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 (双生児 弟攻め 嫉妬心 偏愛 緩め /18禁)
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 どうしてなんだ。どうしておまえは、おれの気持ちに応えてくれようとしないんだ。
 もうずっと前から気づいているはずだ、そうだろう?
 
 最初に意識したのは3才の時。
 お化けかなにかの怖い夢を見て泣いていたおれを、抱きしめてくれた。そんなもん追い払ってやるからと言った淳とそのまま抱き合って眠った。
 次に確認したのは5才の祭からの帰り。
 豆ができて歩けなくなったおれを気遣い、血塗れの足で、意地を張って歩き続けている姿を母親の背中から見た時。いつか逆におれが守れるようになろうと誓った。
 そして10才の夏。
 無防備に部屋で転がって昼寝をしている淳に、衝動的に抱きついた。
 キスの仕方なんて知らなかった。その後どうすればいいかなんてますますわからなかった。ただやみくもに唇を合わせると淳は目をうっすらと開けて不審そうな顔をした。
「大丈夫だよ」
 何が大丈夫かはっきりしないままおれがそう言うと、なんだかむにゃむにゃ呟いて、また眠っちまった。人を信用するにも程がある。矛盾してるとは思ったが腹が立った。
 もう一度唇を重ね、もう一度その柔らかさに酔ってしまうと、もっと触れたいという気持ちが沸騰するマグマみたいに体の奥から湧きあがるのを止められなかった。
 頭の一部は確かに冷たく冷えているのに、他の部分は煮えたぎっている。こんなの自分じゃないと思いながら、首筋に唇を移すと、うっすらと汗の匂いがした。左手で体を抱きしめたまま、右手でタンクトップを捲り上げると肌の白さにますます掻き立てられた。そういえばこいつプール嫌いだから、日に焼けていないんだななんて妙に冷静に判断している自分がいた。
 吸い寄せられるように、まだ筋肉も未発達の脇腹に頬を寄せ、舌を這わせ、強く吸い付けた。白い肌に赤い印が残るのを見ると、もう歯止めが利かなかった。誰の目にも触れさせないように、こいつの体中に自分の証を残したい。時々、ピクリと反応する体をなだめる様に撫で、何かに追い立てられる様に夢中で腹に、胸に、腕にキスを落としていった。
印が一箇所増えていく度に自分の体に熱が集まっていくのが分かる。これじゃ足りない。もっと…もっと欲しい。
 そっと手をウエストから下半身に忍ばせようとした時
「…尚…?」
 淳がぼんやりと目を開けた。
「何…してんだ?」
 はっきりしない意識を呼び起こすように片手で目をこすり、自分の胸のあたりに頭を乗せているおれを見下ろした。
「…なんでもないよ」
「…あ、そ。」
 小さく欠伸をして、また目を閉じた。
 おれはため息をつき、入れかけた手をそっと引き抜いた。これ以上続けるのは多分無理だ。もっとさっさと進めれば良かった。
 そんなおれの思惑とは別に
「尚、熱あるんじゃねえ?」
 目を閉じたまま淳がやたらと落ち着いた声で言った。
「顔、熱いぞ」 
 その言葉を聞いて、かっと顔が紅潮するのが分かった。体を起こして
「阿呆!腹出して寝てんじゃねえよ!」
 と捨てゼリフを吐いて部屋を出た。
 体に溜まった熱はいつまで経っても引かず、戸惑いと焦燥が後に残った。どうすればいいのか分からないまま風呂場に行き、冷水を浴び続けたっけ。真夏なのに唇が真っ青になり、歯の根が合わなくなるまで水を浴びるおれを見つけた時、母親は仰天し有無を言わさず引っ張り出された。タオルでごしごしと体を拭かれながら
「もう、あんたがこんな無茶するとは思わなかったわよ」
 と嘆かれた。それは言外に、淳ならともかくと言いたかったのは明らかだ。
 あの時、淳はどこまで気が付いていたんだろう。

 そうだ、あの後あんな事件が起きるなら、あの時強引にでも奪っておけば良かった。そうすればおまえは家を出る事もなく、ずっとおれのもので、おれはおまえのものでいられたのに。
 あの時付いたおまえの心と体の傷、おれがずっと一緒に背負っていってやろうと思っていた。なのにおまえはおれの前から去っていった。おれがそんなに負担だったのか。

 どうしようもない自分の気持ちは隠しようもなく、そればかりか想いは日々募っていく。
 せめて他人であったらどんなに良かったかと思う。
 それならばまだ、ただ苦しいだけの恋で済んだかも知れない。
 恋?
 これは恋なんだろうか? そんな簡単なものなんだろうか?
 手に入れたい。 いや、独占したい。 いっそこの手で壊してしまいたい。

「淳はさ、平気で誰とでも寝るんだよな」
 皮肉のつもりでおれが唐突にそう言った言葉には、
「違うよ。誰とヤッても平気なだけ。基本的に不感症だもん。相手が気持ちよけりゃいいの。SEXは相手へのサービスだから、相手が男でも女でも、受けても攻めても平気。おれの感情とは関係ないから」
 と答えた。最低だ。何だ、『基本的に』不感症ってのは。
 「じゃ、おれには、してくんないの、サービス」
 ドロドロした気持ちを押さえ込んで、わざと穏やかな口調で訊いてみる。
 淳は表情を変えない。そのくらいで動揺するようなヤツじゃない。
 こっちの気持ちがわかっているように
「尚はさ、誰かいいやつ見つけなよ。男でも女でもいいけど。おまえは好きだけどさ」
 そう言い残して、立ち去ったその背中をいつまでも見ていた。
 『好き』だって? まるで、『ほら、おれたちはお互いきょうだいとして好きなんだよな』と念を押されたような、心地悪さ。そんなのあまりに酷過ぎる。

 違う。 そんなんじゃねえよ。おれがおまえを好きなのはそんなんじゃねえ。
 一卵性の双生児として生まれて育ってきた、ずっとずっと前から。おそらく物心が付いてからずっと、おまえの事しか考えられない。
 淳がいなくなったのはちょうど体も心も大きく変わり始める頃だった。
 どんどん変化していく自分に戸惑いながらも、淳も同じように変わっているのだろうかと思うとそれも愛おしかったっけ。あいつの体を慈しむように、自分の体を慈しんだ。
 罪の意識なんて無かった。もともと一つだったおれ達が、また一つになりたいと思うのは当然の事、そう思っていた。
 もしかすると生まれる前から、まだ最初の細胞が分裂する前から、おれはおまえが好きだったのかもしれない。二つに分かれなければ良かった。ずっと一つになっていたかった。
 もう一度一つに体を繋げば、あの頃に戻れるのだろうか。
 お互いがいないことがどういう事かすら分からなかったあの頃へ。 

「淳、今夜ヒマ?」
 何気なくそう切り出すと、淳は一瞬黙り込んだ。困ったような顔をして、どうやって断ろうか考えている様子。あいつと約束があるんだよな、多分。
 家を出て行ったおまえを追いかけて、やっと同じ学校に入り込んだのもつかの間、おれは現実を突きつけられた。
 おまえには『恋人』ができていた。散々やばいことをしでかしたのを知っていて、それでも大事にしてくれるという天然記念物みたいなヤツだ。特待生のおまえの部屋で、半ば同棲生活状態と聞いた。全く良い身分だよな。
「相談に乗って欲しいんだけど」
「相談? めっずらしー」
 淳は相談という言葉に弱い。
 だからほら。今も一度ヒマじゃないと言いかけたのに、明らかに迷っている。
 本当はあいつと一緒にいたいんだよな、と、おれは意地悪な気持ちになる。いくら同じ部屋でも、この所忙しくてなかなかいっしょの時間も取れなかったはず。それが分かっていて、わざわざこのタイミングを選んだ自分もいい加減性格が悪い。
 日頃意地っ張りで強がりのおまえは、多分あいつにだけは素直な顔を見せる。2人きりだったら甘えてみたりもするんだろうか。いつものこいつからは想像も付かないが、それを嬉しそうに許しているあいつの表情は簡単に想像できる。おれだっておまえが甘えてきたら嬉しいもんな。絶対そんな事はしてくれないだろうけど。なんの努力もしないでその位置を獲得してしまったあいつが妬ましい。おれとあいつとどこが違うっていうんだ。
「なんの? 」
「恋愛問題」
 おれが答えると、淳の表情は目に見えて変わった。今までどちらかと言えば後ろ向きだった態度が、前向きになっている。
 それはもしかしたら、自分の肩の荷が下りるとか思っていないか?  そんな事を苦々しく思いながらも、でも別に嘘は言っていないと自分に言いきかせる。今更自分を正当化しようとしても始まらないが。どうせおれはホモでブラコンなんだしさ。
「わかった」
 そう言って携帯を出し、あいつにメールを入れる。淳は多分おれから相談があると言われた事まで説明する。それ自体隠さなければならない事じゃない。あいつはしばらくおれの真意を量ろうとあれこれ考えてみるはずだ。でも結局、淳の言う事は笑って許してしまう。明日には後悔するハメになるのにと、おれは意地悪な快感を覚える。
「お待たせ。いいよ。何時にどこ?」
「淳の部屋に行くよ。10時くらいに。ごめん、約束あったんだろ」
「いいよ、別に。特に用事があるってわけじゃねーし」
 確かにね、とおれは頭の中で相槌を打つ。
 ただいっしょにいたいだけだもんな。そしておれはその時間を奪いたいだけってわけだ。

 午後10時少し前に部屋をノックした。
 いつもと変わらない表情で淳が出てくる。特に何か疑っている様子はなかった。
「ワイン持って来た」
 淳の好きな良く冷えたシャブリ。ただしちょっとした細工済み。
「なんか、サービスいいな。酒くらいあるのに」
 淳の部屋は意外に片付いている。というよりも物が少ない。故意にシンプルな生活を目指しているという訳ではなく、単に物に対する執着心が薄いだけだ。それはおれも同じ事。おれが執着するものなんて世界中でただ一つだけだ。
 コルクを抜いて、なんの飾りも無いタンブラーを2つ出し、半分くらい注ぎ入れる。片方をおれに手渡して
「…で?何だって?」
 といきなり本題に入らせようとするのを
「いや、いきなりは、ちょっと」
 と誤魔化しておれはタンブラーに口をつけ、ちょっとだけ飲んだ。
もしかして、早く済ませてあいつにまた連絡しようとしていないか ?
「ま、そうか」
 淳はおれの邪推には気づかず、ワインを飲み干した。良かった、どうやら細工はばれてないようだ。
「高そうだな、これ」
 とワインのラベルをしげしげと見つめる淳から瓶を奪い取り、残りを全部タンブラーに注ぐ。
「せっかく冷えてるから温かくならない内に飲んだ方がいい」
 と言い訳をしながら。淳は
「そうだな」
 とあっさりと同意した。まあ、ワインの1本や2本で酔っぱらったりするやつじゃないのは、自分もおれも分かってる。ワインなんてはおまえにとってはジュースみたいなもんだよな。それがただのワインなら。
 しばらく四方山話を続け、15分くらい経った時だろうか、淳が急に黙り込んだ。
「てめえ、尚……何やりやがった……」
 苦しそうな息の下からやっとそれだけ言うと、自分の躰を抱え込み、その場に崩れ落ちかける。床に倒れこんでいきそうになるのを支えてベッドにもたれ掛けさせた。体を抱きかかえたまま
「ちょっとワインに。コルクから注射器で某所から手に入れた薬をさ」
 と耳もとで囁くように言った。淳はおれの腕から逃れようとするが、その体にはまるで力が入らない。
「おまえって薬、すぐ強力に効いて、すぐ醒めるんだよな。」
 多分数時間、いや一時間。
 首筋に顔を埋めてキスを落とした。淳は、
「恋愛問題ってこういう事かよ」
 とため息をついた。
「嘘はついてないだろ。」 
 そう言いながらシャツを捲り上げ背中からわき腹に手を滑らせる。さらさらした手触りがやたら気持ちいい。ものすごく不摂生してるくせに、なんでこんなに肌がきれいなんだよこいつは。 
「ヤリてえなら、勝手にヤレよ。好きにすりゃいいじゃん」
 乱暴な言葉と荒っぽい語気に気圧されて、おれは首筋から顔を上げた。
 淳は至近距離から、おれの目を睨み返してきた。
「ただし、多分おれは何も感じねえ」
 その目に苛ついて
「そんなわけあるかよ」
 そのまま噛み付くように唇を奪った。全身から力の抜けた体は、あっさりと舌の侵入を許したがいくら口内を弄っても、それで淳は息を上げたりはしなかった。何の反応も無い体におれが諦めて離れると
「な?」
 落ち着き払って同意を求める淳に、カッと頭に血が昇った。
 こんなんならついでに媚薬も混ぜておくんだった。もしそんなものがあるのならばの話だけど。
 考えながらももう今更戻れない。
 押し黙ったままシャツを剥ぎ取って、ベッドの上に躰を引きずり上げた。
 シャツで両手首を縛り上げて頭の上に上げさせて押さえつけると、淳はまたおれを睨みつけてきた。
「縛らなくても逃げられねえよ」
「薬切れたら、おまえの方が有利だろ。」
 力は多分おれの方があるだろう。でもスピードや駆け引きでは圧倒的に敵わない。 
 強い視線を避けるように、剥き出しになった淳の上半身に目を向けた。男にしては細い腕に華奢な肩幅、薄い胸。自分の体を思うように自由に動かすには過不足なくついた筋肉。これ以下では多分機能しないし、これ以上だと邪魔になる。それは貧弱になりかかる危うい崖っぷちでバランスを保ち、奇妙に均整が取れている。自分ではよく嫌いだと言っている。でもおれには、生身の人間とは思えないほど輝いて見えた。
「綺麗…だよな」
 思わずそう口にすると
「ばっかか、てめーは」
 と吐き捨てるような言葉が返って来た。目が怒りで燃えている。
 よけいに綺麗に見えると言ったら、多分ますます怒るんだろう。
 ゆっくりと体を倒し、淳の体を抱きしめた。肌と肌がぴったりと合う。うっすらとだけ温かい体はなんの感情も篭っていないように感じられた。自分の体だけがやたらと熱い。おれだけが熱くなっている事を改めて突きつけられて、きまりが悪い。だけど一度腕に抱いてしまったこの体を離す事なんてもうできない。
「こんなんで気持ちいいの? おまえ」
「黙ってろよ。気が散る。」 
 冷静そのものと言った淳の言葉を聞きたくなくて、また唇を重ねた。
相手が反応しないのは分かっていても、その感触と温かい温度に酔うのを止められない。舌を深く差し入れて、舌を上あごを唇の裏側を味わった。わずかに舌が動き、おれの歯列をなぞっていったが、おれにはそれが儀礼的なものに思えた。SEXはサービスと言い切った淳の言葉が耳に甦る。
 それを振り払い、体中に印を刻んで行った。時々淳の顔を見ると、戸惑ったような困ったような表情が浮かんでいた。そんな顔、見たくない。所々に薄く残る、多分あいつに付けられたキスマークの上をことさら強く吸いながら、おれはある事を思い出してしまった。
 あいつとの時はどうしてるんだ。
 まさか毎回こんなマグロ状態じゃないはずだよな。
 悔しいけれど初恋はこいつで、それからこいつの事しか考えられなくて、そういう対象もこいつしか浮かばないおれと違って、あいつはもともとノーマルなはずだ。こんな冷凍マグロ抱いたって楽しいわけがない。
「淳、さ」
 腹筋をなぞって舌を走らせながら聞いてみた。
「どうしてんだよ、あいつとの時」
「…う゛…」
 一瞬ピクと躰が反応した。小さく息を呑んだのが分かる。
 このやろう、思い出したのかよ。やっぱりあいつとの時は別なんだ。畜生。
 自分で言い出しておきながら、凶暴な攻撃心がむらむらと湧きあがってきた。
「イテっ」
 思わず脇腹に噛み付いて歯型を残してやった。今度あいつが見た時にわかるように。
 痛みは感じるんだなと当たり前の事を思う。
 うっすらと滲む血を舐め取りながらもう一度聞く。
「あいつなら感じるんだ」
「うるせえな」
 返ってきた言葉に勢いがない。
 ふと顔を見上げて驚いた。耳まで真っ赤になっている。そんな顔見た事無い。
「恥ずかしいんだ、おまえでも」
 口では強がってはみたものの…くそっ。
悔しいけど可愛いと思ってしまう自分が情けない。おれのせいで赤くなっているわけじゃないのに。
 体をずらし、真っ赤になった耳を軽く噛んだ。ちょっと前とは比べ物にならないほど熱くなった顔を両手で挟んで、今度はできるだけ優しく触れるだけのキスをする。淳は小さく身じろぎし、力なく反抗した。
「やめろよそういうの」
「ふうん。優しくされる方が感じるってわけ?」
「そんなんじゃねえよ」
 プイと横を見て、拗ねたような顔になる。
「やっぱり、可愛いよな」
「ばか!鏡でも見ていやがれ!」
 悔しそうに唇を噛む表情は、子供に戻ったみたいだった。
 
 本当に悔しいのはおれの方だ。悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい。
 どうしてあいつの事を出しただけでそんなに素直な顔になる? あいつの事考えるだけで、体が反応する? 2人だけの時間に何故あいつが割り込んでくる。
「どうしてあいつだけは」
「知らねえって!おれに聞くなよ。おれが一番不思議なんだから」
 まだ顔を朱に染めながら反論する。
ちっくしょう。不思議だとか思いながらあいつに抱かれて悦がってるってわけかよ。
 
 つまりは何かきっかけがあればイケルって事か。
 10才の夏、あの時は薄いながらも反応があったように思う。とすると、あの後……あの……事件だろうか? あの、おれにもおまえにもあまりに過酷だったあの事件。
 詳しいことはおれは知らない。本人しかもう知っている者はいない。
その時の傷が、未だにおまえを制御しているのか?
 酷い話だよな。それならば、確かめておれがその封印を解いてやる。

 淳を抱きしめていた腕に力を入れ、しっかりと抱いたまま片膝を立てて起き上がった。
 腕が使えない淳はうまくバランスがとれず、体重を全部おれに預ける形になる。
「何?」
 戸惑ったような声を上げるのを構わずに耳元で囁いた。
「試させろ」
「だから何を…うわ」
 有無を言わさず体を反転させてうつ伏せにベッドに沈めた。
 その刺し傷は、左の肩甲骨の下に残っている。何年も経っているのにまだそれは生々しく、明るい電灯の元でまるで誘うようにてらてらと赤く光って見える。
 人差し指の指先ですっと撫でると、
「ひっ」
 と声にならない声を上げた。予想通りだ。
 初めて見せた反応らしい反応におれは気を良くし、舌で軽く舐めてみた。
 今度は明らかに体がビクっと大きく揺れた。肩越しにおれの方を振り返り、
「ちょ…ちょっと、止めろ尚。気持ち悪ぃ」
 と慌てた声を出す。
「気持ちいいの間違いだろ」
「っざけんじゃ…うあ……っ」
 最後の方は言葉にならない。
 声を押し殺すように縛られた両手でシーツを握り締めている淳を見下ろし、おれは勝ち誇って多分舌舐めずりをしていたと思う。
 獲物を目の前にした野生の肉食獣はこんな気持ちなんだろう。
 
 見つけた。
 見つけてやった。
 これか、これがおまえを縛り付けていたもの
 スイッチが入ってしまえば
 おまえはおれのものになる。
「幼い頃から抱き続けていた、双生児の兄淳への想いを抑えきれなくなった尚は……。」
...2006/11/14(火) [No.340]
葵 兎巳
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