尻尾を振る海を見て、首を傾げる。 「なんだか、機嫌がいいわね。美味しいご飯でももらったの?」 母屋ににんげんたちが入ると、空が木から下りてきた。すぐにごろごろと喉を鳴らしながら身を擦り寄せる。 「にんげんってばかだね。おれたちが食べ物のことしか興味ないって思ってるよ」 「そのくらいでちょうどいいよ」 昨夜の事でお互いの気持ちもわかったし、心も一つになった気がする。犬と猫という二人だけど、きっといつまでも仲良くやっていけるだろう。 二人は肩を並べ、空を眺めた。ちょうど昨日月が出ていたあたりを。同時に二人の口が動いた。 「ありがとう、おつきさま」
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