ぼくは、四つんばいになった。 排水用の、鉄でできた格子のフタ。網状になっているやつだ。 それに両手をかけて、尻をつきあげて「うーん」とうなった。 大きな声。少年だとわかる声色。困ったようすもふくめて。 駅前通りが近いだけあった。すぐに誰かがやってきた。 「どうかしたのかい?」 心配そうな声。うかがおうと傾げる首。メガネのおくの優しい瞳。 ぼくが、プリンとさし上げた、柔らかい尻に触れもしない。 ………こいつは、善人だ。 そう思い、ぼくはせいいっぱいの泣き顔をつくった。 「電車賃が………」 「ああ、用水路の中に、お金を落としたんだね。 蓋は重いだろう。今代わって、開けてあげるから」 ぼくが場所をうつると、その青年、おそらく大学生だろう、はフタをつかんだ。 うすぐらくて、よく見えないのか、メガネのおくで何度もまたたいている。 二、三度引いて、びくともしないフタに、青年は汗をぬぐい、四つんばいの体勢になった。 ………たしかに、その格好が、一番力が入りやすいからね。 荒い息をはく青年をてつだいもせず、ぼくはそっと背後にまわった。 排水溝の状態は、闇のなかでも熟知していた。青年の靴ひもを、ほどいて格子に結ぶ。 何度めかの挑戦で、青年は結んだひもに足をとられ、つんのめりかけた。 ぼくは、それを見逃しやしない。体勢がくずれたところで、青年の腕をとった。 背後でねじって、ポケットから出したロープで拘束した。 「………な、っ?」 絶句する青年がふりかえる前に、ぼくは膝の裏がわを突き、青年をフタに這いつくばらせた。 まともに顎をうちつけ、メガネがずれる音がしたが、ぼくは気にせず脱がせる。 青年のジーンズを下着ごとずりおろし、闇にとろけそうな白い尻を浮かばせた。 やわらかそうで、思わずさわりたくなるくらい、フワフワしている。 ミルクの甘そうなかおりが浮かび、冷蔵庫から出したてのようにプルプル震えるそれは、あるものを想像させた。 ぼくは、まるだしの下半身、その後孔に指を一本吸いこませた。 「………っ!」 ビクンと身体がはね、痛みをかみころす短い悲鳴が聞こえたが、ぼくは気にせず指を進めた。 根元まではいると、こんどは指の腹と爪をつかって、中のひだを押しつぶした。 生き物のように温かい内壁に、ねばりつく液状のものが生じるまで、ぼくはつづける。 「や、め………っ………ッッ、アッ」 苦悶の表情。流れる脂汗、身をよじって逃れようとする弱弱しい抵抗。 ………演技じゃないって、分かってるけどさ。 だけど、ぼくは二本目の指を押し入れた。 大きくすぼまりが開かれ、悲鳴がピタとやんだ。苦痛があまりにも激しかったためだろう。 目を限界まで見ひらき、瀕死のキンギョのように口をパクパクさせている。 かまわずぼくは、根元までいれた指を、ぐるんぐるんとかきまぜた。 「ひ………ッ、ァッ」 一度はじけた悲鳴が、小さく縮こまった。体内をかきまわされるような痛みのためだろう。 こらえようと目を閉じ、唇をむすび、肩をすぼめている。 それを見ても、ぼくは乱暴にまぜる指をとめず、それどころかスピードをあげてやった。 青年の口からもれるのは、こがらしに似た、ひゅーひゅー細い呼吸めいたものになる。 ぼくは三本目の指をつけたした。 筋肉がげんかいまで押し開かれる音がしたけど、それでもすぼまりは受けいれた。 身体がはねるのも、最初の時ほどの勢いはない。ぼくは知っていた。 青年の息に熱がこもっていることを。肩が荒く上下し、腰が小刻みに揺れているのを。 ぼくはわざと揺れるタイミングとずらして、三本の指を前後にうごかした。 「ぃ………い、ぁ………っぅ!」 まちがいなく声はあえぎだった。身体の震えは、ただ悶えているだけだった。 動かす指は、しだいに水っぽいものをまとうようになっていた。 ジュ、ジュプといやらしい音を立て、まもなく青年の呼吸は吐息に変化した。 ぼくは無造作に指をひきぬいた。月の光のせいか、銀色にぬめったものでぬれている。 「………っ………ふぁ、っ………」 安堵の声をもらし、全身がガクガクと脱力しかける青年が、かんぜんに崩れる前に、ぼくはそれを挿れた。 ファスナーをおろし、たぎりかけたそれを。 ひくひくとうごめき、液状のものをわずかにこぼしている後孔へ、あやまたず。 ぼくの「とっておき」を咥えて、青年ははしたない声をあげた。 「………っ、く………ァアアアアッッ!」 指三本とはくらべものにならない、厚みと深さをうけいれ、青年の顔はこわばった。 ときたま痙攣のように、ビクン、ビクンと大きな震えがやってくる。 逃れようとする身じろぎもふくめて、ぼくはぜんぶを楽しんでいた。 自分の好きかってに腰を押しすすめ、飛びだす呻き声なんて気にしなかった。 ギリギリに張った内壁を、破るかのように大きくなるそれを味わい………げんかいまで達した時、ぼくは笑いながら欲望を吐きだした。
うなだれ、たおれふしている青年の上着から、ぼくは財布をとりだす。 「んじゃ、電車賃として、一万円でいいや」 「なっ………!?」 疲れきっていた青年が、驚きと怒りで、目に光をともらせた。 ぼくは微笑んで、やりすごす。 「だれも、用水路に小銭をおとした、なんて言ってないよ。 ぼくはここで、獲物をまっていただけ。 身体目当ての好色ジジイでも、おにーさんのような善人さんでもね。 あ、言っておくけど、警察に訴えてもムダだよ。『れいぷ』でも強盗の件でもおんなじ。 ぼくのような少年が、乱暴されたのはこっちだと泣いて訴えれば………警察はどちらを信じるか………考えるまでもないもんね」 財布をもとにもどし、後ろ手の拘束をといた。 腕がしびれて動けないのは計算すみ。靴ひもは自分でほどくだろう。 ぼくは手に入れた一万円札を、ひらひらとたなびかせながら立ち去る。 「………なんで、俺がこんなめに………」 心底くやしそうに青年がつぶやく言葉は、もうぼくの耳にはいらなかった。
ただ、ファミレスで食べるプリン・アラモードのかろやかな甘味を思いうかべ、駅への道をひたはしるだけだった。
終
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