放課後掃除をしていると、同じクラスの高橋が飲み会の誘いをしてきた。 今日は金曜日で、明日は学校休み。 女も来るって話しだし、なじみの仲間ばっかりのメンツ。 場所は都内のマンション。708号室。 その部屋は誰の部屋だって聞くと、高橋は。 『俺の友達。そいつも混ざるけど、いいだろ?』 所詮俺たちは高校生だし。 飲み屋に行っても最近は厳しくって飲ませてくれないもんだから。 部屋提供者は大歓迎だ。 勿論快く了承して、7時に行くと約束して別れた。 ああ、あの時なんで高橋が俺と目を合わせなかったのか。 深く問い詰めればよかったのに。 俺は酒と女ってキーワードに浮かれて、自ら罠にかかってしまっていた。
「ここ、か」 家に置いてあったビールやらツマミを持って言われた部屋の前に立ったのは7時少し過ぎ。もう高橋たちは来ているだろうか。 久々の乱交パーティー。 今日は思う存分楽しむぜって、チャイムを鳴らした、次の瞬間。 ―――バンッ!! 「え?」 勢いよくドアが開けられて。 そこに立っていた男を見て、俺は蒼白になった。 持っていた酒やらツマミやらの袋が落ちなかったのは、俺が拳を強く握り締めていたからだろう。 「なっ…なっ……」 ドアを開けて俺の方をじっと見てくるそいつに、俺はただただ、驚いていた。 「何で……」 そいつは小柄な俺よりもずっとでかくて、彫りの深い顔とか結構女にも人気あって。 年は俺より一つ下で。 去年までは結構仲良くつるんでて。 「何で、お前が……」 でもある日。 あんな酷いことを俺にしやがったから。 俺はこいつと縁を切った。 携帯番も変えて、話し掛けられても完全に無視して。 学校ですれ違っても目もあわさず。 そいつの全てを拒否した。 「何でお前がここにいるんだ!!!」 東尾タツマ。 去年、俺を犯した男だ。 「先輩っ………!」 俺は勢いよく、部屋の中に引きずり込まれた。
「来てくれたんだ、先輩」 がっしりと俺に抱きつき、東尾は感極まったように言った。 俺は持っていた袋であいつの体を思いっきり殴り、その手から逃れる。 「痛いよ、先輩」 「黙れっ! お前、ここっ、高橋の友達の家だろ!? なんでいるんだよ!」 東尾から逃げるように玄関の戸に背をぴたりと貼り付け、俺は怒鳴った。 一年間、顔も見なかった。 こいつの顔を見るたびに、あの日の痛みと。 感じたくもない快感に、身体が熱くなるのが、許せない。 たった一年で、とても成長したように見える東尾は、口元に苦笑いを浮かべた。 「俺も、高橋先輩のオトモダチ、ですよ」 「ハッ……言ってろ。おい、高橋は……」 そこでようやく、動転していた俺は気がついた。 高橋にはめられたって事に。 女も、飲み会の話も、全部嘘だったって事に。 「…………ここ、お前の家、かよ?」 「そうですよ。教えてませんでしたっけ? ああ、あの頃は僕が一方的に先輩の家に行っていたっけ」 それで、俺の部屋で、こいつは、俺に……。 俺は東尾を睨みつけると、玄関の戸を開けようとした。 もう、一秒だってこいつといたくなかった。 けれど。 「高橋先輩、俺に貸しがあるから」 東尾はすぐさま俺の手を掴み、捻りあげた。 「っ、離せっ!」 「快く先輩と引き合わせてくれましたよ」 「離せって言ってるだろ!」 ギリッと捻られ、手からビニール袋が落ちた。 派手な音をたててビールの缶が玄関に打ち付けられる。 「一年ぶりだ。先輩に触れるの」 耳の奥に、まだ金属音が残っている。 それに被せるように東尾は呟き、背後から俺の首筋に口を寄せてきた。 「やめろっ! 気持ち悪い!」 「先輩の匂いだ。懐かしいな」 首筋を嗅ぎ、唇で吸われ。 「やめろ……やめっ」 あの日のことを思い出す。 この男に犯された時の、痛みと熱を、思い出す。 「ねぇ、先輩。俺だってね、怒るんですよ」 玄関のドアに押し付けたまま、東尾が呟く。 首筋を舐めていた口は、頬を伝って耳に行き、強く耳を噛んだ。 「いっ……痛いっ」 「あんなに無視されて。そりゃあ、強姦したけれど。ずっと好きだって言ってたでしょ」 好きだ好きだと。 冗談のように言っていたあの言葉なんか、誰が信じるか。 「離せっ、いい加減にしないと、殺すぞ?」 「ハハッ。殺す? この、細い腕で?」 凄んじゃって、と笑いながら、東尾は俺の尻に自分の股間を当てた。 「ひっ」 ズボン越しでも分かるそれの怒張に、思わず悲鳴がもれ。 それがまた東尾を喜ばせたようだった。 「さぁ、先輩。風呂へ行きましょう。久し振り、だからね」
「あっ……あああっ」 身体の激しい震えと一緒に出た泣き声は、浴室の壁を反響して消えた。 「早いね、先輩。指入れただけで、いっちゃったんだ」 シャワーのノルズを引っ掛ける部分に、両手を固定され。 吊るされるようにされ、東尾の攻めは始まった。 『罰だよ』と言われて、毛を全部剃られた時から。冷たい剃刀の刃が敏感な肌を撫でた時から。身体はどこもかしこも反応していた。 全裸にされて。 片一方の足を浴槽の淵に引っ掛けられ。 大股開きした状態は滑稽で屈辱的で。 恥ずかしくて。 何度『止めてくれ』と叫んだところで、その行為が終わるはずもなく。 リンスでトロトロになった指を挿入されただけで、俺は泣きながら、腹を濡らしていた。 「うっ……ああ、あっ」 「いい声だよね、本当に。最初だってちゃんと喘げたものね」 内側で指がぐるりと回され。 「いっ、ひぃっ」 残っていた液体がぱっくり開いた尿道から溢れた。 「うっ……もう、やめっ」 「まだそんな事言って。奥の。イイ所も触ってもらいたいでしょ?」 「嫌だっ……たのむ…も、」 もう、と言おうとした言葉は、挿し込まれた二本目によって、奪われた。 「奥の。ここが気持ちよくって、初めてなのに声が出たんだよね」 カリカリっと擦るように、壁の一点を擦られ、涙が溢れた。 「うあああ、あっ、あああ」 「ハハッ。先輩、ダラダラ零しまくりだよ」 言いながら、空いたほうの手で自身を掴まれる。 その部分を擦られただけで、トコロテン式に漏れる精液を、自分で止めることは不可能だった。 「はっ、は、いっ……ひっ……うぅっ」 「こんなに気持ちいいくせに、どうして俺を避けたんですか?」 親指で尿道から溢れる精液を拭うようにしながら、東尾は尋ねる。 けれど、今の俺の口から漏れるのは、言葉にならない息だけで。 東尾は「困ったなぁ」と呟きながら、指を引き抜いた。 「ほら、これで、喋れるでしょう?」 「うっ、離しっ……」 根元を抑え、ヒリヒリするくらい尿道ばかり弄るその手の動きが嫌で、泣きながら訴えると、 「そんな事は聞いてないですよ。ほら、答えて」 冷たく促された。 「どうして、俺を避けたんですか?」 ―――そんなのっ……。 「俺はずっと好きだって言ってたのに」 ―――冗談にしか……聞こえなかった。 「うっ……ンァァ」 頭の奥が、熱に侵される。 「先輩に無視されるのが、どんなに悲しかったか」 ―――無視する俺の身にも、なれ。 「東、尾……やめっ」 東尾のそれが、ゆっくりと奥に入ってくる。 「先輩は、謝らせてくれる機会も、くれなかったっ」 ―――顔を見たら、言葉を交わしたら、思い出すから。 「ひっ……いあぁァァ」 深く押し込まれ、苦しくて。痛くて。 「っ………ごめんなさい……先輩……」 ―――あの時の痛みを、思い出すから。 「っ……あっ」 ―――避けていたのは。 ―――無視していたのは。 「ああっ……あっ、東、尾っ」 ―――苦しくて。痛くて。熱くて。 ―――あの時の痛みを思い出すから。 ―――あの時の、熱を、思い出すから。 「東尾っ」 ―――思い出したらもう、離れられなくなるから。
離れられなくなると知っていたから、避けていたのに。 「………先輩?」 俺はゆっくりと、東尾にキスをせがんだ。
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