待つよ。 いつまでも。
君がここに来るまで。 君が俺に気付くまで。
俺は待つよ。 君と共にいたいから。
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「鈴。お前何してんだよ」 「煩い」
鈴は地面に座り込んだままマフラーを巻き直し、コートの前を引き寄せた。 もうかれこれ3時間ほど鈴はずっとこの場から動いていない。
「煩いって…聞いたぞ。お前もうずっと此処にいるらしいじゃないか。店の人に迷惑だろ。ほら、立てよ」 「嫌だ」 「嫌だって……お前幾つだよ?もう高校も卒業したろ?」 「……んだよ」 「鈴」 「健(タケシ)には関係ない」
そう言って壁に寄りかかる。 健はそれを見て大きくため息をつくと自分も鈴の横に座り込んだ。
「ちょ…タケ」 「煩い鈴臣(スズオミ)」
抗議の声を先ほどの自分と同じ言葉で遮られ、鈴は不然としてふくれっ面になった。 それを見て健は苦笑する。
「………店の人に迷惑じゃなかったのかよ?」
二人が座り込んでいるところはとある有名な洋服店である。
「ん~。俺は此処のオーナーと知り合いだし…何とかなるな。『俺』は」 「『お前』は。かよ。俺は?」 「お前は知らない。怒られるんじゃねえ?」 「………俺をいじめて楽しいか?」 「楽しいね。てか、いじめられるのが嫌ならさっさと此処を移動しようとか思わない?」 「思わない」 「じゃあ、仕方ないじゃないか」
「「………………………………………………」」
何人もの人間が二人の前を通り過ぎていく。 大抵の人間は二人のことを気にすることなく、気付くことすらなく通り過ぎる。 時々、ちら、とだけ見ていく人間や、あからさまに眉をひそめる人間。 決して綺麗と言えない言葉を吐きつける人間。 好奇心いっぱいの目を向ける人間。
それを見て、タケは面白いな、と思い、 それを見て、鈴はうっとおしいな、と思う。 それも人それぞれの感じ方。
どれくらいだろうか? 長い時間が過ぎていく。
「………なあ。」 「ん?」
鈴は自分から声を掛けたものの、戸惑い、口を閉じてしまう。 タケはそれを見て、瞳だけで笑う。 鈴は、そのことに気付かない。 タケが、気付かせない。
また、長い時間が過ぎる。 日が暮れ始め、街が赤く染まり始めた頃。
「…………聞かないのな。」 「は?」
「だからさ、俺が何で此処にいるかって事」
鈴がそう言うと、タケは、ああ、という顔をした。 そんなの全く考えてなかった、という顔だ。 そんなタケを見て、鈴はむっとした顔をした。
「お前気になってないのかよ?俺が、この俺がこんなさんむい処で何時間も座り込んでるんだぜ?」
鈴が一息にそう言うと、タケは苦笑して。
「ああ、言われてみればそうだな。何たってお前が、あのお前がこんなさんむい処で何時間も座ってるんだもんな?」
言うとけたけたと笑う。
言われるまで聞かない。 相談されたら聞く。 それがタケ。
「……言いたいなら聞くよ?」
都会独特の、濁った空を見ながらタケが言う。 それにつられるように鈴も空を見た。
「………待ってんだ。人を」 「だろうな。…そんな感じ」
そう言ってタケはタバコを取り出し、火をつける。
「相手は?俺知ってる奴?」 「……知ってるよ。」
すごく、と口の中でだけ呟いて。
タケの顔を見る。 タケはまだ空を見ていた。 タバコの匂いがする。 でも、なぜだか嫌悪感はしない。
「知ってるねえ……。ああ、ナミコとか?」 「違う」
違うねえ……、そんなことをぼやきながらタケはタバコをアスファルトへと押しつけた。
「……きっとお前にはずっとわかんないと思う」 「はあ?何で?」 「……お前が分かる頃には、俺はきっともう待ってないから」
そう言って立ち上がった。
「バイバイ」 「あ、おい、待てよ」
待ってる。 いつまでも。
ねえ、気付いて。 この気持ちに。
ねえ、気付かないで。 この気持ちに。
俺は待ってる。 お前が俺の気持ちに気付くのを。
俺は待ってる。 お前への気持ちが消えるのを。
どっちが早いだろう?
お前が、俺の気持ちに気付くのと。 俺が、お前への気持ちを捨てるのと。
どっちが早いだろう?
分からないけど、今は。
ただ、待つ。 貴方が気付くのを。 俺の気持ちに、気付いてくれるのを………
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