部活が終わって家に帰ると、母さんが台所から顔を出した。 「恭司、お友達がみえてるわよ」 「?」 誰だと思い玄関を見やると、確かにそこには見慣れない靴が揃えて置いてあった。 男物だ。 俺は瞬時に気分が重くなるのを感じた。 「いつから来てるの?」 「えっと、30分くらい前かしら。あ、ついでだからジュース、持って行ってあげて」 言いながら母さんは台所に飛んで入ると、盆に炭酸飲料の入ったコップを載せて持ってきた。 「はい。あんたにあんな礼儀のいい友達がいたなんてねぇ」 余計なお世話だ。 ふてくされて階段を上る俺に、後ろから母さんが笑いながら言ってくる。 「夕飯一緒に食べていくか聞いてみて?」 「……いいよ。すぐに帰るさ」
自分の部屋の前に立って、両手が盆でふさがっていることに気付いた。どうした物かと思案していると、見計らったように中から戸が開いた。 「お帰り。恭司」 にこりと口元に笑みを作ったのが、母親の言う礼儀正しいお友達、だ。 俺はそいつを押しのけるように中に入ると、散らかったテーブルの上に盆を置いた。 「君の家、声が響くんだね。壁薄いのかな。君が階段を上ってくるのも分かったよ」 「そうかよ」 冷たく言って床に腰を下ろすと、真向かいにそいつは座ってきた。 きちんと襟元にネクタイを結んだ、規定の制服を着たそいつは、橘という。橘隆春。俺の通う高校の生徒会副会長なんて物をやっている、上から下まで優等生な男だ。 「これ飲んだら、帰れよ」 「冷たいなぁ、恭司は」 テーブルに手をついて、橘はぐっと身を俺に近づけて、囁いた。
「何度も寝た仲じゃあないか」
俺は。 俺は硬直して動けない。 橘はニヤニヤと口元を歪めて笑うと、俺の口をかすめるように舐めた。 「っ」 「用意をしておいで。今から俺の家に行こう」 ゆっくりと耳の奥に浸透してくる冷たい声に俺は逆らえず。 強く目を瞑った。
『ちょっと、出かけてくる』 『あら、今から? 夕飯は?』 『……いや、いいよ。食べて帰る』 『そう。あ、恭司のお友達ね。また、いらしてくださいね』 『ええ。ジュースありがとうございました。また伺わせて頂きます。お邪魔しました』 そう言って頭を下げた橘をウンザリと思い出しながら、俺は通い慣れた橘の部屋に入った。 「うかない顔をしているね」 橘が制服の上着をハンガーにかけながら言った。 俺は、部屋にしつらえられたソファに座って、顔を背ける。 話したくなかった。 「機嫌が悪いの? ククッ、俺が家に行ったから?」 「………」 「無視をするんじゃないよ、恭司。逆らえないことは分かってるだろ?」 「…………ああ」 苦々しげに返事をする俺に、橘は嬉しそうに笑んだ。 この男と寝るようになって、1ヶ月が過ぎていた。 1ヶ月前、俺はこの男にバイトをしているのが見つかってしまった。 うちの学校は今時バイト禁止で、野球部に所属している俺は、そのことが学校に知れたら退部も余儀なくされる。 黙っていてくれ、と頼んだら、ある条件を出された。 それが、こいつのヘンタイ趣味に付き合わされることだった。
「はい、これ」 ソファに座って嫌な過去を思い出していると、目の前に橘があるモノを置いた。 指二本分程度の細長いローターだ。コードが付いていて、その先には簡単な操作部分がある。 橘は向かいのソファに座りながら、命令する者の声で言った。 「自分で入れるんだ」 「っ……!?」 驚いて橘とテーブルの上のソレとを交互に見る。 「で、できない……」 「出来ないじゃないだろ。さ、服を脱いで」 問答無用に次の命令が下る。 俺は唇を噛んで沸き起こる屈辱感に絶えながら、服を脱いだ。 何度も肌を重ねていたけれど、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。蛍光灯の明るい光の下で、ベッドもない場所で服を脱いでいく。それも、高慢な同性に見られながら、だ。 「くっ……」 「恥ずかしい? 下着だけになったら、テーブルの上に座って」 言われたとおり、トランクス一枚になって、テーブルに上がる。 足の短いテーブルは頑丈だったが、応接用のものなのでさほど幅は広くない。どうやって座るべきか迷っていると、タイミング良く橘が声をかける。 「俺の方を向いて。足を開け」 膝を立てて、橘の方へ身体を向ける。 それを橘は、足の先でもっと開けと命じた。 命令どおり、M字型に足を割り開く。薄いトランクスの布が俺自身に張り付き、形を橘に見せつけているみたいだった。 「いいね、その格好。じゃ、ローターつけて、先で、トランクスの上から触ってみて」 「…………」 「恭司、返事」 「…………ハイ」 どうにもならない。 行動の全てを橘に制御されてるみたいで。 それならいっそこの精神すら橘に操られて、意識もなく、人形みたいになりたいのに、それはままならない。 屈辱と、居たたまれなさで、憤死してしまいそうだ。 俺は、焼き切れそうな思いを必死に我慢して、テーブルの上のローターを取った。コントローラーを見て、スイッチを入れると、細かい羽音と同時にそれは動き出した。 強とかあったけれど、最初っからそんなのにする勇気はなく、ギリギリ一番動きの小さい状態にして、俺はそれを自分の股間に当てた。 「うっ……」 ゾクッとした空気が背中を上る。 何も考えずに当てた場所が思いがけずイイ所で、反射的に足が閉じかけてしまった。しかしそれを橘はやんわりと足で開く。『閉じるな』と言っているのだ。 「一箇所だけじゃなくって、上から、そう、穴の方まで当てて」 「うっ、ンっ」 言われたとおりにローターを動かす。 自身の先端から、茎を撫で、付け根に押し当てながら、穴の方まで。トランクス越しの振動は微々たるものだったが、それでも感じてしまうくらい、俺の体は橘によって開発されていた。 まだ、たった一ヶ月なのに。 「恭司、ローターを付け根に押し当てて」 「ンっ……っ、はっ」 「そのまま、俺がいいって言うまで、離したり動かしたりするなよ」 「っ、は、はいっ………っひぃっ!!!」 付け根に当てた途端、橘がコントローラーを取り、振動を強に近づけた。 ぶぅんと鳴ったかと思うと、強い震えが、根元だけじゃなく、茎や玉の方まで広がっていく。あまりに強い振動に手が離れそうになったのを、上から橘が押さえつけた。 「離すなって言っただろ」 「う、はっ、あ、や、やぁぁっ!!」 ガクガクと足が震える。 強く押し当てられて、熱いくらいの快感が身体中を駆け巡る。 「ほら、トランクスが濡れてきた」 「や、やめっ、止めてっ、止めてくれっ」 「まだだ。まだ我慢しろよ」 「あ、あぅ、んんんんっ」 目尻に涙がたまり、顔が赤くなる。 立ち上がった自身がトランクスの布を持ち上げ、その先端に染みを作っていく。 「う、ううっ、ふぅん」 「じゃ、トランクス脱いで」 振動で犯されたみたいな頭にその命令が届くと、俺の体はもう橘に完全に操られてるみたいだった。抵抗する気もなくトランクスを引き摺り下ろす。 先走りが布につっと糸を引いた。 「片手で根元押さえつけながら、もう片手でローターを入れて」 「あ、は、ううっ」 そろりと根元からローターを離した瞬間、ブルリと身体が震えた。ぐっとそれをやり過ごし、ローターを後ろに回す。 振動は、強になったままだ。 「た、橘、ローター、緩めて」 「どうして? このまま入れるんだよ」 「む、無理。怖いっ」 「そこには何度も俺のが入ってるだろ? それに、ソレを入れて慣らして、最後に俺のを咥え込むまで、今日は帰さないからね」 「う……ううっ」 冗談抜きの、本気の口調に、目の前が真っ暗になる。 けれど、やらない限り、この男は本当に俺を帰さないだろう。 それどころかもっと酷いことをされるかもしれない。 俺は、ゆっくりとローターを穴に近づけた。 「んっ」 大きさが怖いのではない。 たぶん……入ると思う。 ただ俺が本当に怖いのは、それを入れた途端達ってしまいそうな、自分自身だ。 ローターの振動が尻の穴を震わす。 濡れてはいないけれど、少し力を加えただけで、ローターの先端は静かにそこに沈んだ。痛くはないが、異物感がある。 「んぅっ」 俺は全てを断ち切るように目を瞑ると、意を決してローターを押し入れた。 「ん、あ、あ、は、あああっ」 強い振動が内壁を叩く。 腰全体にびりびりとした物が溜まり、ソレは竿を通り、真っ直ぐ出口を求めた。 「あ、くっ、いっ、ああ」 けれど橘に言われた通り根元を握っているので、橘の許可がない限りいけない。 「もっと押し込んで。イイ所に押し当てて。分かるだろう?」 「ううっ、んんっ、うーっ、あっ」 ぐっとローターを押し入れるたびに、抑えきれず声が漏れる。射精を我慢している分が、声となって出ているみたいだ。 早く、早くアソコを見つけないと、いつまでたってもイかせてもらえない。 俺は前に橘に教えられた、前立腺の場所に、ローターの先端を当てた。 「んっ、あーっ、ああっ!」 思わず高い声が上がる。 と同時に、堪えきれず自身から手を離し、無意識のうちに擦り上げていた。 いきたい。 ここにローターをあててイきたい。 昔の自分じゃ思いもつかないような考えが、俺を支配した。 「あ、ああっ、ああああっ」 前立腺にローターを押し当て、身を捩らせながら、俺は橘の前で果てていた。 橘が一瞬俺を哀れむような目で見る。 そしてその後、口元に苦笑いを浮かべると、またあのいつもの冷たい目で俺を見ながら、囁いた。 「今日は、帰れないと思った方がいいよ」 と。
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