お互いを誘惑しなければ、タンゴはタンゴではない…。そんなことを云ったダンサーがいた。
タンゴはリーダーとパートナーが一対になって、お互いが誘惑しあう。
曲がなっている瞬間の、束の間の恋愛。
しかし、そんな幻は曲が終わっても醒めないときもある…。
真っ白な霧が晴れ、滑走で荒れた所を整える車、ザンボニーが通った後の氷が鏡の用につるつるになっていく。
冬の朝。真っ暗な時間に始めた始発から、一時間半が経ち、空が白色から澄んだ青に変わりつつあるそんな時刻。
シーズンに入るとスケート場は二十四時間営業になる。一般滑走時間と云われる、スケート場の営業時間は午前十時から午後八時までだったが、スケートの選手や、ホッケーチームの利用で収入を得ているこのスケート場。営業が終わってからの方が、人の行き来が多い。夕べも営業時間が終了して、このリンク、スケート場のクラブ…、フィギュアスケーターは大会に出るためには、スケート場の営業しているクラブに基本的に所属している。そのフィギュアスケーターが終電を迎えるような時刻まで飛んだりはねたり、回ったりと自分で滑る曲に合わせて滑っている。
冬休みになり、年末をまもなく迎えるこのシーズンは、晩秋から年末にかけて地区、ブロック、そして全日本と段階を経て行われていた大会もある程度落ち着きを見せていた。最近では体力強化も含めて、参加している年齢は様々だったが、それでも、学生選手が基本的には多く、皆、冬休みになり、それこそ、昼と夜と無く練習する選手も少なくなかった。
そんな様々な生徒を抱えながら、コーチになってまだ二年しか経っていない森沢瑞貴は、まだまだ戸惑うことが多かった。
小学校に上がってすぐ、フィギュアスケートを見ることが大好きだった母親にこのリンクの子供のスケート教室にたたき込まれ、気が付いたら学校に行かないときは、スケート場か、家で休んでいる時…、そんな生活を送っていた。基本的に世界を目指すアマチュアの大会は、よっぽどの成績を残さない限り、大学を四年行って卒業すると選手を引退する。大学を四年行ってと云うのは、大学で選手として登録を出来るのは、四年と規則で決まっている。大学で活躍するスポーツ選手の多くが、当然学科をこなす時間が合ったら、練習をする。だから留年している選手が多かった。そんなところから、大学の選手として登録は四年と決まっていた。
瑞貴もそんな例に漏れず、大学を四年行って選手を辞めた。しかし、スケートを中心にしていた生活していた瑞貴は、就職も出来ず、そのまま習っていたリンクに通いバッジテストで八級を取ってインストラクターとなった。
スケートの選手の一部だったが、瑞貴みたいにコーチになったりする。他にスケート関係の職業だと、過去選手だった人は、ジャッジになったりする。瑞貴同じ時期に共に氷の上にいた、アイスダンスをやっていた高崎奏は、インストラクターにならずジャッジになっていた。
フィギュアスケートは滑れるレベルを判断するために、初級から八級まで級に別れている。地区予選があるが、全日本選手権と付く大会に出るためには七級で過去に伊藤みどりで話題になった三回転半までは飛べなくても、様々な形があるジャンプが一通り、三回転飛べないとその級は取れない。そんな級の判断や、大会で選手の順位に点数を付けるのが、奏がやっているジャッジと云う仕事だった。
同じ時期にスケート教室に入った奏も瑞貴と同じく、母親がフィギュアスケートファンと云う理由で、リンクに来た。奏がまだアイスダンスに転向するまでは、いつもジャンプやスピン、そして大会でも良きライバルだった。
お互いが高校に上がった年、コーチの進めで奏がアイスダンスに転向するまでそんな関係が続いていた。シングルと云う一人で滑る種目をやっていた瑞貴と、アイスダンスと云うパートナーと滑る奏。
時間がすれ違い、話しをする時間が無くなり、そのまま縁が遠くなるのかと思うと瑞貴はその思いに耐えられなくなった。
ペアスケーティングと違って、男女の身長差が必要とされないアイスダンス。
奏のパートナーは、彼の身長よりも五センチ低いだけだった。それをいいことに、パートナーがいないときに、正確なエッジワークの練習と称して、わざとパートナーの変わりを買って出た。インとアウトと二枚の刃で靴を支えているフィギュアスケート。その刃に体重をかけるからその重力で氷が溶ける。それを使って滑っているのがスケートだったが、その中でもアイスダンスは、ジャンプやスピンなどをしない変わりに、どちら側の刃に乗るか、そして、それの倒す角度で技の難易度や正確度が競われていた。もちろん刃を深く傾けるだけではなく、アイスダンスは毎年決められた規定の曲に乗って、決められた振り、ステップをこなさなくてはいけない。アイスダンスは規定書で決まったステップを正確で克つ個性的にこなさないといけないコンパルソリーダンスを二パターン。例えばタンゴなどの規定のテーマで、個性的にかつ正確に滑らなくてはいけないオリジナルセットパターンダンス。そして、自分たちの個性を最大限に生かし、かつ正確に滑るフリーダンスと三種類の順位が高い方が、勝ちと評価される。
昔は、エッジの正確さを問われたフィギュアスケートだったらしいが、技の難易度が上がり、バッジテストの課題が技中心に変わると、その練習よりも技を磨くようにしていた。もちろん練習のメソッドの中には、正確なエッジワークもあるが、それでも、そう多くなかった。しかし、ダンスの規定はシングルやペアを目指すもののバッジテストの課題にも使われている。
それを勝手に自分に理由付けて、瑞貴は奏と一緒に滑るようになった。
実際コーチが進めるだけあって、奏のスケートはエッジの角度も正確だった。瑞貴は感心しながら、男同士などあり得ない練習のパートナーと云う立場を本音では利用していた。もちろん、奏のパートナーの女性にじゃまにならない程度に…。
特に情熱と不得意とする日本にの例に漏れない奏は、上品に踊るワルツは得意だったが、感情を表現するタンゴや、ブルースが苦手だった。アクロバティックな大業はこなせても、感情の面で付いていけない。
奏は、正確に振りを踊りきることはできるが、それ以上は面白みのある踊りが出来ない。奏カップルが全日本選手権の全国の大会に行くことはできるが、そこで上位に食い込めずないのが、そんな理由からなのかもしれない。もちろん別の理由ではあったが、瑞貴も全日本の全国大会の上位十位無いが限界だったが…。
けれど、瑞貴は奏にはタンゴが苦手で少しだけ良かった…、そう思っていた。
反対に瑞貴は力強さで恋愛を押し切る、そんな振りが得意だったのもあるが、曲がかかっている数分間の疑似恋愛のようなタンゴ。共に一つの曲を作り上げている瞬間、自分は奏の本当のパートナーでなくともいい。そう思えるようになっていた。
それを良いことに、瑞貴はコーチに奏のように繊細なスケートを勉強したいと云って一緒に滑る許可をとることができた。本音では、奏を押し倒すようなリーダーとして踊りたかったが…。それでもコンパルソリーダンスは時に、男性用ステップと女性用のステップの規定が違うようで、途中から、男女のステップが逆転するだけなものも多かった。アイスダンスは社交ダンスのように、男女の組み方がしっかり別れている訳ではなく、ただ対照的ななった組み方もあった。もちろん、振りの多くはパートナーの女性を美しく見せるように作られていた。それでも時々、瑞貴は奏を自分の腕でリードしているそんな気分になっていた。
数分間の疑似恋愛。そして疑似恋愛は本当の思いに変化するのに時間をそう要さなかった。
高校二年、スケートクラブにて行われた夏の軽井沢合宿の時、瑞貴は奏を合宿所の裏の、誰もいない白樺の林に行き、思いを打ち明けた。
『お前とずっと一緒にいたい…』
奏は瑞貴の言葉を聞き、一瞬驚いた顔をした。しかし、次の瞬間頬を染め小さく呟くように口を開く。
『お、俺も…』
ファーストキスでは無かったが、奏と交わす初めてのキス。
自分の言葉通り、奏と一生一緒にいると信じていた。
それから、スポーツ推薦で同じ大学に決まると、瑞貴は、奏と一緒に暮らし始めた。
2DKの中古の部屋。親への建前を考え、別々に部屋を用意していた。
今までの合宿と違って二人だけの空間。
大学に入っても、瑞貴も奏も、スケート場と学校と家の往復は変わらなかったが、引っ越して来た初めて二人ですごく晩、練習が終了し、帰ってきた瑞貴は、先に帰宅していた奏の部屋に行った。
ノックをする。
『入っていい?』
『どうぞ…』
これから何をしたいか想像してつきない瑞貴は、自分が緊張している所為か、奏の声が緊張で震えているように感じられた。
ノブを掴み、ドアを開けると、それが事実なのだと知る。
普段着の奏は、リンクで逢う格好ではなく、薄い青色のボタンダウンのシャツに、濃い青色のジーンズをはいていた。奏はスケートをやっているが、ダンスと云う競技の所為か痩せてほっそりとしている。その躯に青の服がとてもよく合っていた。
『やあ、今日は早かったんだね…』
瑞貴が言葉を探しながら訊ねる。奏は手にしていたシャープペンシルを机に置き、瑞貴の方を向いた。
『ああ、今日はシングルの選手の練習日だからね…』
『そうか…』
大学に上がると、奏の相手をする時間は減ると自覚はしていた。奏もいつまでも瑞貴とパートナーとを相手に練習をしていられないだろう。それに、瑞貴自信もスポーツ推薦で大学に入った以上、先輩などの目もあったから…。
瑞貴は、段ボール箱もすでに置かれていない奇麗に片づけられた部屋をぐるりと見渡し、それから勉強机に向かい教科書を開いていた奏に視線を動かす。
『勉強中?』
『え、ああ。スポーツ推薦とは云え、今のうちにきちんとやっておかないと、テスト…、大変そうだし…』
『うわ、まじめ!!』
勉強すると云うこと自体をまったく考えていなかった瑞貴には、あまりにまじめな奏の言葉に驚いた。確かにスケートの時もそうだったが、生真面目で全てを正確にこなそうとするのが、奏だった。
そういえば、スケート場に設けられた男子のクラブ室でも、奏が教科書を開いて勉強する姿を見たことがあった。高校までまったく違う学校に行っていた瑞貴。瑞貴は、スケートに追われながら勉強している学校での姿がまったく浮かばずに、少しだけ腹が立った。
それでも、自分のことばに少しだけ顔をしかめた奏を見て、瑞貴は慌てて補足を加える。
『でも、そうやって勉強している方が、奏らしくていいかな…』
奏は一回小さく口を開くが、言葉を発さなかった。
自分から話し始めることが苦手な奏は、応えられなくなるとすぐに口を塞いでしまう。もちろん、口を引き結んでもの言いたげな視線を送っている奏を可愛いと、わざと返答に困る言葉を選ぶのは瑞貴だったが…。
瑞貴は困って口を閉じたまま上目づかいに自分を見つめる奏が、椅子を自分の方に向くように回してから、背もたれごと抱きしめた。
『なんでそんなに…』
『な、何?』
優しい視線を向けながら、奏が小首を傾げた。瑞貴は顔を真っ赤にさせ、顔を背けながら呟く。
『か、可愛いんだ…』
恥ずかしそうに奏も頬を赤らめると、ここから瑞貴から逃れるように、そっぽを向く。
『ば、ばか…』
恋愛だと感じた。
タンゴを踊っている時のような情熱的なものではなかった。それでも心の中で小さく灯る炎がはっきりと瑞貴には判った。
あまりに可愛い仕草を見せるに嘆息した後、瑞貴は奏の口を自分の唇で塞ぐ。
初めて奏と唇を交わしてから一年半。ことあるごとに、唇を求め合った。
少し薄目で触れた瞬間緊張からか、冷たくなっている奏の唇。瑞貴は奏の唇を温めようと何度か舌でなぞる。しかしそれでは足りないとばかりに、奏の唇が開かれ、舌が瑞貴を絡め取った。
口元からどんどん上がっていく体温は、冷たかった奏の唇や、躯へ燃えるような熱情をもたらす。先ほど小さく灯った炎が、激しく欲情と云う言葉へ思いを燃えたぎらせる。
触れ合う手は、ダンスを踊っている時の決められたものではなく、相手を求めるものへと変化していく。
机とベッドを置くと一杯になる狭い部屋。
瑞貴は奏を椅子から立たせると、肩を抱いて、ベッドへと導いた。そして、奏の体重を支えながら、ベッドへ仰向けに寝かす。それから、奏にまたがるようにベッドに乗ると、上か先ほどの口付けで赤くなっている唇に自分の唇を落とす。
静かに瞳を閉じ、唇をノックする瑞貴の舌。それを口を微かに開け、絡める奏。奏は口付けに様に、瑞貴の首に両腕を回し、口付けを楽しんでいる。
瑞貴は奏のシャツのボタンを、口付けをしたまま離さずに外していく。
素肌に着られた薄青のシャツ。肌の体温を確かめながら、瑞貴は奏の肌を手でなぞっていく。そして、胸の小さな実を探し出すと、指で何度かなぞった。
『あっ…』
奏の口が瑞貴から離れ、変わりに触れられた部分に対しての羞恥と驚きを伝える声が聞こえてきた。瑞貴は奏の唇を確かめるように触れるだけの口付けをした後、躯を下げて触れられて尖っている胸の飾りを口に含み、舌で転がした。
躯を微かに振るわせながら、瑞貴から逃れようとする奏。
『くすぐったいよ、だめだよ…』
『じゃあ、ここは?』
少しだけ意地悪さを感じる声を出しながら、瑞貴は舌で胸の粒を転がしながら、素早く奏のズボンの前をくつろがせる。
『えっ…、み、瑞貴…』
自身を直接瑞貴に触れられ、奏は明らかに戸惑っている…、そんな声を出した。しかし胸に触れたときよりもこれから行う行為を自覚したのか、逃れようとはしない。
多分このまま無理に躯を開いたとしても、反論をせずに奏は自分を受け入れてくれるだろう…。上手くいかないとき、一人で歯を噛みしめながら練習していた奏の姿を小学生の頃からみていた瑞貴には容易に想像が出来た。だからこそ、大切に抱きしめたい。そう思えてならなかった。
屹立し始めた奏自身を瑞貴は扱きながら、快感の炎を燃えたぎらせていく。瑞貴のもたらす官能になすがままだった奏だったが、瞳を一瞬きつく閉じ、自分に流されないように呼吸を整える。そして、まだゆるんでもいない瑞貴のズボンに手をかけてその中から、快感の原点を握った。
『ぁ…』
いきなり自身を奏にさわられ、驚きよりも官能の吐息が瑞貴の口から漏れた。形を立体的に作っている瑞貴の中心は、奏を求めていることをはっきりと語っている。
もどかしさを隠しきれず、真っ赤に尖った部分から唇を離し瑞貴は、自分の足で奏が履いていたジーンズと下着を一気に足から抜き取った。
『あぁ…』
普段は表に出ることのない秘めたる部分が、露わになり、奏からは反論を伝える声を上げた。しかし、慌てて暴れている奏を抑えると、両足を自分の肩に乗せ、その谷間から瑞貴が微笑む。
『文句を云ってもダメ…。奏が火を付けたんだよ…』
顔を真っ赤にさせ、奏は羞恥に震えながら顔を横に背ける。奏の何気ない仕草が、また瑞貴の欲望を強くする。
奏によってくつろがされた瑞貴のジーンズのポケットに入れておいた乳液を取りだす。普段瑞貴が使っている乳液だった。瑞貴は微かに甘い匂いのする液体を片手のたっぷり取ると、重い袋の先に隠れている部分に塗りこんでいく。
『つ、冷たい…』
普段直接は、あまり自分でも触れることの無い部分に、プラスチックの瓶から出されたままの液体が触れ、奏は思わず顔をしかめた。震えながら眉間に皺を寄せている姿をなだめるように指では秘めたる場所を撫でながら、奏の額に口付けをする。
『大丈夫…、心配しないで…』
瑞貴の言葉に瞼を強く閉じ震えたいた奏は、目を開けて微かに微笑んだ。
可愛い奏を見ると、瑞貴は、焦らずにゆっくり大切に愛していきたいと感じないわけには行かなかった。そして、自信に焦らないようにゆっくりと息を吐くと、蕾んでいる部分が花を開かせるまで、無理に指を入れたりせずにじっくりとまった。次第に指すら押し出すくらいにかたくなだった奏の蕾が、第一関節を、そして筒の中で動かせるほどになじんでくる。そして、中指を飲み込めるようになった奏は、自分の中で蠢く感覚に酔い始め熱い息をもらしてくる。瑞貴は意地悪く奏が一番大きく反応している部分を指の腹や、爪でいじる。すると奏の口からは息だけでは無く、はっきり喘いでいると判る声が漏れる。それはさっきの羞恥でも苦痛でもなくはっきりと艶やかな色を感じるそんな声だった。
『ここ? 気持ちいいの?』
意地悪く訊ねる瑞貴の声と、あまりに与えられる快感に素直な躯に狼狽えながら、奏は生理的な涙を一筋流しながらうなずく。奏が萎えないように自分の腹にぶつかるように自己主張している部分を達さないように扱きながら、指を二本に増やす。そしてどんどん指に絡みついてくる皮膚を和らげ瑞貴自信を受け入れる準備をする。
まだ瑞貴の中心で猛っているものでは奏を傷つけてしまうかも知れない…。そんな不安を感じながらも自分の限界を感じた瑞貴は、奏の先端で笠を広げている部分を撫でてやる。
『あ、ぁあ、み、瑞貴…』
足元で折り畳まれた掛け布団を蹴り、奏が身悶える。快感の波にどんどん飲み込まれていく奏を確認し瑞貴は、素早く指で一気に広げると自身の先をその部分に飲み込ませていく。
『う…、あ…っ…』
いきなりの振動に奏の口から恐怖と苦痛を訴える声が漏れる。しかし、一旦快感の在処を教えられた場所は引きつりながらも瑞貴を受け入れ、ゆっくりと動く動きに新たな官能を伝えていく。
しばらくすると今までと異なった奏の喘ぎ声が瑞貴の耳に届いてくる。
抱きしめ合うことや精を共有することが瑞貴には最終地点だとは思わなかった。しかし、こうやって二人の人間が躯を繋げることで、まるで一人の人間なのだと感じられるのが、瑞貴にはとても嬉しかった。
奏の中で自身を打ち付け精を吐き出しながら、そして自分が吐き出す快感を受けて、愛しい人物が達する姿を見つめ、瑞貴はこの幸せを感じずにはいられなかった。
『奏、いつまでも一緒にいよう』
練習でかくものとはまったく別の感覚の汗をかきながら、荒い呼吸のまま瑞貴は奏に囁いた。
奏も呼吸を整えながら恥ずかしそうにうなずいた。
しかし、奏は大学を卒業すると、瑞貴と生活を共にしていた部屋を出ていった。
別に浮気をしたわけでもなく、インストラクターとして残る瑞貴と、それに育てられた選手を評価するジャッジと、お互いに進む道が異なったせいだった。
大学生としての最後の試合を終えた翌日、奏が実家に戻ると云うのを、瑞貴は止めようとも思わなかった。
そして小学校から大学四年まで目指していた夢が壊れた瞬間、奏とも離ればなれになっていった。
あれから二年。
冬の朝。
自分が滑るためではない氷を見るのが当然になってもう二年。森澤瑞貴は氷の降り口で他の年輩のジャッジとこれから行われるバッジテストの予定を話している奏と再会した。
Fine
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