吐き出したモノを嚥下する女の鼻に掛かったような声で、男は初めて自分が吐精したことに気が付いた。ゆっくりと女が顔をあげ、男の目の前で濡れた口元を舌で嘗めながら妖しく笑う。 「お客さん、すごいのね、ほらまだこんなに・・・」 女が男の太股を跨ぎながら、手のひらに握ったままの逸物が未だその硬度を失って居ないことを賞賛した。女は片手を男の首に回し、あえぎながら男の股に熟れた淫華を押しつけ体をくねらし始めた。めくり上げられた女のむちりとした白い太股の奥、男のふれた下着越しの肉丘は確かにしっとりと湿っていた。 男は、男盛りとは言え激務に追われる身の内のどこに精気あふれる回復力があったのかと内心驚いていた。それと同時に「こう」させているのは紛れもなく、隣でネコのようにしなだれかかる女のせいではなく、目の前で淫馬に繋がれている青年のせいなのだ。自分の奥底から突き上げてくる得体の知れない熱に戸惑いながらも、男は女の豊満な熟れた肉に溺れ、流されることを選んだ。男は女のドレスの胸元にするりと手を滑り込ませ、しばしその質感を楽しみ、露出させたゴムまりのように張りのある乳房の先を口に含んでやった。 「おねえちゃんも、もうこんなだぜ?ちょっと触っただけでもう先がコチコチだ」 「ああ、嬉しい、もっと吸って・・・」 女が肉付きの良い腰を押しつけながら先をねだる。男はねだられるまま両手で乳房を愛撫しながら女の脇越しに店内の様子を伺ってみた。耳を澄ますと、あちらこちらのボックス席からも息を詰めたような女の小さな嬌声が、男たちの息を弾ませた欲望に濡れ濡れとした声がかすかに聞こえ始めていた。どうやらこの饗宴はどのボックスでも始まって居るようだった。 「・・・さて、お客様。どうぞお手元の蝋燭の入ったグラスをご覧ください」 頃合いよし、と舞手の青年の口上が再び店内に流れた。その心地よい低音をどこか夢の中で聞くように男は聞く。 「この蝋燭は一定の時間が過ぎますと、自然にその炎が消えるように計って作っております。その消えるまでの時間は多少の差を付けておりまして、それをランダムにお席の方へお配りしております」 男が見るともなくテーブルの妖しく揺らめく炎に目を向けた。 「ただ今から今宵の『馬』が皆様のお席ひとつひとつ順番にご挨拶に伺います。すべての席を回りますまで蝋燭の炎は消えません。ですが・・・二週目からは炎は自然に消えてゆきます。炎が消え入りますまでどうぞ『馬』をお楽しみくださいませ」 おお、という期待に満ちた嬌声がホールのあちこちで上がる。 「ただし。皆様にくれぐれもお願いが御座います。どうぞ『馬』の目隠しと―― 」 黒髪の青年が、括られた銀髪の青年の股間で揺れる淫茎をホイップの先で軽くなぞる。 「ここの戒め・・・噛み(はみ)をお外しに成らぬようお気をつけくださいますよう」 その行為だけで、ああ、と体を軽く戦慄かせる銀髪の青年を後目に、黒髪の青年は軽やかにお辞儀をし『馬』の足をホイップでぱしりと打つ。それを合図に二人の美女が木馬の手綱をゆっくりと引き始め――――張り型が、妖しく上下に注送を開始し青年の奥を緩慢に掻き始める・・・
ことん・・・
「あう!」
ことり・・・きい・きぃ・・・ことん。
「あ、あああ・・・・んうっ、は、ああぅ・・・」
哀れに括られた青年は与えられるじわじわとした快感に溜まらず泣き、唇を戦慄かせあえぎ始める。 木馬は、最初のボックス席を目指す・・・決して長いとは言えぬその道のりをそれでもゆっくりと進んでいく。握られた手綱はピンと張ったかと思うとゆるみ、また、張る。そのたびに木馬の不規則な歩みで青年は抉られ、苦痛と快楽の狭間を揺れ動くその、様。達することも出来ずただ歓喜の涙を流す青年と揺れる淫茎が、青年の淫らな姿態が、与えられている快楽を如実に語っているようだった。ヒクヒクと揺れる度に流れる蜜は幹を伝い、張り型を飲み込んでいる桃色の淫花へ流れ、注送は次第になめらかになって行く。 ―――観客たちは期待と欲望にぬめる眼を逸らすことが出来ず、青年の中を掻き回す淫らな音に耳を澄まし舌なめずりをしながら青年の到着を待った。 「ああ、そうそう、一つ言い忘れておりました」 舞台の袖に引き掛けた黒髪の青年が立ち止まり、くるりとホールに向き直り言葉を続けた。 「お手元の蝋燭が最後まで消え残っておりましたお客様にはもう一つお楽しみが御座いました。蝋燭が見事消え残ったお席のお客様には―――『馬』をご自由にお召し上がりくださいませ―――」 そう言うと黒髪の青年は、口元に妖艶なほほえみをたたえたまま舞台袖の闇の中に解けるように消えてしまった。途端、店内のざわめきが一際大きくなり男も又、女の膿んだように熱いぬかるんだクレバスを指に感じながら青年の言葉を頭の中で反芻しする。
もしも俺の座っている席の蝋燭が燃え残ったら―――
そう考えるだけで男の身の内の暗い嗜虐心は炙られ、女の握る逸物もますます鎌首をもたげ胴震いを起こすのだ。怒張した物の熱さに、女はにいっと笑い来て、と男を誘う。男は手早く女の薄い下着をはぎ取ると猛る欲望をずぶ、と蜜壷に納めた。 「あー!」 女がのけぞりきつく男の首にしがみつき、よがりながら腰をくねらせる。女の腰を支えてやりながら男は青年への視姦を続ける。 最初の席に引き立てられた青年は、解け落ちた蝋を爪の先で引っ掻くようにはぎ取られ、その赤い鱗のような蝋をホステスと客は口中に入れ、飲み込む。そしてはぎ取った痕を癒すようにホステスはぴちゃぴちゃと青年の肌を味わう。客の若い男は、迷わず青年の淫茎を旨そうに口に含んでいた。 「あ・・・ああ!あ!」 青年は与えられる新しい刺激に、戒められて自由の利かない体の代わりに白い整った顔を快感にゆがませ、頭を振り立てる。 その姿に見入っていた男は、有ることに気が付いておや、と頭をひねった。
あの客席にいたのは、先ほど黒髪の青年に奉仕していた老人では無かったか―――?
数分とたたぬ内に木馬は次の客席に引き立てられて行き、若い男とホステスは残念そうにそれを見送り、馬は次々に客席を引き回されてゆく。行く先々で青年は下卑た笑いに迎えられて、白いその体をいやらしく撫で回され、こねくり貪られ、又、客たちの陰茎に奉仕させられ・・・白い体を桃色に染め上げながら悲愴なほどの『絶頂を迎えることのない快楽』に食い荒らされていた。そして最後に木馬は男の席の前で歩みを止めた。 大勢の欲望に陵辱され続けた青年の裸身は息をのむほどエロティックで。するり、と女が繋がったまま身をくるりとひねり、ああ、と待ちわびていた歓喜に身を震わせながら青年の無毛の股間に手を伸ばす。男はそのまま中腰で立ち上がり青年の震える胸の赤い飾りに沸き上がる唾をごくりと飲み込みながら両手を伸ばす。 「すげえな、あんた。ちんまい乳首こんなに尖らしちまって」 指の先でぴんと弾き、押しつぶすように指腹でこねくり回してやる。 「あ、あ、あ!ああ・・あああ!」 「いいのかい?男のくせに乳首で感じてやがるのか?ん?」 今度は薄い色をした乳輪を親指と中指で挟み、もみながら人差し指の指腹でするするとなぞってやる。 「ひい!ぃ・・・っ!」 他の客たちにも散々になぶられ、尚もそこに与えられ続ける快感に、青年は白い体を熱く戦慄かせながら涙を零した。 「ふふ、縦長の乳輪にちんまい乳首が埋まって・・・俺ぁロリコンじゃねえが、まるで幼女のクリトリスみてぇだな。かなり気持ちいいみたいじゃねえか」 男がうわずり、熱い息を弾ませながら青年の胸の突起を執拗になぶり続ける。 「あ、あああ!あ、やあ・・っ、い・・・いい、そこ、っ・・・もう、も・・・!」 狂ったように首を振り立てる青年を満足そうに眺め、膝に張り付く女の尻に激しく突き上げる。と、客席からさわ、と落胆の声が上がり始めた。男の席以外の蝋燭が消え始めたのだ。
たのむ! たのむ!消えんでくれ! この、白い体を! この淫らで美しい「獲物」を! 俺の元から 奪わないでくれ!!
男は、自分の席に置かれた焔を必死の形相で見つめ、祈った。
そうして――――炎は消えることなく男の席に灯り、男の席以外の灯火は消えた。
「は・・・ははは」 男は今夜の「馬」の権利者となった喜びに自然、笑みを漏らし、二人の美女は恭しく男の前に膝を付き祝いの言葉を述べ馬を男に献上して去っていった。 場内の落胆の声は次第に遠ざかり、代わりに女たちの嬌声と獣の咆吼が艶めかしく空間を徐々に満たし始めた。饗宴は一気に熟し、快楽の縁を駆け登ろうとしていた。 男は納めていた逸物を女の中から抜き取り、物足りなさげな女をボックスから追い出し代わりに馬を引き入れた。 男は青年を馬上に置いたまま、髪の毛を掴み己の逸物に近づけた。 「さっきまで女の中に入ってたモンだ。まずは綺麗にして貰おうか」 青年は鼻先の「雌」の臭いに少し戸惑う、と、男の遠慮ない平手が頬を打つ。 「さっさとその可愛いお口で銜えろって言ってるんだ、ん?どうした。あんたぁ酷くされると感じるんだろう?」 男が興奮に荒い吐息を吐きながら酷薄に青年を見下ろし、にやにやと笑う。青年があ、あ、と声を震わせながら、それでもおずおずと男の逸物に赤い唇をあて、ゆっくりと口内に含み始める。淫水焼けした己の逸物に奉仕する青年の姿を見つめながら、男は体の奥底から沸き上がる身震いする程の歓喜に酔った。間近で見る青年は、その白い肌といいその整いすぎるほどに整った綺麗な人形のような容姿といい、自分の知る「年若い上司」に驚くほど似ていた。
あの、生意気な若造が・・・・・ 頭脳明晰で、ロス帰りを鼻に掛けた、嫌みで小憎らしい あの男が・・・ 俺の逸物を旨そうに銜えてやがる・・・!!
男の中では体の奥底に巣くっていた美貌の上司への暗い欲望と、今自分に奉仕させている青年への嗜虐心が、猛る熱に犯されて完全に統合され始めていた。 「へ、へへへ、そんなに旨いか?」 男が青年の喉奥を、一つくい、と突く。 「うぐっ!」 途端、青年がその苦しさに呻き、激しくせき込む。その青年の銀色の髪を鷲掴みに仰向かせると、男は飲み込んでいる張型を自分で抜くように命じた。青年が哀れにすすり泣き、戒められた両の足をもどかしげに蠢かすと、男はち、と舌打ちしながら両膝のベルトを外してやる。 「さあ、自分で立ち上がっておもちゃを出して見せるんだ」 男の命令に、青年がおずおずと従い始める。 「あ・・・、んっ・・ふ・・うん」 くちゅり、と淫猥な音がして、青年の飲み込んでいた濡れ濡れとした張り型が徐々に・・・桃色の秘肉を伝って男の目の前に現れる。 「ふふふ、あんまり良くって、離したくないってか?なかなか出てこないじゃねえか」 「ああっ、い、言わないで、くださ・・い」 あ、と青年は短く叫び、飲み込んでいた張り型がつるりと全て男の目の前に現れた。妖しく濡れたそれは遠目で見るよりも大きく、良くこんなものがと男に思わせるのに十分なサイズであった。 「ほお、あんたぁこんなでかい物を飲み込んで喜んでいたのか?ふふふ、あんたの穴はいやらしいんだな」 恥辱に身震いする青年を前のめりにさせ、男は青年の開いた淫華をじっくりと眺めた。たった今まで張り型を飲み込んでいた秘肉は、物欲しげにひくひくと収縮を繰り返しやんわりとその蕾を閉じようとしている。 「ああ、思った通りだ。はしたなく俺を誘っていやがる」 男がいきなり二本の指を青年に突き立てる。 「ひい!」 そのがさがさとした刺激に溜まらず青年が叫ぶ。が、男はかまわずそのまま指先で中を味わった。女とは違い狭く、そして熱いその感触。くちゅくちゅと掻き回す指に悩ましく肉壁が絡みついて・・・男の逸物が期待感に熱く滾った。 「さっきのおもちゃよりは軽い物だろう?ほれ、もう一本。ほぉ、すんなりと飲み込むじゃねえか、淫乱が・・・」 「いっ・・・く」 「痛いのか?良いのか。はっきり言って見ろ」 分厚い手のひらが青年の白い尻をぴしゃりと叩く。 「ひ!・・・っあ、い・・・いい、です」 「何が欲しいか、おまえさんのいやらしくて可愛いお口で言ってみな」 与えられる快感に涙を流し、恥辱に身を捩りながら青年は、男の望む言葉を鳴き疲れた小さな声で絞り出した。 「い、入れて・・・くださ、い」 その言葉に男は満足に笑みをもらし木馬の背に跨ると、背後から青年の白い尻に向かってずぶりと一気に突き立てた。 「あ、あああ・あ――――――――――!!!」 青年の白い背が弓なりに反り返り、溜まらぬとばかりに嬌声を発しかくり、と頭を垂れた。きめの細かい素肌が一息にざわざわとざわめくのが見て取れ男は挿入しただけで達してしまったえらく感度の良い女が居たことを、己のこれまでの性体験のなかで思い出していた。達することが出来ぬよう淫茎を戒められていてもこの青年は「中」でイク事が出来るのだろうか、と、そんなことを考えながら青年の淫茎へ手を伸ばす。だがそれはまだ堅く立ち上がったままだった。 青年の肉壁が男の逸物を根本から吸い上げ、熱く震える襞が淫らに絡みつく。じんわりと男の腰に填った快楽の枷が、次第に大きな震えを伴って男の射精神経を鷲掴みに揺さぶって行く。中に居るだけで目眩を起こしそうな快楽に流されまい、と、男は夢中で青年を突き上げた。 「あ、あう!ひ、いぃ・・・」 くったりと頭を垂れた青年の声は、男の腰の動きに次第に艶増し熱に浮かされたように短い悲鳴を繰り返す。 「ふふ、良くてたまらねえ、んだろう?桃色の肉穴が、俺をぱくぱく喰らっていやがる」 男が爪の先で逸物を飲み込んで居る薄い皮膚をかり、と掻いた。 「ああっ!いい、い・・いっ!」 青年の頬を新しい歓喜の涙が伝い落ちる。 「いいぜ、いくらでも喰らいな」 いいながら男は自らの終演に向かって深く腰を押し進める。 「あ!あああ!もっとっ、もっと掻いて・・っ」 背後から回した両手で、青年の乳首をきつくなぶってやりながら、男は獣の咆吼と共に青年の中に煮え滾る欲望を吐き散らした。 「っく!・・・う」 「あ!あああ!熱いっ!!あ、ああ・・・」 青年がくふぅ、とのけぞり、全身で男の欲望を受け止める。男はふう、と満足のため息を付き一旦青年から離れようとする。が、そのとき男は未だ自分の怒張が解けていないことに驚いた。 「へ・・・へへへ?こりゃどうなってやがるんだ?」 中年後期にさしかかった男には、十代の頃以来記憶に無いことだった。 「あ・・・あ、いや・・っ!もっと・・・もっと突いてっ」 「あんたの良すぎる尻のせい・・か?いいぜ、もっと可愛がってやる」 男は青年にねだられるまま、ゆるりと腰をグラインドさせ始めた。 「あ、ああっ!あああっ!いい・・いいっ!」 「どう、いいんだ?」 青年が吐き散らす淫猥な譫言に男が卑猥な笑みを浮かべて問いかける。が、青年のかすかに残る恥じらいが言葉にするのを邪魔をする。 「尻が、いいんだろう?俺のでこすり上げられて、良くて溜まらないんだろう?」 「あ、あああ、おねが・・・いっ!もう、もう・・・」 青年が男に懇願する。 「ん?どうした、どこをどうして欲しいんだ」 青年の中で射精への本能が熱く体を焦がしているのを承知で、男が意地悪く尋ねる。 「あ、んっ!お・願い、ですっ・イかせてっ!外してぇ・・・っ」 狂ったように泣きじゃくりながら股間のリングを外してくれと懇願する青年は壮絶に美しく淫らで。男の嗜虐心を大いに満足させた。 「くくく、この淫売が・・・。イきたいか?俺に尻を突かれながら飛ばしたいのかっ!」 青年があ、あ、と泣きじゃくりながら目隠しされた瞳で、男を振り返り必死で首を縦に振る。 「ふ、いいぜ・・・好きなだけ、飛ばせっ!」 男が激しく突き上げながら前に回した指で、しとどに濡れそぼったリングを革の拘束具ごと手早く取り去った。 「あ・・・あああ!あ――――――――――!!!」 悲鳴を上げた青年は、ぶるっ、とその身を震わせたかと思うと、激しく痙攣しながら男の手のひらに何度も何度も粘つく欲望を吐き出した。 吐き出す瞬間の激しくよじれる青年の肉壁に、男も同時に三度目の欲を吐き出した。 「ふ、うっ・・・!」 ・・・男は今度こそ、射精後のけだるい酩酊感のまま、ぐったりとした青年から離れようとしたが・・・どうしたわけか、男の逸物は三度の射精にもかかわらず、未だ怒張したままであった。
これは一体、どうしたことなのか―――――。
ここに来て男はやっとその異様な事態に気が付いた。齢四十を越して、異様な興奮状態が持続しているとしても、いくら何でも妙だ―――。 いぶかしりながら男が上体を青年から引き離そうとした。が、いつの間にか戒めを解いていた物か青年が男の逸物をきつく締め付けたまま上半身をひねり、がしりと絡みつく白い腕にそれは阻止されてしまった。 「あ、ああ・・・お願いです・・もう一度・・・・お情けを・・・」 青年の淫華と同じ色の桃色の唇が、うっとりと男に囁き、悪夢のようににぃ、と笑った。 「あ、あんた、あんたは・・・・」 男が、震える指で目の前の青年の目隠しを取り去る。 目隠しの下から現れたのは、紛れもなく男の知る『年若い上司』の顔。だが、ゆっくりと見開かれた瞳は・・・その、瞳は―――!! 「う、わあああ!!!」 男は必死で青年から逃れようと身をくねらすが、前を向いた青年の白く艶めかしい両足に腰を挟まれ、逃れられない。 「あ、んっ、ふふ・・・どうして逃げるんです?もっと・・・もっと楽しませて下さい・・・」 青年はうっとりと囁き、繋がったままの腰を淫らに蠢かし続ける。 「あぁ、もっとっ・・・もっと、あなたを、私の中に・・・もっと、もっと沢山注いでください・・・」 信じられないことに男はそのまま立て続けに青年の中に吐精し続けていた。男がもがけばもがいただけ、青年のざわめく体内に、その狂気とも言える程の快楽に精を絞り尽くされていく。もがく男の指先が、青年のリングを外された淫茎に当たる。が、そこには先ほど男の手のひらに悩ましく欲望を吐き出した可愛らしいモノはすでになく―――――――。
代わりに 人の胴体ほどもありそうな 二本の肉の幹がそびえ、恐怖と快楽にあえぐ男を見下ろしていた―――――。
「この店はやめておいた方がいい、と、忠告したのに・・・な」 「戒めを外さぬように、ともご忠告差し上げたのに・・・」 男を見下ろす人の形をした影が、思い思いの言葉を男に降らす。 「今夜は高くつく、と言ったのに・・・」 「・・・今宵は我ら淫魔の、年に一度の享楽の宵。我らの偉大な王が、その尊き御身を同胞に振る舞う特別な夜・・・」 「迷い込んだ『人間』は、心の奥底に潜む欲望をさらけ出されて・・・我らの供物となる運命」 黒髪の青年の影が、くくく、と楽しそうに笑いながら続けた。 「本当に人間と言う物は・・・自ら禁を犯すことに快楽を覚える、愚かで弱い生き物ですね、右よ」 「・・・それは、もと人間だった俺への当てつけか?左よ」 「おや、そんな風に取れましたか?右よ」 背の高い、黒いコートを着た影の手が、す、と黒髪の青年の影の頬を撫でる 「・・・まあ、よかろうよ。互いに我らの王に惹かれ、王の一部となって闇に存在する事を選んだ身なのだから。おまえも俺も同じ物だ。左よ」 「そうですね、右よ・・・。私とあなたは同じ者。快楽も痛みも、我らの偉大なる淫魔の王と共に同じくする者・・・愛おしい、私の半身よ・・・」 「それでは、そろそろ仕上げに取りかかるとするか、左よ」 「ええ、右よ。我らの愛しき王のため、そして同胞のため―――」 二つの影は寄り添い、互いに狂おしく抱き合い、ああ、とその身を震わせ真白き銀の蛇身となった。双頭の蛇身は、青年に捕らえられたままの男の体にゆっくりと銀の鱗でからみつき、次第にその身を締め上げていく。
男は、ばきりぼきりと骨の折れる音を、吐精し続ける狂喜の中で聞いた。 不思議と男に痛みは無かった。
ああ、この音は、俺が砕け散る音なのか、と―――
全身を支配する甘い恍惚の中、赤く染まる視界の中で最後に男は ぼんやりとそう思った―――――。
骨は砕かれ、肉は全て解け落ち、後にはただ、赤黒い水たまりのみが残された。 その水たまりの中で悪夢のように美しく銀髪の青年―――その姿は、男の妄想の中に住まっていた仮初めの姿なのだが―――気高き淫魔の王は、うっとりと笑う。 その真白き腕が、水たまりに残された・・・一本の赤い蝋燭を取り上げそれに口づける。
淫魔の全ては美しき王にひれ伏し、今年の贄によってもたらされた赤い蝋燭を伏し拝む。 この、赤い蝋燭が・・・人間の血肉と欲を淫魔の王とその身に仕える双頭の蛇身によって練り上げられた赤い蝋燭が 淫魔に永遠の若さと美貌をもたらすのだ。
そう、 人間の 精を 狩るために―――――。
そうして。 来年も 再来年も・・・永劫の時の流れの中で。 どこかの街の、どこかの場所で。 淫魔たちの饗宴は、続く・・・・・・・。
END
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