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 (ほのぼの/コメディ/クラスメイト/高校生/--)
400-800=Love?


 あつい……。
 真夏のくそ暑いこの時期に、なんだって列に並んでなきゃならないんだ。
 照りつける太陽の真下じゃないだけマシだけど、学校の廊下に並んでいるのもかなり暑い。
 冷房がガンガンに効いた教室に帰りたい。

「なぁなぁ、三喜」

 長蛇の列にうんざりしかけたとき、オレの前で並んでいた石川が嬉しそうに話しかけてきた。

「お前は何百やる?」

「……400」

 ホントはやりたかねーケド。
 だいたい、A型の血液なんて腐るほどあるハズだ。わざわざ学生をかき集めてまで採らなくても十分足りてるだろうに。
 溜め息が無意識に出た。
 やりたくねぇ。

「400か。なんだ、フツーだな」

「はぁ?」

「まだまだ甘いな、三喜」

 石川は大げさに首を振ると、

「やっぱ、男ならココは400じゃなくて800だろ」



 …………………………………。



「死ぬぞ、オマエ」

 そもそも献血で800なんて数値はない。

「なんだよ、三喜。もうちょっとノッて来いよ!」

「アホ。このくそ暑い最中にオマエの馬鹿げた話で無駄な体力を使いたかねぇ」

「あっ、ひでぇ」

 ぴしゃりと言ってやると、石川はさも傷ついたみたいに一歩後ずさった。

「いてぇっ!」

 そして見事に後ろのヤツの足を踏んだ。

「石川ぁ……」

 思い切り睨みつけられて、ひたすら手を合わせて謝っている。
 馬鹿だ。
 オレはヤツから視線を逸らすと、あえて何もない空間を眺めた。自然と重たい溜め息がこぼれる。
 石川……馬鹿なヤツだといつも思う。
 朝から晩までうるさくて、おちゃらけていて。
 それでいて、どこまでも前向きで。
 オレにはないモノを持っている。
 馬鹿なヤツだけど、オレはコイツを……

「三喜ぃ」

「えっ……」

 突然名前を呼ばれて振り返ると、石川が恨みがましい目でオレを見ていた。

「お前がヒドイこと言うから、矢島の足を踏んじまったじゃないかよ」

 オレのせいなのか、それは。
 眉をひそめると、石川は悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「ひでぇよな、三喜」

「なにが」

「だって…」

 俺たち恋人同士だぜ……?

 小さな声で囁かれたオレは、全身がカッと熱くなったのを感じた。

「ばっ……、オマエ……!」

「な?」

 な? じゃねぇっ!
 ココで言うな。ココでっ!
 オレの言いたいコトを察したのか。石川は楽しそうにニヤリと笑う。

「大丈夫だって。安心しろよ、三喜。聞こえてやしないって。……矢島ぐらいにしか」

「……う」

 矢島に聞こえているのか……。
 一発殴ってやりたい衝動に駆られたとき、奥の部屋から石川が呼ばれた。
 献血前の検査だ。

「じゃ、あとでな」

 石川はオレにウインクすると、さっさと検査へ行ってしまう。
 ほどなくオレも呼ばれて、検査員に問診票を渡した。問診を受けながら、血液の検査も受ける。献血前の準備ほど面倒なモノはない。

「400でいいですね?」

 机を1つ挟んだ向こうから、石川と検査員の会話が所々だけ聞こえてくる。
 何気なく耳を澄ましていると、

「あの………、800受けたいんですけど」

「……400までしか受けられないんですよ」

 検査員が失笑している姿がチラリと見えた。
 そりゃそうだ。
 1回の献血は400までって決まりがあるんだから。

「そこをなんとか……!」

 げっ。

 反射的に振り向いた先では、石川が検査員に手を合わせていた。
 なぜ拝み倒してまで800も採りたがるんだ、石川……。
 血抜きでもしてもらいたいのか、石川……。
 理解に苦しんだオレの耳に、

「800がキリ悪かったら、いっそ1000でも……」

 アホ。
 オレは心の中でヤツに一言呟いた。





 献血はものの10分で終わった。
 問診票を書いたり血液型を調べたりする前準備のほうが、よっぽど時間がかかっていた。
 車から降りたオレは、献血のあとの休憩室に入った。
 普段は講義室だけれど、今日は臨時で休憩室に使われている。入口近くのテーブルで飲み物を受け取ると、座れる席を目で探した。

「……あ?」

 ふと視界に妙なモノがよぎった。
 気にかかってもう1度見てみると、そこには石川がいた。
 椅子を3つ並べた上に寝転がっている。

「何してんだ、オマエ」

 近づいて覗きこむと、石川とちょうど目が合った。

「あっ、三喜っ!」

 飛び起きようとして途中で頭を押さえる。

「う……気持ちわる……」

「はぁ……?」

 石川は低く呻きながらゆっくり椅子に寝転がる。
 そういえば心なしか顔色がちょっと悪い……気もする。

「どうしたんだよ」

 オレは手近にあった椅子を引き寄せると石川の傍に腰かけた。

「もしかして貧血か?」

「ん……、まぁそんなトコロ」

 マジかよ。
 そんなトコロも何も、バツが悪そうに目を逸らされればオレの勘が当たったぐらい察しもつく。
 思わず溜め息がこぼれた。

「で、いったいいくつ採ったんだ?」

「……いや、ホントはさぁ、800採ろうと思ったワケよ」

「聞こえた」

「あ、そう? でもダメだって言われて結局400」

 オレと同じじゃねーか。

「……よかったな。400にしておいて」

 800採ったら今頃は自分の血を輸血で返してもらっているトコだぞ。
 それ以前に800なんて採れやしないだろうけど。

「なぁ、三喜……」

「あ?」

「ノド渇いた」

 下から物欲しげな目が見つめてくる。
 オレは飲みかけていたジュースから口を離した。
 そんな目で見つめられながら飲みたくない。

「貰ってきてないのか?」

「もらう前に倒れた」

 アホだ、コイツ……。

「何がいい? 取ってきてやるよ」

 椅子から立ちあがりかけたとき、シャツをグイッと引っ張られた。
 驚いて見下ろすと、石川が裾をぎゅっと握りしめている。

「おい、じゃれてる場合かよ」

「それがいい」

「これ?」

 適当に箱から取ってきたのはリンゴジュース。
 ちなみに果汁100%。

「リンゴか。わかった」

「そうじゃないって」

「なんだよ」

「三喜が飲んだの、ちょうだい」


 ………………へっ?


「他はヤダ」

 ガキか、オマエは。
 つーか、他人の飲みかけねだってどうする。

「もう半分ぐらいしか残ってないぜ」

「ノープロブレム。三喜のだからいいんだよ」

 くれ、と手を差し出されたオレは、仕方なくジュースを手渡した。
 石川は旨そうにジュースを飲むと、満足そうに微笑んだ。

「へへっ。……間接キス」

「バカ」

 石川の笑顔にオレは思わず苦笑した。
「学園ものでコメディを目指しました。お付き合いくださいまして、ありがとうございました!」
...2005/11/11(金) [No.251]
杜陸なつき
No. Pass
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