「僕達そろそろ距離を置こう」 そう言われたのはつい昨日事。 忘れたくても忘れられない、人が道行く道路の真ん中で、俺が大好きな人はそう言った。 「は?」 思わずそう答えた。信じたくないけど、頭は何よりその言葉の意味を知っている。 「だから、僕と君は……このままの関係じゃ居られないと思うんだ。」 イツかは言われると思ってた言葉。だけどそれがこんなに早いなんて思いもしなかった……。 「それは俺と別れるって事?」 涙はまだ出ない。今泣いたら終わりだと思ったから。 「違うよ!でも……僕だって南都(なつ)の事大好きだよ!だけど……、ちょっと自分の気持ちに整理を付けたいんだ!」 「それって別れ話じゃないの?」 「違う!僕は南都の事大好きだよ!……だから……しばらくこうやって二人で帰るのも止めよう。じゃあね」 俺が大好きな人はそのまま背を向けて走り去ってしまった。
後に残ったのは泣きそうな顔をした、俺。
「ひっく、……えっぐ、……コトちゃぁんっ……」 学校の机に突っ伏して涙と鼻水をたらしながら俺は惨めに叫んでた。 「とうとう振られたのか?なっちゃん」 話しかけてきたのは学友(あえて友達と言わない俺)の有木(ゆうき)だ。 「うるせぇ、……っぐ、…黙れっ……死ね」 「相変わらず酷いなぁ……」 何でテメー何かに優しくしなきゃいけないんだよ。俺は失恋の痛手で今にも死にそうなんだよ。ってか死んでる?みたいな。 「なっちゃん、泣いてばかりいないで俺に相談してみ?きっと何か解決するかもよ」 ニッコリ笑う有木は、顔はまぁ悪くない。きっと性格が悪い。 「じゃあ今すぐコトちゃんとヤラせてくれ!!!」 俺は起き上がって有木の胸倉をつかむ。
って何でそんな驚いた顔してんの? ありゃ?皆様まで……
と、俺は失言に気付いた。失恋の痛手から俺はつい本音を洩らしてしまっていた。
「まさかなっちゃん……ヤッてないの?」 その言葉に、俺は首まで赤くなった。
「どうゆう事か分かりやすく説明して下さい」 「えーっと、……」 俺は有木に無理やり誰も居ない視聴覚室まで連れて来られた。 「ここなら防音効果ばっちだから心配は要らない。俺しか聞いてない」 「えーっと、ウザイんですけど」 心の中で溜息を吐く。こうして大騒ぎしそうだからこいつに言いたくなかったのに……。あぁ……一時間目はもう無くしたなぁ……。 「そもそも付き合ったって事も言ってくれなかったじゃんか!親友にはそれ位言って良いんじゃん?」 「すみません、その親友が見当たらないんですけど」 「なっちゃんの馬鹿ー!俺はずっと親友だと思ってたぞ!?」 一人で頭を抱える有木を見て、俺は飽きない奴だなと思った。
「で、真実はどうだ訳?」 「ごめん、ちょっと寝てた。」 有木がトリップしてから戻ってくるまで、不覚にも俺は寝てしまっていた。 「まぁ南都のその反応を見るからコトちゃんと別れたのは本当だろ。あんなにお前らラブラブだったじゃないか」 「そうだよな!」 俺は顔を上げて大声を出した。 そうだよな、確かに俺と古都(こと)ちゃんは男だけど、俺はしっかり本当の恋愛をしてた。本当に古都ちゃんを愛してる。 だから俺が思いきって告白して、OKしてくれた古都ちゃんを見て、てっきり両思いだと思ったのに…… 「別れたって事はお前があんまり好きじゃなかったんだな」 「古都ちゃ~んっっ!!カムバアック!!!ついでにアイラビュー!!!」 明後日の方に顔を向けて俺は叫ぶ。 「ちょっとおいで、なっちゃん」 「は?」 グワッシ。 「ちょっ!お前何処に連れてくんだよ!!」 「まぁまぁ、シットダウンプリーズ♪」 俺が座らされたのは色んなコードが絡まった椅子?の様なものだった。 「これ、何?」 「手作り嘘発見器~♪」 「ふざけろよテメー!今すぐブッコだぞ!!!」 抵抗しても腕と足が縛られて居るので意味が無かった。 「質問に答えてもらうだけだから、」 有木が真剣な顔をしてゆうもんだから、俺は思わず黙った。 「あなたはまだ古都ちゃんの事を愛してますか?」 「はい」 勿論針はぶれる訳無い。真実だから。 ってかこいつの考えてる事が分かんないなぁ。 「あなたは古都ちゃんとセックスをしましたか?」 「はい」 こいつ何聞いてるんだよっ!!! 俺は顔を真赤にした。まだニ問目だぞ!? 「嘘はダメだぞ、なっちゃん。有り得ないくらい今針がぶれてるから!」 「うっさい!したわい!!古都ちゃんも普段からは想像出来ない位よがってくれたんだからな!天使の様な顔して!!!俺のテクで!!!」 「……では最後の質問です、」 呆れた様に呟く有木。 あっ、もう質問終わりなんだ? 「あなたは古都ちゃんとセックスしたいですか?」 「いいえ!!!」 ブゥゥン!!! あぁ……今のは絶対針が壊れてた音だな。 「南~都~!」 「分かったよ!何もかも言うよ!!!」 俺は只でさえ赤くなってる顔を更に染めて大声で叫んだ。 「そうだよ!俺は今すぐにでも古都ちゃんとヤリたいよっ!!でもあんな約束しちゃった為に出来ないんだよぉ!!」 俺は半泣き状態で叫ぶ。 俺の馬鹿チン!せっかく校内美人の古都ちゃんを捕まえたのにっ!沢山のライバルもブッコしたのに!!! 「えっ?約束って?」 「俺は!古都ちゃんとプラトニックな関係で良いって告白した時に言っちゃったの!!!」 「まじですかい!?」 そうだよ!マジだよ!だからどんな色っぽい古都ちゃん見ても手を出せないんだぜ!据え膳食わぬは男の恥、と言うけど、何より辛いのは下半身だからね!!!! 「……でも、南都の本音は……?」 「しても良いならすぐにでも押し倒しちゃって唇奪っちゃってで、それからあのピンクの飾りを思う存分味わって、古都ちゃんの恥じる様な顔にも欲情しちゃって更には……」 「はい、ここまで!自主規制!」 青ざめたような顔で言う有木。 「可愛い顔して相当エロイ事を言うな、南都は」 「だって健康な十七歳男児ですもの」 にっこりと俺は有木を見る。さすがにさっきの俺のセリフには有木も顔を赤くしてるなぁ……。 「だから俺は今古都ちゃんとヤリたいし、沢山キスもしたいんだよ」 「ふぅん。……好きになったからか?」 「うん」 実は古都ちゃんに告白した時はそこまで好きじゃなかった。でも告白して、付き合う事になったら、我慢が出来なくなった。付き合える事になるまでは、セックスとかしなくても大丈夫とか思ってた。 だけど好きだからこそ、……沢山キスもしたくなるしセックスもしたくなった。もっと古都ちゃんの事を知りたいと思うし、一つになりたいと思う。だけどそんな事したら彼に嫌われるのが目に見えてるから………今まで言えなかった。 でもきっと勘付かれてしまったんだろう。 だからきっと……古都ちゃんに幻滅された。 「俺きっと、古都ちゃんに嫌われたんだ」 古都ちゃんは校内でも有名な美人。天使の様な容姿に、可愛らしい声。低い背に、柔らかい物腰。モテないはずが無い。 そんな古都ちゃんに、俺は玉砕覚悟で三ヶ月前に告白した。 そしてOKもらったのに……。 「そんな事は無いと思うぞ」 有木の言葉に俺は涙に濡れた顔を上げた。 「そう?」 「あぁ。大体嫌いな男と付き合えるか?確かに古都ちゃんはホモじゃないって公言してたけど、お前らが付き合う様になって古都ちゃんが南都の事を溺愛してるってのは有名な話だぞ?」 そんな噂あったんだ……。 「本当か?」 「嘘吐いてお前の泣き顔何か見てどうする?右手がゆう事聞かなくなるだけじゃないか。それに、……もしかしたら古都ちゃんもお前と同じ気持ちかもよ」 「それはどう言う……」 「だから、好きだから古都ちゃんもお前が欲しいじゃないのってこと!!」 「それはつまり俺が古都ちゃんを押し倒してあんあん言わせても良いって事か?」 「いや、お前が押し倒すかどうかは知らないけど……。」 「有難うな!有木!!」
おれは手足の拘束具を無理やり外して外へと飛び出してった。
「おーい、だから多分押し倒されるのはお前の方だってばぁ。しかもまだ一時間目も終わって無いってばぁ……って聞いちゃいねぇ」 有木はボそりと呟くと、肩をおとした。
「古都ちゃん!!」 バンッッッ!!! 二年三組の教室のドアを荒荒しく開けた時、俺はまだ授業中だと言う事に気付いた。 「南都……?」 真ん中の方での席に座ってる古都ちゃんを見つけると、俺はすぐに駆け寄った。 「ちょ、今は授業中ですよ!二年四組、市川南都!いくら可愛い顔でも、授業はちゃんと受けなさい!!!」 当然先生の声何て無視。 俺は真剣な目で古都ちゃんに話し掛けた。 「ちょっと話したいんだ、古都ちゃん。今、良い?」 授業中に良いもくそも無いと思うが、とにかく必死な俺の様子が分かるのか、しぶしぶ首を縦に振った。
「何の話かな?」 屋上に引っ張って来たと同時に、古都ちゃんが言った。 俺は真剣な眼差しで古都ちゃんを見詰めた。 「ごめん!」 俺はすぐに謝った。 古都ちゃんが驚いた顔をしてる。 「なっ、何で謝るの?何かしたの?」 ごめんなさい、しちゃいました。妄想の中で。 「ごめん、俺っ……!今までずっとやらしい目で見てた。古都ちゃんの事……!ごめんっ」 おそるおそる顔を上げると、古都ちゃんがやや怖い顔をしてた。 うっすらと俺の目には涙が滲んできた……。 「謝るから……っ嫌わないで」 これが俺の本音。 大好きな人に嫌われたくない一心。 「謝らないで」 しばらく無言だった古都ちゃんはいきなりそう言った。 そして俺はもしかしたら謝っても許してもらえないのかと思って目を見張った。 「許してもらえないの……?」 「違うよ!」 古都ちゃんが声を張り上げる。少し感情的になってる様だ。いつもはおとなしい古都ちゃんがこんな感情的になるのは、初めて見た。 「それだったら僕も南都に謝らないといけないよ。……何で僕が距離を置こうって言ったと思う?」 分からない振りをして俺は首を横に振る。
本当は俺に嫌気が指したんでしょう?何てことは怖くて聞けなかった。
「……じつは僕も最近、南都の事を性的な意味で見てたんだ」 「えーっ!!!!」 俺はもしや全校生徒に聞こえるかもしれないくらいの大声を出した。 性的な意味って……もしかして……? 頬を染めて少し胸元を掴んで話す古都ちゃんに、俺は何故だか嬉しくなった。 とりあえず今は理性を抑えて、 「性的な意味って……それってもしかして俺とヤリたいって事?」 こくんと可愛く首を縦に振る古都ちゃんに、俺はヤバかった。 「ごめん……。やっぱり僕南都とプラトニックな関係じゃいられないと思うんだ。だから距離を置こうとしたんだ……。そしたら少しは納まるかなって思って……」 「何で抑える必要があるの?」 俺は一気に畳み掛けることにした。 頑張れ俺。もう少しできっとヤれる。 「好き同士なら当たり前じゃん?俺だって今すぐにでも古都が欲しい。古都の何もかも知りたいし、一つになりたい」 うわぁ!今ハずい事言ったよね?もう後戻りが出来ないよっ! 好きだよ古都ちゃん!! あぁ……今顔真赤だな。 「嬉しいっ!」 「ひゃぁ!」 古都ちゃんが俺にいきなり抱き付いてきたので、俺は更にびっくりした。 「古都ちゃん……!?意外と大胆だね!俺、理性がヤバイんですけど…」 「僕も理性が飛んじゃいそうだよっ」 いや、そんなにこやかな顔で言われても……。 「ここでヤッちゃダメかな?」 古都ちゃんが俺の瞳を覗き込む。その瞳に聞かれちゃ、ね。 「まぁ学校だけど大丈夫じゃん?屋上は入る時に鍵閉めたし……」 「じゃ!やろう!!!」 そう言われたら後には引けない。 据え膳食わぬは男の恥。 まぁとりあえず今は体制が騎上位だから、俺が正常位にもっていこうとすると、古都ちゃんが制した。 「このままで大丈夫だよ」 あれ?もしかして古都ちゃんって騎上位が好きなのか?俺だけ楽なのは結構嫌だけど……。 な~んて呑気な考えが出来たのは束の間。 古都ちゃんの舌が俺の乳首に吸い付いた時に、ようやく俺は今、自分がどうゆう状況にあるのか気付いた。 「ちょっ!どこ舐めてんの!?やぁっ……」
確かに古都ちゃんは嘘を吐いてない。 ヤリたかったのは事実だし。 でも違ってたのは突っ込む方だったって事。
「ご協力ありがと、有木くん」 「どーいたしまして、古都ちゃん。どうだった?初エッチは出来た?」 「うん!おかげさまで~♪南都をけしかけてくれて有難うね!そのおかげですっかり南都がエロイ体になってくれたよ☆」 「そりゃ良かった。しかしあんたら巷でも有名だよ。ホモカップルならぬユリカップルってさ」 「あ~……だねぇ。僕も女みたいだし。南都なんか本物の女の子より可愛いし、感度良いし。」 「男どもは悲しんでるぞ?校内の美少年同士がくっついっちゃったってな」 「当たり前でしょ?あんなブ男相手にしてらんないよ。あっ……今からデートだから僕は行くね。お金は振り込んどいたから!じゃぁ~ね☆」 「ああ。」
南都の恋人を見送って俺は一人また溜息を吐く。
「……俺も南都が好きなんだけどなぁ……」
|