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 (アンドロイド青年/主従/マスター少年/15禁)
レモン色の月


 俺はあの娘が大嫌いだった。
マスターに好かれている、あの娘が。
マスターはまだ少年だ。大きな綺麗な瞳をしているがその頭脳は同じ年頃の人間の中では群を抜いているらしい。いわゆる天才というものらしい。
その少年の側にはいつも『お似合いの』少女がたたずんでいた。
少女の名はシスティ。
システィも俺も人工人間と呼ばれる者だ。
人工人間はあくまで人権はなく、ほぼ機械として扱われた。
マスターはその少女をご学友兼メイドのように使っていたらしい。
だけど、ある日マスターは俺に言ったのだった。
「レヴィテル」
「はい、なんでしょう。マスター」
俺はいつも通り美しい無表情で応じた。
「あれ、捨ててくれる?」
「あれとは何でしょうか、マスター」
俺は微笑みながら尋ねた。
「えっと、システィーナっていったっけ。ロボットいるだろ。もういらないから」
俺は問い返した。「システィのことですか。いらないとおっしゃいますと……。
まさか、廃棄処分になさりたいという事ですか」
少年は研究中の何かをノートに書きつけながら言った。
「ん……。処分はお前にまかせるから」
「しかし……」
俺は分析に困った。
「いらなくなった。飽きた」
少年はあっさり言って手を振った。出て行けというような合図だ。
「そうですか。かしこまりました。処分はお任せ下さい、全て取り計らいます」
俺は一礼してマスターの部屋を下がった。


 何も知らない少女はあどけなく楽しそうに厨房で料理人に菓子らしきものの
作り方を習っていた。
俺は中に踏み込み、システィに言った。
「いいですか、システィ」
システィは料理人にお礼を言って急ぎ足で俺の方に来た。
「御用でしょうか、レヴィテル様」
少女は頭を下げる。
「ええ、まぁ。用という程の事でもないのですが、あなたの手を借りたい事がありましてね」
俺は人工的な微笑みを浮かべて答えた。
「なんでしょうか、なんなりとお申し付け下さい」
「ありがとう、ではついて来て下さい」
俺は先に立って歩き出した。


「これなどいかがでしょう?」
システィは上品でいて可愛らしさもあるコートを手に戻って来た。
俺はそれを眺め、微笑んだ。「マスターにはぴったりですね、これにしましょう。ありがとう。」
会計処理が終わり、俺は包装されたコートを受け取って、システィと共に外へ出た。
街はかなり夜の表情になってきている。
「今日は買い物に付き合ってもらったお礼をさせて下さい」
俺はシスティを車へうながした。
「お礼なんて……」
「たまには外で羽をのばさないと。ロボットロボットって、いいようにこきつかわれている
でしょう?」
俺は肩をすくめて言った。
「マスターは愛しいお方です。どんなわがままでも聞いて差し上げたくなります。
ですから、何があっても楽しいです」
システィは笑顔で言った。
俺はにっこりした。「そうですね、マスターは人工人間にとって絶対です」


 車を停め、俺達はしばらく歩く事にした。
ぶらぶらどこかへ歩きながら、楽しい話をしたり、やがて甘い言葉を交わす……とか
そんな感じだろうか。プランとしては。
美しい円形の巨大噴水の周りはライトアップが抑えられ、カップル達が漂うように存在している。
俺はなにげにシスティの柔らかい身体を引き寄せた。
「システィ」
「レヴィテル様……」
俺はシスティの大きくて純粋そうな瞳を覗き込みながらゆっくりと言った。
「システィ、俺は君が『好き』ですよ。君はどうですか。ロボットなんか嫌いですか?」
「いいえ、レヴィテル様。わたしなんかにそんなお言葉は勿体無いです……」
システィはほんのりと涙を浮かべた。
俺は彼女の柔らかな髪をそっと撫でた。何度も、ゆっくりと。
そして、そっとその唇を奪った。
最初に感じたのが、あぁ、さっきの菓子か……と思うような甘い香り。
唇に粉砂糖でも振りかけたような甘さだ。
俺は唇を離しながらシスティの瞳をじっと見つめていた。


 システィは止まった。
可愛らしい瞳を開いたまま。
あぁ、そういえば俺達はロボットだったのだ。
知識としてはほのかにあったが、人工人間である俺達は普段自分達が機械であるということを意識していない。
概念として謙譲の意味でしか自分を機械とはみなさない。
けれど俺たちにはいろいろな場合の為にある種のスイッチが組み込まれている。
スリープ、シャットダウン、再起動。そうPCのそれのようなコマンドがあるのだ。
俺は今さっき、システィにキス『する振りを』しながらそういったスイッチを同時に押した。
彼女は目を見開いたままあお向けに倒れている。
──フフフ……
可愛そうな娘だ。
マスターにいらないなんて言われて。飽きたなんて言われて。
同じ人工人間に、処分は任せるなんて言われるなんて。
なのに、その口はマスターへの賛美歌しか歌う事は無いのだ。
愚かな娘だ。
俺はあお向けの少女に覆いかぶさった。
あどけないブラウスを獣のようにはぐ。
「最期くらい味わってやるよ、システィ。マスターの代わりに」
俺は声に出して言ってやった。


 処分場へ着いた俺は少女のボディをコートと共に持ち、バルコニーから処分槽に放り込もうとした。俺は手元を見た。コートだけは投げ込むのを止め、その場に置いた。
そして、両腕で少女を抱えて無表情に水槽へ放り込んだ。
水に漬かるような音とともに蒸気めいた音がする。
これで処分は終わりだ。さよなら、システィ。
あぁ、意外と君は美味しかったような気がするよ。
俺はコートを片手に車に乗り込んだ。


 俺が屋敷に戻り、自室のロックを外していたとき、マスターが姿を見せた。
「遅かったじゃないか。どこへ行ってたんだよ?」
俺は振り返って答えた。「よい夜ですね、マスター。少々散策へ」
「部屋に入れろよ」
少年は扉を勝手に開けて中に飛び込む。
「マスター、お見せするような部屋ではありませんよ」
俺は扉を閉めた。
ここは俺達人形がスリープあるいはスタンバイするだけの場所なのに。
ませたマスターは目ざとく寝台を見つけて俺を顎で呼ぶ。
「キスしろよ、レヴィテル」
俺は目を細めて、少年の唇に唇を重ねる。
それだけでは終わらず、しつこく舌も絡めてくる。まさにませガキだ。
「砂糖くさい」
少年は嫌な目つきで舌なめずりして俺を睨んだ。
「女と会ってきた?」
俺は肩を竦めたくなったが我慢した。
あぁ、それにしても今夜はどうしてまぶしいレモンの如く月光が降り注ぐのだろう。
「……マスターが禁じられるというのならもう会いませんよ……」
俺はわざとそう言った。
「別に、好きにすればいいじゃん。みんなお前の綺麗な顔と身体に騙されるんだな。
本当は何を考えてるか分からないのにさ」
マスターは勝手にシャツを脱いでいた。胸をさらけだしている。
レモン色の光線と青ざめた肌が交錯する。
「奉仕しろよ」
「かしこまりました、マスター」
俺は育ちきらない彼の胸の突起を味わう……。


──レヴィテル様……。
 夢で誰かが俺を呼ぶ。
夢?ロボットが夢を見るのかって?一応、人工『人間』だから見る。処理しきれない
感情や記憶を再整理するために行われるのが夢だ。
俺は声の主を知っている。
犯して殺したシスティに違いない。
──俺を責めに来たのか、システィ?
──違います。あなたはご存知ですね、未来にどうなるのか。
俺は首を振る。
それが何年あるいは何日後かは分からない。
でも、性格の破綻したあの美少年は言うだろう。
『もうあのロボットには飽きたんだ。お前、捨ててきてくれる?』
──システィ。俺はそれでもいいと思っているよ。俺の存在は元々そういう物だ。
錆びたナイフが捨てられて嘆くかい?
俺は微笑んだ。
「レヴィテル?」
誰かが俺を揺する。あぁ、ませガキと一緒に寝てたんだっけ。早いうちに部屋に戻さないと。
俺は少年を抱きかかえるようにしながら、寝台から起き上がった。
作者のホームページへ「鬼畜なアンドロイドです……。」
...2008/2/3(日) [No.408]
黒狐由意
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