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 (別れ 先生 生徒 キス/--)
雪別(せきべつ)


例年通り、この街にも深い雪が降った。

滑らないように注意しながら、住宅街の雪夜道を2人で歩く。
かじかんだ左手はポケットに、右手は隣へ伸ばす。
宙をふらりとさまよった右手は温かな手で握られた。
思わず笑みがもれた。
温かい。



「ねぇ、先生」
「ん?」

自分より上から降ってくる言葉は低く柔らかい。

「この降ってくる雪がさ、全部花びらだったらいいと思わない?」
「意外とロマンチストだね」
「全部花びらだったら冬だなんて感じなくていいかもね」
「冬嫌いなの?」
「大好き」
「なにそれ」

2人でクスクスと笑う。
寒くて凍えそうな日にも2人でいられれば幸せだった。
こんなにも温かな気持ちでいられるのだから。

「先生、ピンポンダッシュしようか」
「本気?」
「本気」

ニヤリと笑って見せる。

「じゃあどの家にしようか」
「うわぁっ、先生ノリ気だよ」
「まぁね」
「あの家がいい」

手は繋いだままで。
2人で適当な家の前に立った。

「ついでに逃げる時先生のアパートまで先に着いたほうが勝ちだから」
「えぇ?」
「文句なし。いくよ」

そこで繋いだ手を離した。
少し寒くて、少し寂しい。

「よーい…」

じりじりと逃げる準備をしながら指先を近づける。

「…どん!」

ピンポーン、とのんきな音が響いたと同時に駆けだした。
寒くて耳が痛い。
するとドサリという間抜けな音が後ろからした。
振り返ると彼が雪に頭から突っ込んでいる。

「先生何やってんの!もしかしてコケた!?」
「もしかしなくてもコケた!いいから先行け!」
「アハハハハ!」



振り返らずに、何度も滑りそうになりながら走った。
肌が寒さで刺すように痛かったが、気がつくと目的地のアパート前。
合鍵で中に入っても外と変わらず寒かった。
電気もつけず、驚かしてやろうと毛布を玄関先に引っ張って
頭から被っていると玄関が開いた。

「あ、バレた。驚かそうと思ったのに」

笑いかけたのに、無表情で立ったまま。
強い眼差しで見つめられる。
何か喋ってほしかった。
何か。
笑みを消して手を伸ばす。
向こうからも手が伸びて、絡めあって。
抱き寄せられて温かかった。
かすかにふれた唇はしだいに深くなった。
息が荒くなって苦しくても2人はやめなかった。

「せん、せ…」
「喋るな」

不安で。
何か喋ってほしい。
口づけは首筋へと移り、深い吐息がもれた。

「先生…今日は抱いてくれる?」

首筋から唇が離れて紅い痕だけが残ったが、返事はなかった。

「今日で終わりなんでしょ?」

見ないでほしかった。
やめないでほしかった。
否定してほしかった。

「ごめんな」

もうとっくに分かっていたこと。
けどそんな言葉を聞きたいんじゃない。
分かっていたけど、それでも別の言葉を望んでいた。

「やっぱりこんなの駄目だったんだよね…」

奥から一滴だけ涙が流れた。
一滴だけ。
頬を伝って流れた。

「ねぇ…先生、もし奥さんより先に出会えてたら、ずっとこのままでいられた?」
「…かもな」


嘘つき。

涙を拭ってくれるその手は震えていて、声さえも湿っていて。

別れたくない、という言葉を呑みこんでこらえた。

「別れたくない………」

そんなこと言わないで。

「無理しなくてもいいよ、先生」

自分の声も震えていた。
抱きしめられて、温かくも震える体が伝わってくる。
涙をこらえて首に手を回す。

「先生のこと、ずっと……」

言えない。
言葉には出せなかった。

「あいしてるよ」

なのにどうしてあなたはそんな簡単に言うの。

「奥さんによろしく。ついでに今度生まれてくる子どもにも」

どうして。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
もう、考えても仕方のないことだけど。

「もう、行くね」

最後に軽く口づけて、振り返らないように玄関を出た。
合鍵をポストに落とすと、冷たい音だけが響いた。



雪がちらちら降っていて、まつげにも積もった。
その雪も体温で溶け、涙と一緒に頬を流れた。
涙は溢れて止まらなかった。
寒さで凍ってしまいそうで、必至で拭った。

こんなつらい想いも、雪で埋もれてしまえばいいのに。




雪がいつか溶けて空へと帰る、その時には、花は咲いているだろうか。

「おもいっきり季節ハズレで申し訳ありません。」
...2005/6/25(土) [No.215]
ミズキ
No. Pass
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