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 (鬼畜。やや残酷。少年もの/18禁)
マンティ・タイガーのショー


サーカスなんて、もう古臭いという人がいるかもしれない。
それもそうだ。今どき、綱渡りでハラハラドキドキする人も少ない。
クマの自転車乗り、ライオンの火の輪くぐりも、見飽きているだろう。
それでも、サーカスだって時代の流れに取り残されたわけじゃない。
修練をつんで、技術の向上につとめたし、ショーの形態も進歩している。
芸を見せる動物だって、そうだ。

まだ僕は、フィナーレの一輪車くらいしか、出番がない。
それでもなぜか、猫系の動物がなつきやすい体質だったため、名誉あるマンティ・タイガーの世話係に任命されていた。
黄金色と漆黒の入り混じった、巨大な体躯。爪はするどいけど、僕はその瞳が優しいのを知っている。
顎をなでるとゴロゴロと、甘える仔猫みたいに喉を鳴らす。エサを持って行くと、膝にすり寄ってくる。丸まって眠っている時、僕にだけは、その白い腹を見せてくれる。
ムチをもって芸を教えこむのは、僕の役目じゃない。他に専門家がいる。
僕はただ身の回りの世話と、彼女―――名前はノイだ―――の機嫌をとりもつだけ。
見たかぎりでは、普通の虎だけど、やはり機嫌をたもっていないと、何か不都合があるのだろう。
僕はノイが、どんな「進歩」した虎だかは知らないけど、この老いた巨大な猫を、ずっとずっと見守ってやる気でいた。

「僕が、ノイと、ショーに出るんですか………?」
団長に言われ、僕は絶句した。だって、虎をあやつる技術はおろか、芸人として演目を受けもった事もない。
「夜に行なう、特別なショーだ。その代わり報酬ははずむ。三百D。借金を返して家に帰るのも可能だ」
家が貧しいため、サーカスに売られた僕は、その法外な料金に心がはずみ………また同時に不安もいだいた。
こんな好条件、幼くて未熟で技も持たない僕に、どんな理由でわいてくると言うのか。
僕が疑問に眉をひそめていると、団長は説明をつけくわえた。
「ショーの内容は特殊だ。演目も出演者も、通常とはまったく異なる。若く、それなりに顔立ちの整った少年にしか、提示はしない。君がだめなら、他を当たる」
「………いえ、やります」
唯一のチャンスをのがす気はなかった。借金を返して家に帰っても、まだあまる。
もしかしたら………年老いたノイを買いとって、荒野に返す事が出来るかもしれないのだ。
たとえ、どんなショーの内容であっても………僕はやる気でいた。

月のない、夜だった。
昼間とは、まったく違う客層が、サーカスのテントに集っていく。
黒い紳士服、目元をかくしたマスク。どこか好色そうな瞳。
それに気付いたとき、辞退しておけば良かったのかもしれない。
僕は派手な色の衣装もまとわず、ただ全裸で後ろ手にしばられていた。
心はやめたい気持ちでいっぱいだった。だけどもう、遅すぎたのだ。
僕は見た。共同生活を送るサーカスの団員。同じくらいの年齢の少年。
綱渡りの修練中だった長身の彼は、舞台に出、そして全身縄の跡だらけで失神し、戻ってきた。
馬の曲乗りが得意だった少年は、すさまじい悲鳴の後、股間からだくだくと血を流して、袖に運ばれた。
僕は青ざめ、膝が震えていた。立っていられなくて分厚い幕につかまっていた。
こんな時、温かな舌で僕の腕をなめてくれるノイ。彼女は反対側の袖で、出番を待っている。
一体なにをやらされるのか………不安でならなかった。
まもなく、全身黒ずくめの男が、僕の腕を引いてライトの元へつれだす。
「さぁ、お次のショーをごらん下さい、紳士淑女のみなさま」
ピエロ姿の司会者が、ひょうきんな声をはりあげる。好奇めいた視線が、僕につきささる。
「次なる性演目は、虎に跨る少年でございます。ふだん、獣と人とを越えた友情で結ばれた一人と一匹。しかし今宵、少年は虎の律動に犯されるのでございます………」
おおげさな悲嘆の演技で、ピエロは横に移動した。
ノイの姿が見える。背中に、鞍のようなものを身につけている。
別に彼女はサーカスに長い虎だから、飾りつけのようなものは、嫌がらない。
けれど………その黒い革には、そそり立つ張り型が………あるのだ。
ノイは僕の顔を見て、うれしそうに目を細めた。
僕は、それに返す余裕もなく、立ちすくんで鼓動の音を聞いていた。
黒ずくめの男が、僕の腕に手をまわし、はがいじめにした。
小柄な僕の身体は、あっさりと持ち上げられてしまう。
ピエロはノイの首輪を引き、中央に連れだすと、張り型に油のようなものを塗った。
これから何が起こるのか、恐怖とともに僕はそれを知り、悲鳴をあげた。
「………ぃ、いや、っ!」
首を振って涙を流してあばれたが、黒ずくめの男は顔まで黒いマスクに包んで、感情を表に出さなかった。
ピエロはニコニコと、僕の抵抗について説明し、茶化す。
観客はギラギラとした目で、舌なめずりせんばかりの身の乗りだしようだ。
僕はノイの背中に運ばれていく。尻を張り型の真下に向けられ、身体に怖気がふるう。
ゆっくりと、ゆっくりと客をじらすかのように、僕の身体は降りていく。
恐怖にギュッとしまったすぼまりに、固い無機質な先端が押し当てられた。
「ぐ………っ………ぃ、い、や………」
痛みと嫌悪感に、にじみでる涙はとどまるところを知らない。
だがそれに慈悲をかけるものは、誰もいなかった。男は押しこむ力を強める。
観客席からは、乗せろ、乗れ、早く、跨れと忌まわしい呪文が唱えられる。
意思で張っていた筋肉は、物理的な力に散らされた。油のすべりに乗って、張り型はくぐりぬけ、僕の身体は体重にしたがった。
「っ………ぁああ、ああっ!」
一気に貫かれる。身体が裂けてしまいそうな痛みが、後孔から、脳まで達するかと思えた。
目の裏で赤い閃光が散った。頭は勝手に、出血し、傷つけられた内壁を思い浮かべて、吐き気をもよおす想像をしてしまう。
「………ぐ、っ、っつ」
異物を抱えたまま、じんじんと痛む僕の下腹部。ノイの背の厚みに沿って、足は大きく広げられ、股間は鞍に密着している。
身じろぎし、上半身を上へ逃そうとする行動は、黒ずくめの男に、両足を縛られて無駄に終る。
両足首を丈夫な鎖で、ノイの胴の下をくぐらせ結ばれ、僕はどうやっても、下りられなくなってしまった。
僕を乗せ、拘束し終わった男は、舞台袖に引っ込んだ。ピエロが前へ進み出て、苦悶をこらえる僕を、卑猥な言葉で紹介しはじめた。
痛みにまぎれ、僕の耳にほとんど届かなかったのは幸運と呼ぶべきか。
ただただ、身体を震わせ苦痛を忘れようと、ノイの呼吸で上下する背、張り型の運動をやりすごそうと、息をつめていた。
だがそれも、ピエロがムチを打ち鳴らし、ノイを呼ぶまでだった。
彼女は教育されている通り、そちらを向いた。体を優雅に曲げて。
「ぁあ………うぁ、っ!」
僕の内壁は、回転の動きによってえぐられる。腸の太さより一回り小さく作られているそれは、残酷に僕の内部を削っていく。
僕はノイの体温を受け止めながら、ゆっくりと痛みが去っていくのを、目を閉じ、待つ。
脂汗が額といわず、全身から流れ落ちた。息の乱れを観客に悟られないよう教えられているが、それはもう守れそうになかった。はぁはぁと荒い呼吸をこぼしている。
「っ、は、ぁあ………っう、っ」
ふたたび起こる逆回転。最初の痛みが消えないうちに、また同じような力でえぐられ、激しい痛みに僕の肩はビクンとはねた。
顎をつきあげ、あげる悲鳴は、もうここが舞台だと、失念していたかもしれない。
涙でにじむ視界に、心配そうなノイのつぶらな瞳がうつった。
小首をかしげ、彼女は呻き声をあげる僕を、なぐさめようとして首をめぐらす。
「ぅ………く、はっ!」
彼女の優しさも慰めも、今の僕には、激痛しかもたらさない。
太ももの内側を、さらさらと流れる柔らかな毛皮にも安らぎをおぼえない。
身体の中から壊れていきそうな感覚に、僕は顔をゆがめて涙をこぼすだけだ。
床に落ちた水滴が、しみを作る。それすら愉快な催しの一環であるかのように、観客は観察に興じていた。
そうしている間に、舞台には輪や踏み台をはじめとした、ノイのための障害物ルートが作られていく。
彼女はのびやかな肢体で、踊るように跳び、モデルのようにそこを歩くのだ。
出来上がった舞台の装置を見て、僕の顔からは血の気が引いていった。
ピエロは意気揚揚と解説し、観客は僕がその過酷なもよおしに耐えられるか、興味津々に身守っている。
もちろん、血を求める瞳の色をたたえて。
「では、ノイ嬢と少年のショーをお楽しみください」
ピエロはパシン、とムチを鳴らした。ノイはもう一度僕をうかがうように振り返ってから、ゆっくりと命令にしたがいはじめた。
「………っ、く………ううっ………」
僕はただただ苦悶のうめきを殺すのが、やっとだった。
足の裏の柔らかい肉球で、音をたてないしなやかな動きは、それでもノイの筋肉を震わせ、肺を上下させる。それは増幅されて、そそり立つ張り型に激しい上下運動をあたえる。
足も腕もしっかり固定され、左右への身じろぎは、ただ内壁の傷をふやすだけだった。
出血か、それとも他の何かか。動くたび、水音のようなものをまとう。
と、その時ノイは跳んだ。空中の巨大な輪をくぐりぬけるため、全身の筋肉を集中させた。
折った前足を伸ばして床を蹴り、首をおおきくもたげる。
「っ、ぁああっ!」
跳躍時の重力にしたがい、傾いた張り型は僕の内の一点を責める。
それは、ずっと痛みと嫌悪感しかもたらさなかった忌まわしい道具が、僕の中で別のものに変わった瞬間でもあった。
「………く………くっ」
ピタリと吸いつくようにノイは着地した。彼女は華麗に輪くぐりをやりとげた。
しかしその華麗な演技を見ているものはなかった。観客はただ僕の痴態を「観察」していただけだった。
はしたない声、熱がまじり、あえぎとなるその瞬間を。
虎の律動により責められている、僕の表情が変わった瞬間を。
もし、ノイの見事な技を見てくれていた人がいても、すぐに気付いてしまう。
ノイの背中、黒い鞍の真上で僕の分身は、刺激により勃ちあがりつつあったのだから。
にやにやと嘲り突き刺さる視線に、僕は小さくうめいた。
いつものように演技をほめず、頭をなでてくれない僕に、不安そうに首を向けるノイ。
「ぁ………っ、もっ………」
何度目か。回すようなえぐる動きに、僕は訳の分からない叫びで、背筋をこわばらせた。
いよいよ観客の哄笑が、舞台上の空気をわたって届いた。

「ショー」はとどこおりなく続行された。
ノイの一連の演技が終った後、僕はぐったりと頭部をうつむけていた。
全身が汗でべとべとし、僕の足とノイの毛皮が絡まってしまっている。
はぁはぁとこぼれる息は、演目を終えた達成感とはまるで無縁の、気持ち悪いものだった。
勃ちあがりかけたまま、熱を閉じ込めた僕のモノは、それでも鉄の意志により、無様なまねは見せなかった。
ノイの背中で欲を吐き出すなんて、絶対に嫌だったから。
食事も毛布も分けあってきた、大事な友だち。
………もう、がまんも終わりだ。ショーは終幕。団長から報酬をもらって、ノイを買い取って。一緒に荒野を駆けまわろう。
明るく輝く未来に考えをうつすと、屈辱的な舞台も、観客の視線も、何もかも忘れられた。
けれど、それは、ピエロが次の言葉を発するまでの間だった。
「では最後に、紳士淑女のみなさまのもとへ、虎と少年をうかがわせましょう。
どうかご自由にお手にお触れになってください。もてあそんで、いたぶってください。
紳士のみなさまは、特に、少年を苦しみから解き放つ方法を、ご存知でしょうから………」
いやらしい笑いを浮かべたピエロは、ノイの尻尾をムチで打った。
彼女はゆっくりと、円状の観客席にちかづき、歩を進める。
愕然とふりむく僕を、ピエロはコミカルに手を振って見送る。
テント内を満たしていたざわめきは、たちまち僕とノイに集った。
「友だちの獣に乗ってよがるなんて、どんな気持ちでしょう」
「こんなに、おっ勃てて。しょうもない小僧だな」
「ぁ………いや………やめっ、てっ………」
僕は弱弱しい声で、首を振り、観客の残酷な声を、近づく手を逃れようとする。
だがサーカスの一少年の言葉など、誰が耳を傾けてくれるのか。
友だちの背にくくりつけられ、どこに逃げられるというのか。
「やっぱし、跳んだ時に、イッたのか?」
「そんなに咥えこんで、中どうなってるんだ」
次々と近づく紳士淑女の手。僕の髪を乱暴に引き、脇に手を入れ持ち上げる。
僕の身体が持ち上がり、ぬらぬらとした張り型が、わずかに顔をのぞかせた。
ゲラゲラと下品な笑いがわいた後、僕は乱雑に落とされた。
「っ、っつ………っ、く」
痛みをこらえる顔に、また笑い声がわく。僕は泣くまいと歯をかみしめた。
もうすぐ、終る。ノイと一緒にサーカスを出られる。もう少しのがまんだ。
ノイは歩きつづける。観客の手と笑い声は、どこまでも僕を取りかこむ。
「本当は、気持ちイイんだろう。この変態が」
「そんな淫乱に後ろの穴で咥えてるなら、前もお揃いにしてやろうか」
分厚い手が伸びてきたと思うと、無防備だった僕の分身をわしづかみにする。
「ぃ………痛ッ!」
たぎりかけだったそれは、敏感になっていた。白くぶよぶよした脂ぎった指の腹が、触れただけでも僕の背中に刺激が走った。
もちろん客がそれだけで満足するわけがなく、腹で押し、爪でなぶっては、下品な笑い声と、嘲笑めいた言葉を僕にかける。
そして大きくなる僕の分身を見つめては、馬鹿にした調子で目を丸くするのだ。
取りかこむ手の平は増えていき、五人目の手首が鈴口をかすった時、僕は達した。
目を見開き、背を弓なりに反らして、熱っぽい息を天井めがけて飛ばした。
声だけは出さなかったのが、唯一の矜持であったが………誰もそんなものは誉めてくれない。
脱力してうつろな僕の姿と、白濁液を背にまとわりつかせ、それでも優美に歩むノイに、投げかけられたのは、拍手ではなく哄笑。それを背に受け、僕たちは退場した。

僕はノイと一緒に、トレーラーにいた。普通は来客を迎えるための、部屋だ。
次の興行場所への移動が近い今、室内は家具もなく、片づけられていた。
団長が入ってくる。僕は毅然とした瞳で、報酬を求めた。ノイを買い取る意思も告げた。
後者の条件には驚いたようだったが、僕が報酬全部をついやしても惜しくない事は、伝わったようだ。しぶしぶと、団長はうなづく。
「今、持ってこよう。ノイ売買の書類も必要だ」
そう言い、トレーラーの鉄の扉を、ガシャンと閉めた。
その背を見送ってから、僕はタオルを頼めばよかったかも、と思い始めていた。
ノイの鞍は外したものの、僕の欲望の残滓は、こびりついてしまって取れなかったのだ。
「………かわいそうに、ごめんね」
僕は、顔をよせ、なめらかな毛皮をなでた。温かい舌が、僕の頬をペロリとなめた。
………なめたのだ………僕の、頬を。
背筋から寒気がたちのぼり、僕はガクガクと震えながら一歩下がった。
ノイは肉食獣の足取りで、その一歩をつめた。
僕は………知っていた。ずっと一緒にいて、この動作の意味を知っていた。
たまに小動物の肉を食べたがるノイに、猟師から仔ウサギを買い取る。
ノイはまず頭部をひとなめする。まるで、鮮度を確かめるかのように。
瞳の奥が野生に閃いて、しっぽを左右に倒して、舌なめずりをするのだ。
大好物の肉に、ありつく前には………
ぱたん、ぱったん。
リズミカルに振られるしっぽ。床をたたき、全身をゆっくりと沈めている。
「………ノ、ノイ………?」
僕の口からは、震える言葉しか出なかった。
友だちを信じる勇気、楽しい思い出をよみがえらせるセリフなんて、とても無理だった。
牙がきらめく。瞳孔がぎゅっと細まる。鮮やかな色の舌が口を這い、それから、タンッと音を立てて跳躍した。

*  *  *

断末魔の悲鳴と、それから覗き穴一面にビシャリとかかる赤い液体に、思わずピエロは顔をそらせた。
乾いた額を何度かぬぐってから、小走りで団長の元へと報告へ行く。
「虎の世話少年は………たった今、喰われましたが………」
自室の事務椅子に腰掛けた団長は、勘定中の札から目を話さず「そうか」だけ答える。
ピエロは化粧が落ちるのもかまわず額を再度ぬぐって、視線を泳がせた。
「綱渡りの小僧は………綱で首を吊って自殺。
馬乗りのヤツは、出血多量で今夜が峠って事らしいですが………」
もう団長は答えず、ピンッと最後の一枚を跳ね、数え終えると、金庫にしまった。
「ビデオは?」
唐突に問いかけられ、ピエロは思い出す。トレーラの中、虎に喰われる少年の一部始終を収めるカメラ。あれも後で回収しなければならないのだ。掃除ついでに。
ピエロはげんなりする表情を隠しもせず、後でやっておきますが、とだけ答えた。
団長はふむ、と独り言めいた返事をし、電卓を叩きはじめた。好事家に売りつけるビデオの価格を計算しているのだろう。
タン、タンとキーの音だけが部屋を満たし、ピエロは居心地悪く、足をもじもじさせた。
ドアをちらちらと見、辞していいものかどうか、悩む。
その時、低い声が響き、ピエロは自分の選択を思い直しかけた。
「………強くなくては、ならん」
誰に語りかけるでもなく、団長の視線は窓を向いている。ピエロは答えたものかどうか、とまどい、指を絡ませた。
「そうでない男に、価値はない」
言い切った団長は、また頭部を電卓に落とした。
リズミカルな音が広がっていく中、ピエロはふと思いつきを口にした。
この雰囲気を破る非礼より、むしろ疑問が大きかったためだ。
「あのマンティ・タイガーってのは、もともと人肉喰いの、凶暴な種類なんですかね」
きりの良いところまで打つと、はじめて団長は顔をあげた。
「マンティスは知っているか?」
「え、ええ。もちろん。カマキリの事でしょうが」
「虎と、カマキリの遺伝子を持つ。それがマンティ・タイガー」
へぇ、とお愛想をふるまい、あいづちを打つピエロの顔が、凍りついた。
笑い顔に固定されたメイクで隠せない、恐怖がにじみでてくる。
「カマキリのメスは、性交したオスを………食べる。
虎がその性質を引きつぐ。猫科特有の、敏感な嗅覚をもって。
あれは、精液の匂いでも反応する。毛皮を汚した相手にも………そうしてあの雌は、もう十七年も生きている」
ガクガクブルブルと、ピエロはいよいよ立っていられないほど、全身を震わせた。
それを見て、小気味良さそうに唇を浮かべた団長は、電卓を机にしまう。
「さて、今日は明るい、いい夜だな」
立ち上がり、彼は月のない空を見上げた。


「お読みくださり、ありがとうございました。」
...2006/12/11(月) [No.345]
紫堂あい
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