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 (学生・恋愛未満/--)
じゃじゃ馬の手なづけ方


「知ってた?俺もうすぐ誕生日なんだ」
「そうなの、おめでとう」
パソコンから顔を上げずに、俺はそう返した。
何しろ、忙しい。
この時期は予算編成で手一杯。
生徒会の仕事をしない生徒会長様のおかげで、会計である俺の仕事は雑用も含め増える一方。
「つれないな~ウサちゃ~ん。俺が一大決心して声をかけてるのに」
唇を尖らせて、俺の事を見おろす高島。
生憎、その仕草をして可愛いのは女の子。
図体ばかりがでかい男では気味が悪いだけだ。
それ以前に、俺は宇佐美。
決してウサちゃんではない。
「仕事してるんだよ。用件があるなら手短に言えよ」
打ち込む手を止めずに、俺は言い放った。

印刷用のインクジェットにボールペン、消しゴム。
おっと、コピー用紙ももう少しで無くなるんだった。
諸経費もばかにならないな。
困った。

「デートしよ」
「はっ?」
おもわず顔を上げて俺は高島を見上げた。
「なんだって?」
「ウサちゃん、デートしてよ」
「・・・いやです」
なんで俺が高島とデートなんてしなきゃならないんだ。
俺に、得がひとつもないじゃないか。
大体、彼はデートという言葉の使い方を間違っている。
「お願い、お願い!」
顔の前で手を合わせ、彼は何度も頭を下げる。
横の副会長である吉見が「宇佐美行ってやれよ」と目配せをしてきた。
断じて可哀想だからじゃない。
そうでもしないと仕事がはかどらなさそうだから、だ。
俺は大きなため息をついた。
「そんなの、吉見と行きゃいいだろ」
「それじゃだめなの!!」
即答した高島は、がばっと後ろから抱きついてきた。
「俺は宇佐美と行きたいの」
「どうして」
問答無用とばかりに首に回された手をはらいのける。
まっすぐ高島を見上げると、すがるような目とぶつかった。
「どうしても!」
眉をひそめた俺に、吉見も「ま、そうだろうよ」となぜか頷いている。
「気づかない宇佐美も実はすごいけど」
あきれたように俺の顔を見る。
「は?どういう意味だよ」
隣の吉見を見ると、「そのまんまの意味だよ」と、しらをきりやがった。
「うさみ~お願いだよ、なんでもするからさ」
「何でも?」
走馬灯のように思索が俺の頭を駆け巡る。
これは、もしかするといい機会なのかもしれない。
生徒会長としての自覚を持ってもらう。
俺たちに頼らず、ばりばりと仕事をしてもらう。
「分かった」
そのかわりきちんと仕事してくださいね。
俺は念押しした。

「もちろんだよ!!」
高島はとろけそうな笑みを浮かべた。
「出た…、必殺高島スマイル」
横で吉見の情けない声が聞こえたけど、俺は無視を決め込んだ。
高島スマイル?なんだそれは。
そのネーミングセンスのないダサい名前は。
しかし、きらりと光る高島の目に何かいやな予感はしていたのだ。
俺の予想は的中した。

それから、彼は猛烈な勢いで仕事をした。
驚くほどの速さと正確さで。
そして、今に至る。

「ねえ、先輩命令だよ、宇佐美」
甘い声で高島は言った。
明るい色のテーブルに軽く頬杖を付いて。
口元はわずかに微笑を浮かべている。
昼下がりの陽光が、彼の長いまつげに影をおとしている。
好戦的で、少しだけ悪戯っぽさを秘めた瞳。
彼を取り巻く、不思議に柔らかく人を落ち着かせる雰囲気。
女の子たちは、彼のこういうところに弱いのだろう。
俺も…きらいじゃない。
「逆らえないよね、俺ちゃんと仕事もしたし」
確かに…。
俺は目の前で笑う彼を見た。
「分かったよ」
不本意ながら、フォークを右手に取る。
目の前のショートケーキに指し、彼の口元に運んだ。
「ほら、食べろ」
じろりと彼をにらみあげてやる。
「いただきます」
そんな俺の視線をものともしないで、高島はケーキをほおばった。
「美味しい」
そして、にっこりと微笑む。

皿に戻したフォークがカランと小さな音を立てた。
「誕生日ケーキが食べたい」
そう言って高島は俺を喫茶店に連れ込んだ。
注文したのがショートケーキとチョコレートケーキ。

「宇佐美、ほら」
高島の手がいつの間にか俺の口元に伸びていた。
フォークの先にはチョコレートケーキ。
これは、食べろということらしい。
仕方ない、今日くらいは高島の思うようにしてやろう。
そう思って、俺はケーキを口に入れた。
とろりと蕩けるチョコレート。
甘くもなく少しほろ苦い。
カカオ豆特有の香りがぬけてゆく。
「美味しい…」
反射的に見上げた高島の顔はとても嬉しそうだった。
「だろ?俺、ここのチョコレートケーキがすごく好きなんだ」
まだ、口をつけていなかったショートケーキも口に含むとすごく美味しい。
きめの細かいスポンジに、甘さ控えめの生クリーム。
イチゴの酸味が、おとなしい味のケーキを引き立てている。
「美味しいね」
再度こぼした俺を嬉しそうに見て、高島は笑った。
「そう言ってくれると思った。宇佐美つれてきてよかったよ」
大きな手が俺の頭の上にぽんとのる。
ぐしゃぐしゃとそのまま撫でられる。
しばらくじっとしていたが、あまりに長いこと撫でられたからたまらなくなって俺は高島を見た。
「俺、分かっちゃった。宇佐美を手名づけるにはまず食べ物だね。美味しいものを食べさせておけば、宇佐美はおとなしい。そうと決まれば作戦を企てなきゃ」
ふふふ、宇佐美と間接キスだ。
最後に不気味なことを付け加えて、やけに嬉しそうに笑って高島はチョコレートケーキを食べた。
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...2007/6/17(日) [No.373]
高坂碧
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