「散歩?」
秋の夜長。時計は23時をまわっていた。
そろそろ寝ようかと布団にもぐりこんだ時、突然携帯が鳴った。
太陽からだった。
「そ、散歩。行かない?」
「散歩って・・・今からか?」
「うん」
突拍子も無いことを言うのはコイツの性格上、よく分かっていたけど・・・。
何だっていきなり散歩なんだよ。
「今から迎えに行くから」
「え?お、おいおい、ちょっと待っ・・・・・・」
電話を切られてしまった。
散歩に付き合うハメになってしまったようだ。
10分後。
そろそろ太陽が来る頃だ。
家の外で待っててやるか。
「た、太陽・・」
「おぅ」
玄関のドアを開けると、既に太陽がいた。
「今電話しようと思ってたトコ。んじゃ、行くか」
その言葉と共に差し出される大きな手。
「何だよその手は」
「何って・・・手、つなぐんだよ」
当たり前のことみたいにさらりと言われた。
「や、やだよ」
「こんな時間じゃないと手つなげないじゃん、ほら」
半ば強引に手をつながされた。
最初は恥ずかしかったけど、こんな時間だから人通りもなく、次第に
手をつないでることが自然になっていった。
「太陽、ドコ行くんだ?」
「ん~?散歩だから、そんな遠くへは行かないよ」
Tシャツにジャージにサンダル。
俺も似たようなカッコだったけど、やっぱ太陽は何着てても似合う。
そんなこと言ったら調子乗るから絶対言わないけど。
大きな河川敷に出た。
ここはいつも通学の時に通る場所。
「座ろ、風馬。おいで」
つないでた手を少し引っ張られる。
太陽が腰掛けたその横に俺も腰掛けた。
ひんやりした草むらが気持ちいい。
涼しい風がススキをしならせる。
半袖だからちょっと寒い。
「寒い?」
「あ・・」
肩を抱き寄せられる。
普段なら慌てて振り払うけど、こんな時間だし周りに誰もいないのは分かってるから
太陽の腕を受け入れた。
「風馬いいにおい」
「ん・・風呂入ったから」
髪に顔をうずめてくる太陽。
太陽こそいいにおい。
何となく甘ったるい雰囲気になってしまう。
こんな時に限って考えてしまう。
これからもっともっと太陽のことを好きになったら・・・
太陽が離れていく時、俺どうなっちゃうんだろう?
そう考えたら、自分にブレーキをかけてしまう。
本当は好きで好きでしょうがないのに。
「風馬?」
「あ・・ごめん」
自然と、太陽の服を掴んでた指に力が入る。
「どうした?」
優しく、太陽が俺の髪に指を絡めてくる。
「・・・何でも・・ねぇよ」
「・・んぁっ、な、何?」
いきなりおでこにキスをされた。
「好きだよ」
「・・・・・・・・っ」
熱く優しい瞳で、もう何度目か分からない愛の告白。
言われる度に、初めてみたいにどきどきする。
吸い込まれるみたいに、口と口でキスをした。
「ん・・・」
何度も、離れては触れてくる唇。
太陽は、キスをしながら俺の頭をくしゃくしゃとかき回してくる。
その動作が妙にエッチで、俺は思わず太陽にしがみついた。
「好きだよ風馬・・・・好き・・・好き・・」
熱にうかされたように繰り返し囁いてくる言葉。
足りないんだ。
きっと「好き」なんて言葉だけじゃ、太陽の気持ちを表せられないんだ。
そんなの、俺だって同じだよ。
「俺、時々不安になるんだ」
これ以上近付けないくらい顔を寄せられる。
「風馬のこと大好きだから不安になるんだ」
「え・・?」
「ホントに好き過ぎてヤバイんだ・・。俺だけのものにしたいんだ・・・。
俺以外のヤツに風馬を見せたくないんだ・・・・・・」
「太陽・・・・」
「風馬が嫌がるのも無視して、変な事しそうで不安なんだ・・」
ひとつだけ、確かなものがあった。
太陽が「好き」の気持ちをいっぱいくれること。
疑いようの無い気持ち。
夜空にある月より、虫の声より、風の冷たさより、
太陽を信じよう。
「太陽・・好き・・・・・・」
「風馬・・・・」
不安になんて、させちゃいけない。
俺も太陽が好きなんだってこと、ちゃんと伝えなきゃ。
背中に腕をまわされ、力いっぱい抱きしめられた。
そしてまた、何度も「好き」と囁かれた。
「好き」の気持ち、あふれるくらいもらった。
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