よくもてる。 男にも女にも。
俺のことじゃない。
俺の愛しい恋人が。
一目惚れをしたのは俺のほうで、 というか、しないほうがおかしいくらい、あの男はきれいだった。
10人中10人が振り返るんじゃないかと思うような整った顔に、 日本人とは思えない長い脚、耳に心地よく響くエロい声。
何をとっても一級品で、俺は心奪われた。
そして勿論心奪われたのは俺だけじゃなかった。
大学であの男に関する噂は様々で、 どれがほんとかなんて俺には確かめる術などなかったけど、 それでも馬鹿みたいに憧れた。
あの男の周りにはいつだってきれいな人(女にしろ男にしろ) が集まっていて、俺は近づけるはずもなかった。
顔は・・・まぁ普通かな。(もてるわけじゃないけど何度か女の子に告白された経験有り。) 背は・・・平均男性並み。(ひょろいから実際より小さく見えるらしいけど。) 性格は・・・友達は多いほうだと思う。
まぁ、天と地の差っていうか、あの男と釣り合うはずもない。
最初っからダメもとで告白した。(彼が男もいけることだけは確かな情報として手に入れていた。)
「ああ、じゃぁ付き合うか。」
告白した俺のほうがあまりにもあっさりした答えに「どこへ?」と返しそうになった。 最初はほんとに意味がわからなくて、というか信じられなくて、2回も3回も告白しなおした。
「何度も言わなくてもちゃんとわかってるっつーの。」
不機嫌そうに言われ、俺はその日のうちに抱かれた。 あまりに展開が速すぎて俺は次の日の朝を彼の部屋でむかえても、なお上手く理解出来なかった。 俺の胸元や首筋に残された情事の後や、腰のだるさだけが妙にリアルで、俺が少しだけ泣きそうになったのは秘密だ。
大学ではあまり一緒には居ない。 昼休みの時間だけ、一緒に食堂で飯食ったり、他愛もない話をする。
俺と付き合っていることを彼は隠すつもりはないようで、それは徐々に広まり、俺は皆の視線を浴びることとなった。
時々指さされて笑われたり、俺に敵意を向ける人も居るけど、 実害がないのはおそらく彼のおかげで、嬉しかった。
「コレに手出しすんな。」
コレ呼ばわりだったけど。
抱かれるのはしばしば、次の日が大学が休みになる金曜や、土曜が多い。 一緒に出かけたりお互いの家を出入りする。 平和だった。 何一つ問題もなかった。
ただ、俺はいつも漠然と不安を抱えていたんだ。
彼と俺は本当に釣り合いが取れない。
どこまでも優しくて、浮気もしてない。
あんなに完璧な男が、なんでこんな平凡な男に尽くすのか、俺自身が一番不思議に思ってた。
彼の好きは、俺の好きと同じなのか、なんて乙女のようなことを思う自分がキモい。
怖い。
俺がもし「別れよう。」と言えば彼は「そうだな。」と返しそうな気がする。(生々しく想像できる。)
怖いよ。
悪いが、俺はもてる。
今までそれを恵まれたことと思っちゃいなかった。
あの男に出会うまで。
あいつに告白されたとき、俺はあいつの名前も好きなものも嫌いなものも、身長、体重、趣味、調べられることは全部調べて、知っていた。
俺を好きだってことも知っていた。
先に言われてしまったのは、予想外だったが。
いつもは煩わしい他人からの視線が、あいつからの視線になると俺は酷く興奮した。
馬鹿みたいに緊張して、手に嫌な汗をかいて、喉がカラカラになった。
見られてる。
意識すればするほど、どうしようもなくなっていた。
告白されて、(何故かあいつは2度も3度俺を好きだといった。嬉し死にするかと思った。)付き合って、大切にしようと思った。
無理だった。
なんの警戒心もなく俺にほいほい付いてきて、無邪気に俺の部屋のベッドに座るあいつを見て、とっくに崩壊していた理性は保つはずがなかった。
次の日の朝、俺の部屋のベッドの上でへたりこんでぽやーっとするあいつの情事の名残りを見て俺がギンギンにさせていたことは秘密だ。
大学ではあまり一緒に居ない。
正直物凄く不満なんだが、あいつは満足そうだ。
それもそのはずだ、俺といるせいで変な嘲笑を浴びているんだから。
「コレに手出しすんな。」
殺気を混ぜて周りのやつらに言いまわった。
それでもあいつを馬鹿にするクズが居ることが憎たらしい。
俺は出来る限りの優しさをあいつに向けたし、抱くのは次の日に大学で講義がない日、と決めている。
そうしなきゃ、きりがない。
それに、あいつが持つ俺に対するイメージを壊したくない。
完璧な男であれるように。
辛くないと言えば嘘になる。
それでも本性を見せてあいつが俺から離れることを思えば我慢できる。
だから、そんな風に何か言いたそうな悩ましげな顔で俺を見ないでくれ。
頼むから。
「っ、い・・・ゃあぁっ。」
なんでこうなったのかわからない。
怖かった。
完璧なこの男はいつまで自分の傍にいてくれるのか。
「別れよう・・・って言ったらどうする?」 (「なんだ?お前別れたいのか?」きっと意地悪そうな顔でそう言うんだ。)
違った。
俺の言葉を聞いた途端無表情になり(元からだけどさらに)、 俺をじーっと見た。
俺は怖くなり俯いた。
「やめっ、ね、・・・ちょっ、あぅっ!」
いつもより乱暴だ。
俺の弱点をひっきりなしに攻める。
俺が何か言おうとするとさらに。
彼の長いきれいな指が俺の中から抜かれ、見せつけるようにその指を舐める。
彼はふっ、と笑うと、息を整えてる俺を一気に貫いた。
「ああぁっっ!」
なんでこうなったのかわからない。
俺の下で喘ぐあいつを見ながら俺は思う。
「別れよう・・・っていったらどうする?」
あいつはへらっと笑って、冗談にするつもりだったらしいが、俺はその中に隠された本心を見た気がした。
俺の答えは簡単だ。
(「許さない。」)
心の中で呟いて、態度で示した。
「ふぁあっ・・・あっ、ぁん。」
必死に伸ばされた手が愛しい。
俺が苦しめてるのに、俺に救いを求めてる。
俺はその手を取って引き寄せて口付けて、さらに動く。
俺に口付けされたまま呻く。
気持ちいいのか?
気持ちいいよな?
なぁ、
もうお前が俺に持つイメージぶっ壊してでも、我慢なんかしてやらない。
覚悟しとけ。
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