いつもの接待。 何で惑わされたのか、数日経った今では判らない。 ただ、あの時、痩せそぼって背中から股にかけて美しく青い龍の彫り物をされた少年に魅せられていた。 『先生…、苦しい…。お願いです、抱いて下さい…』 甘い息を吐きながら、途切れ途切れの懇願。 潤んだ瞳、肌を赤く染めながら、早く熱から解放されたいと両手を拡げ求めてくる。 艶めかしい姿に思わず唾を飲み込んだ瞬間、自分の中で理性は焼き切れた。 乳首に舌を這わせ、躯を裂い描かれている龍をうっとり見つめながら、少年の躰を貫く。 少年の淫らな姿に最高の甘い思いを感じ、精を体内に放った。 その瞬間、震えながら快感に身悶える少年がたまらなく美しくかった。 自分で制御出来なくなるほど、のめりこんでしまう少年の躰。 後悔と欲望に苛まれる時間。 そんな最悪で甘美な気分にさせる、そこはそんな場所だった。
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銀座を抜けて築地に向かうバスに乗って、晴海に出る手前から更に十数分歩いた所に、その見世はある。 見世…、〝みせ〟と言う漢字を辞書で引くと、江戸時代、妓楼で遊女が客を誘うために格子構えにした所。道路に面している。張り見世。そんな風にかかれている。 働いているのは、まだ青年と言う年齢になっていない最年長でも十六歳の少年たち。 彼らがここで売るモノは、春。 春の売り買いに関しての歴史は辞典をそのまま引用すると、鎌倉時代から江戸時代まで、公娼制度が存在していた。 けれど明治五年、娼妓解放令を定め廃止しようと試みた。しかし実効性に乏しく、一九〇〇年に、公娼制度を認める前提で取り締まりを図る娼妓取締規則を定めた。その結果一九〇八年には非公認の売淫を取り締まることにした。 しかし第二次世界大戦後の占領下において、当時のGHQ司令官より公娼制度廃止の要求がされた。 それに伴い一九四六年に娼妓取締規則が廃止。翌年一九四七年に、いわゆるポツダム命令として、婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する勅令(昭和二二年勅令第九号)が出されることになった。 上記勅令とは別に売春自体を処罰する条例を同時期に制定する自治体もあり、売春対策審議会の答申によって、売春防止法が制定された。 売春防止法の施行に伴って勅令が廃止され、売春等の処罰について規定してた条例も失効することになる。 売春防止法、第一条(目的)。 この法律は、売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものであることにかんがみ、売春を助長する行為等を処罰するとともに、性行または環境に照して売春を行うおそれのある女子に対する補導処分及び保護更正の措置を講ずることによつて、売春の防止を図ることを目的とする。 第二条(定義) この法律で「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう。 そんな記述がなされている。 また未成年者の売春に対しては、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律が適応される。 第二条の(定義) この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。 またその2では、この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇 心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。 上げればきりが無い罰則事項。 しかし違法だとうたっていても、摘発されるものもが減るわけではない。 摘発するものがいなければ、通用はしない。 そんな場所が、この見世だった。
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彼の名は、磯崎貴弘。 職業は、弁護士だった。 大学在学中に司法試験に受かり、それなりにエリートと称される地位のまま大手のローオフィスに勤め、現在は企業を相手に忙しい毎日を送っていた。 弁護士という職業ほど、テレビやドラマや小説などとまったく違う。 最初の何年かは居候の弁護士…、いわゆる〝いそ弁〟として、小間使いのようにちょこまかと昼も夜も無く働かされていた。 自分の受け持つクライアントが増え、それなりに信用される様になると気分的には変わってきた。 もちろん業務の忙しさは変化無く、むしろ今の方がクライアントとの付き合いも増え、自分のための時間は減っていった。 そんなある日のことだった、その見世に初めて足を踏み入れたのは…。 今では多方面にうるさくなった接待。 しかし酒の席を用意したと誘われれば、むげに断ることが出来ない。それは法を扱う弁護士だとしても、客あっての商売だから仕方がなかった。 もちろん、接待に応じるは、後で問題にならないようにフォローを忘れないようにする必要はあったけれど… 今日の相手は、急成長したIT企業の社長と会長だった。 彼らの経営者としての経歴は長く、社長や会長を勤めた会社は数社に及んでいる。 企業としての成長を考えているは会社は、経営を円滑に進めるために、彼からのような雇われて経営を安定させられる人物を雇う。 所謂経営のプロフェッショナルで、貴弘が呼ばれる業務のほとんどがM&Aに関する今後の対策だった。 M&A。少し前からニュースでは頻繁に出てくる言葉で、正式には〝 mergers and acquisitions〟つまり、企業の合併や買収を彼らは繰り返して行い、会社を大きくしていった。 彼らは小さな会社や経営が傾き欠けた企業を自分の会社と提携を結ばせる。 子会社や関係会社に分類して、税務上の問題を拡散し業務を円滑に行う。 そうやってM&Aを繰り返しながら、様々なコネクションを使ってどんどん企業を大きくしていく。 もちろんそうやって会社を大きくしていく人間は、彼らだけだけではない。 貴弘が担当しているクライアントには、何人もそうやって会社を大きくしながら安定させていく経営者が何人もいた。
「先生は和・洋・中とどれが好きですか?」 接待に応じる時に尋ねられたのは、一番にそんな事だった。 あまり多くの事を考えたくなかった貴弘は、一番無難そうな〝和〟を選んだ。 社長は〝かっかっかっ〟と笑った後に、〝では最高の座敷を用意させよう〟と言った。 貴弘にはその笑みの意味など理解できなかった。 当日約束の夕方。 約束をしたIT企業からよこされた黒塗りのタクシーが到着し、緊張しながら貴之は乗り込んだ。 接待が問題になる場合が多くなり、行く機会が無くなった所為もあって、貴弘はあまりこういう酒の席が好きではなかった。 目的の場所に到着するまでの間、気を紛らわすように書類に目を通していても、頭の中では早く事務所に帰っりたいとずっと思っていた。 タクシーは有楽町、銀座を通過し、築地に到着する。 そこから少し入り組んだ道を進んでから、木製の中の建物がまったく伺えない高めの門に囲まれた入り口で止まる。 タクシーのドアを開けらるとすぐに、車の到着の音が聞こえているのではないかと言うタイミングで戸が開いた。 中からは派手な格好ではない、しかし華やかに見える女将らしき人間が迎えてくれる。 「お連れ様は先にいらっしゃってますので、こちらへ…」 貴弘はうなずき、お上りさんよろしくと言う状態で、女将の後を付いて行く。 まだ早い時間なのだろうか、そう感じさせる音の聞こえない廊下を通り、離れに入ると障子戸の前で女将は屈んだ。 するするすると障子が開くと、中では膳を前にくつろいでいる会長と社長が待っていた。 貴之は、すーっと正座をすると、軽く頭を下げる。 「お待たせいたしました」 中の二人は鼻から息を吐くようにフーッと笑った後にどちらともなく自分たちの前に作られた膳に貴之を招いた。 「先生、お待ちしてました。こちらに」 軽く会釈をした後、貴弘は促された席に座った。 簡単なお通しの乗っている膳。 「先生、まずは乾杯を…」 会長がそう告げると、貴弘の後ろからすーと小さな少年が横に座った。そして杯を持たせると、酒をついでくれる。 何故女将では無く、この少年が? 貴弘が唖然としていると、目の前でニヤニヤと笑っていた会長が、声を上げて笑い出す。 「先生はこういう所は初めてですか? 今日はこいつが先生のお相手をするんですよ」 お相手? 少年はどう見ても十四か五くらいの未成年。 痩せそぼった躯に地味でも派手でもない女物の着物を着せられているが、こんな時間に座敷に出て働いているような少年ではなかった。 「あの…、申し訳ありませんが、こちらは未成年に見えるのですが…」 眉を寄せたまま貴弘が告げると、二人は声を出して笑う。 「先生にはそう見えますか? こいつは…」 「あの…、違うのですか?」 「だったらどうしますか?」 悪ふざけにつきあうのはごめんだ、そう思った貴弘は、益々表情を険しくすると立ち上がった。 「申し訳ありませんが、ここで失礼させて頂きます。事務所で片づけなければ行けない仕事がまだまだありますので…」 「私らが、あなたでは信用できないとあなたの会社に言ったらどうしますか?」 「致し方がありません。私は企業相手ではありますが、法規に携わる者としてのプライドがあります。本日の事はこのまま、上司に報告させていただきます」 感情的に言葉を発する貴弘。そんな貴弘とは反対に、目の前の二人はどこか不気味さの感じる笑みを浮かべている。 「先生。そんなに焦って帰らなくてもいいでしょう? まずは上手い物を食って楽しんで下さい」 「しかし…」 言葉と一緒に勢いを失った貴弘は、立ったまま動けずにいた。 「けっしてここで何か逢ったとしても、先生のご迷惑にはなりませんからな…」 社長の信じられないほどの自信に、貴弘は機嫌悪そうに眉を寄せる。 「何故、そう言い切れるのですか?」 「先生はまだお若いから判らないかもしれないが、企業が成長するためには色々な人間と付き合い、そして取り込んで行かなくていけない」 「はぁ…、しかし」 「弁護士をやっているまだお若い先生には信じがたい場所かもしれないけどね、ここでは一般的な法律は通じないだよ」 「どう言うことですか?」 「それを知りたいか?」 笑みの中にすごみを持つ瞳。 貴弘は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。 「知りたければ、教えてやる。しかし知れば当然取り返しが付かなくなる」 目の前の二人のへの恐怖。 身震いのした貴弘は、天井を仰いで大きく息を吐き静かに席に腰を掛けた。 どうやらここに来ると約束してしまった時点で、貴弘は負けだったのかも知れないと反省をしながら。 腰掛けると、少年もちょこんと座りって貴弘の顔を伺いながら徳利を持った。 どうやら酌をしたいらしい。 貴弘はうんざりした小さい溜息を付いた後、杯を少年の前に差し出す。 少年は微かに笑みを浮かべ、酒を注いだ。 それを見計らって会長は勝利を勝ち取ったと言うような、声を上げる。 「では、先生と我々のこれからに乾杯」 杯を二人の前に向け軽く会釈した後、杯を口に付ける。 酒は善し悪しの判らない貴弘でも美味いと感じる、すっきりとした切れ味のあるものだった。 その後弾むわけもない会話を、楽しんでいるように話しながらする食事。 貴弘にとってのすくいは、料理と酒が美味いと言うことだけだった。 一通り料理が終わり、貴弘はそうそうに辞そうと思った瞬間会長はニヤニヤと卑しい笑みを浮かべて声を上げる。 「忍。先生に余興を見せなさい…」 そう言うと、杯に酒を注ぎ、一緒に何かクスリの様な白い粉を上から落としていく。 炭酸が酒の中で弾けるように、ブツブツと水泡をあげていく。 忍と呼ばれた少年は、中心に立つと受け取った杯を一気に飲む。 もう何も驚かないと考えていたけれど、これから起こりえる不安に自然と鼓動が早まっていくのを感じた。 「な…、何が起こるんですか? 事務所に仕事を残してあるので私は失礼したいのですが…」 「まあ、 会長も社長も貴弘の言うことなどまったく興味が内容に、下品な表情で少年を見ている。 動くことが出来ずすごすごと貴弘が席に着くと、少年は着ていた着物を脱いでいく。 それほどたいした物を着ている訳では無い。 すぐに何もまとわない姿になった少年は、酒に酔っていると言うよりもクスリで何かが思っているらしく、苦しそうに肩で息をしていた。 桃色に火照っている少年の肌。 少年は三人に後ろを向くと、背中には青い河が色をはっきり入れられた形で書かれていた。 刺青? 今はレーザー治療で簡単に取ることが出来るけれど、それでも成長途中の未成年に墨を入れるのは、負担がかかる。ましてそんなことをすれば立派な違法行為だった。 「まだ熱が足りないか…、こい」 社長は少しだけ眉を寄せ、忍を呼びつける。忍は小さく〝はい〟と応えると、何も纏わないまま社長の横に座った。 まるで犬を呼びつける主人の様な二人の態度。 少年は頭を下げると、社長は飼い犬をかわいがるように、数度撫でる。 それから餌を与えるように、またクスリが入った酒を飲ませる。 少年の口元から次第に、甘い声が漏れる様になってくる。 クスリは多分性的な興奮を促す、そんなクスリなのだろう。 二回目にクスリを飲んだ後の忍の細い花茎は、その証拠に甘い蜜をぽろぽろとこぼし始めていた。 これからここで何が始まるのか。 不安を横切らせながら貴弘は、今目の前で行われている状況を見守っていた。 忍は怠そうに躯を反転させると、また先ほどの様に背中を三人に見せる。 少しずつ背中に何かが浮かんでくる。 最初は何か判らない、けれどすぐにそれが龍なのだと気付かされる。 青い水の上を登る龍。 龍は忍の股から全身を包むように首近くまで、巻き付いている。 快感の苦痛から立っている事が出来ないらしい忍は、がくんてお膝を屈めた。 背中越しに微かに見えてくる、真っ赤に腫れ上がって涙を流している屹立。 まだ皮がむけたばかりの、少年の性器。 そして苦しそうに捩っている躯には、熟した赤い木の実のような乳首がまるで貴弘を誘っているように見えてくる。 貴弘は無意識に唾を飲み込んだ。 そしてハッと気付いた瞬間に、自分の節操なしの屹立はズボンをきつくしていた。 「お願いです…、もう勘弁して下さい…」 先に耐えられなくなったのは、忍の方だった。 真っ赤に火照った躯。一旦自己主張してしまったら取り返しが付かなくなっている屹立。それだけではないらしく、躯を何度もくねらせていた。 会長はフフフっと笑う。 「そうだ忍、先生に楽にしてもらえ…」 「え?」 自分の下心をすべて見抜かれているのだ。その言葉で貴弘は感じた。 今なら逃げ出せる…。 理性が働いている今なら…。 何度か苦しい息を吐きながら立ち上がろうとした貴弘。 しかし忍が這うように近づくと両手で貴弘を求めてくる。 「せ、先生…。お願いです。僕を楽にして下さい…」 「…」 どうしていいのか動けなくなる貴弘に、あざとくまるで玩具で遊んでいるように楽しんでいる社長が声を掛ける。 「先生、忍は困っているんですよ? 困っている人を助けるのは弁護士の正義ではないんですかねぇ…」 睨むように、社長を見つめる。社長は会長と今陥っている状況を酒のつまみに楽しんでいる様だった。 「お、お願いです…。先生が助けてくればければ…。先生…」 息を吐く貴弘。 「忍が飲んだクスリは、下で何度か達かないと楽にはなれないクスリでな…。どうだ? 忍を楽にしてやったら。こいつはこいつで楽しめると思うがね…」 「先生…」 懇願する忍。 追いつめる二人の経営者。 大きく貴弘は溜息を付いた瞬間、忍に近づいた。 近くで見れば見るほど艶めかしい忍。 快感を逃がすように、開かれている唇に、ゆっくりと自分の唇を押しつける。 すぐに自主的に、忍は舌を絡めてくる。 甘美な口付けをしながら、貴弘は上着を脱ぐ。 忍は苦しそうに躯を揺らしながら、貴弘のワイシャツやズボンをくつろがせていく。 そしてなれているのか、静かに忍は横たわっていく。貴弘が楽に覆い被せられる様に、両足を一杯開いて…。 「忍…」 驚きながらもこの幼い躯に溺れていく。 貴弘は、欲情の赴くままに真っ赤にそまった胸の飾りやツンと立ち上がった先を舐めたり、歯を立てたりする。 「あっ…ん、もっと…」 苦しそうに忍は、固くなり過ぎた茎を貴弘に擦り付けてくる。 貴弘は忍の額にキスを落としながら、他人にさらすことの無い蕾に、指をかける。 濡れていた、大人の大きな屹立を受け入れても痛くないように…。 忍はこうなる為に呼ばれていたのだった。 そして同時に、ここがそう言う場所で、自分ははめられたのだとそこで初めて貴弘は気が付いた。 しかしもう止まることのない躯。貴弘はこの時すでに、忍に溺れていた。 「忍…、辛いかもしてらいけれど…」 指で数度忍の中を掻き回した後、貴弘は一気に貫いた。 忍の中は、甘い蜜壺そのものだった。 忍の口から快感に酔っている甘い声が聞こえてくる。 貴弘は、忍の快感をもっと引き出せる様に狭い中を奥に奥にと進んでいく。 途端、耐えられなくなったのか、忍は悲鳴を上げながら、簡単に爆ぜてしまった。 しかし爆ぜた瞬間、力一杯締め付けられ、貴弘も中で精を吐き出した。 呼吸を落ち着かせようと、何度か深呼吸し、理性が帰ってくると、近くから笑みが聞こえてくる。 「先生、行けませんな~、彼は未成年ですよ?」 「…」 目を開き呆然、社長の顔を見つめる貴弘。 「先生、忍は美味しかったですな? 忍はこの見世でも上玉のほうですからな…。まあ、この事をだまっていて欲しければそれなりにねえ…」 「な…、何を言いたい…」 「それが判らない先生ではないでしょう。まあ、今晩は忍を堪能して下さい。面白いものを見せて貰った。私たちはこれで…」 言いたいことだけ告げると、下卑た笑みを浮かべながら二人は部屋を出ていった。 この後自分の人生がどうなるのかまったく想像が付かなかった。 しかし情けないことに、あまりに甘美だった忍だけは忘れられない。 一瞬強い快感で気絶していた、忍が目を覚ますと、貴弘は優しく抱きしめた。
Fine
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