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 (学園 美形 ハーフ 落ちあり/--)
愛しのカイちゃん<後>


海棠、速水、日夏の3人は朝からずっと食堂で桐生櫂が来るのを待っていた。
土曜日の朝は学校が休みということもあってブランチをとる学生が多い。しかし3人は念のためと朝8時からずっとコーヒーを片手に待ち続けている。
食堂の時計が9時半を回る頃やっと櫂がジュリアンに守られるようにして現れた。
少し苦悩したようなジュリアンの顔はセクシーで美しい。そしてその隣にいる櫂はまるで神々しいまでにその美貌を輝かせている。いつもの仏頂面ではなく少しはにかんだような微笑を浮かべてジュリアンに話しかけている様子は見るものの魂を一瞬にしてとりこにする。
ジュリアンが櫂のためになにかとトレイに食べ物を載せてやっている。普段の桐生櫂ならそんなことをされると憤って乱暴に自分のトレイを掴み取るところだが、今朝は従順にジュリアンにねだるようにいろいろ世話を焼いてもらっている。
海棠は思わず口を開けたままその様子を見ていたが呆然としてつぶやいた「・・・す・・・すごい。カ・・・カイちゃんだ。」
日夏がぐっと下腹に力を入れる。「・・・たまらねえ・・・。今すぐ押し倒したいぜ。」
速水がティッシュで鼻血を押さえる。「壮絶だな・・・。」
ジュリアンと櫂が席に着くとジュリアンは櫂のためにフレンチトーストを切ってやっている。
櫂は嬉しそうにホットチョコレートを飲んでいる。
「げ・・・あいつ甘いもの一切駄目だったはずなのに・・・。」日夏が驚く。いつもの櫂は朝は大概ブラックコーヒーとバター付きトーストだけで済ませていた。甘いものが苦手なのでケーキなどはほとんど食べない。
「でも美少年にはぴったりの朝食だ・・・。」速水がうっとりと言う。
ジュリアンが切り取ったフレンチトーストを櫂の口元に運んでやると少し照れたように頬を赤らめて櫂がそれを食べた。
周囲の学生達が息を飲むのがわかった。・・・こんな桐生櫂はまぶしすぎて直視できない。
『ジュール・・・。僕自分で食べられるよ。』櫂が戸惑ったように言うと、ジュリアンがさっと口元にキスした。
くすっと笑うと愛情深げに櫂を見つめる。『カイ・・、ショコラがついていたよ。』
櫂は恥ずかしげに口元をナプキンで拭った。
ジュリアンは幸せだった。こうして櫂と甘いひとときを過ごすのが夢だったが、男っぽい従弟はなかなか思い通りにならず悶々としていたのだ。

「おはよう、櫂くん、クリュニー君。」海棠響の声にジュリアンがいぶかしげに目を上げた。
「おはようございます、海棠会長。」櫂が素直に挨拶をする。
海棠の顔がみるみる赤くなったが、なんとか気を取り戻して言う。「ショコラはおいしいかね?」
櫂がちょっと顔を赤くして恥ずかしそうに言う。「ええ・・・でも熱くて少し舌を焼いてしまいました。」
あまりの可愛さに海棠は悶絶寸前になった。ああ・・・その可愛い舌を舐めて火傷を治してやりたい・・・。
「それは大変だね、櫂。俺が舐めて治してやろうか?」すかさず冬真が割り込む。
櫂はかっと顔を赤くした。「・・・そんな・・・。僕・・・自分でなんとかします。」
ジュリアンがかばうように櫂を抱きしめると日夏を睨んだ。
「クリュニー、そんなに睨むなよ。櫂と付き合ってるわけじゃないんだろ、なあ櫂?」
櫂は戸惑ったように答えた。「・・・ジュールは従兄ですから。付き合うなんて・・・。」
「カイ、僕は君を愛しているよ。知っているだろう?」ジュリアンが言う。
「僕もジュールが好きだよ。だって僕たち従兄弟同士だからね。」無邪気に微笑む櫂にジュリアンはそれ以上何も言えなくなってしまった。
「俺はおまえを恋人として好きだよ、櫂。」冬真がすかさず言う。
「え・・・?」櫂がどぎまぎして聞き返す。
「俺と付き合ってほしいっていうこと。いいだろ?櫂。」
「まて、日夏。櫂くんが困っているじゃないか。」海棠がむっとしたように日夏を制する。
「ぼ・・・僕困ります。だって僕は男だし男性から付き合ってほしいと言われても・・・。」櫂がおどおどして言う。
日夏も海棠もすっかり面食らってしまった。おどおどする桐生櫂など見たことがない。
ジュリアンが櫂を優しく抱き寄せて髪を撫でた。
「大丈夫だよ、カイ。僕が守ってあげよう。誰もカイに触らせたりしないよ。」
櫂は戸惑ったようにジュリアンの腕の中にじっとしている。

食堂のただならぬ雰囲気に入ってきた内村祐樹と門脇隼人は人々の視線の先にあるものを見た。ぽっかりとそのテーブルを囲むように学生たちが緊張した面持ちで遠巻きにして見守っている。
ジュリアン・ド・クリュニーが蒼ざめた美少年を抱き寄せて向かいに坐ったハンサムな男を睨みつけている。
日夏冬真が真剣な顔つきでクリュニーを見返している。その隣には生徒会長の海棠響。ふたりに続くように副会長の速水凛が後ろに立っている。
「あ・・・あれ・・・カ・・・カイちゃん!」隼人が思わず叫ぶとしっと指で威嚇して間島透矢が振り返った。隣にいる北条俊光が小声で言う。「・・・すごかったんだぜ、カイちゃんが突然クリュニー君に甘えてさ、もう皆目が点だよ。いったいどうしてこうなったかわからないけどあれは桐生じゃない。カイちゃんだ。」
透矢はうっとりとして言った。「・・・やっぱり可愛いなあ・・・。カイちゃんの薔薇色の唇が少し震えてる。ああ・・俺がそばに行って抱きしめてやりたいよ。」
祐樹は目をそらすことができずじっとカイの様子を見つめている。
「ああしてにらみ合ってると今更ながらクリュニー君と日夏君てハンサムだよなあ・・・。」隼人が言う。
「うん、日夏君は鷹塔のアラン・ドロンって言われてるけど本当そうだよ。クリュニー君はまるでフランス映画に出てくる白馬の王子様みたいだしね。」俊光が頷く。
「海棠会長もかなりの2枚目だぜ。精悍っていうのかな。」透矢が続ける。
「速水君も結構今風のイケメンなんだけどあの中にいると霞むよね。」と俊光。
「・・・俺にはカイちゃんしか見えないよ・・・。」祐樹が熱にうなされたように言う。
「うん・・・。カイちゃんとそばで話したいよな・・・。」隼人も顔を赤くする。

「クリュニー君、少しは櫂くんを自由にしてあげてはどうかね?君がいつもそうして過剰な愛情を押し付けているから彼は自分の意見を言うこともできないのでは?」海棠が辛らつに言う。
「カイは僕といることを望んでいる。」ジュリアンがむっとして言い返す。
「そうかな?櫂は本当にクリュニーと一緒にいたいと思っているのか?」日夏の言葉に櫂はびくりと身体を震わせる。
ジュリアンといると心がなごむ・・・だが昨夜や今朝のジュリアンはなんだか怖かった。このままふたりきりでいたらどうなるのだろうと不安でしかたがない。
櫂は唇をかむと決心したように口を開いた。「ぼ・・・僕は皆と一緒にいたいよ。・・・どうして誰かひとりを選ばなくてはいけないの?」
皆ごくりと喉を鳴らした。海棠も日夏も櫂のそばにいていいのかと期待に目を輝かせる。
「カイ・・・。」櫂を抱いている腕に力がこもった。どうしてふたりの時間を他人に邪魔させるのだ?
「ジュール・・・痛いよ・・・。」櫂が腕のなかで身じろぎする。
はっとしてジュリアンは手を緩めるとそっと櫂の髪にキスした。
海棠がこほんと咳をする。「そ・・・それでは一緒に朝食としよう。ね、櫂くん。」
「櫂、俺がフレンチトースト食べさせてやろうか?」冬真が言うと櫂は慌てて首を振った。
「僕・・・自分でできますから。ジュール、あまり僕を甘やかさないで。」と言ってナイフとフォークを取ろうとすると、ジュリアンが優しくその手をとった。
「カイ・・・、僕は君を甘やかすのが好きなんだ。僕の愉しみを奪ってしまうの?」
「だって・・・子供みたいで恥ずかしいよ。」櫂がぽっと頬を赤らめるのを見て周囲の学生たちの動きが慌しくなった。あるものは鼻血をナプキンで押さえ、またあるものは前傾姿勢でそそくさと食堂を出て行く。

「櫂・・・俺もおまえを甘やかしたい。ほら、フルーツを食べないか?」冬真がフォークに刺したメロンを櫂の口元に持っていく。
櫂は戸惑ったようだが仕方なくそれをぱくりと食べた。
「ああ・・・櫂・・・・。」冬真は悶絶寸前で喜びもだえ、ジュリアンは物凄い目つきで冬真を睨んでいる。櫂だけが困ったような顔をしてフルーツを飲み下している。
「か・・・櫂くん、ぼ・・・僕のオムレツも食べないか?」海棠が欲望に目をぎらつかせながら言うと櫂は目を伏せて首を振った。「いえ・・・僕もう結構です。」
「カイ・・・ちっとも食べてないじゃないか。もう少しフレンチトーストをお食べ。」ジュリアンがフォークを持っていくが櫂はそれも首を振って拒否する。
「ジュール・・・君のほうこそ僕の世話ばかりで何も食べてないじゃないか。僕はいいから君の食事をして。」
ジュリアンは微笑んだ。「・・・僕が食べたいものはこれだから・・・。」そう言うとすっと顔を近づけて櫂の唇に軽いキスをした。
海棠、日夏、速水はその光景に硬直する。
ジュリアンが唇を離すと櫂の華奢な手が弱い力でジュリアンの胸を押した。
「いや・・・こんなところで・・・。」恥ずかしさに櫂の顔が真っ赤になり瞳が潤んでいる。
映画で櫂の妖艶なシーンを見て免疫が出来ている面々ですら久しぶりに見るナマの櫂による媚態はかなり刺激的だったが、周囲で見ていた学生たちは全員反応してしまったようで次々に前かがみになって手で押さえながら食堂を後にした。
「クリュニー・・・いいかげんにしろ。」日夏冬真がいらついたように言う。
ジュリアンは知らぬふりで櫂の腕を取ると席を立った。「さ・・・カイ部屋に戻ろう。」
櫂は素直に立ち上がるが、日夏と海棠が共に立ち上がると引き止める。
「櫂くんはまだいいじゃないか。食事も終わっていないし・・・ね?」
櫂は困ったように目を伏せる「・・・いえ・・・僕もう食べられないので・・・これで失礼します。」
ジュリアンが抱き寄せると櫂の髪にキスする。
「それでは皆さんよい1日を。」自信ありげに微笑むとそのまま櫂を抱いて食堂を出た。
呆然とふたりを見送ったあと、日夏が拳骨でテーブルをどんと叩いた。
「くそ・・・クリュニーの奴・・・。」
「これじゃあクリュニーがひとりでカイちゃんを愉しんでいるだけじゃないか。」海棠がいらいらした気持ちを速水にぶつける。
「・・・だ、大丈夫ですよ。じきに暗示が解けますから。」速水の言葉に海棠と日夏が不審そうな顔をした。

部屋に戻ると櫂はいきなりジュリアンに深い口づけをされ、そのままベッドに押し倒されてしまった。もがいてなんとか逃れようとするがジュリアンの力強い腕がしっかりと櫂の身体を押さえていて身動きがとれない。
『い・・・いや!ジュール・・・!!』唇が離れると首を振って拒絶するがジュリアンは一向にかまうことなく唇を首筋に這わせ、櫂のシャツのボタンを外していく。
『やめて!ジュール・・・お願い!!』櫂が悲痛に泣き叫ぶがジュリアンはまるで聞き入れる様子がない。シャツをはだけさせて白い肌をさらした櫂はあまりにも魅力的でジュリアンは自分を抑えることができず夢中でその美しい肌に唇を這わせていく。
泣きじゃくる櫂の唇に再びキスをし荒々しく貪る。手はそのまま櫂の身体を愛撫していく。そうしてジュリアンの手が櫂の下半身に伸びたとき・・・今まで泣きながら身をよじっていた櫂が突然大人しくなった・・・と思った瞬間ジュリアンは鋭い痛みをわき腹に感じ身を二つに折るようにしてベッドから転げ落ちた。
何ごとが起きたかわからずに苦痛に呻きながら目を上げるとベッドの上で身体を起こした櫂がボクシングのファイティングポーズでこちらを睨んでいる。
『てっめえ何しやがる!』目が怒りに燃えている。・・・いつもの櫂だ。
ジュリアンは気が遠くなるのを感じながらそれでもシャツをはだけてズボンの前をくつろげた櫂は美しくセクシーだ・・・などと思っていた。

櫂は気がつくと従兄にキスされて恐ろしいことに下半身まで弄ばれそうになっていたことに瞬間的に怒りを発散させ思いっきりボディブローをかましていた。
ジュリアンはもんどりうってベッドから落ち、気を失ったが怒りに燃えた櫂はそのまま見捨てて部屋を出た。シャツのボタンを留めながら首筋と胸元にキスマークがついているのを見てまた怒りがふつふつと湧き上がる。
(あの野郎・・・何のつもりだ。従兄だからってこんなことしやがってただじゃすまさねえ。)
髪をくしゃくしゃとかきむしると何だかお腹がすいたので食堂に向かう。
食堂に入った途端そこにいた学生たちの視線が自分に集中した。
「か・・・櫂!」日夏が泣き出しそうな切なげな顔でこちらに駆け寄ってくる。
「な・・・なんだよ、日夏気持ち悪い顔しやがって。」櫂がひるむと日夏が突然抱きしめてきた。
「櫂・・・櫂・・・好きだ!」櫂の髪に顔を埋めて苦しげに言う。
「!!」次の瞬間に日夏は仰向けにもんどりうって倒れた。
櫂のアッパーカットが顎に命中したのだ。
「あ・・・あれ・・・?櫂くん・・・??」海棠がびっくりした顔で駆け寄ってくる。
「なんだよこいつ。朝からさかってんじゃねーよ。」櫂が日夏に冷たい視線を投げると食べ物を取りにカウンターに向かった。
皆あっけにとられて見ていると、速水がにやりと笑って海棠に耳打ちした。
「暗示が解けたようです。」
「え・・・どういうことだ?」海棠はまだよく事情が飲み込めていない。
「僕の催眠術は誰かが櫂くんの下半身に触れたときに解けるようにしてあったんです。」
「と・・・ということはクリュニーの奴カイちゃんを抱こうとしたということか・・・?!」海棠は蒼ざめてその後赤面した。
「ち・・・いってえ・・・。口の中切っちまったよ・・・。」まだ倒れている日夏が愚痴る。
「あれは桐生だよ、日夏。カイちゃんはもう消えてしまったんだ。クリュニーが手を出したからね。」速水が手を貸して日夏を助け起こしてやる。
唇に血がついているがそれがなんだか艶かしいセクシーな魅力となっている。日夏はぐいっと口元を手の甲で拭うと櫂を見た。
コーヒーを飲みながらトーストにバターを塗ってかじっている。先ほどの愛らしいカイちゃんの様子の片鱗もなく男っぽくむしゃむしゃと旺盛な食欲を見せている。
「き・・・桐生おはよう。」おずおずと祐樹が声をかける。
「おう、内村。おまえたちいっつもつるんでるな。」櫂がぶっきら棒に言う。
「朝から随分な食欲だな。」透矢が言うと櫂がそっけなく言う。「なんだか朝からむしゃくしゃすることがあって腹が減っちまったんだ。」
「むしゃくしゃって?」隼人が聞くと櫂の顔が不機嫌そうになった。
「言いたくねえよ。」そう言うと残りのトーストをコーヒーで飲み下して「ごちそーさん。」と言って席を立った。
「き・・・桐生くん、どこ行くの?」俊光が聞くと櫂はにやりと笑って「デート。」と言うと口笛を吹きながら食堂を出ていった。
食堂の中の学生たちはあっけにとられたように桐生櫂の様子を見守っていた。
「・・・なんだあれ?」
「あの美少年はどうなっちゃったんだ?」

「おい、速水。なんとかしてまた桐生に催眠術をかけてカイちゃんを取り戻すんだ。」海棠がぎゅっと握りこぶしに力をこめて言う。
「今度はクリュニーにひとりじめさせねえ。」日夏が目をぎらつかせて言う。

愛しのカイちゃんにまた逢いたい・・・でもいつ?

(END)
「私の書く話には美形しか出てきません」
...2006/4/17(月) [No.297]
飯倉葉月
No. Pass
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