「今度の新人は、女らしいぞ」 「うわぁ~お♪マジで!?」 「ぁぁああー!!」
暮刃(くれは)の部屋。やたらでかく、お洒落な蝋燭やら、絵画やらが飾ってある。そんな中、俺達三人はそこではじめて暮刃から、そのことを聞かされた。いつものように、皆で集まってビリヤードをしてるときだった。
あまりに突然の言葉。そして、あまりに現実味のない話。構えていた流麗(りゅうれい)は思わず打ち損ね、噴出した。打ち損ねた球は弱弱しく進み、軽く当たって動きを止めた。
「マジで!?」 「あぁ、先週の入隊試験でずば抜けた戦闘センスを評価されたらしい」 「この隊に女性が入ったなんて事今まであるんですか?」
盛り上がる、俺と流麗。不安な顔を隠さない暮刃に、興味しんしんの優斗(ゆうと)。こういう、女性でありながら強い人ってのはは大抵美人のケースが多い。まさに才色兼備とかいうヤツで。俺だって顔はそんなに悪かないけど…さ。
「ない。その点、問題ばっかり起こるだろうな…」 「まーた、仕事が増えちゃいますね、暮刃さんは」
笑う優斗に対して、暮刃はほとほと参った顔を見せる。俺達4人はほぼ同時期にここに入隊した。年は少しずつ違うものの、今ではすっかり年上年下関係なく呼び合ってる。優斗だけは、暮刃に対して「さん」付けをしてるけど。年齢的には暮刃、流麗、俺、優斗の順番だ。役職も、俺が一番隊の隊長、流麗が副長。そして、総司令官の暮刃に暮刃の補佐役の優斗。俺達は、誰が遅れることもなく、それぞれに適した役職につくことができた。 でも、なんだかんだで命が危険にさらされることも結構ある。だから、俺達が今こうして生きて、ビリヤードなんかをやっていられるのは、俺達の実力だけでなく、運も良かったからだ…と思っている。
「全くだ…下の連中は絶対にいい顔しないだろうしな…」 「そーか?女好きなヤツ、結構いんぜ?」 「だが、いざ自分より上の地位につかれると、男の時以上に怒るだろ」 「……え?」
暮刃の言葉に俺はおもわず、聞き返した。暮刃の言っている意味もうまく理解できなかったのが大きい原因だが。それ以外に…理解したような気がした…けれど、それは有りえない。という気持ちの葛藤もそのひとつだった。
「……どうやら、その女性をすぐに一番隊の副長の役職につけるつもりらしい」 「おいおいおい…」
この時一番焦ったのは流麗だった。
「え、何、俺降ろされんの?」 「いや、副長が2人いる状態になる…。突然出てきた女性の副長に部下が従うとは思えないからな」 「…そりゃ、普通怒るぜ」
突然出てきて、実力も見ない間に副長の座につくというのだ。驚き、怒り、実力を見たいと思う。ましてやそれが女性となれば、部下達の怒りは計り知れない。暮刃の、今にも涙が出てきそうな溜め息にも納得がいく。
「けど、実力があるなら、部下も黙るんじゃねーの?」 「だといいけどな…」
俺の言葉に対し、暮刃は語尾を濁らせながら言った。俺は頷いた。何故、こんなにも女性を迎えることに前向きだったのか、自分でもわからない。女好きというのもあるが、それだけではなかった。新しい力に対する心地よいプレッシャーなのかもしれない。
「ま、なんとかなるさ」
女がでしゃばってきたら、怒るのはしょうがない。その所為で、暮刃が頭を抱えるのもしょうがない。けど、あんまりにも煩いなら、黙らせればいい。俺達はそういう権力も持ってるんだから。
「そうそう、いざとなったら黙らせるし?」
おちゃらけて笑う流麗が俺の肩に手を回す。この感覚が大好きだ。
「いざとなったら、お仕置き♪しちゃうし?」 「なーにがおしおき♪だっつの。この間、お前に連れてかれた部下、汗だくで死にそうな顔してたぜ?」
そーいや、そんなこともあったかもしんねぇ。あんまり規律を乱すんで、暮刃が注意しろって言うから、部屋まで連れ込んで、拷問してやった…もう2ヶ月くらい前の話だ。今思うと、ちょっと可哀想だったかもしれない。でも、別に鞭ではたいたわけでも、蹴り入れて血反吐吐かせたわけでもない。 ただ、俺の夜伽の相手を(無理矢理)してもらったってだけだし。それからというもの、アイツの遅刻は0。素晴らしき、夜伽の効果だった訳。
「はははっ、俺様のおしおき♪は効果バツグンだからな!」 「おしおきと称した、ストレス発散、基、ただの性欲処理だろ」 「えぇ!?渚、そんな事してんの!?」
今更のように驚く優斗に、笑いがこみ上げてくる。いや、こんな環境がほほえましくて…こんなやつらが大好きで。それを思ったら、新しく入ってくる女のことなんてどうでもよかった。この環境が続くのなら、周りがどう変化したっていいんだ。
「なーに、今更なこと言ってんだよ、なんならブチ込んでやろーか?」 「な、なななッ…!?」
ふざけ半分で、詰め寄る。いつもと同じに顔真っ赤にして、首を激しく振る優斗。あー可愛い♪というか、からかい甲斐があるっていうのに近いかも。
「さーて、続きしーよぜ、続き!俺からだったっけな」
そういって、ビリヤード台に向き合う。散らばったボールに30分ぶりの対面だ。この玉がはじけて、ポケットに落ちても、結局皆一緒になる。
この環境を守るべく、俺は戦っているのかもしれない。
ふと、そう思った。 らしくないかもしれないが。
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