えーと、何だったかな。 『ときどきメモリアル』?・・・違うか。
ホラ、よくあるだろう? 恋愛シュミレーションゲームやエロゲーでとびきり可愛い子たちにアプローチかけられるシチュエーション。
今の俺はまさにその状態に近い。 どちらかと言えば淡泊なほうかもしれないが、俺だって青少年なわけで。 (というか、この年齢で枯れてるわけもない。)
まぁ、普通なら泣いて喜べる立場なんだが・・・
タイプA→可愛い容姿に甘えた仕草どんな男もイチコロの小悪魔タイプ。
タイプB→純情と健気さが売りでなんだかほっっとけない子犬タイプ。
タイプC→溢れる色気と美貌を武器に男を掌で転がす魔性の女タイプ。
さぁ、あんたならどの子を選ぶ?
ちなみに俺は選べない。 何故かって??
全員、正真正銘の「男」だからだ。
もちろん、俺も男だ。 そして、相手も男だ。 はっきり言わせて貰おう、俺には断じてそんな趣味はない!!
「っん・・・・・・。」
下半身に妙な違和感を感じてゆっくりと瞼を開ける。 なんだ?まだ随分早い時間のようだ。 眠気に誘われるまま、また俺は目を閉じ…ようとした。 出来なかったのは今度ははっきりと下半身に刺激を受けたからだ。
「ぅっ・・・。」
下半身…もとい股間に「何か」が触れてる。 ゆっくりと目線を下へ移した。
「あっ、起きちゃった?」
悪びれもなくペロリッと舌を出し、そのまま俺の股間のモノに舌を這わせる。 ・・・舌を這わせる?
「…っ!!!!」
俺は声にならない悲鳴を上げた。
「酷い!和也ったら俺のこと投げ飛ばすなんてっ!」
「お前が変なことしてるからだろ!?」
「変って…俺はただ和也が寒そうに体丸めて寝てるからさ、暖めてあげようと思ったの。俺の愛で!」
にっこりと可愛らしく微笑む俺のルームメイト、加藤 高良。 この可愛い顔の裏に何があるのか、俺は嫌というほど知っている。
なんせ、今しがた寝ている俺にあろうことかフェ、フェ…ラをするような奴なんだから。 理性を総動員して、俺の上に居る加藤を跳ねのけ、トイレへと逃げ込めた自分に拍手を送りたい。 実際、結構ヤバかった。(俺のムスコは元気になりかけていた)
「あーぁ、でもほんっっっとに!和也ってクールだよねぇ。俺の計画じゃあの後、本能の獣となった和也が俺に襲いかかる!…予定だったんだけど。」
「あのなぁ…馬鹿なこと言ってないで早く準備しろ。俺はもう行く。」
無駄な体力を使ったせいで腹が空いた。 まだいつもに比べると随分早い時間だが、食堂は朝連の生徒たちのために開いているはずだ。
「やぁん、置いてかないで!」
腕にまとわりついた加藤を振り払いながらドアを開けると、
「っわぁ!か、和也さん!?」
同じ剣道部の工藤 良太が待ち構えたように立っていた。
「良太、どうしたんだそんなとこで?」
「あ、いや…その、…っ食堂まで俺と一緒に行きませんか!?」
ギュッと目を瞑り、頬を染めて意を決したように叫ぶ。 何をそこまで緊張してるんだ、こいつは。
「ああ、構わな「ええええー!!俺は嫌ァ!!」
俺の返答にかぶせる様に加藤が叫ぶ。
「あ、あんたには聞いてないだろ!」
「はい?剣道部の犬がなんか言ってるんですけどー?ワンワン煩い。」
「な、…俺は犬じゃない!」
「あー何にも聞こえなぁい!和也、さっさと行こうよ!」
「ちょ、だいたいなんであんたが和也さんと腕組んでるんだ!和也さん困ってるだろ!」
「はぁ?どこが?超嬉しそうじゃん!腕組んでるのだって、昨日和也が俺のこと朝方まで解放してくんなかったからなの、俺は腰がだるいわけ。わかる?お子様にはまだ早かったね、ゴメンネェ。」
「…う、……嘘だ…そんなの…。」
ぎゃぁぎゃぁ話し合う二人を置いて、俺はさっさと食堂へ向かった。 俺の腹の虫は可哀想になるくらい鳴いている。
そんな俺の状態を知ってか知らずか、一人になった俺にあちこちから声がかかる。 だけど、悪いが俺の耳には届かない。 頭の中には暖かい白飯が浮かぶだけだ。
食堂まであと少し、というところで聞き覚えのある声がした。 思わず足を止めてしまった。
「和也!かーずやー!!」
「…林。」
俺の前に現れたのはクラスメイトの林。 最近何かと声をかけてくる。
「悪い、今急いでるんだ。後に出来ないか?」
「悪いけど和也の周りに誰も居ないこんなチャンス逃せねぇよ!…な、今度映画行こうぜ?チケット2枚手に入ったんだ…。」
少し俯くと俺にチケットを見せてきた。 明るく染められた髪から見えるピアスの空いた耳が赤くなっている。
「ホラ、この前のお礼に…さ。」
林はその外見からか変なやつらに絡まれることが多いらしく、この前俺が偶然その現場を見て、助けようとした、それだけだ。
(というか、俺が声かけただけで変なやつらは逃げ去ってしまった。)
「どうせ、ラブストーリーなんかつまんねぇと思ったから…アクションにした…だからっ、頼む!」
切なげに眉を寄せ俺を見上げた林
・・・・・・の顔色が一気に青くなった。
「何が…頼む…なの?」
その少年のような澄んだ声の持ち主を、俺は一人しか知らない。
「…か、会長。」
林が絞り出したような声で呟く。
「ねぇ、君、邪魔だよ。わかってる…よね?」
「ひっ…!」
林が慌てて逃げ出して、残った俺はというと・・・未だに後ろを振り向けない。
「和也、どうしてこっちむかないのかな?僕にやましいことがあるから?へぇ、そーなんだ?」
クスクスと、声は俺の真後ろから聞こえる。 俺は勢い付けて体を回転させた。
思った通りまさに透き通るような美少年、もとい我が高校の生徒会長様がふわりと微笑んだ。
「ね、和也。さっきの男と何してたの?」
「や、別に…。」
さっきまで勢いのあった空腹感が消え去った。 その代り腹の底のほうに石みたいなものが詰まる。
「別に…?…それ、答えになってないよねぇ。」
クスクスと笑うと周りの景色が輝く。 それだけの綺麗な笑みに俺はゾクリとした。
「和也って焦らし上手だねぇ。僕知らなかったな。…でも、僕焦らされるのは嫌いなの。」
会長の細い指が俺の頬に触れる。 そのまま滑らせるように首元へと向かう。
「生徒会に入る件も考えてくんないみたいだし?…僕だって我慢してたけど。」
すすっと会長の指先が俺の制服の上通る。 そして俺の…脚の付け根辺りで止まった。
「お仕置きは何がいいかな?…ココ、一滴残らず絞り出してあげる…てのはどーかな?」
「ああああぁぁぁ!!てめぇ、人のもんに触ってんな!セクハラ会長がぁ!!」
怒声と共に加藤と
「和也さん!和也さんっ!!ダメ、離れて!!」
大慌てで良太が走ってきた。
二人が勢い付けて俺と生徒会長を引き離した。 そこまで来て俺は初めて会長と随分近づいていたことに気がついた。
会長は綺麗な顔を歪め「チッ」と舌打ちする。
「何なの?君たち?」
「あのね、あんたが何様なの?和也は俺のもの。これ、常識。」
「って、それは違うだろ!会長、突然すいませんでした。でももう、お引き取り下さい。俺と和也さんは今から食堂へ行くんで。」
三竦み…ならぬ三睨み。
良太の食堂の言葉に俺は空腹を思い出した。
「…腹減った。」
俺の小さな呟きに3人とも振り返り、3人とも微笑んだ。
結局俺は右に良太、左に加藤、前に会長と、3人に囲まれるようにして食堂へ入った。
俺の成長期特有の食欲に関して、3人とも「お弁当」に目を付けていることなんて俺は知る由もない。
(「やっぱり、精力がつくものだよね!夜の営み(まだしたことないけど)には超重要だし!」)
(「和也さん、部活もあるし…スタミナ、スタミナがつくものって…なんだ?」)
(「…良い薬、手に入れとかなきゃ。やっぱり即効性よりは後からジワジワ来るやつのが…理性崩壊には、うん。」)
俺はノーマルだ。
「和也、俺和也にならたっぷりサービスしちゃうからね!」
「俺、和也さんのためなら何でもします。全身全霊でご奉仕させて下さい。」
「お仕置き…クス、大丈夫。気持ちいいだけだから。」
もし、羨ましいと思う奴がいるなら是非変わってくれ。
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