「今日は念入りに舐めてあげるからね」 そう不敵に笑った年下の男は有言実行タイプ。 別に恋人という訳でもないのに勝手に合鍵を作り、僕の部屋に居ついてしまった。
男とはいわゆる同好の志の集まるバーで出会った。 カウンターの端で独りウィスキーをロックを舐めていた僕の隣に座り、初めから馴れ馴れしく話し掛けてきた。顔の前を飛びまわるハエの如くのうっとおしさで、僕はずっと無視を決め込んでいたのに男は尚も話し続け、苛々してきた僕はいつもより酒が進んでしまった。
気が付けば酔った勢いで男を自分の部屋へ招き入れていて…。
僕は。 初めて自分の体内に他人を入れた。
いらない。 何度そう言っても聞きやしない。 「なんで?気持良さそうだよ?それとも俺の事嫌い?」 …何故その言葉が出てくるんだ? 好きじゃないと何度も言っているし、かと言って突き飛ばしたいほど嫌な理由なんて無いし。ただ、アレがちょっと…僕は人と触れ合う事が苦手なだけで。 こいつとのセックスは確かに気持は良いのかもしれない。確実にイかせてくれるし本当に嫌がる時はしない。しかしヤツの良いように弄ばれると分かって『はいどーぞ』と足を開く訳にはいかないのだ。 一応年上としてのプライドがある。 アレを舐められると10分も掛からず達してしまう。そんな余裕の無い様をヤツの目に晒すのだけは勘弁願いたかった。 始めの数分はムズムズした感じで、中盤は脳がぼうっとしびれて麻痺してくる。フィニッシュに近付く頃にはもう頭の中には解放される事でイッパイになる。それを知りながら彼は意地悪く動きを緩めたり、手を止めたり。 根元を指でキツク締めて感じる先端を舌先で抉る。 いっそひと思いにやっちゃってくれ! と思わずにはいられない。 こういうのをまな板の鯉と言うんだろうか? 口腔へすっぽりと包まれたモノが驚く速さで育っていくのが分かる。 結局気持ち良さに負けてベッドに仰向けに転がって成すがままの状態。 先…むずむずする。 じゅるっと音を立てて吸われ、尻が吃驚して固くなった。 違う。側面ばっかりしないで。ああ、分かっているくせにどんどん下へ下がっていく。ペニスの下で揺れるものを唇で挟み軽くこりこりっと歯を立てられ思わず太股を閉めてしまった。 「このっ…根性悪」 声が上ずる。 顔は熱っぽく汗がどっと吹きだしてきた。 年下の男は緩慢な動作で顔を上げにやりと笑う。 …ああクソ最高に胸の悪くなる面だ 閉じてしまった足を再び大きく開き中心で涙し震えるペニスに口付けた。 「嫌いだ…お前なんか。何故僕に構うんだ」 「ウソツキ」 「…早く帰れ子供の癖に。何時まで僕の部屋に居つく積りだ」 「コドモじゃねぇっての」 そういう男の顔は見た目幼く、まだ高校生と言っても本気で通りそう。 「メチャクチャ寂しがりの癖に、帰れだなんて素直じゃないし」 ペニスを放し、僕の上に体を重ねてきた。 「……」 「俺、一目ボレなのよコダテさんに。あの店で人恋しそうに座ってるアンタを見た時、俺以外の男とエッチすんのかと思ったら凄いムカついてさ」 「お前だって他人だ」 「あーまた可愛くない事を言う。運命の出会いだとか、赤い糸とか思ってよ」 僕の足を開き間に体を割り込ませる。 先程までねぶられ唾液のてらつく勃起の下に秘めた穴の方へ興味を示した。 「あっ…相手の、合意も無しに犯すのが運命なのか?」 「…だから、あの日ちゃんと合意は取りました。酩酊状態のコダテさんを犯した訳じゃないってば、ちゃんと肯いて俺に抱き付いて来たじゃんよ」 唾液で濡れた指が一本差し込まれた。 男と関係して数週間で随分そこは柔らかくなった。指が2、3本入って来ても痛くない。それどころか固くなったペニスの先っぽに響いて漏れそうになる。 「うぁ、あん…携帯のカメラで…写したじゃないか」 「え?」 「僕を犯した時の写真…どうすれば消して貰えるんだ?」 「…なんだ俺が写真でアンタ脅してると思ってたの?だから今まで口で嫌だとか言っててもやらせてくれた訳だ?」 何時もへらへらしている男が酷く困ったような、泣きそうな顔をした。 物凄く傷ついたとでも言うような…。 男は無言で僕の上から退くと上着のポケットから携帯を取り出し僕の顔の前に突き出した。 「壊して良いよ」 「え…?」 「画像削除してもデータは残るらしいから。俺、そう言うデータの消しかた良く分かんないんだ。だから携帯壊して良いよ」 僕は面食らった。 何もそんな高価なものを壊す必要なんて無い。 差し出した携帯電話は最近機種変更したばかりだとかで、三万…したとかしなかったとか言ってなかっただろうか? 僕はただ、写真を消して貰えれば良いんだ。初めてアナルを犯されて吃驚して泣いてしまったあの恥かしい写真さえ無くなってくれればそれで良かった。 男があの画像を呼び出し表示する度、何とも言えない不安に襲われる。 それさえ無くなってしまえば大丈夫だと何故か僕は思っていた。 呆然と男を見上げていると、彼はちっと舌打ちし腕を振り上げ携帯電話を壁に叩き付けた。 壁にぶつかる鈍く重い音。 携帯電話は簡単にバラバラになった。 「コレで良い?言って置くけど写真は『記念』で『証拠』なんかじゃねぇーよ」 言うなり男はさっさと服を着て部屋を出て行ってしまった。
ー…何故? なんで壊すんだ。壊す必要なんて無いのに。
その日以来、男は僕の部屋には来なくなった。 久々に静かに眠れる夜が続く。 静か…とても静かで夜中に何度も目が醒めた。 耳を澄ましても都心からやや離れたマンションの周りは何の音もしなくて、当然僕の部屋のチャイムを鳴らす人の気配なんてする筈も無かった。 日に日に独り暮らしのこの部屋の居心地が悪くなる。 自分の匂いしかしない、独りの体温しかない。気配が無い。 独りじっと身を竦ませているとこの部屋に生き物が居ない感覚に襲われる。胸がいっぱいで食事も喉を通らない。水分を取るのも億劫だ。 だるい…。 「…これは」 心臓が握り潰されるような圧力。胸に命一杯拳を押し付けて痛みを紛らわす。 「あの…男がうちに来ないからか?」 声に出してみて更に胸が痛くなるのを知った。 瞬間、連れ戻さなくてはという衝動に重い体が動いた。
「居た!やっと居た」 男を見付けた瞬間僕は思わず立ち上がって叫んでいた。 「……」 彼は気まずい顔して僕に背を向けたがそこから立ち去ろうという気配は無かった。 「…この手の店、ココしか知らないからずっとこの店で待ってたんだ」 男の肩がぴくりと揺れた。 「勝手だけど待ってた。約束なんかしてないけど何時かは来ると思って」 「…なんで?」 酷く不機嫌な声で男はゆっくりと僕を見る。 何週間振りに見る顔だろう。 妙に懐かしくて鼻孔が痛んだ。視界がみるみる白くぼやけてくる。 胸が苦しくて、痛んで。けれど男が来なくなった部屋で感じていた痛みとは違った痛みで…。 「さ、寂しいんだ!」 言葉と同時に涙がどーっと溢れてきた。本当にどーっと決壊したダムの如く勢いで。 「仕事から帰ってもうるさく付きまとうヤツが居なくて…狭い布団に無理矢理潜り込んで来るヤツが居ないんだ」 僕は男の服の袖を捕まえ捲し立てた。 「…は?」 「ワンルームで広くなんか無いのに…落ち付かないんだ」 「ちょ…ちょっと落ち付こう。な?」 良い年して全開で泣きじゃくる僕におろおろしながら男が肩を抱いてくれた。 「セックスしてくれ」 「ええ?」 「前に試してみたいって言ってたフィストファックとかしても良いから…直ぐ抱いてくれ」 「ちょっと、ねぇ?こんな公衆の面前で」 「は…早くっ挿れてくれないと寂しくてどうにかなりそう…」 僕は男にぎゅっと抱き付いた。 「…ヨージ特別だ。休憩室使うか?」 マスターが呆れ顔で顎をしゃくった。 ヨージ。こいつの名前ヨージって言うの?いや、多分通り名とか言うヤツだと思うけど。 「す…すいません。後でお礼しにキマス」 男はマスターにぺこぺこ頭を下げ、僕を抱えるようにカウンターの奥へと引き擦った。 何だか妙にギクシャクしていて顔がこわばっていて変な顔。
「…あ、あぁ…ぃい」 男のペニスがすっかり僕に埋められてやっと安堵の息を吐いた。 動揺していた所為か、男の物がなかなか勃起せず僕を焦らせたがしゃぶったら直ぐ固くなった。僕のアナルの方も自慰でもいじったりしていなかった所為かすっかり狭くなってしまっていたけど、男は丁寧に指で慣らし全部入れてくれた。 「えっちな顔してんな…アンタ」 腰を揺らしながら男が僕の頬を撫でた。 「ん…」 「な、俺の事好きだって気付いたんだろう?」 男は嬉しそうにはにかんだ。 むずむずとうずいてしょうがなかったそこにしっかりとペニスが埋まって心地良い。誰かと繋がっている事に安心する。
ただそれがこの男に惚れている所為なのかどうかは…、 「分からん」 「ええ~っ」 即答で答えると男がまた奇妙な顔をした。 「あ、イク、イク。出る…イッパイ出しても良いか?」 「ああ…もう、好きなだけ発射してよ…」 はぁ…っと溜息を吐いて僕のペニスを優しく握った。 先走りの滑りを竿全体に塗り付け、ぬるぬると扱く。後ろも僕のイイ所を小刻みに突いてくる。 やっぱり上手いのだろうなコイツ。 「あっああぁ…はぁ、ひっいあ…イクっ。出るっ」 言って僕は、びゅっと勢い良く腹の上に飛ばした。 続いてぴゅっぴゅっと控えめに出る。 「…溜めた?ちょっと濃くない?」 …う、うるさい。 男はそれを指で掬って舐めた。 「ザーメンって栗の花の匂いって言うけどさ」 まだ固いままで僕の中に居たペニスが律動を再開する。 「栗の花の匂いって嗅いだ事無いんだよね」 笑って男は僕の汗で濡れた髪を撫でた。 ー…花の匂いは僕も知らない 髪から頬を撫でる手に顔を押し付けもっと強く動いて欲しいとねだってみる。 「あっうん…んっん、知りたい…」 突き上げる腰の動きが速くなり、ぺちぺちと肉を打つ音がする。ずんっと脳天に来る振動に頭がガクガク揺さぶられ言葉が途切れる。 「え、何?」 「お前のこと、名前。年齢…とか全部」 男はまたしても困ったような顔をする。 「あ、あのねぇ…」 ぎゅっと抱きしめられキスをされた。 気持が良い。もっと抱きしめてくれ。 「名前は初めてココに来た時に教えたじゃんよ…」 そう言って彼は耳元でこっそりと名前を教えてくれた。
【おわり】
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