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 (仮想遊郭 エロ 切ない/18禁)
決意の赤(後編)


目が醒めた時はすでに昼に近かった。
隣に居た筈の良彦は何時の間にか姿を消していた。
何もする気になれなかった。
が、いい加減汚れた敷布くらいは片付けたくて無理に立ち上がると、昨夜大量に注がれた良彦の残滓が腿を伝う。
あの後、二人は碌に口も聞かないままお互いを貪りあった。
心の隅々まで相手に暴かれたくて、同じくらい強く相手を暴きたいと願った。
何度も・・何度も。
流し尽くしたと思った涙が予想に反して溢れた。
椿は思い知らされた。
良彦への想いとともに溢れて、流れて、枯れてしまえとさえ思った涙がまだ出るとは。
つまりは良彦への想いも未だ椿の心に溢れているという事だった。
薄い桜紙で後始末をしながら椿は報われる筈も無い恋心を思って泣き濡れた。
  


同じ頃、遊郭の入り口に備えられた茶屋で一人番茶を啜って良彦は重い溜息を漏らした。
やってしまった。
汚したくないとさえ思っていた相手を無理矢理抱いてあまつ泣かせてしまったのだ。
良彦は項垂れた。
言い訳さえ思いつかない。
蝋燭に照らされた椿の白い媚態を見た瞬間に理性は音を立て崩れ落ちていた。 
本人の意思に反して快感の海に放りこまれた椿は悲しそうな目をして、それ以上に乱れた。
抱かれて最中にすら無垢な美しさと清潔さを保つ椿に良彦は煽られ、止まらなくなってしまった。
切なげに眉根を寄せて、極めた椿のきつい締め付けを良彦は一生忘れないだろう。
いくら後悔したところでっ今夜もまたあの部屋へ帰らなくてはならない。
痛む頭を抱えて良彦は何時までも茶屋に留まった。 
本当なら椿と口裏を合わせてしまえばずっとここに留まる必要など無いのだが、純朴な青年はそんな奥の手など考えもつかないのだった。



気まずい沈黙を破ったのは良彦だった。
「あの。」
椿の痛々しいほどの過剰な反応に、良彦は鳩尾を絞られるような切なさに苦しくなる。
「僕考えたんですけど、すいませんでした。 
 昨夜のことは謝っても許されるなんて思ってないです。 
 ほんの出来心というか・・」
頭を低くして良彦は誠心誠意謝った。
「出来心ですか・・。」
力無く復唱した椿は実はとても悲しい目をしていたのだが、頭を低くしている良彦には分かるはずも無いことだ。
良彦は尚も言い募る。
「これからは絶対にあのような事はしません。
 誓います。
 でも、夜に艶っぽい声が両方から聞こえたら正直辛くて。」
まあそうだろうと椿も納得した。
だが一体何を言いたいのだろう?
いぶかしんだ椿に答えはすぐに返ってきた。 
「これからは夜に二人で話をしませんか?
 お互いの幼い頃の話や近況などについて。
 そして静かな朝に寝るんです。」
どうでしょうと自信なさ気な良彦の提案は好ましくて、椿は二つ返事で了解した。
元々、この方法はセックスを会話に変えただけで、椿たち春をはひさぐ者にとっては普段通りの生活なのである。
こうして奇妙な・遊郭としては大変奇妙な二人の夜の生活が始まったのであった。



「えっそれでは六歳からこちらにお勤めなんですか!」
午前零時。 
ともすれば淫猥な声が嬌声が漏れ聞こえてくる刻限にも関わらず、互いの過去を語り合う二人は楽しそうな声を上げていた。
「ええ。 
 普通色子は十~十一歳頃から訓練を始めます。だから、そ
 それまでは下働きですね。 
 そして、十三歳頃から働き始めて十九歳前後で体が完全な
 男性になった所で打ち止めです。」
椿は色子の実情を語って聞かせた。
良彦は少し聞き難そうに尋ねた。
耳には朱が差している。
「・・訓練ってのは?」
表情から大体のことは察していたのか椿はサラリと答えた。
「まず、お風呂で時間をかけて広げるんです。
 慣れたところで世話役の人に相手になってもらって実習を   
 積みます。」
広げるという生々しい言葉に赤面した良彦は話題を変えようとした。
「それにしても、十歳なんてまだ子供ですよね。」
ハハハと笑う良彦に椿は含みのある微笑を向けた。
何処かしら色香が漂う微笑みであった。
「そこが狙いです。
 十歳だとまだ精通が来てません。そのため快感を感じない
 です。
 もしこれが十七歳だったりすると、感じて括約筋が締まっ
 て相手役も気持ちよくなってしまいます。  
 これでは訓練になりません・・
 あっ!朝日です。」
言葉を切った椿の指差す方向に暁が輝く。
眩しい光は二人にとって「お休み」の合図だ。
いそいそとカーテンを引き、二人はそれぞれの布団にもぐりこんだ。
すぐに寝つく椿とは違い、良彦は先程の会話にドギマギしてなかなか寝つけなかった。

 

「今日は良彦さんの話を聞かせてくださいよ。」
同じ刻限、椿はそうせがんだ。
お互いの事を知れば知るほど、仲良くなるようで嬉しくて堪らないのだ。
「僕の話など面白くありませんよ。」
苦笑いを浮かべながら辞退しようとする良彦を宥めて、椿は話を聞き出した。
この時ばかりは椿は自分が客商売で良かったと思った。
聞き出した所によると、良彦は決して裕福ではない農家の四男坊として生まれたそうだ。
幼い妹たちは皆体が弱く、とても高等教育を受けたいなどとは口が裂けても言えなかったと良彦は笑って話した。
そんな良彦に転機が訪れたのは地方版の新聞に小さな記事が載ったことに端を発している。
どうしたらこの国をより豊かに出来るかを考え抜いた末の投稿であったから、若干の自身はあったそうだ。
しかし、それが遠く首都に住む人気作家の馬場に認められるとは誰も予想だにしていなかった。
「今でも僕は先生に感謝してもし切れないです。」
と照れ笑いを浮かべながらも、真っ直ぐな言葉をはく良彦に椿は憧れさえ抱いた。
会話は思いの外楽しくて時間はあっという間に過ぎ去った。
いつものように布団に入った椿は何故か何時まだたっても眠れずにいた。
それもそのはず、こんなにも長い間誰の手にも触れられてない事は無かった。
自覚すると慣れた体はもう制御できなかった。 
そろりと着物の合わせから胸の尖りに触れるとそこは健気に立ちあがって、愛撫を待っていた。
目を瞑って弄るとまるで最初の晩のように良彦に触れられているように錯覚し、声を押し殺すので精一杯になってしまう。
だが、単調な刺激だけでは満たされるはずも無い。
今の椿には中心に手を伸ばす自分を恥ずかしく思う余裕も持ち合わせていない。
握りこむとそれだけで達してしまいそうになる。
椿は良彦の手を思い出しながら夢中で自らを慰めた。 
「あう・・。」
小さな悲鳴を上げて達した椿は、滑りを指に絡めたままに刺激を求め喘ぐような開閉を繰り返す後孔に差し入れた。 
中は久しぶりの刺激に指を食い閉めるように蠢く。
こうなっては椿の理性などなきに等しい。
堪えきれない衝動に突き動かされるままに指を動かした。
「んっんっ・・あぅ・あぁ!」
大きな声を出しているという自覚さえ椿には無かった。
「はぁ、んんっ・・あ」
椿は指を増やした。
指は意思を持っているかのように自在に動き、快感を煽っていく。卑猥な音が辺りに響いた。
徐々に速さを増していく、絶頂が近い証拠だ。
「いやあ・・良彦さぁん!」
歓喜に咽を震わせて椿は達した。
愛しい人の名前を言ったことにすら気が付かない程に久しぶりの快楽は深くて甘かった。



悩ましい声がすぐ側から聞こえて、良彦は目を醒ました。
なんだ、いつもの事かと思ったら案外に近い所から聞こえることに気が付いた良彦は一気に眠気が霧散された。
『椿さんが・・してる?』
思っただけで頭に血が上った。
ゆっくりと視線を動かすと、隣の布団が細かく揺れるのが見え、動きに合わせるように嬌声が聞こえた。
荒い息遣い、粘着質な音が良彦の耳を擽る。
『うわあ!本当だ!』
いくら女の着物を着ていても、椿もれっきとした男なのである。
鼻血ものの状況に喜んでもいられなくなった。
良彦の若い欲望も反応し始めていた。
「ああ・・良彦さん!」
今なんと言った?
椿の口から自分の名前が飛び出すとは思いもよらなかった良彦だ。ついていけなくてぽかんとしてしまう。
その間にも高まっていた椿は色っぽい悲鳴を上げて果ててしまったようだった。
すっかり寝入った椿の呼吸を聞きながら、習いたての九九を暗唱する小学生のように良彦はゆっくりと理解していった。
「椿さんは僕のことが好きなのかな・・」
自分で導き出した答えに猛烈な恥ずかしさを感じて、良彦は布団に潜った。
とてもドキドキして寝られそうには無かったけれど。
  


明日はついに馬場が帰ってくるという日の晩。
椿は不審がっていた。
どうも良彦の様子がおかしい。
ニヤニヤと相好を崩しては青くなったり、先程から何回も居住まいを直している。
「どうかなさいました?」
思いきって椿は尋ねた。
良彦は急に真面目な顔に改め、背筋も伸ばした。
つられて、椿も雰囲気を改めた。
目の前の良彦の口が大きく空気を吸い込む。
吐く。
所謂、深呼吸である。
一際大きく吸うと良彦は一気に言った。
「僕は貴方が好きです。
 だから身請けしたい。当然今の僕には金はありません。
 待っていてくれますか?」
良彦には自身があった。勿論、昨夜の秘め事だ。
期待に満ちた瞳は椿が愛した色合いで、綺麗に澄んでいるのだった。



青天の霹靂。
故事成語が現実になろうとしていた。
驚きで何も言葉が綴れない椿の返事を、じっと忠実な番犬のような真摯な瞳が映している。
嬉しいと感じた、同時に悲しいとも。
天にも昇るような椿の心には同じ分だけ強く奈落の底へと引っ張る力がはたらいていた。 
返事を先延ばしにする事は簡単だ。
事実、椿もそれを望んでいた。
だが・・真摯な態度には己の甘えた考えはそぐわない。
椿は引き裂かれるような痛みを堪え、言葉を選んだ。
「申し訳ありません。
 謹んで辞退させて頂きます。
 貴方が抱きたい時は何時でもこの体を開きましょう。お金
 も入りません。
 だから、請け出すなんて言わないで・・。」
椿の声は震えていた。
悲しい嘆願を聞いた良彦の顔からは全ての表情が消えうせ、澄んで生命力に満ちていた瞳は暗く、濁った。
「そうですか。」
それきり二人は押し黙った。
重苦しい沈黙が、二人の寄り添いつつあった心を有無を言わさない力でひっぱり、ついに距離が生まれた。
もうどちらの心からも相手の心は見えなかった。
この距離を人は『絶望』と言った。
 


軽快な足取りで遊郭の間を闊歩する足音が聞こえる。
明くる日の朝、馬場は紙袋を両手に抱えて慣れ親しんだ店を訪れた。
馬場は入り口の茶店に自分の書生の姿を認める。 
「やあ!久しぶりだね、笹間君。
 これお土産。 
 美味しいよ~蒲鉾に地酒にお菓子。このあんこがまた絶品  
 でねぇ。」
否応無しに土産を良彦の手に持たせていた馬場は漸く書生の常ならぬ雰囲気に気が付いた。
箱や包みの間から垣間見えた瞳はまるで死人のそれだった。
「何があった?」
勤めて優しい声を出す馬場に促されるまま、良彦はぼそりと呟く。
「振られたんです。」
馬場は「あちゃぁ~」と己の額に手を載せ天を仰いだ。
「ま、座れ。 
 そして菓子など食べなさい。」
すっかり消沈の書生を何とかしてやらねばならないと、師としてまた人生の先輩として馬場は思った。 
「ご店主、お茶を頼みます。」
すぐに茶を運んできたのは美しい男性であった。
優美な動作で茶器を置いたその人に愛しい人の面影を見た気がして、良彦は目を背けた。
目ざとい馬場がそれを見逃す筈は無い。
数刻の後、良彦は全てを話し終えて項垂れた。
すっかり冷えてしまったお茶を両手で握り閉める手にも力が無い。
可愛がっていた書生の意気消沈した姿には馬場も心が痛んだ。
黙っていた馬場は滑るように語り出した。
「椿はね、別に親に売られてここに来た訳ではない。」
美しい想い人の話など良彦は聞きたくなかったが、意思表示する余力は無かった。
それほどに受けた痛みは大きかった。
尚も馬場は続ける。
「六歳の頃、あれの両親が死んでね。浮浪児同然の生活をし 
 ていた椿をある人物がここへ連れてきたんだ。」
「え!では年季とかどうなっているんですか?」
息せき切って良彦は畳かけるように尋ねた。
今日一番彼らしい反応に馬場は目を細める。
目にも少しだけ生気が戻ってきているようだった。
「そんな物ははなっから無い。
 店主と知り合いだったある人物は椿が一人前になるまで預 
 かってほしいと頼んだ。
 だから、今まで椿が稼いだ金は店が大切に保管してるだろ 
 うよ。良い人だから、店主は。」
「それでは何故私の誘いを断ったのでしょうか!」
思わず感情的な声を出してしまった。
金の問題ではないとすると一体何故なのだろうか。
ぐるぐると同じ事ばかり頭に浮かぶ良彦に馬場は困ったように笑った。
「好きだから・・ではないのかな。
 年季が無くとも、色子は色子。
 客に抱かれるのはいいが、好きな人に抱かれるのは辛いだ
 ろうよ。 
 相手を汚してしまうと考えても不思議は無い。」
そんな。 
思いもよらなかった馬場の言葉に、鈍器で殴られたかのような衝撃が良彦の頭を直撃する。
そしてぐっと押し黙った。
どのくらいの時間をそうしていただろうか。
良彦は言った。
「椿さんは汚れてなんかいない。 
 椿さんほど綺麗な人間を僕は知りません。」
握り締めた拳からは鮮血が地面に数滴垂れた。
血は決意の色をしていた。
赤い良彦の証を見た馬場は言った。
「なら、言っておやり、そのままを。 
 抱きしめておやり、心から。
 体の繋がりがもたらす本当の意味を教えてあげなさい。」
馬場の言葉を聞くなり良彦は駆け出していた。
一陣の風のような若者を満足そうに見ていた馬場に先程の店主が近づいてきた。
「『ある人物』ねえ。良く言うよ。
 困ったことばかり私に押し付けて。」
椿よりも大人の魅力に溢れた声音であった。
店主はするりと馬場の膝の雨上に座り、馬場の唇を啄んだ。
「こら、桜也。」
馬場の仕返しのように深く唇を合わせた。
「もう妬けるよ。私の店に来るなり、椿ばかり構って。」
桜也と呼ばれた麗人は本気でないと分かるような甘えた調子で軽く睨んだ。
馬場は笑って
「私はね、不謹慎かもしれないけれど椿に対して父親のよう
 な気持ちを持っているんだよ。
 ここへ連れてきた責任もあるがね。
 でも・・」
これで私の役目も終わったよと少し寂しい目をして馬場は笑う。
ある人物、もとい馬場 雄一朗は彼の十年来の情人を抱きしめた。
 


「んあっ・・あ、ああ」
室内には喜びの声が艶かしく響く。
繋がった処から溶けてしまいそうだった。
椿は切れ切れの呼吸の中でただ愛しい人の名を呼ぶ。
「良彦さん!」
すぐに返事が返って来る事に椿は心から安堵し、また新しい涙を流した。
喘ぎ声も甘さを増すようで、それは良彦の快感にもつながった。
貫かれながら椿の胸には数分前の良彦の言葉が何度も甦った。
『愛しています。
 椿さんは汚れてなんかいない。
 もしそれでも貴方が自分を汚れていると思うなら、僕も一
 緒に汚れて構わない。 
 貴方を好きであることが罪であるなら、僕は喜んで罪人と 
 謗られます。
 だから、心も体も全部開いて。』
言葉は椿が囁かれた千の睦言よりも深いところまで届いた。
細胞の一つ一つが歓喜に震えるようだった。
「あ・・うあっ、いや」
快感による涙とは違う涙が椿の白いほほを濡らした。
心が一杯に満たされる喜び。
不意に態勢を入れ変えられ、中の灼熱の角度が微妙に変わった為に椿は大きく喘いだ。
「あ!」
反り返る刃を呑み込むような体位は二人に深い愉悦をもたらした。
「あっあ、・・あん、あ気持ちい・・い」
そのまま左右に揺すられて椿は喘いだ。
声に答えるように良彦の律動も早くなっていく。
下から突き上げて踊った椿の腕を良彦な腕が捕える。
指と指を絡める。
片時も離したくないとでも言うような良彦の仕草が嬉しくて椿は良彦の唇に自分のそれを結び合わせた。
口腔深くまで相手に許した。
「愛してます、良彦さん。
 貴方だけを、誰よりも・・誰よりも。」
飾り気のない言葉に良彦自身が益々大きく、硬く成長した。
「ひぁ!・・やあ」
膨張した切っ先が椿の敏感な処を掠める。
二人の互いを求める気持ちに際限が無いように、快感の深さも際限などありはしなかった。
後は底知れぬ悦楽へと二人そろって堕ちて行くだけである。



早朝、窓辺に立つ椿に背後から眠たげな声がかけられた。
「どうかしましたか?」
何時の間にか腕の中から消えた椿に良彦は言った。
椿は笑って着物の袷を直した。
動作が緩慢なのは昨日の自分の所為かもしれないと心苦しく思う反面、相手に所有の印を残したようで、良彦は面映い心地がした。
照れ隠しのように背後から抱きしめると椿は寝起きで体温の高い胸に擦り寄ってきた。
「こんなに冷えて・・」
椿は着物まで冷えていた。当然だ、誰だって師走のこの頃に薄着で外を眺めたりしない。
「椿を見ていたんですよ」
椿は自分と同じ名の花を見ていたと言った。
窓辺からは通りの木が間近に迫って見えた。
赤い花を手を伸ばして取った良彦は椿に与えた。
嬉しそうに受け取った椿は香りを嗅ぐような仕草をして微笑んだ。
いつもの艶然とした笑みでなく自然に漏れたそのままの笑みは良彦を幸福にする。
「どうしてこんなに赤いのかしら・・」
不思議そうに花びらを弄る椿のたおやかな手を良彦は触れる。触れた手を凝視する椿の視線の先には真新しい傷があった。
昨日爪が食い込んで出来た傷である。
「きっとね、この花も、僕の血も貴方を守る僕の決意によって染め上げられたのでしょう」
椿は目を丸くした。
そして目元を淡く染めながら、暫く迷ったように視線を漂わせた椿は良彦の傷を舐め上げた。 
鮮やかな桃色の舌が傷を癒すように何度も行き来するのを良彦は声もなくただ見つめていた。
時々、指の間を通過する舌が酷く感じる処を刺激して、良彦は「くっ」っと息をつめ腹筋に力を込める。
耐えるような瞳は椿の官能の残り火にも油を注いだようである。
官能的な仕草に煽られるまま二人はまた思いを確かめるべく、手を伸ばした。
椿の手から赤い花が畳にポトリと落ちた。
                  決意の赤・後編〈完〉



「後編終了です。ここまで読んで頂いた方、どうもお疲れ様でした。」
...2005/5/28(土) [No.205]
mira
No. Pass
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