「祭り?」
「俺の地元で祭りあるんですよ。行きましょうよ♪」
蒸し暑い夏の午後。
昼休みに五十嵐が俺のクラスに来た。
「いつ?」
「今日です」
「えらく急だな・・・・」
でも祭りは好きだ。
「行く」
「ホントですか?あ、じゃあ夕方電話しますね」
夏祭りなんて何年ぶりかな。
中学の時に友達と行ったきりだな・・・。
日も暮れてきた頃、五十嵐から電話があった。
「あ、先輩?今から迎えに行きますから!」
「あ・・うん」
その元気な声に、少しだけわくわくする。
アイツも楽しみにしてんだ。
「せんぱーい」
家の外で待ってると、五十嵐が走ってきた。
「そんなに急がなくても・・・・・大丈夫か?」
「はぁ・・はぁ・・・・・早く・・先輩に会いたくて・・・へへ・・」
思わず頬が緩む。
こんな恥ずかしいセリフ、俺には言えない。
「さ、行きましょう先輩」
部活の帰りみたいに、くだらないコト話してたら提灯の灯りが見えてきた。
「着きましたよ、先輩」
「うわ・・すっげ~」
あたりは人、人、人。
こんなにデカイ祭りがあったなんて知らなかった。
「先輩、こっち」
ぐっと手を掴まれる。
手でもつないでないと絶対はぐれるだろう。
でもやっぱ恥ずかしい。
「先輩!どれが欲しいですか?」
目の前には射的のゲームがあった。
「ん~・・・どうせならあの真ん中のおっきいヤツとか」
「よーし、見てて下さいよ!」
「あーくそ!もう一回!!」
「次絶対とるぞ!」
「よっしゃー!!」
ギャラリーができるほど、五十嵐の白熱ぶりはすごかった。
「はい、先輩」
「え・・いいのか?お前がとったんだろ?」
見事ゲットした景品を、俺に差し出す五十嵐。
「俺からのプレゼントってコトで」
「・・・・・ありがと」
「あ、金魚すくい!先輩、俺ウマイんですよ!見てて下さいね」
おっちゃんにお金を払うと、アミを持ってはしゃぐ。
近くに居た子どもと一緒に夢中になってる。
「わーにぃちゃんすげー!!」
「オレにも一匹くれよ~」
「いいよ、ほら」
「えー出目金じゃん!!」
ホント、子どもみてぇ。
「はい、先輩」
差し出されたのは、たった一匹の真っ赤な金魚。
「他のヤツ、みんな子どもにとられちゃって・・・」
へらっと笑う顔が、何故かめちゃくちゃ気になった。
「ん・・・・・・ありがと」
すっかり日も落ちて、祭りも終盤にさしかかった頃。
「こっちにいい場所があるんですよ」
ますます多くなった人の波をかきわけながら、暗闇の方へ進んだ。
「こっから花火がよく見えるんです」
「・・・・・・・五十嵐・・・・・・・」
「はい?」
五十嵐にもらった射的の景品と、一匹の金魚が入った袋のヒモを握り締めた。
「・・・・・・・・・ありがと・・・」
こつんと五十嵐の肩に頭をのっける。
夜だったし、周りに誰もいなかったから少し開放的になってたのかもしれない。
「先輩・・・・・・・・」
最初の花火とともに、予想してた抱擁。
持ってた金魚を落としそうになってしまった。
「好きです・・・先輩・・・・」
「うん・・・・」
「誰よりも・・何よりも好きです・・・・・・」
「うん・・・うん・・・・」
耳のあたりに息がかかる。
「馬鹿・・・・・息荒いよお前・・・・あ・・・・・・・・・・んぅ」
頭の後ろを手で押さえられて、キスされた。
「せんぱい・・・・」
キスしながらも舌ったらずに俺を呼ぶ。
「や、やだ・・・はなし・・・・・」
「十哉・・」
名前で呼ばれるともう駄目だ。
抵抗する気もなくなった。
飽きもせずに何度もキスをしてくる。
頭がくらくらする。
袋の中の金魚が暴れてるのが分かる。揺らしてごめん。
最後の花火が上がった瞬間、逆光で五十嵐の輪郭がくっきりと見えた。
ヤバイ。
カッコいい。
それからしばらく、ずっと抱きしめられたまま何もない夜空を見上げた。
スポーツ刈りの触り心地のいいツンツン頭を撫でてやる。
すると抱きしめる力が強くなった。
気が付いたら、金魚が入った袋は地面に落ちていた。
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