「今年は二人でクリスマスな!」 男同士二人でクリスマスかよ、信じらんねえホモじゃん、むさいっつーか臭い!なんて憎まれ口を叩いてみたはものの、お互い口元はめっちゃ笑ってたし楽しみでないはずがなくて、冬休み会わなかった間も結構メールくれたし返してたのに、イブの朝に待ち合わせのバス停で会った時なんか嬉しくて嬉しくて抱きついてちゅーしたいくらいで、抱きついてちゅーしたらめっちゃ引くんだろなって思って悲しくなったりもして、何お前どーしたの元気なくね、て聞かれて思わずうっせーお前バーカ!言って腹に蹴り食らわせたらうっかり本気で入って午前中ずっと恨み言聞くハメになったりした。 俺的にはデート。向こう的には友達と過ごす平和な冬休みの一ページ。 うまく二人きりでお泊まり会!なんてなったのはホント奇跡で、あいつにはもっとずっと仲いい親友とかもっとずっと楽しい友達とかいて、でもこの時ばかりは神様のクリスマスプレゼント。みんな予定が合わなかったうらぎりもんだ!こーなったら二人きりで楽しむしかねー!って電話で聞いて本気でやべー来年の幸せまで使い果たしちまったとか考えて、ほかにもいろいろよからぬ都合のいい妄想いくつか、あと後ろ向きな考え少々、とにかくその日はベッドの中で頭を抱えて眠れなかったのだ。 買うのはケーキ、鶏肉、クラッカー、あとゲーセンよって俺の方の家に二人で帰ってテレビ見てなんか適当に飯食ってだらだらする。 しかしダレた企画。んでも二人でやることって書き出してみるとそんなもんで、まあイベントどーこーより適当にだべってんのが本当は一番楽しいのだ・・・たぶん。 調子乗り過ぎて六時も過ぎて、空もとっぷり暗くなるはずの時間、でもネオンサインに照らされた繁華街は十二月最高の盛り上がりを見せていて、なんとなく帰りたくなかった。 「プレゼント交換でもすっか!」 言い出したのはあっちだ。 ドンキで別れて三十分以内にお互いに五百円以内でプレゼントを買おう!そういう新しい企画。 まあ気の効いたもんなんて選べるはずもなく。 「バカ?」 お互いの手に持ってるのは同じ菓子のつめ合わされたサンタの赤いブーツ。 とりあえずの交換。なんとなく沈黙。爆笑。 お約束過ぎて幸せすぎる。 ブーツに入ってたチョコレートを食べながら夜道を歩いて俺の家まで。同じものを食べている光景もよくよく考えるとおかしくてつい口にした。 「ぜんっぜんダメだな」 「打ち合わせが足りなかった」 「ダメだなーやっぱ男同士のプレゼント交換なんて空しすぎるだろ」 あ、自虐的。自分の台詞に苦笑。自嘲的。 着信音。妖怪人間ベム、かな。変な趣味。俺のじゃない。 俺は今さら着うたをオザワケンジにしているのだ。逆に新しいかもしんない。 ドアをノックするのは誰だ?ってそうだあれはクリスマスソングだったような・・・。違ったかな。兄貴の置いてったCD。とてもとても幸せな歌。胸が痛いくらい幸せ。 「もしもし、あ、俺、おう、そう、一緒、え?、ああ、なんだよお前が裏切ったんだろー」 とぎれとぎれ、横での会話。今日来れなかったうちの誰かだろう。楽しげな声に疎外感。オザワケンジのことを考えようじゃあないか。ポップなクリスマスソング、あの歌を聞くと喜びと幸せで息が詰まりそうになる。幸せで幸せで、なんだか悲しくなってしまう。 「あー、あー?バーカ。うん、そうそう、は?ちげーって、いやだからねーからそれ。なー?」 急に矛先は俺の方を向いた。なんだってんだ。え?ああ、なんてとりあえず曖昧な返事を返すとうんうんと満足げにうなずかれてますますわからない。矛先は元に戻っていった。会話はうるさいくらいに俺と離れて続行。 そうそうオザワケンジだ。幸せで、幸せなんだけど、いや幸せじゃなくて、もしかしてそれは・・・ 「そーもう、俺とこいつもう、できてっから!ラブラブだったから!」 思考を遮る爆弾発言。 え? 嘘でしょサンタさん、そんな。 「俺あいしてっからこいつ」 クリスマスプレゼント、そんな。 なあ? 「ホモだから!もー何お前嫉妬してんじゃねー?なー!」 なあ? え? あ、冗談じゃん。 我に帰る。 冗談に決まってた。バカか俺。顔、今、不自然じゃなかったよな。儚い夢、もしくは俺の手前勝手な妄想、残酷な冗談でした。くそ、報われない。 胸がどきどきしている。さっきの一瞬、幸せの絶頂の名残。 どきどきは家に帰るまで止まらなかった。 家に帰って、気を取り直して、怒られるまで騒いで、で、こいつは今疲れきってテレビつけたまま眠ってる。こたつで。 あんまりにも無防備だ。 抱きしめてちゅーしちゃおうか。 きっとその瞬間、すごくすごく、胸が詰まるような幸せが手に入る。 もう一度、さっきの考えを進めようとしてやめた。 幸せで、幸せなんだけど、幸せじゃなくて、もしかしてそれは・・・それは、ええと。 あーなんかもーわかんねー。 けれどこうやって寝顔を見ているとなぜだか泣いてしまいそうで、そんな気持ちとそれは似ている。 こたつからはみ出た足を蹴り上げる。布団引いて寝なさい!と頭をぺしりと叩くと、おかんかおめーは、となんにも考えないみたいなまっさらな笑顔を向けられた。
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