俺たちフォークデュオ”CLEAR SEASON”がメジャーデビューして半年。
デビュー曲が異例の売り上げとなり、俺たちの元へは毎日毎日仕事の以来が舞い込んでくる。
バラエティ番組やトーク番組に出るのも、撮影や打ち上げも楽しいけど。
俺はやっぱり歌を歌っているときと・・・詩を書いているときが一番好きだ。
今日は久しぶりのオフ。 ・・・と言ってもギター&作曲担当の梶野と一緒にいることには変わりはないのだけど。
一緒にいることで和まれているのも確かだし、恋人なのだから愛しい気持ちも確かなもので。
俺たちはどこに出かけるわけでもなく、同居中の自宅でまったりと過ごしていた。
高校のときに出会った俺たちはそのまま恋に落ちた。
作詞科のくせに表現が下手だしボキャブラリーがないかもしれないけど、本当に一目惚れだった。
歌に関してはどうかとうと。 付き合ってから文化祭のイベントなども皆で歌ってこなして、路上でも歌いまくっていた。
しかしこの世界。 そうそう通用するものではないという現実。 そのことでメンバーも俺たち二人だけになってしまったが・・・それでもよかった。
歌うことが好きで拍手が好きで梶野が好きで。
聞いてくれた人の涙が好きで笑顔が好きで。
俺たちは今のプロダクションのスカウトを受けてこの道へと入った。
「あっ、そうそう」
急に思い出したかのように、ワイシャツ一枚羽織ってベッドでゴロゴロしていた梶野が立ち上がった。
ワイシャツから覗くのはスレンダーな身体や足、そして鎖骨に残る所有物の証。 そんな姿を横目で見つつ、俺は途中まで吸っていた煙草を早くももみ消してしまった。 一応歌手ですから。
「オフの日に仕事の話は悪いかなって思ったんだけどさ」
「ん?」
「新曲のデモテープ、早めに作っちゃったからさ。渡しておくよ」
ガサガサッと彼はカバンの中の荷物を漁って、一枚のカセットを取り出した。
無機質のカセットの中にも梶野の思いを込めたメロディが入っている。
「作るのやたら早いんじゃないか?」
「なんかパッと浮かんじゃってそのままずっと作ってたからさ。いいよ、詩の方はまだまだ先でも」
そう呟き、梶野はベッドの傍に散らばっていたデニムのジーパンや靴下やネクタイを回収し始めた。 俺はその梶野の手を止め、グッとこっちに引っ張る。
梶野の体重を受け止めてベッドのスプリングが軋み、梶野は俺の腕の中に収まった。
「風季・・・?」
「もうちょっとこの中にいろよ。新曲、一緒に聞こう?」
「ん・・・」
耳まで真っ赤になった梶野はコクリと頷き、カセットレコーダーを取り出しセットした。
再生と同時に聞こえてくるのは、心地よく・・・そしてちょっと悲しい響きのするメロディ。
「悲恋系?」
「まあ、悲恋でも純愛でもかまわないよ。どう?」
「了解いたしました。平気だって、もう歌詞のイメージできあがってるし」
「早いなぁ」
適当にその辺にあった紙とペンを持ち、梶野を腕の中に収めたままスラスラと書き始める。
よく、歌詞が作れない人とかいるけれど・・・。
俺の場合はむしろ逆だ。
昔から率先して書いているけれど、詰まる事はない。
「すごいなぁ。ちょっと聞いただけでイメージ沸くの?」
「大体頭の中でもう作ってあったからな。メロディー聴いてそれがまとまったんだよ」
「ふぅん」
頭に浮かぶのはあの時のこと。
あのときのお前の姿。
俺の書いている詩を俺の腕の中で見つめていた梶野は、ハッと思い出したかのように口を塞いだ。
急に目の前から消えた君。
あの暖かい笑顔は幻となり冷たいマイクを手に取る。
僕は体育館で歌うけどあなただけは聞いてくれなかったね。
歌いたいんだ、お前の為だけに。
あのとき聞かせてあげられなかったこの想い、今は君だけに囁きたい。
痩せた身体に出来る限りの愛を注ぎたい。
あなたは今でも暖かい笑顔で僕を待つよ。
「これ・・・」
「俺の文化祭ライブの前にお前が緊急入院したときの・・・な。なかなか言えなかったからさ・・・」
一番を書き終わった紙がカサッと音を立て俺の手から梶野の手へと移動した。
しばらく紙を見つめていた梶野の目からポロッと雫が零れ落ちる。
「暖かい笑顔のあなた、俺の囁き聞いてくれる?」
頬に手を添えて触れるだけのキスをする。 涙を流した瞳に唇を寄せて掬い、目尻に音を立ててキスをした。
「あのとき聞けなかったから・・・聞いてあげる、聞きたい」
「おおせのままに・・・」
掠れるような声で返事をした愛しい人の声を聞きながら、俺は今度は深いキスをした。
お前があのとき聞かせてあげれなかった歌。
これからもお前を想いながら歌うから。
ずっと俺の傍に―――――・・・・・・・・・・・・。
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