俺の旧来の親友である同居人はゲイだ。 本人は俺がその事を知ってるなんて全く気づいちゃいないもんで、自分がゲイである事をひた隠しにしている。 そんな事知れたら俺が縁を切るとでも思っているのか。 ばかだなあと思う。 俺がやつをどんなに大切に想ってるか全く分かっちゃいない。 もちろん俺はゲイではないからやつに対して性的な欲求を感じることはないが、やつは親友なんて陳腐な言葉で現すことが憚られる程俺にとって大切な存在だ。 本当に小さな頃から一緒にいて一緒に育ってきたのだ。 やつにとっても俺は大切な存在である自負がある。 そしてそれはやはり性的な意味を含むものではないと思う。 家族とも違う・・、ただ家族と同じくらいにお互いに大切に想っているとだけは言える。 ところで何故やつがゲイである事を俺が知っているのかというと、それは一重にやつが隠し下手だからに過ぎない。 ポーカーで一度も俺に勝ったためしのないやつである(もしかしたら恐らく今まで誰にも勝てた事なんかないのではなかろうか)。 思った事はそのまま顔に出て、感情表現豊かな事この上ない。 要は単純という事か。 まあ、そこが図体がでかく威圧感を与えかねない程に整った容姿を持つやつに愛嬌を与え、周りから可愛がられる要因なんだろうけども。 ああ、それと底抜けの鈍さもやつの愛嬌といえば愛嬌の一つではある。 “隠し事が苦手な上に鈍い”そのために俺はやつがゲイである事に気づき、尚且つ本人は未だ気づかれていないと思っているわけである。 まあ、俺も本人がそこまでして隠したいと思っている事なら・・、と細心の注意を払って気づいていない風を演じている。
ある朝、やつはぐったりして帰ってきた。 前日「今日は友達の家に泊まってくるから」と頬を赤らめて家を出て行ったもんだから、『ああ最近できた恋人の所か』と思った。 だいたい友達の家に泊まりに行く事を伝えるのに顔を赤くする必要などない。 それに、ゲイという事を隠しているなら彼女の家に行くと言えばいいことだろうと思うのだが・・・、その辺はやつらしいというか何と言うか。 まあ、だからあくる日にぐったりして、けれど満足げなやつを見て、『ああ、本当に分かりやすいやつだな』と苦笑した。 それと同時に少し心配にもなったので、「大丈夫か?顔色が良くないぞ。」と声をかけ早々にベッドに寝かしつけた。 やつは昏々と眠り続けた。 昼を過ぎ夕方になっても寝続けた。 外は真っ暗になり、何度目かのやつの様子見の為部屋に入ると、やつはうっすらと目を開けて、「腹減った・・」と、そして言い終わるやいなや盛大な腹の虫の音が聞こえてきた。 やつは一瞬呆けて、それから瞬時に布団に潜り込んでしまった。 俺は笑い出したいのを堪えて、「ちょっと待ってろ。今用意してやるからな。」と、布団から少し出ている頭を撫でてやり、部屋を出た。 そこで、さてどうしたものかと悩んだ。 恐らくやつは恋人との行為によって体調を崩しただけであり、あの盛大な腹のなり具合からしても普通の食事を用意しても平気そうに思える。 ただ、やつは俺が本当にやつが体調を崩していると思っているのだろうと考えると、病人食の定番、おかゆを用意してやった方がいいのかもなとも思う。 でも、腹減ってるだろうしな・・、云々と考え結局俺は具沢山のおかゆを作る事にした。 普段から料理をする俺にしてみれば、おかゆなどものの数分でできる。 早速出来上がったおかゆを手にやつの部屋のドアをゆっくり開けると、やつは照れくさそうに、でも嬉しそうにこちらを見た。 「おかゆ作ってきたぞ。起きられるか?」 俺は持ってきた土鍋入りおかゆをサイドテーブルに置いて、やつが起き上がるのを手伝った。 するとやつは「いっ・・た。」とうめき、顔を顰めベッドに突っ伏してしまった。 『もしかして切れているのでは・・』 それなら早く手当てをしなければいけない。 けれど俺が気づいていないと思っているのに、簡単に俺に手当てなどさせはしないだろうし・・。 それにしても・・、やつの恋人は一体何を考えているんだ。 こんな後でやつが苦しむ抱き方しやがって・・、それもフラフラのやつを一人で帰してくる神経も疑う。 ああ、でもそんな事より今はやつだ。 額に脂汗を滲ませ本当に辛そうである。 何とかして手当てしてやらないと・・・。 「ど、どこか痛いのか?切れているのか?」と、咄嗟に聞いてしまった・・・。 ・・・言うわけないだろう・・、逆に警戒させてしまったに違いない・・。 焦っていたとはいえ何という失態だろう・・。 しかし、俺は何とか言い繕う事にしてみた。 「い、いや、あのな、俺ちょっと前まで“痔”だったものだから・・、今のお前も似たような痛がり方してるしな・・・、もしかしてそうかもしれないと思ったんだが・・」 やつは呆けた顔をしてこちらを見ている。 やはり、こんな言い訳は通じないか・・。 しかし、驚いた事にやつは「え・・、そうだったの。“痔”だったの?そうかあ・・・、いや、俺も恥ずかしながら“痔”でさ・・、はは。」 そうだった、やつは単純だった・・。 いや、でもいくらなんでも単純すぎだろう・・・。 ああ、でももしかすると、そんな言い訳かどうかも判別できる余裕もない程、痛いのかもしれない。 「そうか、やはり“痔”か。俺が以前使っていた薬があるから持ってこよう。」 俺は急いで薬を取りに行った。 俺は痔になった事などないが、やつがゲイである事を知ってから、もしかしたらと思い薬をかなり前に購入をしておいたのだ。 いくらなんでもやり過ぎかとは思ったが、長い付き合いからやつにあり得る事態だと何となく思っていたもので、まあ自分が痔になる可能性も全くないとは言い切れないし・・、と念のため買っておいたのだ。 買っておいて良かった。 すぐさま薬を手にやつの部屋へ戻り、「塗ってやる。」と言うと、さすがにやつは焦った顔をして「いいよ、自分でやる。」と言った。 まあ、確かに人にそんなとこ見られたくはないよな、ましてゲイである事を隠しているわけだし・・。 とはいえ、自分ではなかなか見えにくい所である。 ちゃんと塗布できず、完治に時間がかかるようではあまりに可哀想である。 「そんな所自分で塗るのは見えずらいし大変だろう。ちゃんと塗れず完治が遅れでもして辛いのはお前だぞ。」 そう強く言って、「で・・でも」などと抵抗しているやつを傷に響かないように、けれど素早くひっくり返す。 最初こそ荒々しく抵抗をしていたが、まだ体調が万全でないせいか、ズボンとパンツを剥ぎ取られた時点で抵抗を諦めたようだ。 そして、やつの患部を見てみるが、赤くなってはいるが見た限りではそれ程酷い傷はないようであった。 ただ、中が切れている可能性もあるのでやつにどの辺りが痛いか聞いてみた。 するとやつは「入口の辺りが・・・っ」と恥ずかしそうに答えた・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 『・・・・・出口だろう・・』 一気に疲れてしまった俺だった。
|