「次アレ乗ろーぜ!あ・・あれ?太陽?」
先月オープンしたばかりのテーマパーク。
テレビや雑誌でも紹介されてて、1ヶ月経った今でもすごい盛況ぶり。
「・・大丈夫か?」
少し青い顔を伏せ、頭の上で手をひらひらさせて返事をする太陽。
絶叫マシン系苦手だなんて知らなかった。
ちょっと意外。
「あっちのベンチで休もう」
「わりぃ・・」
ベンチは木陰になってて気持ちいい。
風もそよそよと吹き込んできて、絶好の休憩場所。
「ジュース買って来るから・・待ってて」
「やだ」
「な、何言ってんだよ。気分悪いんだろ?何か飲んだ方が・・・」
俺の肩にもたれかかったまま、その体重を移動させようとしない。
ちらりと横目で俺の方を見て、ぽつりぽつりとつぶやいた。
「今日は・・・ずーっと一緒にいるんだからな・・。ずーっと」
「風馬・・・ひざまくら、して」
「ん?」
「ひ・ざ・ま・く・ら。して?」
ばっかじゃねーのと言ってやりたかったけど、さすがにこの状況では言えない。
横になりたいのは冗談でも何でもないだろうから。
「ん・・ちょっとだけだぞ」
「わーい♪」
俺は座る場所をずらして、太陽の頭をひざに乗せた。
無造作にハネた茶色の髪が静かに揺れる。
いつもはランランと輝いてる瞳が、今はその輝きをひそめている。
ひざの横に置いてた俺の手はいつの間にか太陽に奪われていた。
「・・・風馬」
「・・・何?」
下からじっと見つめられると、心まで覗かれてるように感じる。
太陽の視線が身体中にまとわりついて離れない。
「耳に・・何かついてる」
「え?耳?」
「違うよ、そっちじゃなくて・・・」
いきなり太陽の手が伸びてきて、頭をつかまれた。
そのまま下にぐいっと引っぱられて、キスされた。
「ば・・馬鹿!何すんだよ!」
「あんまり美味しそうな唇してるから、つい」
へへっと笑う顔に、少しだけ安心する。
「・・・・・・大丈夫・・・なのか?・・・・・・・そんな冗談言えるってことは」
「うん・・・ありがと、風馬」
「やっぱコレだよな~」
すっかり元気になった太陽は、目の前の巨大な観覧車を指差した。
「・・・・・・・乗るの?」
「当たり前だろ~。ほら、行こうぜ」
受付のお姉さんに変な目で見られたが、太陽はそんな事気にしない。
あっという間に小さな密室で二人きりになってしまった。
どんどん下に吸い込まれていく景色を見ながら、ちらっと前を見た。
俺の向かいに太陽が座っている。
俺と同じように景色を見ていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
何故か二人とも無口になって、妙に照れくさい。
太陽の横顔。
いつも真正面からしか見ないから、新鮮な気分。
沈みかかった陽に照らされてまぶしそうに目を細めてる。
その仕草ひとつひとつにドキドキしてる俺。
気付いたら太陽の方ばかり見ていた。
「風馬、そっち行ってもいい?」
「・・え?」
俺の視線に気付いたのか、横を向いてた顔が突然こっちを向いた。
返事を聞かずに、俺の隣へ移動してくる。
「よいしょっと」
「あ・・・ちょっと・・・・近いって・・・」
太ももをぴったりとくっつけられた。
「いいじゃん。ほら・・もっとこっち来て」
それから腕、肩、手もくっついてくる。
触れられてる部分が熱い。
「風馬」
ほっぺたまでくっつけられて、思わず肩をすくめる。
太陽の目線が、こっちを見てる。
「な・・・何だよ」
俺は恥ずかしいから目を合わせない。
「てっぺんに着いたらキスしよっか」
えっ、と思って太陽を見ると急に視界が閉ざされた。
抱きしめられて、目の前が暗くなったんだ。
「ここなら誰も見てないし・・いい?」
さっきもしただろなんて思いながら、心のどこかで嬉しくなってる。
俺は返事の代わりに太陽の背中に手を回した。
だんだんと頂上が近付いてくる。
二人して抱き合って窓の外を見ていた。
じれったいような、でもまだその時がこなくていいような、複雑な気分。
「風馬、てっぺん着いたよ」
「うん・・」
あごをくいっと持ち上げられて、少しの間見つめ合って、
太陽が目を閉じたのを見て、俺も目を閉じる。
それが太陽からのキスの合図。
「ん・・・」
やわらかくて、あったかくて、身も心もとろけてしまいそうになる。
チュッという音がこの小さな密室に響く。
言葉にならないくらい恥ずかしい。
カッコつけなくせに、人前で堂々と俺の手を握って歩く。
自分勝手で、俺の気持ちも考えない。
太陽でいっぱいの俺の心に、また無理矢理入ってこようとしてるんだ。
俺、悔しいけど太陽のこと大好きだ。
「太陽・・・」
「ん?」
「・・また・・・・来ような・・」
返事の代わりに、優しいキスが落ちてきた。
|