「あっ!」 「・・・? どうしたんだ阿久津」 「い、いえ」 「・・・?」
見てしまった。先輩のあくび姿。 眠いんだ、絶対眠たいんだ先輩! だけどこんな俺なんかのせいで残業してくれてる。 しかもそれを俺にさとらせないために後ろ向いてあくびしてくれてる。 なんて、なんて素晴らしい男なんだ!
「11時か」 「えっ」
即座にオフィスの壁にあるデジタル時計を見る。 ここからだと終電に間に合わないかも。 ああ! 俺ってなんてだめな男!
「お前どうするんだ、終電間に合うのか?」 「いやっ、そのー・・タクシーで」
今日もらった給料パーになるかもだけど。 いいんだ、ここの仮眠室で寝るよりは。 ・・ってか先輩はどうするんだっ? 俺マジばか! 先輩心配しないでどうすんだよ!
「タクシーは高いぞ、俺の所に泊まっていくか?」 「へっ? 近いんですか? つか、いいんですかっ?」 「いいよ」
すごい。 なにがすごいかって。 先輩に遅くまで残らせといてタクシー代ケチってまでずうずうしく泊まろうとする俺が すごい。 しかも車に乗せてもらっちゃったし。 いいのかな俺。 やっぱすげーバカ。
先輩の軽やかな運転さばき中に謝った。
「すみません」 「何が?」 「いえ、あの、ですねー・・」 「もっとはっきり言ってくれないか?」 「すっすみません!」
さすが先輩。言う事がさばけてる。 間違った事言わないし、何事にも明確で、鋭い。 責任感もあるし、同僚の信頼もあつい。 こんな俺とケタ違いな素晴らしい先輩が俺の指導をかってでてくれたのは奇跡だ。
先輩がふと柔らかく笑う。
「阿久津、べつに怒ってる訳じゃないんだからそんな必死に謝ってくれるな」
あんまり、笑わない人だと思っていたからかもしれない。 俺の胸中はびっくりしてしまったのだった。
返事を一言口からひねり出した俺は助手席でついウトウトしていた。 知らぬ間に手から革のカバンがずり落ちてまどに頭を預けていた。 車が止まって、小さな火のつく音がしてタバコの匂いがした。 なんでそんなことが分かるのだろう。 俺、自分で眠ってるのか眠ってないのか、よく分かってない。 あ、多分寝惚けてるんだ。 タバコの匂いとくちびるの感触もきっとそのせいだ。
え?
「起きろ、着いたぞ」 「・・あっ、俺っ寝てました?!」 「疲れてたんだろ」 「そんなことないですよーっ! ホント、すみません」
先輩の手にタバコを見つけた。 色っぽいくちびるがタバコをおいしそうにくわえる。 その瞬間目を閉じるんだ・・、なんか大人の男って感じ。 足を組む姿も似合うしスタイルがいいからブラックのスーツも似合う。 俺ってだめだめだなあ。
「・・・タバコ吸うんですね」 「ん、まーな」 「会社で吸わないんですか?」 「リラックスするからな、仕事に影響する」 「へーえ・・俺なんか暇さえあれば一服してますよ」 「お前のはもう依存的なものだろ、俺のはちょっと違う」 「どう違うんですか?」 「リラックスするためだ」
なんか大人だなー。 女にもてるのもうなずける。 立派だ。
先輩の後についてエレベータに乗る。 8階かあ。見晴らし良さそー。 なんかマンションじたい超高そうだし、先輩って金持ちなのか?
先輩の部屋に着いて、客室のベッドをかしてもらった。
「風呂はいいのか」
ベッドにうつぶせになって眠りに落ちようとしていた俺に先輩が話し掛けてきた。
「・・はい、ほんとにご迷惑をかけて・・」 「スーツくらい脱げ」 「う・・そうですね・・・・・・・」
とか言いながら本格的に眠りにつこうとしていた俺だったが。 体を抱き起こされる振動に目が覚める。
「先輩・・? ほんと、いいですから・・」 「お前サイズのスーツなんか持ってない、明日しわの入ったこれを着ていくつもりか」 「うぅ・・」
もうされるがままでいいや。もう恥じより眠さの方が勝ってる。 このときの俺は、もうどうにでもして状態だった。
ネクタイ、ワイシャツ、スラックス、靴下、下着、全部脱がされたみたいだった。
ここまでしてくれるとちょっとやってくれすぎかもーとか思うんだけど。 男同士だし、見られてもいいけど、男同士なんだからもっとほっぽらかしてくれていいのに。 ちょっと、恥ずかしいかも・・・しんない。
「あ・・せんぱ・・」
もう意識はスレスレ、まぶたは急激におちてくる。 睫毛と睫毛の間からぼやけた先輩の顔が見える。けっこう近いかも・・・。 半開きになってた俺のくちびるに先輩のくちびるが深く合わさる。 深い・・かぶりつく様で、至極繊細だったり、角度を変えられては、また深く・・。 い、いい。 先輩、なに・・これは、どういう・・? 気持ちいい・・。 先輩まさかゲイ・・なの、か・・・・? 俺の意識は完全に戻ってきた。
「・・阿久津」 「はっ・・はい!」 「俺のこと勘違いしてるだろう」 「うっ・・なんのことだか」 「言っておくが俺はさほど仕事ができるからといって完璧なわけじゃない」 「は・・? そんなことはないと・・んっア!」
先輩が俺の弱みをにぎってきた。 やばい、また目が閉じてきた・・闇の中で吸い込まれるように快感を追ってる。 先輩、うまい。 男ににぎられて嫌がってない俺も、ちょっとヤバイ。
先輩が黒の長袖を脱いでベッドの下にほおった。均整の取れたカラダが目の前に映る。 またシュボッという小さな火のつく音がして紫煙が漂い始めた。 少し眉間にしわを寄せて目をつむりながらタバコを吸う。 闇に灯るかすかな火の光で睫毛が綺麗な弧を描き繊細な影をつくっていた。
「お前を見てるとイライラする・・」
えっ。それは、確かに俺はトロいし覚えも悪くてバカだけど。 ちょっと先輩から聞くとショックかも。
「そう、ですよねぇ・・ほんとに俺、バカで、申し訳ない・・」 「そういうことを言ってるんじゃないっ・・」 「ひっ・・ぃあ!」
また強くしごいてくる。 ムリヤリにいかそうとしてるみたいな強引なやり方。
先輩らしくない。
ちっとも冷静じゃないし。
少し怖い。
でも。
「あっ・・は、ぁぁ・・んぱい・・、にを、求めて・・?」 「・・・」 「先輩、は・・追いつめられてる・・んですか?」 「・・・」 「せんぱ・・」 「阿久津、少し黙れ」
先輩の顔に触れようとしてた俺の手をつかんで俺の身体を引き寄せた。 頬にあたる先輩の首筋は温かく脈を打っていた。 どこか熱く、俺を強く抱きしめる。
「お前の思ってることがわかる、こんな俺の有様を見て幻滅しただろう? そうだよ、これが俺だ・・お前はのろまできちんとした敬語もできないし いくら教えても失敗はなくならないし、もう無駄なんじゃないかって思う ときだってある」 「ごめんなさい・・」 「だが気持ちは不思議と安らいだ、お前が側にいるだけで心の中のもやが 晴れるみたいに安心して・・いつしかお前を、好きに・・・・」 「・・・・」 「お前は俺を崇め過ぎた」 「・・先輩・・」 「俺は聖人君子なんかじゃないっ、お前の担当になったのも、なんだって お前を俺の側に置いておくため・・お前が上辺面の俺を見てるのが辛くてっ」
強張っていた身体の力を抜いて先輩の身体を抱きしめ返した。 先輩が少し緊張する。 目が合う。
「さっき先輩が笑うところ俺初めて見ました、入社して、先輩が俺の担当に なる前からずっと見てたんですけど笑った姿見たことなかったんですよね。 だけどさっき車の中で見て、俺、すげー嬉しくて。こうやって、俺のこと 求めてくれるのが、やばいくらい嬉しいんですよ」
と言って笑ってみせる。
「わっ!」
急に押し倒されてびっくりした。 うわぁーっ、どきどきするっ! 先輩色っぽ過ぎっ。
「抱いてもいいか」 「・・・いいですよ」
キスの嵐が来襲して艶かしく指先が肌を辿る。 ざらついた感覚が胸の突起を攻める。
「んぁあ、はぁ」
吐息混じりの喘ぎが絶え間なく俺のくちびるから発せられる。
「やだ・・んか、恥ずかしい・・んんっ」 「いまさらだな」 「ぁッ・・っんぁ! ああっ!」
本気を出したらしい先輩に下をしごかれてあっけなく到達してしまった。 ああ、俺の精液が先輩の手を汚してる。 普通じゃありえない状態も先輩となら逆に快感の源となってしまう。
「いっ!」
ぬるりという感覚と共に指があそこの中に挿入された。 指先に何かつけて入れたみたいだからあんまり痛くないけど。 うっう、このクイクイと押し広げようとする感覚が、だ・・め。
「ひぅっ」 「ここか」 「あっやぁッ」 「気持ちいいだろ?」
抜き差しされてた指が腹側の腸壁をついた時慢性的な快感だったのが そこ一点だけでいけそうなくらいの衝撃が走った。
「いれるぞ」
先輩のがゆっくり俺のあそこを切れんばかりに押し広げて入ってきた。 ズズズとはいってくる衝撃に先輩が俺の身体をおさえてなかったら 俺は逃げていただろう。 恥ずかしい。先輩のが隙間も埋めて足を全開にしてないと切れそうなくらい 入ってて、形とか、イメージしちゃって、俺、鼻血でそう。
「あッあああっああ」
先輩がさっきの俺のいいところをめちゃめちゃ突いてきて俺のは精液噴火状態。 やばい、どうしようもないくらい・・・イイ。
「うあっああっ・・!!」
ついに気を失った俺。 快感で気絶するなんて思ってもみなかった。 先輩はタバコの味の残った舌で俺のくちびるを舐めた。 そこまでは憶えてる。 だって先輩のタバコの匂いだもん。
次の日。
先輩と俺はめでたく付き合うことになり、満たされた先輩は前以上に笑顔を 見せるようになった。 俺は、先輩のお気に入りのタバコを吸い始めた。
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