「うーん・・どうしよっかなぁ・・・」
縦に長い紙きれとにらめっこ。
今日は七夕。
願い事、何にしようかな・・・。
毎年、ゆうのお母さんが大きな笹をもらってきてくれるんだ。
小さい頃から、その笹に短冊を吊るしてお願い事してた。
今年ももちろんやるよ。
「んー・・・・」
小さい頃は何でも書けた気がする。
何を書いても許されてたような感じ。
叶う保障はなかったけれど。
だから今、ある程度の事が自分で叶えられる年齢になった今、
何をお願いするかよけい迷う。
窓の外を見ても、雲が邪魔をして星が見えない。
織姫と彦星、会えないのかなぁ・・・。
一年に一回しか会えないなんてかわいそうだよな。
好きな人と・・一年に一回、か・・・。
何か考えたわけじゃなかったけど、手が勝手にペンを走らせていた。
黄色の短冊がその役目を果たす時がきたみたいだ。
「ゆーぅ、もう短冊書いた?」
外に出てもゆうがいなかったので電話で呼び出した。
夕方すごい雨が降ってたから、笹は今から外に出すみたいだ。
「何て書いたんだ?」
「ゆうは?」
「内緒」
「じゃあ俺も内緒」
お互い、少し離れた場所に自分の短冊を吊るした。
「曇ってるな・・」
「うん・・・織姫と彦星、会えないのかな」
大きな笹の下で、雨の後の少し冷たい風を頬にうけながら、空を見上げた。
「・・・俺たちの見えないところで会えてるかもな」
ゆうが、笑った。
「あ、いいなぁそれ・・・・・。ゆうってば、意外にロマンチストだな」
「・・・好きな人にはいつでも会いたいだろ」
そう言うと、ゆうは俺の肩を抱いた。
優しく、包み込むように。
「俺・・願い事・・・」
「ん?」
「願い事、ゆうに聞いてほしい・・・今日は星が見えないから・・・」
優しい目が、驚きの色を見せる。
「俺に?」
「ん・・」
ゆうの部屋に上がって、窓を開けた。
笹のてっぺんが少し下の方に見える。
「げん・・・」
二人っきりの時、俺はゆうに名前を呼ばれると何故か恥ずかしい。
あんまり恥ずかしいから、顔を隠すためにゆうの胸元にしがみつく。
そしたら背中をさすってもらえるんだ。
安心するんだけど、ドキドキする。
「願い事・・何?」
抱き合ってるから、お互いの顔が見えない。
ゆうが今、どんな表情をしてるのか分からない。
「・・・・・・げん?」
「・・・ゆう・・・」
「ゆうと・・ずっと一緒にいられますように・・・」
ゆうのお父さんが倒れたり、俺たち二人の関係がよく分からなかったり
時間が嵐のように過ぎていく。
そんな中で置いてきぼりになりそうな自分。
それに気付いてくれるのは、きっとゆうだけ。
「・・ん・・・・・・・」
どちらからともなく、キスをしていた。
甘くて、全身がとろけそうな時間。
今のゆうは、きっと優しい顔。
「ゆうは・・?」
「俺?」
「ゆうの願い事・・・」
おでことおでこをくっつけて、もう一回キス。
俺から離れた唇が言った言葉は・・。
「ありがとうが言えますように」
それを聞いた瞬間、ゆうの事をもっと好きになれそうな気がした。
「言葉が足りないって自分で思うから・・」
「そんなことないよ・・ゆうが優しいの、俺知ってるよ」
「・・・・・ありがとう・・・」
「・・あ、言えたよ」
その後ゆうは何も言わずに、にっこり笑った。
ありがとうの気持ち、伝わってるならそれでいいと思う。
ゆうは言葉にするのが苦手だけど、気持ちを伝えるのは上手なんだから。
「げん・・・」
「ゆう・・・」
お互いの名前を呼んで、見つめ合ったら何も言えなくなった。
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