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 (ファンタジー、魔術師、ガーゴイル、リバ/18禁)
陽炎の影


わずかに仮聴覚に響いてきた音が気になって、シェロンは音が聞こえた方向に首を傾けた。
がちりと、首の周りの重々しい鎧が動く。
空気が、大気が少しだけ、歪んでいる様な気がする。
「なんだろうか……。」
独り言を呟くが、むろんシェロンの近くには誰も居ないので、その言葉に答えるものは居なかった。
ただただ、古城の周りを取り囲む森に住まう鳥や獣たちの声のみが、今は届く。
「ふぅ……。」
気のせいだろうと思い、伸ばした首を組んだ足の上に乗せる。
こうして、じっとしているのが一番楽なのは、シェロンがガーゴイルとして作られたためだった。
基本ベースを幻の風竜の身体であるが、それでは鉱物で作られた皮膚の重さでシェロンが浮かない。
そのために急遽その背に付けられた翼は、不恰好な皮膜で大気を掻き乱す翼だった。
そして、シェロンを作り上げたのは、この大陸では有名な魔術師、イデオ。
イデオがシェロンを作った理由は、単に護衛の為ではなかった。
だが、その理由を知りつつも、シェロンはイデオのことを慕っていた。
主は…どうしているのだろうか。
人よりも優れた聴覚や、魔法的物質の存在を感知できる感覚器官で異常が無いか警戒しつつも、心がイデオを想うのは止められない。
その思慕が自分を苦しめることは当に承知の上だったが。
『シェロン、来い!』
急に頭の中に響いた主の声に、シェロンは跳ねるように体を震わせ、首を上げた。
無論、体はすでに主が居る古城のほうに飛んでいるが、頭の中は疑問でいっぱいだった。
主の声が、どこか切羽詰ったような声がだったからだ。
昨日はあれほど喜んでいたというのに、この変わりよう。
いったいどうしたことなのだろう。
「おれが追い出される時が早まったのだろうか……。」
そう無意識の内に呟いた言葉に、心がひどく痛んだ。



苛立たしげに石の床を踏みつける音が、分厚い石の壁越しからも聞こえる。
それはシェロンの優れた聴覚によるものというよりも、それが愛しい主の立てる音であることでしかない。
そして、今の人の姿である自分の移動速度の遅さに苛立つ。
今、シェロンは古城の回廊をひたすら駆ける、灰褐色の長い髪と海のように蒼い瞳をした男の姿だった。
心配そうに瞬かせている目や、鼻などの造りは、どこかの貴族かと見間違うかのような秀麗な姿だった。
急いで変化したので、どうにもこうにも心の移動速度と、実際の移動速度が噛みあわなくて、階段では足を踏み外しそうになった。
シェロンは急いで部屋に入ると、「遅い!」と一喝され、身を竦ませた。
そしてシェロンを叱りつけた男は、シェロンの主であるイデアだった。
薄暗い場所での研究のせいで視力の悪いイデアは、自作の薄いレンズの眼鏡を鼻梁に掛け、苛立たしさを隠しもせず、短め銀色の髪を掻き揚げた。
その姿は、シェロンよりは背が低いが、立派な男性で、魔術師という肩書きに似合わず適度に筋肉が付いた均整の取れた体つきだった。
そしてその手で、大きな机に広げられた紙や小物を払いのけた。
カキンと音がしたのは、魔方陣を描くのに使われていた魔石だろうと、シェロンは頭の片隅で感じるが、殆どは行き成りの主の苛立ちの原因を考えるために使われていた。
「主…っ!」
とりあえず、自分の中で考えても埒が明かないという答えにたどり着いたシェロンは、恐る恐るその理由を聞こうと口を開いた直後、イデアに首を掴まれ、息を飲み込んだ。
「……風竜の反応が……消えた。」
その言葉に、シェロンは目を見開いた。
昨日の主の喜び。
それはイデオが追い求めてやまなかった幻の風竜の存在を感知できる魔方陣を作成することに成功したからだった。
そして、風竜を捕獲する。
それがイデオの野望であった。
どうしてそんなにも風竜に執着するのか、シェロンには分からなかったが、イデオの風竜捕獲の欲望の果てに作られたのが自分であることは良く知っていた。
そして、その風竜が消えた。
無論一晩で大陸を渡りきる風竜の移動速度にも対応したのにもかかわらず。
そのことが、イデオに、そして自分にどのような影響をもたらすのか、今のシェロンには分からなかった。



「ひゃ…あっ……んんっ!!」
後孔に挿入されたディルドが不意に前立腺を掠り、シェロンはびくりと腰を跳ねさせ、艶のある喘ぎ声を漏らした。
痛みと快楽の差でびくびくと震える雄は、その根元が白い布で戒められ、新たなる苦痛をシェロンに与えていた。
「これぐらいで根を上げるのか?」
イデオは魔方陣が描かれていた机の上に乗せられたシェロンのあごをくいと片手で上げ、不吉な笑みで笑う。
「あ、あるじ……。」
シェロンは涙で潤みきった視界で何とかイデオの表情を捉えようとしているが、そのかいもむなしくディルドをむちゃくちゃに出し入れされる為に裂けてしまった内壁の痛みに呻いてしまう。
「んっ!!」
そして不意にディルドを抜かれ、シェロンは海老のように仰け反る。
ぱくぱくと赤く染まった後孔からとろとろと潤滑剤と自分の体液と血が交じり合った液体が滴り落ちていることなど、シェロンには分からなかった。
かしゃんと軽い音を立てて、シェロンの横にイデオの眼鏡を置かれたことに気が付くと、シェロンは息を詰め、次に来るはずの衝撃に備えた。
「んんっ!!!」
「…っ。」
激痛と共にイデオの雄が衝き込まれるのを、シェロンは理性が遠のきそうになりながらも感じた。
作られたシェロンは、普通の生き物とは違い、痛覚を遮断できる機能を持っているのだが、それでもシェロンは愛しい主に与えられるものは全て受け取りたかった。
たとえそれが苦痛に満ちたものであっても。
がくがくと腰を衝きこまれても、シェロンの口から漏れるのは、苦痛に満ちた声であっても、拒絶の声音は含まれていなかった。
「ふぐぅっ!!」
勢いよく奥を衝かれシェロンが呻いたと同時に、イデオがイったらしく、どくどくと熱を奥に注ぎ込まれ、さらにシェロンは小さな声で呻いた。
「……さっさと見回りに戻れ。」
冷たく命じる声と共にぬるりとイデオの雄が抜かれて、シェロンは蒼い瞳を潤ませ、いまだイくことの出来ない雄を戒められたまま無理やりスラックスの中に入れる。
シェロンはイデオに抱かれた時から、自分が射精することをイデオに禁じられた。
完全な生体ではなく、魔法回路をところどころ埋め込まれたシェロンにとって、自らの身体を管理するのは半無意識下で出来るようなことだったが、高められたものを体内の中で変換しながら正常状態に持っていくことは大変な事だった。
「う…んく……。」
急激な体内変化に眉をしかめつつも、よろよろとよろめきながらシェロンはイデオの傍から去る。
そして、ガーゴイルの姿となり隣の部屋のベランダから飛び立とうとしたとき、ざわりと項の鱗が逆立った。
その瞬間、目の前の森の緑が一瞬にして白くなった。
「竜!?」
視界ではまったく確認できないが、古城全体に掛けられた多重結界の第一層二層を衝きぬけ三層に迫っている高温の炎によって結界がオーバーヒートを起こしている結果、白く成っているとシェロンは結論づけた。
そして、その炎を起こしている原因は、シェロンが今居る場所から反対側に居るらしい竜であることが、古城の外に置かれた探査具に意識が繋がっているお陰で分かった。
「シェロン、結界に攻撃を仕掛けているのは、どこの馬鹿だ?」
バタンと後ろの扉が勢いよく開いたのと同時に、シェロンと同じく結界の異変と、その外にある脅威に気がついたイデオが小走りに部屋を横切る。
「どうやら、竜、みたいです。」
背中にイデオが乗った感触を確認した後、飛び立ったシェロンは、恐る恐る言う。
「風竜……ではないのだな。」
結界が何枚か破られている状況では、イデオの声は怒りよりも冷静さの方が勝る声色で、それが返って今自分たちが危険な状況であるかを知らしめているかのようにシェロンは感じた。
竜。
世界に十体以下しか居ないと言われている、生き物であって、生き物ではない存在。
神と崇められている地域もあるが、『縛られ無き者』達の影とも、落とし仔とも呼ばれる彼らは、到底人の範疇に入るようなモノではなかった。
ある意味、自然の一部としてみなされている彼らは、人の前に姿を現した場合、自然災害並みの猛威を振るうことが多く、人々には忌み嫌われている存在で、イデオのように焦れている人間はごく少数だった。
シェロンは、そんな非常識極まりない存在である竜を模してはいるが、力は圧倒的に劣る。
「とりあえず、お手並み拝見といくか。」
その言葉に、頭の中では退路手順を考えていたシェロンは驚いた。
まさかイデオが生身で竜と対峙するとは思いもしなかったからだ。
「身体結界は強化したほうが良いだろうがな。」
シェロンの驚きが伝わってしまったのか、イデオはごく自然に付け加えるような一言を良い、竜が居る場所に向かうシェロンの背の上で、結界呪文を何度も詠んだ。
「……結界突破します。」
炎の攻撃は止んだようだが、周囲の大気が高温の炎で大気中のダストが発火する寸前まで熱せられていることに反応している結界は、まだ白く染まっているが薄っすら向こうに大きな影が宙に浮かんでいるのが見えた。
そこを、イデオが身体結界を張っていることを見越して、シェロンは特有の波長を出し、結界を中和しながら、外へと飛び出た。
そして、そこにいた竜が、自分の想像よりも凌駕した存在だということに、絶望の色がゆっくりとシェロンに染まっていった。
「やっと出てきたか、まがい物。」
漆黒の鎧のようなごつごつとした皮膚の下には、灼熱に燃える身体が見える竜は、溶岩流のような禍々しい面で、視覚で視認したシェロンに一瞥をした。
背中には、シェロンとは違う造りの羽が、空中でとどまっているのにもかかわらず、微動だにせず広げられていた。
赤い舌がちろちろと覗く口から噴出されているのは、メタンだろうかと、シェロンは凍りつきそうになる頭の片隅で、場違いのように思った。
「して、その人間が造り主か。」
あれだけ激しい攻撃をしておきながら、その声音には面白がるような色が混じっている。
「竜がこの寂れた城に何用か?」
イデオが竜に投げかけた言葉は、完全に絶体絶命だということは知りつつも、そのことなどおくびにも出さない声音は、絶対零度の冷たさだった。
さらさらとイデオの銀髪が風と煙になびく音を聞きながら、シェロンは竜の次の一手に息を懲らしながら神経を尖らせていた。
「ふん、風竜が居なくなった理由が、もしや周りをうろちょろしていた『虫』にあるかと思ったが、そうではなさそうだな。」
竜の声音は、ごつごつした外見と反して、男性的な綺麗の声だった。
「まあ、いい。」
その言葉と共に、竜の口から禍々しい光が漏れるのを見、シェロンはあるはずの無い逆鱗が逆立つような気がした。
来る。
そう思ったとたん、背中に乗るイデオが結界魔法を詠むのと同時に、竜の口から高温の炎が放たれた。
「イムソムニア!」
その言葉が、シェロンの中で『真空防御』と変換される時には、周りの大気中のエメが震えるのを肌で感じた。
「……むちゃくちゃ……過ぎる。」
唖然とシェロンが呟いてしまったほどに、竜から迸る炎に含まれた膨大なる魔力が炎の中からあぶれ、大気中の魔力を伝えるための媒体、エメが震えるが、それと同様にイデオの風属性の防御結界が限りなく真空状態を作り、熱伝導を防いでいる力が途方も無いことに、シェロンは感じていた。
主……。
そして、焦っても居た。
竜がどれくらいの魔力があるのか知らないが、イデオにとって最高出力の結界を展開できる時間など、そう長くは無い。
「…っく……。」
イデオの苦痛の声が漏れて、シェロンが大気に浮遊の為の魔力を織り交ぜ羽ばたいていた翼の付け根の角度を変えようとしたとき、不意に竜の炎が止んだ。
「…っ!」
「主!!?」
それと同時にイデオがシャロンの背に倒れこむのを感じ、シャロンは悲鳴混じりの声を上げた。
「我が寛容で良かったな。他の奴らだと消しくず並に吹き飛ばしてだろうな。これに懲りたら、風竜は諦めることだ……。ましてまがい物を造ろうなどと、努々思うな。」
竜はそういうと、ばさりと翼を一打ちし、巨躯を上昇させる。
何も言えず、ただ固まっていたシェロンは、最後に一瞥した赤と金に燃える瞳が、どこか悲しげな色に、心をぐさりと刺されてしまった。
「ううっ……。」
「あ、主!?大丈夫ですか!?」
イデオが苦しげな声を立てたことに我に返ったシェロンは、声をかけつつも、身体は城にあるイデオの自室へと駆けていた。そこならば、魔力不足で衰弱しているイデオを助ける器具や薬があるはず。
そればかりが頭の中に占めていたシェロンは、不意に腕の中で呻いたイデオの一言に、凍った。
「……役立たずどころか、災いを呼ぶのか……お前は。」
レンズ越しの赤い瞳は、怒りのみがあり、その怒りがどれほどなのか、生まれてからずっと傍に居たシェロンは良く分かった。
よく分かった上で、自分の身体に走った感情と、そして今の今まで考えてきたことが、ふっと浮かび上がってきた。
しかし、それはおくびにも出さず、シェロンは黙ったままイデオの自室へと入り、奥にある質素なベッドの上に主の体を横たえた。
「ふう……あれほどとはな、竜の力は……。」
見くびっていたという言葉がつむがれる前に、イデオの口を防いだのは、シェロンの唇だった。
……さようなら…主。
心の中でそういいながら、シェロンは初めてのイデオの唇をむさぼるように口付けた。
拙いながらにも、初めての接吻と、そして初めて口付けるイデオの唇の味に、シェロンは酔う様に彼の口の中に舌を差込み唾液を飲み込み、そして自分の唾液を流し込んだ。
目を見開いたイデオは言葉にする前に、シェロンから流し込まれる唾液に彼の魔力が交じり合っているのが分かった。
確かに、あまり一般的ではないが、魔力を補充するために他の生き物から体液を解しての魔力補充の方法が昔から伝えられている。
知られているが、こんな方法で与えるとはどういうことなんだ!
驚愕の次に怒りに体が震えるが、魔力切れは魔術師にとっては致命傷だ。
普通の人間では動くときには筋力だけで事足りるが、魔術師は生まれもって動かすときに魔力も動かすことができ、それによって体の中で動かした魔力を意図的に体外に放出することによって魔術を完成させる。
反対に、魔力がなければ動けない体であるとも言えるのだ。
「んっ…何を……するっ!」
シェロンが唇を離した一喝したイデオだったが、その声は怒号には程遠く、自分自身でも弱弱しい声だと認識できるほどだった。返って、口付けで軽く酸欠気味になってしまっていた。
「……魔力、補充です……。ですが、暴れられると困りますので……。」
イデオの目を見ないシェロンは、部屋のカーテンをとめる紐をしゅるりと抜き取ると、それで頭の上でクロスさせたイデオの両手首を紐でくくり、その紐をベッドヘッドにくくりつけた。
そして自身は横たわるイデオの頭の横に座る。
「んっ!?」
そして再度口付けをされ、イデオは次に注ぎ込まれたのが、シェロンの体内で作られた眠り薬であることが分かった。
とはいっても、職業柄薬には耐性の着いているイデオにとっては、その量の眠り薬では眠るにはいたらず、とろりと蕩けた赤い瞳が深い口付けのせいなのか、それとも眠り薬のせいなのか、シェロンには分からなかった。
「失礼します……。」
そう言って、ひやりと肌が外気に触れたことに気がついたイデオは、シェロンが自らの上に乗り、服を剥ぎ取っているのが分かると、一気に怒りともつかない激情が背を走った。
「…しぇ…シェロン!!」
呂律の回らない下に苛立ちながらも、シェロンに怒りの声を上げるが、長い黒髪の青年は、その声が気づかなかったかのように、上着のボタンをはずし、そして手に持っていたはさみを使って、袖部分をじょぎじょぎと切り取っていく。
「っ!!!」
そして下着も何もかも外された後、シェロンはイデオの両足を手で抱え、自身は又の間に入って、イデオの足が閉じられないようにした。
口付けに半分立ち上がった雄が、さらに羞恥を誘う。
その頃には、イデオも何をするのかが良く分かり、羞恥で真っ赤に染まった顔を背けた。
足掻いた所で、今の自分は犯されるしかないということは、理解するよりも先に心の中に落ち、かといって黙って犯されるのが許せないほどプライドが高いイデオは、心を閉じようと、目を閉じた。
「眼鏡、外します。」
そういうシェロンの声がイデオの皮膚を震わせることなど、当人たちは知らなかった。
そして眼鏡を外したイデオの眦に涙が一粒あることに気がついたシェロンは、愛おしそうに彼の主の涙を舌で味わった。
好きでした。
その言葉を、心の中で言って。
「気持ち……よくさせますから。」
口はそんな言葉を紡いで。
受身ばかりで、攻めたことの無いシェロンだったが、陵辱時に自分がどの部分で快楽を得るのかはちゃんと知っていた。
「んっ……!う……うう……。」
器用にイデオの胸の粒を下で転がしながら、彼の雄を手でやさしく扱いてやると、衰弱のせいなのか、眠り薬のせいなのか、とろとろと蜜が零れてきて、シェロンは人知れず静かな笑みを浮かべた。
「可愛い……主……。」
その言葉に相手がぴくりと体を震わせるのが分かり、シェロンはもっと愛おしそうに言葉を連ねる。
「可愛い。肌が綺麗だ……ピンクに染まっていて……。胸の飾りも赤く染まって……。」
いつの間にか敬語が取れてしまった自分の言葉に気がつかず、シェロンは言葉を連ねる。
「主の唇も、赤く染まって、これも…綺麗な色に染まって。」
そういって、少しきつめに雄を扱くと、びくんとイデオの体が海老のように反った。
その反応に自身もぞくぞくとした感情を感じながら、シェロンはイデオのものを口に含んだ。
口淫なら、イデオ自身に教えられ、シェロンも巧みに行うことが出来た。
それをイデオが忌々しく思っているなどとは思わずに、イデオを追い上げるために、舌を存分に使う。
「んんんんっ!!!」
そして、熱が口の中いっぱいに広がったとき、シェロンはその熱を飲み込まずに自らの手のひらに吐き出した。
「声、出さないと駄目だ……。」
そう言って、硬い唇の狭間に指をねじ込むことに成功すると、あっけなくイデオは陥落し、それから甘い声をシェロンに聞かせてくれた。
「あ……や、やめ…んんっ!!」
硬い蕾を自身の精液で塗らされ、そして指を一本押し入れられたとき、イデオはその異物感に身悶えた。
異物感はあるが、不快というには、今までの快感が交じり合ってなんともいえないものが自分を支配するのをイデオは頭の片隅でぼんやり感じた。
「ここ……だな……。」
「あああっ!!!」
シェロンが蕾の奥の秘肉にあるしこりを指の腹で押すと、まるで電撃が走ったかのようにイデオが艶やかな声で仰け反る。
「ひぃ……いっ…あああ……あっ!!」
三本の指で暴かれたそこは、真っ赤に熟れ、シェロンは無意識にごくりと生唾を飲み込んだ。
「はあ…あ……あっ!?」
イデオは、さんざんに弄られたそこに、指とは違う熱い何かが押し当てられるのを感じて、体を揺らす。
「……力、抜けよ……。」
初めて聞いたシェロンの命令口調に目を見開いたイデオは、その次に体を引き裂くような熱に、悲鳴を上げた。
「んん……キツ……。」
初めてかどうかは知らなかったが、イデオの蕾はシェロンの想像よりもきつく、亀頭を挿入するだけでもゆっくりとゆっくりと時間をかけて押し開いた。
その間にも、イデオの体を愛撫するのは忘れない。
力自体はすでに体から抜け切っていたが、それでも主に触れるのは、シェロンにとって至福であり、脇の銀色の毛を舐めたり、鎖骨を舐めたりした。
そして、最後まで入ったとき、ちゅっとイデオの鼻の頭にキスをした。
耳を舐めながら、イデオの中を味わう。
「主の中、とても気持ちがいい……。」
吐息のように耳の中に吹き込むと、ゆっくりと腰を使い、自身の快感はもちろん、イデオの快感を呼び起こそうとした。
くちゅりくちゅりと恥ずかしい水音が、二人の吐息に交わり部屋に響く。
「うんあ……あ……あ…はあっ……あ、ああ…あああああ!!!」
「……んっ!!!」
イデオがイったのと、自分がイデオの中に熱を放出したのを感じながら、シェロンは冷たくなっていく心を冷静に見ていた。
ただただ思うことは、主が愛おしいということだけだった。


暗く、暗く、これほど暗い闇があるとは思わなかった。
人の間で語り継がれている、大地下迷宮の御伽噺。
それを思い出すかのような大きな洞窟が、果てが見えないほどで、大地下迷宮の主で、そして作り主でもある、「全ての虫の王」が実在するかと思うぐらいだった。
ぴちゃんと、見えないほど高い天井から落ちてきたと思われる水の雫が鼻先に落ちてきたが、シェロンがそれに反応することは無かった。
「…墓場には、ちょうどいい所だ……。」
イデオを犯して、その足で城を出、そしてイデオに魔力を与えたための魔力不足で、地上にぽっかりあいた地下洞窟に身が吸い込まれるように落ちたとしても、シェロンは動揺はしなかった。
落ちたところが砂地であって、重力落下速度で落ちたとしても大丈夫なほどの自身の頑丈さを嘆きはしたものの、再び翼を動かそうとはしなかった。
最後に見たイデオの顔が泣き顔であることを思い、笑顔を見たことが無いとぼんやりと思った。
そして、洞窟の向こうから地響きが聞こえたとしても、体を動かすことは無かった。
目が最後に閉じようとしたとき、不意に聞こえた声に、シェロンは自身の耳を疑った。
聞こえるはずの無い声。
「さっさと立て、シェロン!!」
その声に、命じなれていた体は、意思と反して瞼を開かせた。
だが、声を発することが出来ない。
無理だ、主。眠らせてくれ……。
落ちる瞼の向こうで、聞きなれた苛立たしげな声が聞こえる。
「くそっ!思った通り魔力切れか!おい、口をあ・け・ろ!!!」
そう言いながら、強引にガーゴイルである自分の口をこじ開ける手に気がつき、シェロンは傷つけてしまうかもしれないと慄いた。
守るものが、傷つけてどうする。
だが、そんなことに頓着しないその手は、鋭く尖った歯の間に液体が流し込む。
それと同時に、液体を解して魔力が注ぎこまれていることを感じ、シェロンははっきりと意識が覚醒した。
そして、この状況もはっきりと分かった。
「ラタソムニア!」
『氷水防御』という意味の結界呪文を唱えている、イデオの姿を。
銀色の髪がぱきぱきと凍り始めた地下水の壁から放たれる冷気に靡くのを呆然と見る。
そして、どんと結界に何かがぶつかった音も。
「目が覚めたか。さっさと、ここから脱出するぞ!」
「は、はい!!」
首を下においてイデオが乗りやすいようにすると、砂地に結界保持用の魔石を置いたイデオが、すばやくシェロンの上に乗った。
「あれが『虫の王』か……。実験体にはでか過ぎるな。」
そして、地上へと舞い上がる間に、結界にぶつかる巨大な巨大な百足を見下ろすイデオの一言に我に返った。
「ああ……墓場が……。あれ、主が…!?おれ出て行ったんじゃなかった…?」
「五月蝿い!!」
混乱するシェロンをガツンとブーツで蹴り付けたイデオは一喝して、言った。
「むざむざと殺させてたまるか。お前は俺のガーゴイルで、すなわち俺のものだ。それ以上でもそれ以下でもない。」
断言する言葉で、いまだ混乱するシェロンは、それもそうかと思い、イデオの指示で地上へと舞い戻った。
だが、そのときには、頭も冷えていて、シェロンの説教を聞いた。
「まったく……、お前は逃げてしまえば、俺が追いかけてこないとでも思ったのか?甘い、甘すぎる。風竜の感知魔方陣を応用すれば朝飯まえだ。それに風竜対策用に俺が風属性魔法を極めたのを忘れたか。一人で飛ぶのは出来る。人が耐え切れる速度以上で飛べるお前には追いつけないがな。」
そういうと、言葉を止めた。
「……おれは要らないのでは……。」
沈黙に耐え切れなくなって、シェロンはイデオに問うた。
イデオはその言葉を聞いた後、ふいに顔を背け、言った。
「……昔話聞くか?」
「……聞きます。」
シェロンの言葉に押されたように、イデオは彼に表情を見せずに言葉を紡ぎ始めた。
「昔、俺が小さいガキの頃だった。俺の家族は砂漠を行く遊牧民でな。その日も黄色と青しか色の無い砂漠をゆっくりと歩いていた。俺は、砂漠の民なのに、真っ白な髪と肌と赤目で……。家族は優しかったが、それ以外は非情だった。そして、家族は貧乏だった……。その日はな……俺が売られるために町に行っていたんだよ。砂漠に耐え切れない子を養えるほどではなく、そして色なし子は高く売れる。色と引き換えに、魔力操作の能力を手に入れているからな……。そうして、町が見えてきた頃、家族は盗賊に襲われた。俺の命を長引かせるためにあえて家族と引き離す選択をしたのにもかかわらず、無常にも、剣は父の喉を裂き、母の足を砕き、兄の背を貫いて。」
震える体に気がつき、恐る恐るシェロンはその手に、触れた。
そして、どうしても耐え切れず震える主を腕の中で抱きしめた。
首に顔を埋めるイデオの息遣いを感じた。
あやすように、背をゆっくりと撫でる。
「最後に俺に気がつき、刃がきらめいたところまでは見ていた。目をつぶった直後に、盗賊たちの声が聞こえた。そして恐る恐る目を開いたとき、目の前に、青磁色の鱗を煌かせた風竜がいた。」
淡々と紡ぎだす声音が、返ってその時の恐怖を感じるようで、いつの間にかシェロンの視界が潤み始める。
「風竜は、盗賊たちを全て吹き飛ばした後、人の姿となって俺に手を差し伸べた。気まぐれだったかもしれないが、嬉しかった。そして悲しかった。一人だけ助かることが。その後、風竜の背に乗って、彼の知り合いである人物に預けられて……それっきりだ。俺は、風竜に合うことが目的で、いままでそれ以外の目的が無かった。この性格だろう?誰にも信じないと思って、捕獲だと言ってただけだ。まあ……成長した俺が俺だと分かる前に攻撃を仕掛けられたら適わないから、防御魔法を主にいろいろ手当たり次第に魔術を吸収したということもあるわけだが。」
流石に、あれほどむちゃくちゃだと思わなかったが、といった言葉に、シェロンはどう反論しようかと一瞬思った。
「……お前は…たんに通過点に過ぎないと思っていた。」
ぽつりと呟く声に、びくりとシェロンは体を震わせてしまった。
「ガーゴイルはいなくなっても、また作れる。そう、技術上はな。でも、お前という個体はもう作れない。そう思ったとき、俺は自分自身でも驚いたほどに取り乱した。風竜が消えたということを知ったとき以上にな。」
そうして、イデオが顔を上げたとき、顔をしかめて、ぐいと両手で頭を挟んで自分の顔に近づけた。
「お前が泣いてどうする……。」
「す、すみませ……。」
そして、ずるずると鼻水を啜り上げるのを見て、ため息をついた。
「もういい……。お前は一生俺の代わりに泣け。そして一生懸命生きろ。俺はお前が一生懸命生きるのを目標にする……。俺の生きる為の目標にな。」
「お、おれも……主のために……!」
ずるずると涙やいろんなものが出ている顔ではしまりが無かったが、シェロンも宣言をしようとして、ぐいと後頭部をつかまれたイデオの手とそして唇に封じられた。
甘い甘いキスで、ぼうと頭がぼやけたところに、唇をようやく離したイデオが命じた。
「それと、敬語はやめろ。素の言葉と違うんだろうが。後は、俺の名前を言え。…覚えていないとは言わせない。」
「……イデオ……。」
その言葉に、イデオはすこし不恰好な笑みをそっと浮かばせた。


砂漠に浮かんだ陽炎を追い求めた少年は、陽炎の影が、真に自分が求める者と気がついたのは、失いかけたそのときだった。
「思いがけず長くなってしまった……。ギリです(汗)」
...2007/11/25(日) [No.397]
燈炉
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