恋をいたしましょう
「はあ~潤いが足りないなぁ。」
学校の屋上で一人ため息を吐き空を眺める。 この春めでたく高等部の2年生に進級した俺、伊藤修一の日課だ。
健全な男子高校生である俺を憂鬱にさせること。 全ては遡ること1年前。入学式での出来事が原因だった。
桜舞い散る季節。俺は青春を謳歌すべく希望に燃えて、この山深い全寮制男子校の 門を潜った。
この学校、実は3年間男だらけの閉鎖された空間で過ごすってのを言い訳に、 男同士でお付き合いすることに寛容な校風で一部の層には有名な学校だったりする ワケだ。
もともと『そういう性癖』の俺にとっては願ったり叶ったりの場所で、合格通知が 来た時には、これで充実した学生ライフを楽しめると小躍りしちまった。
あ、ちなみに俺は美形ってわけじゃないけど小柄で童顔だし、超絶テクがあるから 選り好みしなきゃ彼氏の一人や二人はGETする自信があったんよ。
だけど入学早々にやらかしちまった。 式が終わって教室に移動する途中で迷ったあげく、裏庭でお約束のように同じ 新入生が上級生に襲われるところに出くわした。
「真性」の俺としては征服欲とか嗜虐心とか、くだんないもんを満たす野蛮な 目的に犯っちゃうってのヘドがでるほど嫌いなんだよね。
そういうヤツがいっから「俺ら」のイメージが悪くなるわけっしょ? まあ、俺も結構セフレとかいたわけだし清い体ちゃあ言えねえけど、やっぱ 同性同士でも基本はH=愛だっての。
当然のように相手をボコったワケで。 ここまでは俺的には自然の流れだったんだけど、正直助けた相手が悪かった。
むさいヤツラを振り切って縋りついてきた現校内No1アイドル 三国薫は華奢で 小柄な上に色素の薄い髪とスベスベの肌と愛くるしい大きな瞳が印象的な美貌を 持って危険極まりないアブノーマルな高校に入学してしまった哀れな子羊だった。
「男同士でなんて考えられない」と言い切るノーマルな性癖の薫は入学式の一件で 俺を「自分と同じホモ嫌い」とすっかり思い込んじまった。
誤解を解こうにも、思い込みの激しい薫はなかなかわかってくれず、災厄に 見舞われる度に泣きついて来て毎回助ける羽目になった。
その内、教師陣からも薫のボディーガードとして認識されちまって部屋は同室で 授業の班分けは一緒にされ、色々便宜を図る代わりに、いつも側にいるように 釘まで刺されて面倒を見るしかなくなった。
だいたい、薫に力貸さねえと生活点下げるってひどくね? いくら俺程強くて薫みたいなお子ちゃまに興味がない安全な男が滅多に居ない っていってもさあ。
在校生の誰も彼もが薫に求愛してくる中、気がつけば「ホモと見れば殴り倒す男」 「天使の守護者」というありがたくない二つ名で俺の名前は知れ渡っていた。
こうなると恋人どころか、ダチの一人もできやしない。 声を掛けてくるのは薫目当てか、俺を倒して名を挙げようっていう馬鹿ばかりで 「寝込みに鉄パイプ」なんてことも日常茶飯事だ。
そんなこんなで結局、寮でも学校でも薫と二人っきり。 不本意ながら恐ろしいほど清らかな生活を一年間も続ける羽目になった。
「だいたい何でみんな薫なんだ!俺だって結構良い線いってんだろっ!」
実際、学園のアイドルに告る男達は俺なら是非にとお願いしたいくらいの上物が 多い。逆切れした男を返り討ちにする時、何度いっそ食っちゃおうかと思った ことか。 むちゃくちゃ好みの男達から恨まれ、やっかまれ、挙句怯えられ、そんな経験を 重ねたら俺だってやさぐれたくもなるっつ~の!
そうして、いつものように黄昏てると
「修一。お待たせ!」
俺の休憩時間終了を知らせる声がした。
「薫。委員会終わったんか?」 「うん。そこまで先生が送ってくれたよ。」
教師の目が届く週1回の委員会の間だけ俺は一息入れることができる。 安心できるのは教師と一緒に居るときだけというのがココで学んだ常識だ。
「ケダモノばっかなんだよな。」 「え?何か言った。」
日に透ける薄茶のくせっ毛の間から薄茶の大きな目が覗き込んでくる。
走ってきたせいか透明感のある白い肌は上気していて見慣れた俺でも一瞬目が 眩むような美貌が無防備に見つめてくる。
1年間でほとんど身長が伸びなかった俺達が未だに同じ目線で話ができるのは 良いことなのか、どうなのか。
「なんでもねぇよ。」 「ちょっと!何すんの。」
柔らかくて手触りの良い髪をぐちゃぐちゃに掻き混ぜると薫は生意気にも抗議の 声を挙げてくる。 薫の無駄な抵抗が面白くて少し口元を緩めて俺はヘッドロックして、さらに頭を わやくちゃにした。
「や~め~てよ!」 「ハハハ。薫のクセに生意気に抵抗すんじゃねえか。」 「うわ~ん。」
潤いが足りないけど平和な一日。
この時、俺の高校生活はずっとこのままだと意味も無く信じていた。 それが間違いであることに気付かずに。
*****************************
嵐は突然やってきた。
「い、伊藤!あっあの、お、俺と、つ、付き合ってくれ。」
2-C里山忍。 クラスは違うが俺らと同じ2年生で園芸部所属。 はにかんだ笑顔が可愛いと評判の整った顔が180近い身長に乗っている好青年。 にも拘らず、今だに一人身なのは殆ど温室に入り浸っている地味な性格が 災いしている。 少し押しが弱いが、温厚で誠実な人柄は校内でも密かに人気。
冷静にプロフィールを頭に浮かべていると思う無かれ、俺は今かなりパニクッてる。
実は自己紹介も何もなしに突然真っ赤な顔して告ってきたコイツは、俺がずっと 「良いな」と思ってコッソリ見つめてたヤツなんだ!
さっき頭が浮かんだデータは花壇を作業している姿に一目惚れして、裏で手に 入れた情報だ。
「薫じゃなくて”俺”で良いのかよ?」
何か口にしねぇとと思って言った俺の言葉に耳まで真っ赤にして下を向いたまま 里山忍は頷く。
「恋人になりたいって意味で良いんだな?」
さらに茹蛸みたいに赤くなって里山忍が下を向いたまま二回頷いた。
俺は気を落ち着けるために一息吐いた。 すると里山忍の肩が大きく揺れる。
この気弱な男が校内で最も凶暴と言われる[ホモ嫌い]に告白するには、かなりの 勇気が必要だったわけで。
そう考えると俺は熱いものが込み上げてきた。 咄嗟に回れ右して里山忍に背を向けた。
「いいぜ。」
込み上げてきたもんが目から零れそうになって慌てて堪える。 耐えることに必死で口から出た言葉は酷く淡白になってしまった。
「付き合おうぜ。」
里山が息を呑み、顔を挙げた気配がした。
この時、俺はいっぱいいっぱいで一度も里山忍の顔を見ることができなかった。 後日、俺はその事を後悔することになる。
**********************************
「修一、僕はもう学校に行くのやだよ!」
やたら朝からテンションが高い薫を促して、ガッコに行く支度をする。
「男の僕に女装しろなんて。本当に変態ばっかりなんだから、この学校っ!」 「新入生歓迎パーティーの余興くらいでピ~ピ~喚くな。」
口では嫌だと言いつつ、既にすっかり準備が整ってる薫には俺の返事はお気に 召さなかったらしい。
「それだけじゃ済まなくなるのがココだってわかってるんでしょっ!」
確かにおさわりくらいで済めば御の字だったりして。
「そんなこと言っても願書出し間違えたのはオマエだろ?」 「う~。」
こいつは何とウチと地元の有名校の願書を間違って出して入試を受けるハメに なったそうだ。自業自得と言えばそうだが・・・初めて聞いたときには人生に ついて考えさせられたよ、俺は。
「心配スンナ。青島にやらせるってことで話は付けといた。」 「青山って・・・2メートルあって岩みたいな顔した柔道部のアノ青山?」
何、青い顔してんだ。嫌なことやんなくて済んで良かったじゃねぇか。 青山脅しつけて、級長の泣き落としを耐えて事を運ぶのが、どんだけツラかったか わかってんのか?
「インパク賞狙いだ。ホレっ行くぞ!」
薫を急かして寮の玄関まで行くとスラっとした人影が立っていた。 里山忍だ。気付いた瞬間心臓が跳ねる。
俺に気付いた忍が恥ずかしそうに頬を染めやや俯きがちに小さな声で「おはよう」 って言った瞬間、胸がキュンと高鳴った。
これだよこれ、ニヤケそうな顔を引き閉めながら久し振りのトキメキに浸っている と後ろから不審気な声がした。
「あれ、誰。知ってる人?」
薫に話すの忘れてた。
男と付き合うことになったなんてイキナリ言うのはマズイよな。 浮れて何も考えていなかった俺はパニクって言葉が出ない。
「あ、あの~俺2-cの里山忍、です。昨日、伊藤君のと、友達になった。 んで、学校まで一緒に行こうと思って・・・邪魔しちゃった、かな?」
助け舟を出したのは意外にも忍だった。 露骨に警戒していた薫も控えめな様子と忍独特の良い人オーラに少し落ち着いた らしく、すぐに態度を改めた。
「いいえっ。俺達に話しかける人めずらしかったから驚いてて。 修一から何も聞いてなかったしっ。」
『何も聞いて無かった』のところで悲しそうな顔をした忍に俺も慌ててフォローを 入れる。
「忍、今日から修一って呼んで良いって言っただろっ!・・・悪りぃな。 昼飯食いながら紹介するつもりだったんだ。」
フォローになってないか? しかし薫はそれで納得したようで忍に笑いかける。
「あっなるほど。いつも僕たち中庭で食べてるから今日は一緒に食べようね!」 「それじゃあ、とにかく遅刻する前に学校行くぞ!」
忍には悪いと思いながら取り合えずその場を取り繕って逃げ出した。
*****************************
久々の薫以外の人間を交えて過ごすランチタイムは楽しかった。
俺以外とは露骨に距離を取ってきた薫も自然と次の日も来て欲しいと誘っていた ところを見ると俺と同じ感想を持ったに違いない。
それからは、信じられないくらい充実した日々を過ごせた。
暫くすると、忍が俺達と知り合う前に一緒に食べていたという親友の桜庭隼人を 連れて来るようになったがコイツも悪いヤツじゃあなかった。
忍のように生粋のお人よしってワケじゃなさそうだが少なくとも力で薫を どうこうしようとか、俺を闇討ちしようとかする卑怯者ではないようだった。
とはいえ、最初は勿論警戒した。 けど、成績も優秀で人望もあるバスケ部のキャプテンで過去に男と交際したことが 無いという裏情報も仕入れたし、何より忍の紹介するヤツが悪いヤツということは あるまいという忍への信頼が最終的にはヤツを俺達に受け入れさせた。
暫くして薫が隼人に懐くと、俺と忍は二人っきりの時間を作れるようになり、俺は 望んでいた学園ライフを手に入れることができた。
一緒に日向ぼっこをして取り留めも無い話をしたり、1on1をして(隼人の親友だけ あって忍はバスケが上手かった)軽く汗を流したり、健全なお付き合いだったが 久しぶりの恋心はそれでも十分俺に甘酸っぱいトキメキってモノを提供してくれた。
とにかく、二人っきりで肩を寄せ合い大げさな言い方かもしれないが世界中を敵に 廻していた俺達には新しくできた仲間と過ごす日々は新鮮で楽しかった。
本当に楽しかったんだ。
*****************************
そろそろ良いんじゃないか?
充実した日々を送ってるなんて言いつつ、やっぱり健全な男子高生としては先を 期待しちゃうわけで。
もう色々準備もしちゃってるんだよね。 一年半は清い生活おくってるからキチンとしないとお互いツライだろうと裏ルートで 手に入れちゃったんだよな。
勿論、忍の意思を尊重したいよ俺は。
でも、もう付き合って2ヶ月以上経つし俺は上でも下でも良いんだし俺が女役やれば 女とやるのとあんま変わんないし。でも、忍だからなあ、
卒業するまでエッチ無しとか考えてるかも。
う~ん。流石にそれは嫌だなぁ。 せめてキスぐらいしたいよなぁなんて頬染めちゃって俺って乙女ジャン。
「『天使の守護者』なんて言われても意外に簡単だったな。」
その時、すっかり幸せに浸りきって廊下を歩いていた俺の耳に飛び込んできた言葉。 偶然って本当に恐ろしい。
「隼人のヤツ上手いことやったよな。『伊藤修一がときどき忍を見てる。あれは絶対 気があるハズ』なんて言ってた時には勘違いだって思ったけど。」 「見事に修一を引き離して薫姫と仲良くなっちまうなんてな。」
俺のこと?上手いことやったって。「引き離せた」って。
「しかし忍も親友に頼まれたって言っても良くあの悪魔と恋人ごっこできるよな~。 だって伊藤って地元では有名な[男食い]だったんだろ?」
ゲーっと嫌悪感丸出しで舌を出している男は二人と同じクラスのバスケ部員だ。
「ホント、騙されたな。ホモ嫌いのふりして実際には自分が真性だったんだからさ。 「薫姫襲って返り討ちにあったヤツらって案外みんなやられちゃってたのかもよ?」
その場に居た人間は一斉に笑った。嫌な笑いだ。俺は力を込め過ぎて震えだした 拳にさらに力を入れた。
「だな~。」
そこまで話を聞けば十分だった。 俺は忍を呼び出した。
********************
「友達思いでイイコだな。だけどなテメエが俺を騙そうなんて百年はえぇぇんだよ!」
俺の一言に心当たりがあるのか体育倉庫に呼び出されて、いきなり殴りつけられた というのに床に転がされ忍は文句一つ言わず青い顔をして俯いていた。
「イイ訳もできませんてか?この俺をコケにして侘びの一つも入れられねぇって?」 「す、すまない。だけど、隼人は良いヤツでっ、しっ真剣に薫のことっ」
ゴフッ鈍い音がした。御託を並べていたうるさい口が俺の蹴りで黙る。 鳩尾に受けた衝撃に息を詰め、ついで咳き込む忍を何度か踏みつけた。
「イイワケすんな。薫だの、隼人だのはどうでもいいっつうの。この俺をコケに したって話してんだよっ!」
トドメを刺す為ではなく、嬲る為に繰り出される俺の蹴りに亀のように丸くなって 耐えるヒョロ長い体を思いっきり蹴り上げ仰向けにした。
逃げ出す気力も無いのか、ぐったりした忍に近づき側にあった備品で手足を拘束する。
「な、何を?」
状況のやばさを悟ったのか忍が振るえ出した。 俺に受けた暴行で口の端が切れ、すこし変形した整った顔がココに来て初めて俺に 向けられた。
埃まみれで、ぐちゃぐちゃに乱れた髪、揺れる大きめの瞳。 俺が一度も見たことが無い忍の表情。
でも、この瞳はよく知っている。 俺に・・・返り討ちにあった男たちが良くする怯えた表情だ。
そう思った途端、ふいに笑いがこみ上げてきた。 急に大声で笑い出した俺に怯えながら困惑した忍が見上げてくる。
俺は今タチの悪い笑顔を浮かべているに違いない。 ゆっくりと忍のベルトに手を掛けた。
「俺の繊細なハートを傷物にしたんだ。親友の為に自分を犠牲にしたやさしい シノブ君なら責任とって慰めてくれるだろ?」
金縛りから解けたように暴れだす忍を言葉で攻めつつ、俺の手は止まらない。
「心配すんな。知ってんだろ?俺が経験豊富だって。・・・おっ、なかなか良いもん 持ってんじゃん。」
暴れる忍を簡単に組み敷いて俺は取り合えずズボンを膝のところまでずらし、 忍自身を掴んだ。 もちろん忍は必死で抵抗したが体格は負けていても経験値が違うのだ。俺はあっさり 目的を果たして、手の中のそれに強く弱く刺激を与えていく。
「い、いやだ。やめっ。」 「しっかり感じてんじゃないか。素直にヨがれよ!」
完全に押さえ込んでいるから暴れられても対して問題は無い。
が、煩いので忍自身をちょっと強めに握って脅しを掛けると組み敷いた体は怯えて 大人しくなった。
体育座りをした忍の足の間に潜り込んで潤いが足りないそれを咥えた。 自慢のテクを使えば、およそ快楽とは程遠い状態にいるはずの忍のものは、あっ という間に限界まで張り詰める。
羞恥に耐えるよう眉を顰め、声を殺した忍は扇情的で俺の息も荒くなる。
「早いねぇ~パンパンに張ってもう我慢が効きませんってか?もしかして童貞かよ。」
簡単にはイかないように微妙に調節しながら追い上げる。零れ始めた先走りを指で 掬い、奥まった場所に手をのばした。
「ヒッ。」
硬い蕾の入り口を突き、閉じた口をやわやわと揉むとフェラの快感で意識を飛ばし かけていた忍が目を見開いた。
少し浮かした状態の足をバタつかせ、再び、もがきだした忍の敏感な部分に歯を 立てると、悲鳴を上げて押さえ込んでいる張本人の俺にしがみついてきた。
触れ合っている肌は恐怖の為か震えていた。
限界まで育てたモノを口から離すと片手で後ろの口を嬲ったままシャツ越しに胸の 突起に吸い付く。
突然の予期せぬ感覚に、高められた体は敏感に応える。
優しく愛撫してやると無意識だろうがもどかしげに腰が振られる。 ダラダラとながれる忍自身の淫液を使って指を中に進入させた。
キツイ。
長年の経験で習得したコツで広げ、以外に浅い場所でみつけたシコリを 押した。
「ああああっ。」
だいぶ解れてきた場所に指が2本進入できるようになるとコリコリするそれを やんわり揉む。
それにあわせて弛緩を繰り返す自分より大きな体に嗜虐心を覚え、まだ後ろだけでは イけない忍にとって過ぎた快楽が、どれだけの苦痛を与えるのか想像しつつ、暫く それを堪能した。
「そらっイっときな!」
小刻みに震え続ける体に限界を感じ、指を入れたまま最後は手コキでイかせた。
完全に脱力した忍から手を離し、そのまま自分のベルトに手を掛け俺のものを取り 出そうとして、ふいに見上げた忍の表情に俺は固まった。
忍は泣いていた。
快感にではなく怯えてでもなくタダ呆然と目を見開いて涙をこぼしていた。
俺の頭から血の気が引いた。
何をやっているんだ、俺は。 俺はコイツにこんなことがしたかったのか?違うだろ?
どのくらいの時間が経ったのだろう。 完全に動きが止まった俺をいぶかしんだ忍が顔を上げた瞬間、扉が開かれた。
「そこで何をやってるんだ!」
*******************************
いつものように屋上で空を見上げる。
以前と違うのは俺がどれだけ時間を過ごしても誰も迎えに来ないということだけだ。
あの日。 扉の向こうにいたのは忍と俺を探しに来た薫と隼人と、そして偶然見回りに来ていた 教師だった。
強姦未遂の現場を押さえられた俺はその場で取り押さえられ直ぐに反省室に入れらた。一週間の謹慎だった。
只管、反省文を書かされて反省室から出てきた時には、誰も話しかけてくるものは 居なくなっていた。 [真面目な忍を強姦しようとした鬼蓄][10歳の時から男遊びをしていたホモ野郎] [薫を利用して影で好き勝手男を食っていた強姦魔]というのが俺の本当の姿だそうだ。 いつも一緒にいた薫が俺と目線すら合わせないのを見れば噂の真偽は一目瞭然。 といったところだよな。
散々、殴る蹴るされてボロボロの上、侵されかけていた忍を見た薫と隼人に してみれば俺ってその通りのヤツだし。
一般生徒は誰も彼もが俺を遠巻きにして嫌悪の視線を浴びせてきた。
「修一ちゃん。是非、今度俺の相手もしてよ~。」 「本場で鍛えたテク教えて、ちょうだい、なんてな。」
かわりに一部の頭の悪そうな連中には良く声を掛けられるようになったけどな。
俺は噂を否定しなかったし、野卑た声を掛けてくる相手をボコったりもしなかった。 だって半分以上は事実だかんな。
手段はどうあれ隼人は必ず薫のことを守るだろう。
隼人が薫を好きなんてコトは薄々気付いてた。時々、俺に対抗意識燃やしてる っぽかったし、ていうか今にして思えば警戒してたんかな。
晴れて俺は薫のお守りからお役ゴメンってことだ。すっきりしたよ。 肩の荷が下りたってか。
なんか、もうどうでも良いやって感じでさ。
淡々と日々を送る中、今日は久しぶりに部屋を掃除した。
あの一件以来、薫はこの部屋には戻ってこない。綺麗好きだった薫が居なくなって 部屋は荒れ放題だった。
掃除って普段はしないけどやり出すと止まんないよなぁ。 どうせならと棚の整理まで始めた俺は一つの紙袋を見つけた。
なんだか急に空が見たくなってソレを持って屋上に登った。
紙袋の中は愛の行為を行うための必需品。 間抜けな俺が忍との初めてを想像して浮かれて取り寄せた品々だ。
「アイツはじめてだったんだからコレ使ってやれば良かったよなぁ。」
そういやキスしてなかったなあ。結局、一度も。
「俺らしくもねぇよな・・・でもさ、アイツってキスも優しいのかなぁとか思ったら するより、されてみたくなっちまたんだよなぁ。」
やさしい忍君は親友の頼みを断れなかった。 やさしい忍君は[男食い]に騙されてる薫を見捨てられなかった。
ただ、それだけのことだった。 キスなんて初めからしてくれるはずなんてなかったのに。
自嘲気味に笑った。俺って乙女じゃん?
地元では別に自分の性癖を隠していなかったし、その道では相当人気者だったから [男食い]と呼ばれてたのは本当だし。
無理やりなんてしたこと無いけど・・・。 そんなことしなくても体を繋げる相手くらい幾らでもいたから。
でも、あそこではどうしても体が先になるからココに来た。 普通に恋とか友情とかに悩んでみたかったから。
結局過ぎた願いだったみたいだけどな。
「はあ~潤い足んないなあ。」
あんまり足りないから自分の涙で補充してみるか、青い空を見ながら。 なんて、俺って詩人?
「探したよ。修一ちゃんv」
・・・人が浸ってる時に話しかけんな。おりゃあ今は黄昏てたいんだよ。
「お前男好きなんだって?溜まってんなら俺と遊ぼうぜ。掘る方は大得意だからさ。 楽しませてやるよ。」
振り返ると今まで一度も闘り合った事の無い男が立っていた。
改造制服と脱色した髪で真面目な生徒ではないことがわかる。 襟の色は青・・・つうことは3年だな。
「見たことねぇ面だな。」
俺は背の高い男を胡乱気に睨み上げた。
「俺は薫姫みたいなタイプには興味ないからな。穴は青すぎるより熟した方が 美味いってのが俺の持論。」
俺上手いよっと悪戯っぽく笑う姿は良く見れば男前でこなれた感じがした。 夜の町で関係を結んでた連中と同じ匂いがする。
「ふうん。」
たぶん遊び相手としては上物の部類に入る。考え込む俺に脈ありと見たのか男は肩に 手をまわしてきた。
がっついた様子も無く焦らすように俺の首筋を微妙なタッチで撫ぜる。 本当に慣れてる。
結構良い線いってる・・・いってるけど。
「ここで空を見ながらってのも良いけど他に良い場所知ってんだ。」
俺が何か言いかけた時、屋上の扉が凄い勢いで開いた。
「しゅういちから離れろ!」
目の前で名も知らない先輩が吹っ飛んだ。
前編 修一視点 END
|