もはや5人の溜まり場となってしまった司令部。その司令部のドアが思いっきり大きな音を立てて開かれた。中にいた4人はごく自然にドアに振り返った。ドアを蹴り開けたのは渚(なぎさ)。手には紙袋を持っている。トラブルメーカーの渚がやらかすことはいつもとんでもない結果がついて回る。
「おい、野郎ども!今日は何の日が知ってるか!」
思いっきりの笑顔で、渚は4人に話し掛ける…否、叫んだ。耳を抑え、あからさまに嫌そうな顔をする衣弦(いずる)と暮刃(くれは)。こんなとき、渚の話に乗ってくれるのは流麗(りゅうれい)と優斗(ゆうと)なのだ。
「5月5日はぁ~」 「THE☆子供の日!」
そう、今日は子供の日。といっても、二十歳近い野郎が寄ってたかって祝うものでもない。目的はただひとつ…柏餅。食い気がやたら盛んなこのメンバー。暮刃も衣弦も、実はかなりの量を食べるのだから驚きである。
「と、いうわけで、柏餅を作ったぜー!」
そういうと渚は、紙袋から柏餅を取り出した。鮮やかな色に、ボリュームもありそうだ。影の噂で流れていた、「渚は料理が得意」というのもあながち噂だけではなかったようだ。柏餅の登場でさらに盛り上がる三人。
「渚ーッ!偉い、お前ならやってくれると思ってたぜ!」
流麗が目を輝かせて、渚へ飛びつく。得意げの顔の渚に、優斗もいそいそとお茶の準備をすすめる。そして、ぶっきらぼうに興味なさそうにしている二人も、微かに口元が緩んだ。必死にそれを隠してはいるが、バレバレである。
「二人も早く食う支度しろよー! 俺が作った最高級の柏餅ちゃんだぜ!」
さり気無く、二人に声をかけるが二人は本から目を離さない。本当はたべたいという気持ちを抑えているのだろうか。意地っ張りも度を越すと哀れである。そして、そんな二人を知ってか知らずか、渚も追い討ちをかける。
「へへっ、カッコつけちゃって、ホントは食いたいんだろ?意地はんなって!」
「………何入れたんだよ」
衣弦から飛び出た一言。「え?」と目を丸くして柏餅を見つめる三人。しばし、場は沈黙に支配された。
「おい、衣弦~、バラすなんて酷ぇじゃねぇか」 「俺の知ったことかよ」
渚の反応からして、何か入ってるのは間違いないようだ。茶の支度を進めていた優斗は、思わず湯のみを落としてしまった。そして、一番危なかったのは今まさに食わんとしていた流麗。手に餅を持ち、口をあけたところで衣弦の一言。
「あっぶねっぇな!食う寸前だったぞ、おい!」 「はははは、大丈夫だって。毒じゃねーからよ」 「だったら何だよ!」
胸倉を掴み、押し寄る流麗に、渚は笑顔で返す。渚とて、毒を入れて殺したって何も面白くない。毒殺なんて方法は、渚が一番嫌いとしている殺め方だからだ。作戦にそんな項目があった日には一日中不機嫌だったりするくらいだ。
「恋の薬♪」 「媚薬かよ!!」
可愛く恋の薬なんていってみたが、流麗にはすぐに伝わった。そして、回りにも勿論伝わった。あぶねぇ、あぶねぇと冷や汗をかき、饅頭を元に戻す流麗。だが、その流麗の手を止めさせる一言を渚が発した。
「確かに媚薬は入ってる。けど、入ってるのはこの5個の柏餅のうち1つだけだ」 「……何?」
渚の顔は面白い玩具を見つけた子供のように楽しそうだった。が、そんな純粋でもない。何かを含み、企んだ笑いだ。
「ロシアンルーレット…といったところか」
暮刃が、本を閉じて立ち上がった。渚の話に興味を持ったらしく、不敵に笑う。
「へへ、そういう事。ちなみに、飴が入ってる餅をとったヤツは大当たり。媚薬をふんだんに食ったヤツを好きにできる権利が生まれる訳」
それをいうと一斉に目の色が変わった。企画者の渚の目は獣色に満ち、暮刃の目も鬼畜色に支配される。流麗も優斗も腹黒い色が侵食し始める。となれば、衣弦が参戦しないわけにはいかなくなる。参加せずにもし、媚薬入りのものが残ったら自分が狙われるのだ。それならまだ、しっかり参戦するべきであるからだ。
「ふふっ、考えたな、渚」 「まぁな、折角の子供の日だ。楽しまなくちゃな」 「日ごろのお返しをするいいチャンスですね…」 「てめぇが媚薬入りを食う可能性だってあるんだぜ?」
おのおのがあたりを引くことを勝手に確信し始める中、ゲームは始まった。年功序列という事で、年上のものから引くことになった。要するに最後は優斗だ。全ての餅を取り終え、一同は自分の餅を見つめる。
「このスリルがたまんねぇな♪」 「へへへっ、渚が猫になったら、可愛がってやるから安心しな」
既に暴走気味の流麗と渚。ひとり、内心「食いたくない」と思う衣弦だが、この流れは変えられない。そして、神様にお願いするように手を組み、優斗が言った。
「どうか、流麗さんには当たりが出ませんよーに♪」 「なんだと!?俺がばっちり当たりを引いて、夜通し鳴かせてやるぜ」 「…下品」 「それじゃ、一斉に食えよな。吐き出したやつは、俺からもお仕置きだからな♪」
一同は合図で柏餅を口に入れた。もごもご…暫く沈黙が続くと、怪しげにニヤリと笑う人物がいた。それと同じくらいのタイミングで、動きが固まる人物も…。
「ふふ…引いたみたいだな」 「!?」
そういって暮刃は飴玉を出した。ピンク色の飴玉が暮刃の指の間で光る。
「……ッ…まさか、これ…」
同時に、衣弦が口元に手を当てた。一同は確信する。衣弦が引いたのだと。そして、不気味に笑い衣弦の顎を掴む暮刃。
「お前が俺の猫か」 「……っ、触んなッ!」
暮刃の手を払いのけ、衣弦は口元を抑える。甘ったるい、ゼリーのような食感が口内に広がっていく。媚薬なんて飲んだことがないので、これがそうなのかどうかが分からない。が…可能性は高い。飲み込んでしまった。
「無抵抗ではつまらん、それくらい威勢のいい方が犯しがいがあるさ」 「……っ、近づくんじゃねぇ……くそっ…」
衣弦はそういいながら、指令部を出た。ふらふらするのは気のせいだろうか、足元がおぼつかない。
「どこ行くんだよ、衣弦」 「……なッ…!」
ふと背後から肩を掴まれ、耳元で囁かれる。低く色気のある声が衣弦の体を震わせた。いつもおみまいする肘鉄が、繰り出せない。
「俺の部屋にこいよ、そのうちキツくなってくるんだからな」 「……余計なお世話だ…ッ」 「ほら、こいよ。満足させてやるよ」 「………っ、…ぁ…ッ!」
衣弦は暮刃に背くことができず、 引っ張られる形で暮刃の部屋へと足を運ぶ結果になってしまった。
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「…ッ!」
暮刃にひっぱられてつれてこられた場所は暮刃の自室。殺風景な部屋に引き込まれると同時に、壁へ押し付けられる。くらくらする頭と戦いながら、衣弦は壁で荒く呼吸している。腕を背中で捻られ、密着状態。
「……っ、放せッ…!」 「ここで犯されるか、ベッドで犯されるか…どっちいい」
ふざけるな。とばかりに暮刃を睨むが、暮刃は不敵な笑みを浮かべたままだ。甘い低音が耳元で囁かれる。反応する体を無理矢理制御して、なんとか抜け出そうとする。いつもなら、すぐに逃げられるのに…恐ろしいほどのだるさが衣弦を襲う。そして、熱を帯びてくる下半身。 冗談じゃない…。 衣弦はだるさに対抗して、暮刃に蹴りを入れた。
「…ッ!?」
蹴ったあとの振動でさらに頭が重くなり、下半身の熱が加速する。が、勿論それだけではすまない。この隙に逃げ出さなければ意味がないのだが、蹴りをもらった瞬時、暮刃からはすっかり隙がなくなってしまった。何をされても対処できる警戒態勢。逃げたいという気持ちは大きいのに、体が動かない。この時衣弦は、この状態が最悪的な状態であることを理解するのがやっとな程までに、頭がうつろになり、ぼんやりとしてしまっていたのだ。
「ふっ…やってくれるな」 「…んッ…ぁ…!」
笑った暮刃は、衣弦の下半身を強く握り締める。身体への突然の刺激。どう対処すればいいのか…頭が回らない。思わず、声をあげ、悔しさのあまりに服をかみ締める。
「立ったままってのもなかなか良いな、 しっかり喘げよ、これは罰ゲームなんだから」
暮刃の笑う声が、また刺激する。どこまで、感じてしまうのか…自分を止める事ができない。
「んんッ…あ、はぁ…ッ!」 「渚に大感謝だな」 「うるせ…っ、ぅあッ…はぁ…ん」
握られた下半身がせがむ。もっと、もっと、快感を。もっと、もっと強い刺激と欲望を。しかしまだ、理性が生きている。体はいう事をきかないものの、頭ではいけないと分かっている。この状態が一番ツライ。快楽に身を任せればつらくもなんともない、ただ気持ちよく、相手を求めて、欲求を満たせるのに。プライドが高い衣弦はそれをヨシとしない。誰に抱かれようが、譲れない一線なのだろう。自分から、求め、理性を自ら崩していくことは。
「お前、すっげぇ色気。滅茶苦茶に食いてぇ」 「…っ…変態!離れろ!」
まだまだ悪態をつくだけの力がある。そう判断した暮刃は軍服の鎖を取りはずす。勿論、片手で衣弦の両手を抑えたまま。
「悪態つけるなら、まだまだ余裕なんだろ? サービスしてやるよ」 「なッ…!やめろッ…んんぁッ!は…!」
取り外した鎖で衣弦の両手を縛り上げる。ジャリジャリと響く鎖が衣弦の抵抗を示す。暮刃は突然、抑えていた手を放す。そうすれば、当然、不安定になった衣弦は床へ倒れ込んでしまう。倒れた隙を狙い、両足をも縛り上げる。衣弦が抵抗しない訳ではない。だが、やはり暮刃の力と薬の効き目を前にしては無力だっただけだ。
「この…っ、どこまで、変態趣味してやがんだ!」 「威勢がいいな、でも、もう喘がずにはいられないだろ」
そういいながら暮刃は、衣弦に跨る。鎖を持つと、ズボンも下着も下ろし、下半身を露にする。そそり立つモノを前に、暮刃はニヤリと笑う。
「んだと…!…っ、くッ…あッ、やめっ…!」
股間に鎖を挟まれ、擦りつけられるように刺激される。痛い…否、快感。 痛い中の快感を見つけ出すのに、そこまで時間はかからなかった。溢れてくる淫らな言葉の羅列。その言葉に自ら酔いしれ、悔しさに歯を食いしばる。
「ほら、もっと鳴けよ。 いつも、渚に声が枯れるまで鳴かされてんだろ?」 「なッ…!んッ、はッ…!あっ…」
股間で暴れる鎖に、身を捩る。いつも渚が与えるものとはまた別の…新しい快感。こんな強姦まがいのような、乱暴で、激しく熱い行為。
気が遠くなる。モノが泣き出すのが分かる。もう限界だと…脳が体へ訴え、体が衣弦自身に訴える。そして、我慢のきかなくなった衣弦は暮刃へ訴える。言葉には出さず、目だけで。
「ホシイか?コレが」
目の前に突き出される、暮刃のモノ。目を逸らしたいけれど、逸らせばきっと…モラエナイ。ならば、答えはひとつ。素直に 頷くのみ。
「んっ…あ…ッ…」 「言ってみな、その口で」
そう言って、暮刃は衣弦の顎を掴んだ。刺激の止まってしまった下半身は、疼き、求める。顎を掴まれ、無理に上を向かされる状態で、衣弦は目に生理的な涙を浮かべる。どこから生まれてきたのか…全くわからない涙だ。
「あ…っ…んん…」 「渚はお前にほれてるんだろ?そんな声出されたら、思わずいれちまうだろうけど、生憎俺はほれてない。しっかり言わなきゃやらんぞ」 「……んな事…っ、あ…んっ…」
暴れる下半身に、なんとか制御をかけようとする理性。全てを捨てて快楽に身を任せてしまおうという本能。
「早く言えよ。こういう良い場面だと、大抵邪魔が入るからな」 「んっ…ん…ぁ…」
衣弦は、頑として強請らなかった。快感に飲み込まれないよう、必死に堪えつづける。そうすれば、段々と立場は逆転してくる。暮刃の方に我慢がきかなくなってくるのだ。目の前でひとり喘ぐ衣弦を見て、刺激をうけない筈がないのだ。
「ったく、強情だな…挿れるぞ」 「なッ!…んんっ、ぁ…うあぁッ!」
開かされた股間に暮刃が身を割り込ませると同時に、衣弦の中をぴりっとした痛みが走る。足を抱え、深く侵入していく。息がつまりそうな圧迫感。
「あッ………ッ、ん」 「ッ…あ…すげ…っ」 「はッ…あ、んんっ…やだッ、も…!」
衣弦自身、歯を食いしばりながらも思った。絶頂はすぐそこだ。
「はっ、いいな、お前ん中…また、ヤらせろよ」 「ふざけんなッ…あ、あんっ、あっ、んんっ…」
興奮した暮刃が、本能任せに突き上げる。暴れまわるモノに、もう理性はおいてきぼりだ。
「ふあっ、あ……っ、あ、んんッ…………あッ!」 「先にいきやがって、ん…ッ!!」
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「衣弦~♪」 「………っ、何だよ」
朝、廊下で後ろから手を振りながら走ってくるのは渚だった。朝から煩いと心で悪態を付く。
「昨日は何回ヤったんだ~?」 「………死ね、朝から下品なんだよ」
あらら、ご立腹。と渚は呟くと、衣弦の頭の上に手を乗せた。ご立腹なのは衣弦からすればごく当然のことだ。ふざけた遊びに巻き込まれて、挙句の果てに腰が砕けそうなのだ。
「可愛い声で鳴いてたじゃねぇか、ばっちり聞いてたぜ」 「!?」
渚は耳元でそれだけ呟くと薄く笑い、先に廊下を歩き出した。衣弦はといえば、なんともいえない顔で渚を見るだけだ。だが、その後。今までなかった怒りが段々と込み上げてきた衣弦は企画者の渚に散々あたった。
そもそもの発端は渚。暮刃からはお褒めの言葉、衣弦からは非難の暴力。 こうして今年の子供の日~翌日は幕を閉じたのだった。
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