この世の中にはいろんなコンテストがある。美人コンテストとか、早食いコンテストとか、スイカの種飛ばしコンテストとか。探してみるとおかしなコンテストが一杯あって、誰がそんなのに出場するんだよ!と突っ込みたくなるようなのもある。別に構わない。自分が出るわけじゃあないから。 でもな。これはどうかと思うわけよ。あのな?俺たち男子高校生なわけ。んでもってここは男子校なわけ。なんでさーこんなこと思いつくかなー。家庭科の田中先生!! 「はーい、二人組みつくったぁ?そのペアで素敵な作品を作ってください♪締め切りは2週間後ね(うふ)」 田中先生はこの学校の数少ない女の先生だ。就任当初は「女子大出の家庭科の先生!」と学校中が大騒ぎになったのだが、だんだんとその変わったキャラクターが表面化してきて今では「学校一変な先生」に成り下がってしまった……結構可愛いんだけどな。 …そんなことはどーでも良い。この田中先生が思いついたのが おにぎりコンテスト というもので、生徒達が作った創作おにぎりのなかでどれが一番おいしいかみんなで決めて、文化祭のときに売りましょう!作った生徒の写真つきで♪と校長先生に提案したらしい。 …普通はさぁ、そこで 「田中先生、貴女も教育関係者なんですから…」 とたしなめるのが校長先生の務めじゃん?なのにさーノリノリで 「じゃあ私のほうで保健所の方に連絡して…」 とかいって2人で速攻計画立てて、翌日の職員会議でどういうわけか満場一致で可決した…させたらしい。 恐るべし田中先生。 …どこの誰が男子高校生の作った汗くさそーな握り飯を…そうおにぎりなんて可愛いもんじゃない、握り飯を食いたいって言うんだ!! こういう企画は女子高とか共学とかでやるべきだろう(握拳ぐっ) でも結局田中先生の異様な押しの一手で、男子高校生900名が450組に分かれて握り飯を作ることになったのである。
「もーいーじゃーん、梅干で」 「やるからには上位5位には入りたい!」 めんどくさそうにしている俺の横で、何故かやる気満々の大和が有名なお握り屋でであるところの「俵〇名」の天むすを食っている。お前…何海老天結びとか食ってんだよ。ゴージャスじゃんそれ…。 「八坂もちゃんと考えろよ!」 「いやな?考えろよっていわれてもな…」 そうなのだ。俺ができる料理って言ったら…。ほかほかご飯にふりかけかけるくらい?…それは料理とは言わないって姉貴に言われたけどさ。 何故かやる気120%の大和は真剣な顔をして聞いてきた。 「八坂!お前の好きな結びの具はなんだ!」 「へ?」 「俺はなー結構ツナマヨが好きなんだけどさー」 むーんと俺は考えた。幼稚園から小学校6年までの遠足の弁当を思い出そうと試みたのだが、そんな記憶は皆無であった!ちくしょー過去の俺!なんで覚えてねーかなーTT おやつは思い出せるんだけどなー;; 「俺は…」 と言いかけて、一つとんでもない握り飯を思い出した! 「大和!良いアイデアがある!」 「マジ?」 「ああ」 そういって俺は未だかつて誰も食ったことがないだろうと思われるそのおにぎりとやらを説明した。
2週間後。 「栄光への道は遠いな…」 大和は自分達のおにぎりの企画書を握りしめてつぶやいた。栄光ってさ…たかが握り飯コンテストだろうが…。 「アイデアが斬新である」 という理由でクラス代表作には選ばれたものの、この先の道のりは大和の言うとおり険しかった。…ってゆうかそんなに真面目に考えてたのは俺と大和くらいなもんだったんだ… いくらなんでも450個のお握りを一挙に審査するのは辛い…ということで各クラスから代表作を3つ選ぶことになった。その後学年代表として5つが選ばれた。俺はこのとき、田中先生をマジで尊敬した。…つうかなんでこんなにマジでこんなことやってんだ?あの先生は? 普通さ、こういう時ってやっぱり自分のクラスの作品に投票するじゃん?それを避けるために一年の作品は二年が、二年の作品は三年が、三年の作品は一年が選ぶようにわざわざ月一の全校朝礼のときに各学年を違う場所に集めて投票させたのだ。やりすぎだよマジでTT んでもって何故か学年代表にも選ばれてしまった大和と俺のお結び。最終選考は実物を持ってきなさいといわれたのでアイデアの出所である俺のお袋に協力を仰いだのだった。 「真もまあ良くあんなの覚えてたわねー」 そういってお袋はその結びを作り始めた。実物を初めて見た大和は… 「爆弾だ…」 そう、見かけは爆弾だ。爆弾は爆弾でも、ギャグ漫画に出てくるようなやつだ。でかくて真っ黒でまん丸で導火線があるようなやつ。 「大和君も食べてみなさいよ」 お袋はちょっとおびえている大和の目の前にその爆弾もどきを突き出した。 「い、頂きます…」 大和はずしりともち重みのするその爆弾にかぶりついた。俺も10年ぶりぐらいになるその爆弾握りを食い始めた。
初めに当たった具は梅干だった…っち。次に当たったのは鮭だった…らっきー。次の具は…来たな…これだよ;; 「今日は何が入ってんだ?」 「きょうはねー純子のクマのぷーさんのマスコット?」 ぶち当たったラップの包みを口から出して開いて見た。…姉貴ー!俺がやったんじゃねーからな! 大和のほうもブツに当たったらしくがさがさとラップを開いている。 あああ!つぶらな目で俺たちを見つめているクマのぷーさん!いくらラップに包まれたからってご飯の中でさぞかし息苦しかったろうよ!無事に救出されたアニマルフィギュアコレクション・クマのぷーさんを皿の上に置いた。 大和はなんともいえない顔で残りの結びを食っていた。ちなみに最後の具は焼きたらこだった。
家庭科の田中先生や校長先生を初めとする審査員の方達の前で俺と大和は自分達の握り飯について説明をした。ふんふんと説明を聞いている先生達の中で、何故か田中先生は嬉しそうに俺たちを見てるんだけど、なんでかなー… とりあえず審査員の先生方は例のマスコットにぶち当たってなんとも言えない顔を見せて、そして俺たちの審査は終わった。審査時間なんて結局15分くらいでちょっとむかついた。…その握り飯を作るのに一体何時間かかったと思ってるんだーーー!!…もちろんお袋の手伝いもあったけど♪ さすがに全校生徒に食べさせるわけにもいかないので、写真と中身の説明を書いたプリントが配られ、それを元に投票が行われた。俺と大和は結構自信があったのだ。というのも他のお結びが意外と普通なものだったから。俺たちのおにぎりほどインパクトのあるものはなかったのだ。まあ、別に一位になりたいとめちゃくちゃ願っていたわけではないけれど、自分の思い出の味が栄光に輝くのも悪くないと思い結果を楽しみにしていた。の。に。にぃいいいいいいTT
俺たちは負けたのだった…。負けた相手がものすごく独創的で俺たちのより斬新だったら納得がいくのに!なんだよそれ!おかかのお結び!!めっちゃ普通じゃん!なんかものすごぉく落ち込んでいると大和がやってきて、更に2人で落ち込んだ。…なんでだよ! しかも投票での差がたったの7票!どこの誰だよこの7人は! ぷんすか怒りながらこのコンテストの立役者である田中先生の家庭科の授業をするべく家庭科室に向かった。 田中先生はコンテストの結果発表についてさらりとコメントをして、さっさと授業を始めてしまった。…つうかさーなんかこう、労いの言葉とかさーないもんか?普通。大和と2人更に肩を落としてそれでも真面目に授業受けちゃったよ…。 で授業終了後。田中先生は俺たち2人を準備室に呼んだ。んでもってこう言ったのだ。 「大和君と八坂君のお結びさー私一押しだったのよーなのにね?校長先生がおかかのお結びがいい!ってきかないのよ。ごめんねーおじちゃんわがままだからさーあとねーあのおかかのおむすびさー、ご飯にいりごまが混ぜてあってね。結構芳ばしくっておいしかったのよ。あ、別に八坂君たちのおにぎりがおいしくなかったって訳じゃないんだけどね?」 …あのくそ校長の一言が俺たちのお結びの栄光を阻んだというんですか?大和もなんじゃそりゃ?という顔をしていた。 「でね?文化祭のときに上位5位までに入ったおにぎりを展示することにしたのよ。製作者の写真入で」 といって田中先生はデジカメを取り出して、 「ポーズとって?」 とか言うし! 「はずかしい?じゃあ私のいうとおりにしてね♪」 いつもどおりの押しの一手で俺たちの意見など聞くことなく、俺を椅子に座らせたあと、大和を俺のひざの上に座らせた。…しかも向かい合わせだ…なんか!もーれつに!恥ずかしいんですけど!! 「あの……田中先生?これは一体どういう写真なんでしょう?」 「だってね?普通に二人並んでいるだけじゃつまらないでしょ?……ちょっとしたギャグだと思って♪」 ほんの少しあいた間に疑問符を浮かべながらも俺と大和は田中先生の言うなりになって写真を撮ってもらった…いや撮られてしまった… 「文化祭まで写真もお預けね♪」 となんかとても嬉しそうに笑う田中先生が怖かった…。
文化祭当日。 普段は男女比1:0.01くらいなのに今日ばかりは1:1になっている。うはうはと目の保養をしていると、何故か近所の女子高の制服を着た集団が俺を見て 「あの人じゃない?」 「…あ、ホントだ♪」 「いやあーほんとかっわいい♪」 などといって人の顔をじろじろ見るのだ。しっつれいだなーなんて思っていると、血相を変えた大和が飛んできた。 「や、八坂!お、お前、コンテストの会場行ったか?」 「いんや?まだだけど……」 「田中ちゃんがなんであんなに嬉しそうに笑っていたのか俺やっと分かった……詐欺だぁああ!あれは!」 「????何があったんだ????」 「いいから一緒に来い!」 だだだだだっと人ごみを掻き分けて走ってきてみたのはあのお握りコンテスト会場。というか結果発表兼おかかのお結び販売所。何故か女子高生や若いお姉さん達で一杯である。俺と大和が教室に入ると何故かキャーーーーという雄叫びが上がった。とりあえずその声を無視して俺たちのおにぎりの置いてあるところまで来て俺は目がてんてんになった。 「…ナンデスカ…」 あの爆弾結びの後ろのパネルには、多分あの日田中先生がデジカメで撮ったと思われる写真が飾ってあったのだが… 「綺麗に撮れてるでしょー」 いつの間にかやってきた田中先生がうふふふと笑いながら俺に言った。しかし俺にはそんな言葉は聞こえちゃいなかった!隣では大和が死にそうな顔で田中先生に文句を言っている。 爆弾握りの後ろの写真には、まるでちゅーでもしているんですか?というような俺たちが写っていたのだ。俺の上にまたがるようにして座っている大和。その大和が俺の首に腕を回してて…うがあああああ!!!!ぞぞぞぞぞぞっと鳥肌が立った。なんで俺はあの時田中先生の言いなりになったかなぁ?!…俺倒れそう… 写真パネルには何故か吹き出しがついていて、台詞が入っている。 大和「やさかぁ…おかかのお結びなんかに負けちゃったよ…くすん(涙)」 八坂「仕方ねーだろ、あっちはメジャーな具なんだから…ほら泣くなよ…(ちう)」 意味わかんねーよ!なんだよちうって!なあ!ちうってなんだよ!……しかもさー写真自体がセピア色に加工してあるんだよ(泣)何かさー自分で言うのもなんだけどさーなんでこんな雰囲気出ちゃってるんですか!! となりでぎゃんぎゃん田中先生に吠え立てている大和を横目に俺は 「もし俺が爆弾握りなんか思い出さずにおかかのお結びにしとけば、俺たちこんなにならなくて済んだのに」 とさめざめと心の中で泣いた…泣いたとも! 俺はこのときに星に誓った。何事も平凡が一番であると…(泣)
……ちなみに一位をとったおかかのお結びの製作者の2人は、片方が新婚さん御用達のふりふりエプロン(別名裸エプロン専用エプロン)を学ランの上からつけ、もう一人が後ろから腰に手を回し「仲睦まじく」見つめあいながら微笑みあっているというある意味もっと恥ずかしいものだった…ねえ恥ずかしくなかった?ってゆうか疑問に思わなかったのか!この2人! なんて俺が葛藤していると、田中先生が 「青梅君と一橋君の写真も綺麗でしょう?…ま、愛のなせる業よねー」 「?????」 「青梅君がね、おかかのお結び大好きなんだってー。一橋君それで頑張っちゃったみたい♪」 「?????」 俺と同じように大和も頭の周りにはてなマークが飛んでいる。そんなことを気にせずに田中先生はしゃべり続ける。 「大和君も八坂君の思い出のお握りだからあんなに一生懸命だったんでしょう?…あーもーうらやましー♪」 うふふふふと微笑みながら俺たちを見つめる田中先生のその顔はまさに「聖母の微笑」なのだが、何かが違うんだよな、何かが! でも俺も大和もその何かを確かめるのが怖くてさっさとコンテスト会場をあとにした……。
その後卒業するまでの一年半、俺と大和はかっぷる扱いを受けた……主に田中先生からな!……俺と大和が組んだのは出席番号で前後だったからだけなのに…… 俺と大和の間ではおかかのおむすび&爆弾握りは鬼門となった。……一生食うもんか!
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